第八十一話 ダンジョン犯罪者トレイン
俺達が並んで戻ってきた事で、流石に何があったか察したんだろう。
人質が殺されてれば生き返らせればいいし、生きてる時は奪還すりゃいいだけの話なんで下手な策は練ってない。
「雁首並べて戻ってきやがったか。暗殺に失敗した挙句、寝返るとはいい度胸だな」
「いや~、流石にこの作戦を提案するような馬鹿と恭順する奴はいないと思うぞ」
「俺達が馬鹿だっていうのか?」
「手間を惜しんだってのもあるんだろうが、下から上がってくる転移用ポーターの場所は向こうだ。何でそっちから向かって来るんだ?」
トレインたちとその仲間が顔を見合わせてようやく致命的なミスに気が付いたみたいだな。
食糧を求めるにしてもそっちから来るくらいだったら、素直に上の階に繋がる転移用ポーターに向った方が遥かに早い。
一ダンカも持って無くても、下から上がってきたんだったら持ってる採集物を何か売ればいいだけの話だしな。
人質の二人も顔を背けて笑いを堪えてるぜ。
「こここ、こっちから来る奴が居るかもしれないだろ!!」
「鶏並みの知能しかないのか? もしかして、知力と賢力が一桁のかわいそうな奴だったりする?」
「誰が知力一桁だ!! これでも俺達全員覚醒してるんだぞ」
「お前らのステータスは飾りか? それだけいてそんな事も気付かないなんてな」
ステータスが上がっても、なぜか賢くならないというか馬鹿は一定数存在する。
というか、さっきの虎宮の様にステータスに制限が掛かってる奴もいるからな……。
脳や神経なんかに魔素による影響が出る場合もあるらしいし。
「そんな事はどうでもいいだろ? お前らに忠告というか提案だが、このまま大人しくお縄について裁きを受けたいって奴はいる?」
「ぶわぁぁぁぁぁっ、はははっ!! 馬鹿かお前!! 覚醒した冒険者をこれだけ一度に相手が出来るとでも思ってんのか?」
「もうちょっとマシな命乞いを考えつかなかったのか? こっちにゃ人質までいるんだぜ」
「人質? どこにいるんだ?」
「ここに……、いない!! って、俺の手がぁぁぁぁっ……」
「俺の手も!! いったい何しやがった!!」
超高速で動いて人質にされてた二人は取り戻して、その時に抑えていた奴の手を肩口からバッサリ斬り落としておいた。
あの出血だったらすぐに意識を失うだろ。
「あまりに隙だらけだったんで取り戻させて貰っただけだ。ああ、腕は返しておくぜ」
「俺の腕……」
「意識が……」
「覚醒した冒険者の腕をそこまで簡単に斬り落とせる武器だと……」
「お前らの腕程度だったら、市販のカッターナイフでも行けると思うぞ」
流石にステータスに差がありすぎるからな。
圧倒的に優位な状況だと思っていたんだろうけど、お前らなんてザリガニが鋏を持ち上げて威嚇してる程度の存在なのさ。
「ふざけやがって。お前、俺の戦力がこいつらだけだと思ってないか?」
「このダンジョンの魔物でも引き連れて来てくれたのか? ちょっとそこに並べて貰えるといろいろ助かるんだけど」
「ふっざけんな!! このダンジョンの魔物でトレインに向いてる奴が居る訳ないだろ!!」
「あ~。それは俺も気になってたんだが、なんであんたらこのダンジョンにいるんだ? トレイン行為に一番向かないダンジョンだろ?」
虎宮の奴があきれ顔でそんな質問を口にしていた。
人質にされてる冒険者たちもなんとなく頷いてる気がするな。
このダンジョンの魔物やダンジョン動物を引き連れて襲っても下手すりゃ感謝されるだけだし。
「あの菅笠侍のお陰さ。今までは強力な魔物を封じた魔石をあのティムの野郎が独占してやがったからな。あいつが消えたおかげでこんな強力な魔物を封じた魔石を俺が手に入れる事が出来たのさ」
「魔石を三つ……。大丈夫か? お前の知力でちゃんと制御できまちゅか? 危ないくないでちゅ?」
「馬鹿にしやがって!! そんな話しかたをした事を後悔させてやる!!」
こいつ、顔を真っ赤にして自分の手で魔石を握りつぶしやがった。
ばっかじゃないのか?
