第七十七話 新装備を用意しよう!!
テーブルの片付けも終わり、俺は前回武器やアクセを渡していなかった人から順番に武器やアクセを渡す事にした。
「最初はアリス先輩からですね。今回もアクセがあるんで、少し嵩張るかもしれませんが」
「問題ない。これは、魔力回復リング?」
「はい。魔力問題は魔法使いだけじゃないんですけど、特に魔法使いは魔力管理が大変じゃないですか」
「そうですね。私は回復担当ですけど、攻撃担当のアリスちゃんもかなり気を使っていますよ」
……いきなり陽花里先輩が話に入ってきた。
こうやって会話に割り込んでくるのは失礼だとは承知してるんだろうけど、このリングがそれだけ魅力的だったって事かな?
「陽花里の目が恐い」
「今まで一度でも魔力切れで誰かを見捨ててきた人だったら、その価値に気が付かない訳ありませんし」
「……冷たい方程式だけど、ダンジョンの中だと割とある光景だよね」
回復魔法を使える冒険者の葛藤というか、長くダンジョンに潜っていると一度は体験する事らしい。
例えば魔力回復薬が無い状態で、魔力が三十程度しか残ってなくて怪我人が複数。
メインの冒険者ひとりにハイ・ヒールをかけるか、それとも全員の体力がそこまで回復できなくてもエリア・ヒールを使うのか……。
これよりひどい状況だと、死んだ誰かを魔力三百使って生き返らせるのか、それともその冒険者を見捨てて他の冒険者全員を助けるのかって状況だ。
普通の魔法だと死者蘇生が許される時間はわずか一時間。一時間を僅かに一秒でも過ぎれば、金スキルのパーフェクト・レイズですら蘇生させることはできなくなる。
全力で地上一階まで戻って魔力を回復できる状況だとダンジョンリング内に死んだ仲間を収納して、そして残り全員の生命力なんかを回復させるって手段を選ぶ時もあるらしい。
そして最も悲惨なのがダンジョン一階の店に辿り着く時間が僅か数分及ばず、死んだ仲間を生き返らせられなかった時だと聞く。運が悪かったですまない場合も多いとか。
「それで、これはどんな性能なんですか?」
「今は魔力を消費していないから回復量が分からない。このアクセの能力が高すぎて、わたしだと能力を鑑定できない」
流石にこのレベルのアクセの鑑定は無理か……。
作る時に魔力を十万くらい要求されたし、最低でも覚醒してないと鑑定できないと思うよ。
「そのリングは魔力が一気に回復する訳じゃなくて、十秒ごとに魔力が一割ほど回復ですね」
「十秒ごとに一割!!」
「百秒で魔力全快とか、ぶっ壊れ性能以外のなんなんですか!!」
「やっぱり出ちゃったよ、常識外れの装備……。常識がその辺りに落ちてそう?」
「探すだけ無駄だと思うぞ」
依理耶先輩はあきれ顔だけど、姫華先輩はまだあのノリを続けるつもりらしいな。
こうやって気軽にふざけあえる仲ってのもいいけどさ。
「陽花里先輩の分と言いますか、全員分あるんですけど」
「え? わたしたちも貰えるの!!」
「重騎士も魔道展開時にかなり魔力を消費する。切り札の使用回数が増えるのは大歓迎だ」
「いいのか? これは下手をすると国宝クラスだが」
虎宮と玲奈達は俺が作ったアクセ類を見るのは初めてだから戸惑ってるな。
あ、そうだ。こいつらにはこれも渡さないと駄目か。
「玲奈達三人にはこの闇魔法無効と炎無効の効果が付いたアクセもプレゼントだ~」
「……これは常識が壊れちゃいますね」
「でしょ? これでまだアクセ類だけだからね~」
そういいつつ、みんな喜んでリング装備してんじゃん。
ダンジョン内とはいえ、みんなそんなにずっと魔法使ってる訳じゃないから実質ほぼ魔力の使用制限撤廃に近いし、魔力が百程度でも十秒ごとに魔力が十回復するってのは大きいだろ。
十秒ごとに一回ヒールが使える訳だしさ。
とりあえずアリス先輩の武器から出しますか。武器と言っても杖だけどね~。
「武器類はかなり控えめですよ~。えっと、アリス先輩には魔道展開式の杖です」
「えっと、鑑定できないから性能を聞いてもいい?」
「武器レベル十で、付与されてるのは魔法防御無効の攻撃力五千程度ですね。魔道展開後だと一万まで上がりますよ」
「……ねぇ姫、どこから突っ込んでいいか分からない」
「うん。わたしも正直ここまでだとは思ってなかった」
俺が使ってるぶっ壊れ性能の太刀とか見たらどう思うんだろ?
通常状態でも防御力無効の攻撃力百万越え付与で、魔道展開させたら余裕で一千万超える性能だよ?
