第七十四話 牧場型ダンジョンでのキャンプ
待ちに待った六月下旬!!
全員に参加の可否を確認して、土曜日のタイムスケジュールなんかも全部調整して万全な状態でキャンプができるようにした。
テントは小型のコテージを三基も購入してるし、風呂は用意できなかったけど代わりに携帯型のシャワー室も三つ用意しているぞ。
流石にダンジョン内で花火とかをしようと思わないけど、色々と遊ぶための道具なんかも取り揃えてみたぜ!!
「という訳でやってきました牧場型ダンジョン前!! この時間だけど他の冒険者もあまりいないし、楽しいキャンプになりそうだよね」
「そうだね~。今回のメンバーは眩耀君と一緒に活動してるわたしたちと生徒会のメンバーは分かるんだけど、どうして真ちゃん達までいるの?」
「俺は姉さんたちがいる方に驚いたぞ。生徒会の仕事は良いのか?」
「問題ない。すでに今月分の仕事は終わらせてある」
「そうですね~。この牧場型ダンジョンもいつか学院で攻略してみたいと思っていましたし、今回は良い機会になりました」
「ん~、学院の授業で使うにはダンジョン使用料が問題。その辺りを説明して希望者のみの参加だったら可能」
「アリス先輩の言う通りです。まさかダンジョン使用料があんなに高いなんて知りませんでした!!」
「話をした時に一回百万円のダンジョン使用料に驚いていたのが紫峰田さんだけなのが結構衝撃だけどね」
うちや玲奈の家は割と稼いでるし、おじさんは玲奈が必要だっていえば百万円くらいポンと出す人だから……。
虎宮家はこの程度の額なんて問題ないし、依理耶先輩の実家である蛍川家も結構おおきな家だからね。
陽花里先輩とアリス先輩も今までの活動で十分過ぎるほど稼いでいるみたいで、百万円程度は悩む額でもないらしい。
冒険者やってると装備とかでもこの位の額は当たり前みたいにかかるし、回復薬を使ってると百万円分なんてすぐだからさ。
「唯奈の家も名家だが、意外に金回りには煩くてな。この程度の額だったら俺が何とでもするが」
「もう、いつも真ちゃんばかりに迷惑を掛けられないんだよ……」
「どうせそのうち家計を纏めるんだから問題ないだろう? それに冒険者をしていると、百万円なんてよく出る出費なのにな。おばさんたちはそこを誤解してるんだ」
ん~、確かにこのバカップルぶりをずっと見せられるのはきついな。
玲奈は三人パーティになってからこれをずっと見せられてる訳か。
「ハイハイ。二人の世界に入るのは良いけど、時と場合を考えようね」
「許嫁同士とはいえ、もう少し節度を持った方がいいぞ。……まさかもう一線を越えてないだろうな?」
「いいぃっ……、一線なんてまだ超えてませんにょっ!!」
「噛んだな」
「噛みましたね」
しかも、顔を真っ赤にしてまだとか言いましたよ奥さん。
虎宮の奴もまんざらでもない顔してやがるし、まさか今回のキャンプで一線超える気じゃないだろうな?
「しかし、まさか学院からここまで一瞬で来れるとは思わなかったぞ」
「うんうん。そこはわたしも驚いちゃった。ホント、このレベルのテレポートが気軽に使える人って他に居ないと思うよ」
「これだけ距離と精度が高いテレポートで九人も一度に移動するには、魔力が最低でも五千は必要な筈……」
「銀レベル十ですから実際には十分の一で済みますよ。基本五百ですしね」
アリス先輩が指摘した通り、テレポートで移動する場合は人数や精度なんかで消費魔力が変わる。
俺の場合は手に先に特殊フィールドを先に展開させるから安全にテレポートできるけど、この辺りを怠ると石の中とか他の生物の中に転移して恐ろしい結末が待っているんだよね。
この特殊フィールドは俺のオリジナル魔法だけどさ。
「色数おかしくない?」
「冒険者に色数を聞くのはタブーですよ~」
「ステータスもね。でも、一度聞いてみたい気がするんだよね~。あ、常識は見つからないって分かってるから探さないよ」
「探すだけ無駄ですもんね」
「眩ちゃんはちゃんと常識とかありますよ。ちょっと、人とズレてるだけで」
……玲奈。擁護するんだったら、最後までキッチリ擁護してくれ。
人とズレてるって、おじさんとか親父の常識が一般人と同じとでもいうのか?
俺達の常識が少しおかしいのは、あの三人の影響がかなりでかいんだからな。
「移動に時間が掛からないのは良いじゃないですか。移動の行程も旅の醍醐味ではありますけど、真面目に公共機関を使ってここまできてたら、最低でも三時間位かかりますし」
「そうだね~。電車を乗り継いでここまではバスになるかな? 駅前からここまでは定期便も出てるし、走ってるタクシーも多いよ」
「ここを利用するような冒険者は、大体でっかい自家用車で移動してきますけどね。あの人達みたいに……」
現在時刻は午前九時。
普通の冒険者がダンジョン攻略を始めるには少し時間が遅いし、泊りがけでダンジョン動物とかを狩るつもりなのか?
朝早い人たちは日が昇る前から潜ってるらしいし……。
「あの人!! 有名な竜狩人パーティだよ。レアクラス持ちなんだって」
「へぇ……。もうこのダンジョンで活動するようになったんだ」
よく見ればあの時の竜狩人さんたちか。一緒に居る女性も同じような気がするけど、動いてる姿を見るのは今日が初めてだしな。
というか、あの一件から半月くらいしか経ってないだろ。
その短期間でレベルを上げて三人分の装備を揃えて、またここで活動できるくらいに稼いだって事?