そんな真似をしたらどうなるか理解して無い……?
「お前、魔石の使い方の説明位受けたんだろうな?」
「ああ? こうして握りつぶせばいいんだろ?」
「それ、誰に聞いたんだ?」
「ああん? 貰った時にこの魔石を壊しゃ出るって聞いてんだよ!!」
雑魚というか、小さくておとなしい魔物場合。それと、本人が異常に強い場合はそうだろう。
こいつはおそらく封印されてる魔物より弱いし、そんな封印の解き方をしたらどうなると思う?
「出て来たぞ!! え? なんでこいつら俺達を……」
「やめろ!! 獲物はそっちだ!!」
「なんで制御がきいて無いんだ!! 俺達じゃな……」
魔石から出現した魔物はレッサードラゴンみたいだ。
そこまで強くは無いけど、少なくともこいつらの命令を聞くレベルの魔物じゃない。
しかも中途半端に知力と気配察知能力があるのか、三匹とも俺と目を合わせようともしてないな。
「楽でいいが、なんであいつらこっちを向かないんだ?」
「一瞬だけこっちに目線を向けたよな。即座に顔を背けてたけど」
「普通は弱い方から襲うだろ? で、ここには俺がいるしあのクラスの魔物だったら間違っても襲ってこないよ」
大邪竜ファフニールも同じような反応だったしな。
あれか? 羽根の無いトカゲタイプのドラゴンって、その辺りに敏感なの?
「で、こいつらをどうするんだ?」
「無害って訳じゃないし、他の冒険者にとっちゃ脅威だろ。だからかわいそうだけど……」
「三匹纏めて一太刀かよ……。どれだけ強いんだ?」
「そこまで強い魔物じゃないしな。で、奪われてた武器だけど……」
「流石にあの状態だと駄目だな。頑丈な武器だったんだが……」
「俺達の武器も纏めてな」
「レッサードラゴン相手だと仕方がないだろ、助かっただけでも今回はいいじゃないか。お前の武器を打ちなおしてくれたあの菅笠侍にゃわりいが……」
ああ、他の二人は俺が菅笠侍だって気が付いて無いのか。
思い出のあの武器とまではいかないけど、同程度の武器位用意してやってもいいんだけどさ。
「どんな武器を使ってたんだ?」
「え? 俺は短めの手槍で、こいつは弓だな。そっちの二人は男が剣で女の方が杖だった」
「手槍か……。珍しいけどいい選択肢だな。以前は普通に剣を装備してなかったか?」
「以前?」
「俺がこれを被ってた時の話さ。あの時の武器は剣だった気がしてな」
あの時の四人の装備は剣だった気がするし、弓がメインだった奴が居たとは記憶してない。あの鴨を獲った奴が居るから弓使いがひとりいるのは覚えてるけど。
大体、手槍なんて装備してたら結構珍しいし覚えてるさ。
狭いダンジョンでも使いやすく、こういった牧場型ダンジョンだとさらに使いやすい武器だしね。
「あんた!! 菅笠侍か!!」
「俺達は向こうで聞いた。それより、武器の件は本当にいいのか? こいつの身体を治してくれただけでも、感謝してもしきれないのに」
「おお!! そんなことまでして貰ってたのか。本気で聖人って話は本当だったんだな」
そこまでじゃないけどね。
この四人は悪い冒険者じゃないし、おそらく冒険者を引退した後も悪事に手を出す事は無いだろう。
なんていうか、虎宮と同じようなひとこと多い世話焼きっぽい気がするんだよな。
「渡すのはそこまで強力な武器じゃないけどね。とりあえずそっちの二人から……」
