第七十九話 魅惑のダンジョン内バーベキューと驚きの効果
第一回バーベキュー大会!!
以前過疎ダンジョンで手に入れた高級バーベキューセットを使うから、普通のバーベキューコンロとは一味違うんだぜ。こいつは鑑定したら素材の能力を最大限引き出すとか出て来るバーベキューコンロだからね。
今回用意したのはダンジョン肉やダンジョン産の海産物がほとんどだ。一応野菜なんかも用意してるけど、この辺りはあまり受けないかもしれないな~。いや、この辺りも旨いんだよ。
「という訳で~。超豪華バーベキュー大会のはっじまりだよ~」
「開始の音頭を姫華 先輩が取ってくれましたし、バーベキュー大会を始めたいと思います」
「イエ~イ♪」
「明らかに高級そうな肉が串に刺されて焼かれてるんだが、ほんとに食っていいのか?」
「これ、ドラゴンの肉ですよね?」
「もちろんです。テーブルの上にある海産物も下拵えは終わってるから、網に乗っけて焼いてください。遠慮は一切無用ですよ~」
アワビは一度殻から剥がして肝とかの内蔵を取り除いた上で切り分けた状態で殻に乗せてるし、海老なんかもちゃんと塩揉みとかの下拵えをしてワタヌキもしてあるぞ。
サザエに関しては砂抜きだけしてるから、そのまま焼きゃいいだろ。醤油も用意してあるし。
「私、ドラゴンのお肉をこんなに雑に料理してるの初めて見ました」
「わたしでもこんな扱いは初めて見るかな? ドラゴン肉と言えば、ステーキとかだしさ」
「ステーキもいいですけど、野菜炒めにしてもおいしいですよ」
古龍の肩ロースを使った野菜炒めは絶品だった。
あれをダンジョン産の野菜で作ったらさぞうまい事だろうて。
今焼いてるダンジョン産の椎茸とエリンギ。ただ焼いただけなのに恐ろしい位に美味いしな……。
「最低グラム数十万の肉で野菜炒めか……」
「値段は気にしないでおこうよ。味が分かんなくなっちゃうでしょ?」
「そうですね……。噛みしめる毎に口いっぱいに広がる信じられないような肉の旨味。このタレもすっごく合ってておいしいです」
「いいタレでしょ? それはダンジョン産の野菜や香辛料を使って錬金術で作ったんですよ~」
「錬金術の無駄使い」
いやいや、錬金術を使ったからこそ、あんな短時間でここまで熟成した焼き肉のタレが出来たんだよ?
程よく辛くてドラゴン肉とかの旨味を最大限まで引き出してくれる最高のタレ!!
タレひとつで肉の旨味を全然味わえない最悪の焼肉になったりもするんだしさ~。
海鮮類には専用のタレがあるから、そっちを使って貰った方がより一層バーベキューを楽しめる。
「ドラゴン肉は何度か食った事があるが、ここまで旨い肉は初めてだ。それに神崎の言う通り、このタレは最高だな」
「だろ? 海産物はこっちのタレを使ってくれ。ダンジョン産の柑橘類を使ったポン酢もあるけど」
「ポン酢で食べるとあっさりしていいよね~。いくらでも食べれちゃう」
「海産物も最高。このアワビもすっごく美味しいよ!!」
玲奈は昔から海産物が好きなのをしってるから、今回は多めに用意してるぞ。甲殻類や貝類が好物なんだよな~。
サザエの壺焼きも下拵えをするより、ああやって豪快に焼いた方が好きだしね。
「このエビっ、ぷりっぷりで最高!! 今まで食べた海老の中で一番おいしいっ」
「ホントだ~。意外に数が無いから、早めに確保しちゃお」
桜輝さんと玲奈が海老の串を独占してる……。
他の人はそこまで海老を重要視してないのか、そんな二人を横目にドラゴン肉に集中してるみたいだな。あ、今度は野菜に切り替わった。脂の旨味がすっごい肉ばかりもきついしね。
「この辺りの野菜。特にこのキャベツは反則」
「ああ、それは塩ダレで食べると最高だよね。キャベツ自体の旨味も凄いし」
「これを食べちゃうと、普通の野菜が食べられなくなりそうだね」
「こっちのレタスは最初に見つけた時に生で齧ってみましたけど、信じられない位に甘くておいしかったです」
アレは本気で衝撃だったからな。
野菜なんて生で食べてもおいしくないだろうってのが俺の中の常識だった。例外はトマトとかの一部の野菜位?