アレは魔王討伐用に打った武器だから魔王戦以外で見せる事は無いと思うけど、普段使いしてる太刀でも先輩たちに渡した武器より上だからね。
「次に陽花里先輩の武器なんですが、アリス先輩の武器とほとんど同じです。魔法使い系の杖だとどうしても似たような性能になりますし」
「それ、本当にほとんど同じなの? びっみょ~に細かい部分が違うんだけど」
流石に姫華先輩は目ざといな。
アリス先輩は攻撃魔法が主体だから攻撃力をあげたけど、陽花里先輩の武器は攻撃力が少し劣る代わりに防御力と生命力の回復力をあげてあるんだ。
「流石ですね。攻撃力の補正は二千程度ですが、生命力の回復に十倍のブーストが掛かっています。と言っても、ヒールが再生の奇跡とかにはなりませんし、あくまでも生命力のみの回復ブーストですけど。あ、あと一定レベルを超える攻撃を感知すると自動的に対物&対魔法シールドを展開します」
「それがちょっと?」
「ちょっとです」
「あははっ、この杖の性能がバレたら国に取り上げられそうなレベルだよね。で、ちょっとなのか~」
陽花里先輩が遠くを見つめてる……。
たかが生命力回復量十倍程度で驚いて貰っちゃ困るんだけど。
「次は玲奈なんだけど、おじさんみたいに勇者装備って訳じゃないよね?」
「流石にお父さんみたいな勇者系装備じゃないよ。私のクラスは聖女だから、本来ヒーラーなんだけど」
「おじさんに鍛えられてたから当然剣術とか武術も一通り仕込まれてるよね? 今の武器は弓系?」
「舞秦はなんでも使えるんだが、今は三人で組んでるからな。後衛というか弓系で戦って貰っている」
「えっと、そういった事情を一切抜きで考えた場合なんだけど、どんな武器がいいの?」
「錫杖ってわかるかな? 陽花里先輩が使ってる短い杖じゃなくて、結構長めなんだけど……」
錫杖か。また渋い武器をチョイスして来たな。
一応手槍とか弓とかいろいろ用意して来たけど、流石にそこまでマニアックな武器は用意してないぞ。
……材料は幾らでもあるし、錫杖だったらすぐに作れるから今から打つかな。
「流石に錫杖は用意してないから今から打つよ」
「今から? ここで?」
「ここは鍜治場じゃないから鍛冶スキルが発動しないんじゃない? 以前みたいなレンタルブースは一応鍜治場の発動範囲内に作られてるんだよ」
普通の冒険者は鍛冶スキルしかないから鍜治場じゃないとスキルが発動しないんだよね。
他のクラフト系スキルと錬金術をレベル十まで上げると、いつでも何処でも鍛冶スキルやクリエイトスキルが使用可能になる。
「問題ありませんよ。さて、錫杖という事だったら材料と魔石は何がいいかな?」
「あれ? 錫杖に魔石を使うの? まさか、魔道展開式の錫杖?」
「何がまさかなのかは分からないけど、武器を作るんだったら魔道展開式で追加機能つけないと勿体無いじゃないですか~。そこまで手間じゃないし」
「要求される魔力の計算をしたくないレベルだな。それ、本当に打てるのか?」
最低でも魔力を十万は要求されるだろうしね。
玲奈に渡す武器だし、ちょっと気合い入れて渡せるギリギリな性能でいくか!!
「いきなり神白金を取り出したぞ。しかもあの量はちょっと無い」
「あれ、魔石じゃなくて高純度の魔素が詰まった魔宝石じゃない? しかもあの数って……」
錫杖の頭部を形成している輪形と、そこに左右三つずつはまってる遊環それぞれに違う魔宝石を組み込んでいろんな力を使えるようにしようと思ってるからね。
神域を展開する機能も付けようと思ってるし。
「……よし、完成!! はい玲奈、魔道展開式錫杖だよ」
「受け取るのを躊躇するレべルの武器なんだけど、いちおうどんな性能か聞いていい?」
「全体に魔力を練り込んだ神白金を使ってるからそれだけ細くてもドラゴンに踏まれても曲がったりしない耐久力と、そのまま打撃武器として叩いても攻撃力に五千くらい補正が入るよ」
「……ぜっったい、それだけじゃないよね?」
「相手の魔力や知力次第な部分はあるけど、炎・風・土・水の四属性の魔法を任意で無効化できるし、輪形部分に魔力を流して魔道展開させたら神域を展開できるよ」
無効化に関しては魔力と知力に差がありすぎると流石に効果を打ち消されるというか、魔力で十倍か知力の数値で百程度差があると力で押し切られる事もあるんだよね。
この辺りはステータス依存型なこの世界じゃ仕方がない事かもしれない。
普通の炎無効の魔法とかも、相手の放つ魔法の威力次第であっという間に展開させてる無効化魔法そのものが消滅するしね。
「魔道展開による神域展開機能って、存在してもいいのかな?」
「バレたら国宝行き性能のオンパレードだな。それ、オークションにかけたら百億は軽いぞ」
「百億で止まるかな……。国内外の一流どころのパーティだと神域位使えるだろうけど、万が一の時の保険と考えたらこれ以上の物は無いし」
神域展開には魔力が百必要で、金のスキルレベルを十まできっちり上げてると消費魔力は十で済む。
金スキルはどれも使い勝手が良くて強力な魔法が揃ってるからレベル十まで上げる人がほとんどだと思うけど、十まで上げるのも割と大変なんだよね。
レベル十まで上げるのに百五十四ポイントも必要だし……。
「後は虎宮と紫峰田さんの武器なんだけど」
「どんな武器か分からないがありがたく貰っておく。姉さんが使ってるのと同じレベルなんだろ?」
「ほぼ同じ性能だね。魔道展開式のツーハンデッドソードって割と性能が似てるから」
「わたしのは神花卉先輩と同じ杖ですね」
ん? 姫華先輩たちが顔を合わせて何かやり取りしてる?