「魔銀の塊が見えたんだが……。で、今回もギガントミノタウルスの角まで」
「流石に魔石は使わないよ。……こんな感じかな? 前回より少し丈夫にしてある」
「いい剣だ……。前回よりバランスがいいし手に馴染む」
この人の件は前回打ち直してるからだいたい同じ程度にしてみた。
武器レベルは五だし、攻撃力の補正は無いよ。
「それと、奥さんの方だけど本当に杖でいいの?」
「どういうことだ?」
「魔法がメインの攻撃方だとは思うけど、剣で戦っても相当に強いよね?」
「え? そこまでじゃないですよ」
病気が治ってるから、下手すると旦那さんより接近戦が強い筈。
特殊タイプの短剣と小型の盾を装備させて、剣の飾り部分を杖と同じ構造にすればどっちでも使えると思うけど……。
「こんなタイプの剣にしてみたんだけどどうかな? 普通の杖がいいんだったらそっちも用意するけど」
「これ……、剣なのに杖の機能も組み込まれてないですか?」
「以前流行ったタイプにこんな剣があったんですよ。使い勝手は悪くない筈です」
「小型の盾の性能が凄いな。これ、防御力に補正が入ってないか?」
「その位は良いかなと思ってさ。防御力に五十程度の補正しかないし」
「いや、五十は程度じゃない。だが、こいつの身をあんじてくれた結果なんだろ?」
流石に女性に接近戦を勧めといて、それじゃあ頑張ってねは無いだろう?
もう少し知り合いだったら、生命力の自動回復能力も組み込んでる所だ。
「大事にします……」
「で、そっちのお二人さんなんだけど、手槍でいいの? 穂先の長さとデザインもいろいろ調整できるけど」
「穂先はこの位の長さ、杖の長さはこの位でお願いできるか?」
「刃の太さとかは?」
「普通のショートソードに近い感じで」
柄のついた短剣って感じだな。
狭いダンジョンだったら手槍はホントに役立つんだよ。
石突でトラップとか探したり、戦闘以外でも役に立つって話だ。
「出来たぞ。攻撃力の補正は無いけど、切れ味と丈夫さは保証するよ」
「凄いな……。まるで以前から使ってたみたいに手に馴染む」
「で、最後は問題の弓だ。以前使ってたのでもいいから参考になりそうな弓とかない?」
「ひとつ前に使ってたのはこんな感じだな。シンプルだけど、そこが良くってな」
「男の人ってさ、いろいろガタが来てるのに取ってるのよね~」
それがサガなのさ。
ガッチガチに機械部分増やしてコンパウンドボウにするより、魔物の素材で強化したこのタイプの弓を好む人も多いんだよね。
腕がいい事が条件だけどさ。
「ギガントミノタウルスの健とか素材を多く使ったこんな感じにしてみた。武器レベルは五だし、攻撃力に補正は無いよ」
「シンプルだけどいい弓だ……。本当に感謝する」
「あいつが悔しがるだろうな」
「仕方ないだろ。しばらく休暇するって言いだしたのはあいつだ」
そういえばもう一人いたよな?
なんで今回はいないんだ?
「その人は何でいないの?」
「あいつ、あの顔で結婚してな。それで今は奥さんがコレなんで、家で家事とかしてるみたいだ」
「おめでたか。家事を引き受けるなんていい旦那じゃないの」
「奥さんの方は稼いで来いってケツを蹴飛ばしてるけどな。でも、まんざらでもないって話さ」
確かもう一人は盗賊タイプで斥候だったか?
というか、このパーティって回復役も魔法担当もいないの?