瑞々しくて甘みの強いダンジョンレタスを齧った瞬間、こんな野菜もあるんだと本当に驚かされたからな。
今回はボイルして小さくカットしたトウモロコシとかもあるけど、あれも焼いて食べたら衝撃だろう。
「バーベキューで野菜の存在なんて飾りだと思ってたよ」
「このトウモロコシは反則だよ。いくらでも食べれちゃう」
「こっちのサツマイモも凄いですよ。これ、焼き芋にしたら美味しいんだろうな」
それは俺も考えた。
アレをアルミホイルで包んで焼いたら、さぞ美味しい焼きいもが出来上がる事だろうね。
「サツマイモの甘さがヤバい……」
「バターを乗っけたら、更においしいですよ」
「それは……、反則」
このバターもダンジョン動物のホワイトカウの生クリームから作った新鮮なバターだしな。当然錬金術で最高のバターに仕上げている。
ケーキ作りの時にもこのバターを使ったんだけど、そのおかげでケーキのグレードが幾らか上がった気がする。
◇◇◇
バーベキュー大会が始まって一時間ぐらい経過した時、依理耶先輩がなにやらおかしな行動をとり始めた。
自分お好きなタレでもダンジョンリングから出してるのかなと思ったけど、取り出してるのはどうやらステータスカードのようだね。あまり見ないようにしないといけないな。
ステータスカードに関しては周りにいるのが仲間であっても、他人に見られないような態度になるのは仕方がない。
人によると他人にステータスカードを見られるのは、全裸を見られるより恥ずかしいとかいう人もいる位だからね。
でも、いったいなんだろう?
「気になる事があるんだが……」
「依理耶先輩。何かおかしな点でもありましたか?」
「おかしい? いや、確かにおかしいのは間違いない。なんとなく違和感を覚えて確認してみたんだが、ステータスポイントとスキルポイントが増えてる気がしてな」
「……確かに増えてるね。ドラゴン肉にこんな効果はない気がするけど、このバーベキューの食材か何かにポイントが増えた秘密が隠されてる?」
「ああっ!! わたしもかなり増えてます!! ……ステータスポイントが三十と、スキルポイントが十も増えてますよ」
誤差じゃん。
というか三十とか十ってそこまで大騒ぎするような数値じゃないよね?
って、全員が一斉に自分のステータスカードを確認し始めたんだけど!!
「スキルポイント十はデカいな。四色持ちのレベル一つ分のポイントだぞ」
「そうだね。舞秦さん、主に何を食べてたか教えて貰えるかな?」
「この辺りの海産物はよく食べました。海老とかアワビとかもです」
「わたしは他の海産物も食べたけどアワビを食べてないからスキルポイントが増えなかった? 依理耶は?」
「私は二つほど食べたな。スキルポイントが二十三増えてるから、他にも増える食べ物があるんだろう」
「スキルポイント十のアワビは確定だね!!」
あっという間にテーブルに用意されていたアワビが無くなり、網の上で焼かれ始めた……。
ダンジョンアワビも高級食材だけどさ、ドラゴン肉より人気なのはどうよ?