やっぱり一流どころはどこか違うな。
「知ってるような口ぶりだね」
「ちょっと……ね。このダンジョンは使用料が高くても七階まででもものすごく稼げるし、資金集めには向いているのかもしれない」
「使用料が百万円もかかるのに?」
「一度払えば何日でも滞在できるからね。七階の大鶏の卵をいくらか集めれば十分すぎる位の値が付くよ」
噂の大鶏の卵かけご飯は寮で実食してみた。
使ったのは炊き立てのご飯と大鶏の卵、それに醤油を少々。大鶏の卵が美味すぎて、旨味調味料とかはひとかけらすら必要なかった位だ。
アレは嵌る!! プレーンオムレツとかも作ってみたし、プリンも作ったけど卵の旨味が凄すぎて今まで食ってきた料理とは完全に別物だったぜ。
プリンは今日のデザート用に作ってきてるし、アイスやショートケーキとかも作ってきてる。
多分争奪戦がすっごい事になるだろうね。
「とりあえずダンジョンに入ろう。ダンジョン使用料は俺が一括で払っておくから」
「ありがとう。ダンカ払いにするの?」
「残念ながらダンカカードにはまだ報酬が振り込まれてないんだよね。今回は現金で払うよ」
一千万円の札束から百万引いて払うだけの簡単な作業だしね。
札束に巻いてある紙の帯を手で切る作業も、なんとなく慣れて来たし……。
「流石に一流の冒険者になるとこの程度どうって事ないみたいだな」
「冒険者してると数千万円の支払いなんてしょっちゅうだろ? 武器新調したら億超えるらしいし」
「流石にそのレベルの武器を買える冒険者は一部だけかな? 打てる冒険者はもっと少ないだろうけど」
「うちのクラスに将来有望な鍛冶師がいるぞ。卒業する頃にはたぶんレベル五だ」
勢多の事だな。
虎宮がそこまであいつの成長に期待してるとは思わなかったけどね。
「へ~。一年なんだよね? まだ鍛冶レベル一じゃないの?」
「既にレベル二で、あのまま研鑽を続ければ、夏休み前までにレベル三に上がるだろう」
「ほう、それは有望だな……。今年の一年は将来有望な人物が多すぎる。出来れば私も同じ学年で学びたかった位だ」
依理耶先輩がそんな事をいっているけど、先輩の代も割といい冒険者多く輩出してる気がするんだけど……。
おそらく何年か後に俺たちの世代は、私立深淵学院の黄金世代と呼ばれるだろうね。
配信なんかでは俺の陰に隠れてるから目立たないけど、桜輝さんもかなり高ステータスな冒険者だしさ。
今はたぶん四色持ちだし、そのうち五色持ちになる事も不可能じゃない筈……。
そうなるとレベルリセット回数がもう一回増えるから、確実に覚醒組に入るだろうし……。
「わたしたちの世代も粒揃いとか言われてたのに、それが霞んじゃうくらいに優秀な人が多いよね」
「代わりに脱落者も多い。今年の一年は既に三十人以上退学しているからな」
「ダンジョン犯罪に巻き込まれた人はいない筈なのに、異常に怪我人が多いよね」
「装備不足と準備不足が原因です。わたしも一度痛い目を見ましたが、そこから立ち直る為の何かも必要ですよ」
桜輝さんが意味深な視線を俺に向ければ、なんとなく笑顔でそれを迎え撃ってる気がする玲奈。
大人しいように見えて玲奈はかなり我が強いし売られた喧嘩は割と買う主義だからな……。
記憶を色々と封印されてたとはいえ、俺が曖昧な態度をとってたからこんな面倒な状況になったんだけど、そのうちキッチリと清算しないといけないだろう。
「だけどホントに残ってる生徒は有望な人が多いよ。下手をすると次期生徒会長は一年から出るんじゃないかって噂もあるし」
「へぇ……、そんな噂もあるんですね」
「真ちゃんも生徒会長候補だけど、眩耀君も最有力候補なんだよ」
「俺が? 灰色カードなのに?」
元だけどな。
今のステータスカードの色は緋色だし、かなり強めにラメが入ってるからめっちゃキラキラしてるぞ。
「勘の良い生徒はそろそろその辺りのからくりに気が付いている。俺も家の資料を漁ったから色々理解したが……」
「灰色のステータスカードがどうしてレアなのか知られてなかったからね~。本当の事があまり広まっても困るでしょ?」
「そうですね……。ある程度成長するまでは知られない方がいい情報ですし」
今はもう成長しきってるから関係ないけどね。
灰色カードの真実が知られたら絶対にレベル一の状態の時に魔族が殺しに来るだろうしな……。
魔王や魔族にとって最大の脅威は勇者じゃない、灰色カードを持つヒーローなんだから。
「そろそろ受付に行かない?」
「そうですね。テントの準備とか色々ありますし」
「ホントにそのあたりを全部任せてもよかったの? 大荷物になったでしょ?」
「大した量じゃないですよ。さて、行きますか」
どこのダンジョンもそうだけど、入り口が転移ポーターってのが凄いよな。
なんていうか、穴に潜っていくイメージが無いしその感覚も間違ってるって言われてるしね。
どこかのダンジョン学の教授の言葉で『君がダンジョンの地下二階から三階に移動したとする。しかし、そこが本当にそのダンジョンの次の階層なのかを証明する手段は何もない』ってのがある。
転移ポーターで移動しているから確かにその階が続きなのかどうかなんてわかんないんだよね。
日本にあるダンジョンと他の国にあるダンジョンが繋がってたりしてもおかしくないし、その可能性も十分にある。
何かの事故で、別のダンジョンの転移用ポーターと繋がる可能性もゼロじゃないしね……。
読んでいただきましてありがとうございます。
楽しんでいただければ幸いです。
誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。