「これを聞くのもどうかと思うんだけど、回復役と魔法担当って誰?」
「ああ、今日来てないサル顔の斥候がいただろ? あいつ一応回復魔法を覚えてるんだ盗賊系は手先を器用にするのに賢力をあげるだろ? だから回復役にも向いてるんだ」
「その発想はなかったな。確かに、効率的なパーティ編成だ」
「武器は短剣で回復系の魔法の補助は無しかな?」
「大当たり。……いいのか?」
答える前に短剣打ち始めちゃったけどな。
さっき毒塗られてた短剣。アレがもしかしたらその人の武器だったのかもしれない。
短剣なんて考えるのは素材だけで、そこまで装飾とかに凝る武器じゃないから。
「完成。シンプルだけど、いい出来でしょ?」
「三本セットって事は、投げる事も想定済みってことか」
「投げるでしょ?」
「そうだがな。こんな短剣渡されたら絶対に回収するぞ」
いざって時に投擲用の武器として使えるのが短剣の強みだ。
革の鞘に小型の投擲用短剣を十本くらい用意してる人もいる位なんだよね。
流石にそこまで投擲用に特化した短剣は渡さないけどさ。
「あいつ、これを渡したら喜ぶぞ」
「使いたくって結局ダンジョンに稼ぎに来たりしてな」
「ありうるな。流石に臨月になったら俺達が止めるが」
「とまあ、こんな感じかな? トレインたちは全員死んだし、上で報告しなきゃいけないな」
「報告は俺達がしておくよ。ああ、倒したのはちゃんと菅笠侍って事にしておくから安心してくれ」
助かる。
ダンジョン協会への報告って地味に面倒なんだよね。
今日はこの後多分赤火竜討伐が始まるし、その後はたぶん九階で大規模な収穫が始まるだろう。
っていうか、あのダンジョン農場で収穫なんてしてたら時間がいくらあっても足りないぞ。
「それじゃあ、俺達はこの辺りで」
「いろいろ助かったよ」
「ああ。達者でな」
今回も名乗る事無くこの場から立ち去った彼ら。
生半可な冒険者じゃこれが出来ないんだよな……。
ホント、色々弁えてるいい冒険者だよ。
「あの会話中に一度も名前を口にしなかった。いい冒険者だな」
「だろ? 今どき滅多にいないぞ」
「ああ。普通は聞きもしないのに名乗ったりするからな。おそらく俺の事も気が付いていたようだが、それを口にすることもなかった」
虎宮は名家だし、あの人たち位の冒険者だったら虎宮の顔位知ってただろう。
で、生半可な冒険者だとつい口にするんだよ。虎宮君ってな。
菅笠侍みたいに通称とかは呼ぶ事に問題はないんだけど。
「お前が武器を打ってもいいと思う訳だ。俺達の武器に比べたらかわいいものだが」
「まさかこんな武器を渡す訳にもいかないしな。魔道展開型の武器じゃないけど、こんなのもあるんだぜ」
「レベル十の神銀製の剣か。攻撃補正が一万くらいついてるんだろ?」
「正解。魔道展開型じゃなくて、ただ丈夫で切れ味がいいだけの剣だ。市場には出せないけどね」
この程度の武器でも問題があるんだよな。
俺以外には打てないだろうし。
「国や学院が何か言ってきた用の武器か?」
「国対策かな? これだったら渡してもいいし」
「それでも国宝扱いするだろうな。下手に渡すと何処かに飾られるぞ」
「あ~、それは考えてなかったな。装飾だけでももう少し凝っておくか」
ダンジョン金を使って鞘や柄の部分に細工を入れてみる。
ちょっとゴテゴテした感じだけど、飾る分にはこの位豪華な方が見栄えがいいだろ。
「完成!!」
「渡したら絶対に飾られるぞ」
「武器としてはそれほどでもないけど、飾る分にはいいだろ。さてと、そろそろコテージに帰るか」
「朝にはまだ早いし、ひと眠りできるだろ」
「だな」
という事でそれぞれの部屋に戻ってお休みタ~イム。
この後は大きな事件もなく、ちゃんと朝まで寝る事が出来ましたとさ。
トレインの件は起きた後で姫華先輩たちにも説明したし、今後の予定には何一つ変更は無いけどね。
読んでいただきましてありがとうございます。
楽しんでいただければ幸いです。
誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。