「ん~、どうやらアワビで増えるスキルポイントは一度で最高三十までらしいな。他の食材もポイントが入る最低量と最大数値があるのかもしれない」
「それは考えられるね。ドラゴン肉が何もないなんて考えられないし、おそらく部位と量なんだと思うよ」
「あ~、ドラゴンは各部でいろんな効果があるとか昔っから言われてますからね」
そして、誰が何を重点的に食べていたのか、増えたステータスポイントやスキルポイントと照らし合わせた答え合わせが始まる。
「あれ? もしかしてなんですけど、ステータスも上がってないですか?」
「……そうだな。俺は筋力と速力が三ずつ上がってる」
「ステータスが上がる食べ物なんて、噂だけの存在だと思ってたよ……」
「筋力が上がったのはおそらくドラゴン肉だろう。数串程度の量だと増えたりはしないが、食べる量が増えれば何故か効力を発揮するみたいだ」
俺はカンストしてるんでどっちも増えてないけどね。
というか、ステータスポイントやスキルポイントがその程度増えても気が付かないレベルだしさ……。
「ああっ!! アワビを食べたらスキルポイントが十増えた!! ホントに増えるんだ~」
「ダンジョン産のアワビは以前も食べた事があるが、今までにそんな効果はなかったぞ」
「え? それじゃあどうして?」
「もしかしたらですけど、この高級バーベキューセットの力かも」
鑑定してみたら食材の持つ力を極限まで引き出すとか出て来たし……。
「私もそれを鑑定してみましたけど、発動条件は調理スキル五以上の人間が一人以上参加している事ですね。あと、バーベキュー開始から三時間までしかこの能力は発動せず、一度使用したら約三十日のクールタイムが必要みたいです」
「バーベキュー大会は毎月開催で決定かな?」
「そうですね。その時までにこのダンジョンアワビはたくさん確保して欲しいです」
「他の食材にも意外な効果があるかもしれないな……。時間が幾らでもあるんだったら試してみる所だが」
「とりあえず今日はステータスポイントとスキルポイントが増える食材の特定? スキルポイントはアワビだったけど、ステータスポイントは何?」
「もしかしたらドラゴン肉は部位でも効果が違いのかもしれないな。私はドラゴンの舌があったので幾らか食べてたんだが、賢力が四ほど上がっている」
「ステータスポイントはドラゴンのヒレ肉っぽいですね。私はこれをたくさん食べていましたから。もしかしたらスキルポイントも……」
美味しいよねドラゴンのヒレ肉。
十分に柔らかく、そして内臓に近い部位にある肉だけあって旨味が濃い。
香辛料で臭みを消してあるから気にならないけど、何もしてなかったらやっぱり血の匂いとかがきつかったのかな?
「猶予はあと一時間程度。この機会を逃したら次はひと月後だよ」
「この高級バーベキューセットは何処で入手したんだ?」
「過疎ダンジョンのレアドロップですね」
「となると、再度入手する可能性は低いな。おそらくドロップ率は良くて年末の宝くじ並みだろう」
「この性能を知っちゃうと、その確率にかけてみたくなるかもしれないね……」
まさかの過疎ダンジョンが人気になる時が来た?
っていうか、こんな高級バーベキューセットがダンジョンで手に入る大当たりアイテムだなんて思わないじゃん。
残り時間は後五十分。……誰か、古龍のヒレ肉でステーキとか食わないかな?
「ヒレ肉のステーキ。後二百グラムくらい食べれそうな人いる?」
「私はまだ大丈夫だな。ただ、それを食べたらもう何も食えないだろう」
「俺も何とかギリギリ美味しく食える腹具合だ。流石にサイドメニューはいらないぞ」
「わたしもギリギリかな~? この状況で二百グラムのステーキが食べられるなんて、氣力をある程度あげてる人位なんじゃないかな?」
氣力をある程度上げると、身体の体積以上に食べ物を腹に詰め籠めるのは有名な話だ。
なんていうかさ、飲み込んだ瞬間に食べ物が何割か体に直接吸収されるような感覚に襲われるんだよね~。
虎宮たちは目の前の結構大きな肉の塊を豪快に切り分け、そしてそれを強引に口の中へと押し込んだ!!
