第七十八話 少しは俺の気持ちを打ち明けててもいいかな?
装備を渡したら虎宮と紫峰田さんたちは我慢できずに武器の試し切りに出かけてしまいましたとさ。
今日はキャンプで息抜きの時間だってのに、ついでに何か狩って来るとか言ってたけどどこまで行ったのやら。
「えっと、試し切りに行ったのは虎宮さんたちとアリス先輩?」
「陽花里と依理耶もだね。舞秦さんはいかなくてよかったの?」
「せっかくのキャンプで眩ちゃんと一緒なのに、武器の試し切りとかで時間を潰すのはもったいないかな~って思いまして」
「ここの採集も七階までだとそこまでいいものは無いしな。試し切りをするにしたって、碌な敵がいないだろうに」
ここは高難易度ダンジョンじゃないからそこまで強い魔物はいないし、食材だって地下九階より下の方がいい物が揃ってる。
カカオ豆があるとしたら地下十四階の南国島ゾーンだろうと思うし、あそこの島を探索するには最低でも飛行魔法が必須だ。
緑スキルを覚えてることが条件だから、あの辺りは探索が出来ない人は本当にできないだろうね……。
「ねぇねぇ。聞きたい事があるんだけど~、舞秦さんと眩耀君ってどんな関係なの?」
「幼馴染ですね。家も近所で家同士の付き合いもありますし、兄妹に近い感じだったと思いますよ」
「その割には中学の頃から妙に冷たかったよね? あの頃から家同士の交流の回数も減ったしさ」
俺の記憶に細工をした影響だな。
時期的にはよくある小学生から中学にあがった俺が女幼馴染と距離を置いたみたいな感じになってるけど、記憶を封じられた違和感とかでなんとなく玲奈を避けてただけなんだよね。その前から玲奈を女性として意識し始めてたからどう付き合うかは悩んでたけどさ。
「それには色々理由がありまして……。良い機会だからその辺りの話をしておくかな」
「その辺りの話?」
「それって私が聞いてもいいの?」
「俺のクラスとかステータスカードの秘密とか色々ヤバいネタもありますけど、俺は姫華 先輩や玲奈のクラスを知ってますから」
最低でも俺のクラスは話さないとフェアじゃないだろう。
灰色のステータスカードの事は校内でも有名だから知ってるだろうけどさ。
「ステータスカードって灰色だよね?」
「そうですね。その辺りの秘密というか事情なんかも、俺が今知る限りの情報を提示しましょう」
「……何か秘密があったの? わたしの聖女みたいに」
「ああ。まず俺が玲奈をなんとなく避けてた理由なんだけど、俺の灰色ステータスカードとかなり密接な関係があるんだ」
ヒーローへの入り口。
苦難の道を行く者に与えられる灰色のステータスカード。
それを敵対勢力、おそらく魔王や魔族に知られない為の措置……。
「灰色カードってさ、組み込まれてるスキルが使えなくて、その上レベルアップに経験値がものすっごく必要ってだけじゃないの?」
「まずそこがカモフラージュと言いますか、敵対勢力から灰色のステータスカードを持つ者を守る為に誰かが流したブラフだった訳です。確かに必要経験値は多いですけど、レベル二に上がった後は相当に強いですよ」
ステータスカードに組み込まれている色が何色かによるんだろうけどね。
俺みたいに親父に死ぬほど鍛えられてたら七色の状態からスタートできるけど、同じ灰色のステータスカードでも下手すると本当に二色から始めなきゃいけないかもしれないし……。
ん? その場合はフルカラーまで色を増やせるのか?