……えっと、全員で席を立って何をする気なのかな?
「さてと、やっぱり探す事になっちゃいそうか~」
「見つかりますかね?」
俺以外の全員総出で辺りの一斉捜索が始まっていた。
ドラマの重大事件で警官が横一直線になって探すいているような光景だけど、いかんせん俺以外は八人しかいないからそこまで広範囲には調べられないよな。
「ん~、やっぱりさ。ここには無いと思うんだよ~」
「姉さんの言う通りだな。アレは少なくともこんな場所に存在していい物じゃない」
「確かにな。もしかしたらどこかに存在はしているのかもしれないが、こんな場所にある訳がないだろう」
虎宮のやつも言ってくれるじゃないか。
玲奈や桜輝まで頷いてるし……。
っていうか、明らかに姫華先輩たちのノリに付き合わされてる紫峰田さんあたりが少しかわいそうだ。
「ん~、今度家で探してみますね。昔からお互いの家でよく遊んでましたから」
「……そこには多分落ちてないんじゃないかな?」
「さて、そろそろこの不毛な探索を打ちきりにしませんか?」
「仕方がないな。それで、今回用意された装備はこれだけなのか?」
やれやれといった感じで依理耶先輩たちがこっちのテーブルに戻ってきた。
今回用意した武器やアクセは今渡した分だけだね。
ただ、あれだけの装備があっても確実に勝てる保証が無いのがダンジョンだ。少なくともあの武器だけだと多分赤火竜には勝てない。
「玲奈達用に新規で用意した装備はこれだけですね。流石に赤火竜の相手はきついですが、それ以外の魔物でしたらそこそこ戦えると思いますよ」
「そこそこ……」
「生徒会長の言ってた意味が理解出来ました」
「このアクセだけでも、もし売って貰えるんだったら何十億も出すって人がいますよ?」
そのアクセは自信作だからね。
主に魔法を戦闘の主体に置いてるタイプのビルドをしてる人にはたまらない一品だろう。
大量の魔力回復薬を用意してもいいんだけど、どうしてもああいった回復薬に頼ると荷物が嵩張るし、いざって時には魔力を回復させる僅か数秒が勝敗を分ける事もある。
怪我とかが酷いと、そもそもその回復薬を飲む事さえできない場合もあるし……。
「俺のこれみたいにぶっ壊れ性能じゃないだけマシでしょ?」
「それがぶっ壊れ性能? その辺りの魔道具屋で五万ダンカくらいで売られてる、それが?」
「毎秒一万分の一の魔力が上限無しで永続回復ですよ。これに比べたらそれはまだまだかわいいレベルです」
ん? 全員これを買った時の店員みたいに微妙な表情をしてるな。
虎宮に至ってはかわいそうな人を見るようなまなざしだろ? それ?
確かに俺がひらり手首にしてる魔力回復リングは欠点も多いよ。でも、これは俺が持つとこれ以上にない凶悪なアイテムに早変わりするんだ。
「あの、もしかして買った時に細かい説明を聞いて無いかもしれませんが、そのリング回復する魔力が一以下だと回復しないんですよ?」
「そうですね」
「あ~、知っててその評価なんだ~」
「その情報を伏せられたまま購入して、そしていつまでも回復しない魔力に絶望するまでがセットなのに……」
「初心者ダンジョンで、何度もその絶叫を聞いた気がするよ~。騙されて買うのは大体事情を知らない一年生なんだよね~」
そりゃ、普通の冒険者がつけたらそうなるだろ。
魔力、賢力、運を二百五十六まで上げてても、魔力の最大値は七百六十八。回復が始まる一万には遠く及ばない。
つまり、このリングの最低使用条件はその冒険者のステータスがオール二百五十六を超えて覚醒している事。その後で魔力を一万超えるまで上げ続ける事などだ。
一番手っ取り早いのは覚醒後に最優先で運をあげる事だと思うけど、残りのレベルリセットやレベルアップ回数次第だとやりすぎるといろいろ偏った能力になっちゃうしね……。
でも、運最優先は神域に至る為に最低条件だと思うぞ。
「という事はお前の魔力はそれ以上という事か」
「正確な数値は教えられないけど、そういう事なのさ」
あれから余ってるステータスポイントを魔力と生命力に少し振り分けたから、今の俺の魔力と生命力は驚異の二兆。
つまり、これがあれば俺は魔力が毎秒二億ほど回復する。毎秒二億の魔力が永続的に無限回復するリングとか恐ろしすぎるだろ?
二億だぞ……。
読んでいただきましてありがとうございます。
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