ちゃんと噛んでるし、味わってるみたいで何よりだけどさ。
今回のような場合、ちゃんと食べ物の効果を発揮するか心配だったけど、どうやら杞憂だったみたいだ。
「これ、赤火竜のヒレ肉じゃないだろ?」
「高難易度ダンジョンで狩った古龍のヒレ肉だね。せっかくだし、今回効果を確認しておこうと思ってな」
「……ステータスポイントとスキルポイントが、二百ずつ増えたよ……」
「姉さんもか!! 俺も同じだけ増えてるって事は確定だな」
「食べたグラム数だけポイントが増えるとはヤバい。古龍は相当に入手困難なダンジョン肉ではあるが、これを知られれば高難易度ダンジョンに冒険者の死体の山が築かれるぞ」
スキルポイント二百ってさ、四色持ちの二十五レベル分のポイントだ。
今回は時間が無かったしそこまで食える余裕がなかったから二百グラムだったけど、四百グラム食べる事が出来れば四色持ちが一回レベルリセットをするだけのポイントが手に入るって事なんだよね。
ステータスポイントもかなりヤバイ増え方をしてるし、二百ポイントもあればステータス二百までのどのステータスでも百上げる事が出来る。
はっきり言えば、百も数値が増えれば攻撃力にしても防御力にしてもかなり強化されるからね。
「流石に古龍種のヒレ肉って事か。残念ながら私たちではまだあいつを狩れないが」
「最低でも覚醒して無いと無理でしょうからね。次はひと月後ですし、それまでに何度か狩ればいいんじゃないですか? 適当に狩っておきますよ」
「あの古龍がその扱い……。これが力の差か」
ただ、あの古龍種を何体も倒すとなると、けっこう時間が掛かるのが問題なんだよな。
フロアボスと違って最下層にいるダンジョンボスは最悪ひと月くらいの長いリポップ時間が設定されてる場合がある。
まずあの高難易度ダンジョンの古龍リポップ時間を調べて、効率よく狩らないといけないな……。流石に何度か狩ってるからひと月って事は無いだろうけど、最低でも一週間くらいはリポップ時間がある気がするし。
「眩ちゃん。私次のバーベキュー大会は、古竜のヒレ肉を四百グラムお願いしたいんだけど。大丈夫?」
「あまり入手量が少ないとはいえ、その位は用意できるよ。ただ、もう一回くらいは最低でもあの古龍を倒さなきゃいけないけど」
「バーベキュー大会っていうより、ステーキ大会になりそうだね」
「これだけの事をして貰いながら、返せる物がほとんどないのが問題だな」
「そうだね。アイテムも財宝も武器も私たちが提供できる物なんてたかが知れてるし、もう一つ提供できそうなことも眩耀君は断ってくるだろうし」
多分それは身体を差し出すって事だろうけど、流石に姫華先輩たちは俺の性格をよくご存じだ。
でも、誰かを助けて報酬を求めた時、俺はヒーローじゃなくなっちまうのさ。
親父だって正当な報酬以外はホントに一円たりとも受け取ってないしな。
「いいんですよ。知り合いに強い冒険者が増える事は悪くないですから」
「どうやったらあんな精神状態に辿り着けるんだ? 人かどうか窺わしい位だぞ」
「あ~、お父さんや聖おじさんもそうだけど、レアクラスで聖人君子な人ってあんな感じだよね」
雄三おじさんも親父も他人に対してはだいたいこんな感じだからな。
雄三おじさんなんてもうおばさんが行方不明になって十年以上経つのに再婚はしないし、女性関係で浮いた話一つ聞かないからね。
しかも、死亡扱いさせないで、まだ生きてるって扱いにしてるし。
「俺はそこまで聖人君子って訳じゃ無いけどな。悪には厳しいし、下種は助けたりしない」
「その辺りの判断は仕方ないだろう。俺だって、助けたりしない奴もいる」
「冒険者をやってると、助けたくない人ってのを割と見かけるよね」
「私が以前男嫌いだった理由だな。軟弱で責任感の欠片もなく、そしていざという時に真っ先に逃げる。散々大言壮語を口にしておきながらだぞ」
俺に任せろ的な事を言って場をかき乱した挙句、ヤバくなったら真っ先に逃げるタイプの奴も結構いる。
冒険者としてだけじゃなくて、人としてもどうかと思うよな。
「とりあえず、これを片付けちゃわない?」
「そうですね。大切なアイテムですし」
「まさかこんなバーベキューセットがあるなんてね。次はひと月後だけど、必ず呼んでよね」
「またこのメンバーでやりましょう。ステーキ大会になるかもしれませんが」
古龍のヒレ肉のステーキの奪い合い。
全員が四百グラムくらいは余裕で食べられるけど、多分それで止まったりしないだろうしな……。
次の回までにあの古龍を何回か狩る必要があるだろう。
……全員が炎無効のアクセを持ってるから、熱い状態の網とかでも簡単につかめるから思ったより遥かに早く片付いた。
炭とかも指定場所に埋めておくと、どんなに遅くても一日ほどでダンジョンに吸収されちゃうしね。
この辺りは普通のキャンプ場とは違う所だよな……。
読んでいただきましてありがとうございます。
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