増色回数の制限とかあるけどどうなんだろ? だから以外に魔族は本腰を入れて灰色のステータスカードを排除しようとしない? 可能性は高いな。
「なるほど。そんな事情があったんだ~。眩耀君が異様に強い秘密もそこにあるんだね」
「そうですね。俺の本当のクラスはヒーローなんです。他の人が見るとステータスカードには冒険者って書かれてるみたいですけど」
「ヒーロー? 聖おじさんと同じクラスなの?」
「灰色だからね。多分勇者と同じくらいにレアクラスだと思います。そしてヒーローはおそらく魔王を倒せる勇者以外で唯一のクラスです」
というか、勇者より強いんだけどさ。
神域までステータスをあげられるのって、多分ヒーロー位だと思うぞ。
「魔王……。お父さんはいつか出現する魔王に備えてるけど、そんなに強いのかな?」
「魔王に関しては詳しい資料が本当にないんだ。魔族に関してもそうだけどさ」
「魔王に魔族。虎宮家でも当主と次期党首候補以外は知らされない情報なんだけどね。そこでもあまり詳しい情報は無いんだ~」
「姫華 先輩は魔王や魔族の事を知っているんですね。いくら調べても情報が出てこなくて困ってたんですけど」
魔王もそうだけど魔族もね。
今この世界にどのくらいの魔族がいて、どのあたりに潜んでるかって情報もない。
もし魔族が敵対種族だったら、その情報は掴んでおかないといけないしね。
「魔王の情報だったらお父さんに聞いた方が早いんじゃない? っていうか、昔そんな話を聞いて無かったっけ?」
「うん。その話を聞いてたから俺は特殊な術でその辺りの記憶を封印されてたんだ。それで玲奈との距離とかが分からなくなって、中学の頃から少しよそよそしくしてた訳なのさ」
「……家に帰ったらお父さんに説教だね。私は眩ちゃんに嫌われる様な事を何かしたのかなって、ず~っと悩んでたのに……」
「それで最初のパーティ編成の時に話しかけてこなかったのか。あの時虎宮達と四人でパーティを組んでたら、色々と状況は変わってただろうけどね」
レベル二の時点でかなり高ステータスになった俺が前衛を担当すれば、虎宮達のレベリングも楽だっただろうしな。
ただ、その場合はラッキーダイスが無いから、今回より若干ステータスの伸びが悪かった可能性はある。
「それで、二人の関係はやっぱりただの幼馴染なの?」
流石にここまで聞いたらそうは思わないよね……。う~ん、少しくらいは俺の本音で話してもいいかな?
「え? っと……それは」
「玲奈は勇者の道を諦めて聖女になりましたけど、俺はこの灰色のステータスカードでヒーローになる事を幼いころから目指してた訳です。主に玲奈を魔王から守る為に……」
「眩ちゃん……」
「記憶を封印されてたせいで中学から三年程奇妙な関係になってましたけど、もし記憶がそのままだったら間違いなく付き合ってたとは思います」
元々俺は玲奈を守る為、なれるかどうかも分からないヒーローを目指してた訳だし、その結果が灰色ステータスカードだったのは運命なのさ。
厳しい修行に耐えた甲斐はあったけど、記憶を封じられてた中学の頃も親父は俺を鍛える事だけはやめなかったからな。
「うわぁ……、ご馳走様って感じだね~」
「記憶を封じられてる間にかなり面倒な状況になりましたけど、これだけは俺の嘘偽りのない気持ちです」
「本当にお父さんは……」
玲奈が聖女が発しちゃいけないような真っ黒いオーラを滲みだしてるけど大丈夫なの?
帰った後で修羅場が待ってるんだろうけど、甘んじてそれを受けて貰おう。俺だって記憶の封印を受け入れてたんだしさ。
ん? 姫華 先輩は何やら微妙な表情だけど。
「でも今は付き合ってる訳じゃないよね?」
「それはそうですが」
「だったらさ、わたしは絶対に諦めないから。最初は眩耀君の力に魅せられて近付いた訳だけど、今はその性格も含めて大好きだから……」
「今度玲奈の家に行って、雄三おじさんに記憶を取り戻した事を話すまでの間ですよ。多分その後は……」
俺はヒーローとして、そして恋人として玲奈を守る為に動き始めるだろう。
元々はそのつもりで目指して手に入れた力だ。
「分かってるよ。でも、最後の最後まであきらめきれないの」
「生徒会長……」
「魔王関係の話なんですが魔族の数や能力が不明な以上、高ステータスの冒険者を増やさないといけないと思うんですよ」
「いきなりだね。でも、言ってる事は理解できるよ。わたしたちも一度殺されかけてるし……」
「やっぱりあいつは魔族だったんですね」
俺はその場を見てないけど、大邪竜ファフニールを召還したって話の魔獣使いティム。
あんな真似は普通の人間にはできないと思ってたけど、やっぱりあいつは魔族だったのか……。
あの時の話から言って確実に覚醒してたみたいだし、魔族連中が強いのは確定?
「ティム、トレジャー、トレイン、マリオネット。私が知る限りこの四人が魔族でダンジョン犯罪者なんだけど、何か気が付かない?」
「名前が一般的過ぎて、検索しても見つからない?」
「そうなの。膨大なネットの海に隠れて、情報を流さない手段だと思うんだけど……」
検索したら候補が多すぎていやになるパターンだな。地味な方法だけど効果は抜群だろうね。
仮にトレジャーって検索かけても、間違いなく魔族情報じゃなくてお宝に関するネタが出て来るだろうし。
「その辺りは雄三おじさんに聞いてみます。勇者ですから、魔族の情報には詳しいでしょう」
「今まで来てなかったのは、記憶を封じられてたからだっけ?」
「そうですね。下手に動いて俺の情報が魔族側に流れるのを嫌ったんでしょう。その点は感謝してますけど」
「おかげで中学時代に私との関係が疎遠になったのが大問題だよ!! 記憶があれば一緒に修学旅行で色々出来たのに~」
うん。あの時俺は何となく玲奈を避けてたから、他のクラスメイトと適当に観光地を回ってたんだっけ?
玲奈は確か他のクラスメイトと回ってた筈。
もし記憶があれば間違いなく俺は玲奈と観光地巡りをしてただろうし、喫茶店に入ったり色々そっち系のイベントもあっただろうね。
「過ぎた事は仕方がないさ。おかげで俺はここまで強くなったんだし」
「……色数とかステータスを聞くのは失礼だって知ってるけど、眩耀君の色数とステータスがどの位なのか聞いていい? あ、ステータスはそこまで細かくなくていいから」
「色数は十色のフルカラーですね。緑は増えるのに、紫とか他の色が増えないのも不思議ですよね」
「フルカラー!!」
「うわぁ……、フルカラーってほんとに存在したんだ」
緋色が謎だったし、条件が揃ってないと絶対に増やせない色だからね。
無色についても謎が多いけど、他の人で増やせた人はいないんだろうか?
「ステータスに関しては神域まで上げています。これで最低どの位か分かると思いますが」
「神域?」
「結界魔法の神域とは違うんだよね?」
あれ? 覚醒については割と知られてるけど、その先にある神域の事は知られてないのか?
まともに考えると、五色とか六色で覚醒状態からのカンストが出来る訳が無いし、今まで神域に至った人が無いのかもしれないな。
親父も含めて……。
「全ステータスが六万五千五百三十五を超えると、その先に【神域】って覚醒みたいな上位ゾーンが存在するんだ。という事で、俺のステータスは最低でもそれを越えてる」
「全ステータス最低六万五千五百三十五?」
「生命力や魔力が最低でも二十万くらいあるだろうから、そのリングで最低でも毎秒二十は回復する訳よね。そりゃ、神アイテムっていう訳だよ」
「あ~、そうですね。毎秒ハイ・ヒール分の魔力が回復する訳ですし、数秒まてばどんな魔法でも撃ち放題ですよ」
実際には毎秒二億ほど魔力が回復する訳だけど、流石にその辺りは伏せておいた方がいいだろう。
「あれだけの魔道展開式の武器を打てる訳が分かったよ~。その膨大な魔力があればこそなんだね」
「そうですね。最低でも十万くらい魔力が無いとあのクラスの武器は打てないと思います」
「十万……」
「それだけ魔力を要求されるのは納得だね。正直、こんな武器を誰でも打てる訳じゃなくてよかったよ」
「俺だって誰にでも武器を渡す訳じゃないですよ。そのクラスの武器やアクセを渡すのは、信頼できる人位ですね」
嫁さんの怪我を治す為に頑張ってた名前も知らないあの冒険者。
アレは普通の武器よりははるかに切れ味がいいけど、ただそれだけの武器でしかないからね。
流石に魔道展開型の武器は信頼できる仲間にしか渡せない。
「そのあたりを理解してるのが流石だし、力に溺れてない所はホントに凄いよね~」
「俺はヒーローですからね。親父を見て育てばこうなりますって」
「あ~、聖おじさんも凄い人だからね。もしかしたらお父さんよりも強いんじゃないかって思う時があるけど」
「親父はな……。全力だとどこまで強いか分からない人だから」
変身したら馬鹿みたいに強いって話だし、ステータス表記にしたらどのくらい能力があるのか知りたい位だ。
もしかしたら神域まで上げてるかもしれないけど、そこまで上げてたら俺の記憶を封じたりしてないだろうしな……。
俺の記憶を封じたのも苦肉の策なんだろうし。
っと、そろそろこの話もいいかな?
「そろそろいい時間ですし、バーベキューの準備を始めますね」
「あれ? もうそんな時間なんだ」
「試し切り組は帰ってきてないけど、準備をしてたら帰ってくると思うんですよね」
そこまで時間が掛かる事じゃないだろうし、採集とかするにしても地下七階までだといい物は少ないし。
やっぱり地下九階が圧巻というか、あの光景を見たらみんなびっくりするだろうな……。
俺はダンジョンカカオ豆を探しに、地下十四階まで行かないといけないけどさ。
読んでいただきましてありがとうございます。
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