第七十三話 授業でのダンジョン探索
六月に入ってダンジョン犯罪者の動きが活発になってきた。
先月、ダンジョン犯罪者の犯行と思われる大規模失踪事件も起きてるし、トレインによる被害も多発している。
あのトレインも老いたのか、最近は冒険者に逃げられる事も多くなったらしくて、その姿をダンジョン協会に報告される事も増えて来た。
だから同じような姿でダンジョンに潜る冒険者が割と迷惑しているって話だし、さっさと誰かに討伐されてダンジョン犯罪者のリストから姿を消して貰いたいもんだ。
今日は初心者用ダンジョンで今更なダンジョン内講習があるから、一年は全員軽装で初心者用ダンジョンに集められている。
ただ、今回のパーティ編成はクラスごとなのでパーティメンバーは桜輝さんじゃないけどね。
今日の臨時パーティのメンバーは虎宮、勢多、玲奈の三人だ。
今回の課題は初心者ダンジョンの地下五階までの範囲での探索で、なんでもいいから有意義な物を見つける事。
提出するものは野草や薬草でもいいし、最悪魔物を倒してその素材でも構わない。
だけど今の俺達は俺が先頭に立ってある場所を目指して歩いているだけだった……。
「なあ、俺にも武器を打ってくれないか?」
最近俺が高性能な武器を打てると知られたらしくて、こうして俺に武器を打ってくれないかと頼む奴が増えてきた。
今俺に武器を打ってくれと頼んできたのは勢多だが、あまりこういった事を言ってくる奴じゃなかった筈なんだが……。
「打たない事は無いけど相場通りの料金は貰うよ? 魔道展開式じゃなくても億を切る事は無いと思うけどさ」
「億!! そこは友達価格で……」
「冒険者だったら自分の命を懸ける武器の値引き交渉はやめといたほうがいいぞ。そいつの打つ武器はそれだけの価値がある」
「虎宮!! 仕方ない、自分で打つか……」
ん? 自分で打つ?
武器を打つには鍛冶スキルを最低でもレベル二にあげないといけない。
鍛冶師はそのレベルになるまで何十本も剣を鍛えるらしいけど、こいつまさかそんなレベルで武器を打ってたのか?
「お前、まさか鍛冶スキルのレベルを上げたのか?」
虎宮の奴も驚いてるな。いや、ひと月やそこらで鍛冶レベルを二まで上げる奴が居るなんて思わないじゃん。
「いや、毎日武器の手入れしてたらレベル二には上がってたみたいでな。見てくれよこの武器、そろそろ限界だろ?」
「どんな使い方したらこんな武器になるんだ? 元は割と安めなショートソードだよな?」
「鍛冶レベル一でも剣の打ち直しや付与はできるだろ? だから、魔銀やウルフの牙とかを練り込んでたんだ」
そりゃそんな事をしてたら鍛冶レベルも上がるだろう。
というか、レベル不足だけどいい感じの武器になりかけてるな。
こいつに必要なのは俺が打った武器じゃなくて、何処にでもあるショートソードと魔物の素材だ。鍛冶師としての経験値稼ぎの為のね……。
「そのまま武器を自作してると、多分この学校でも有数の鍛冶師になれると思うぞ」
「マジか!! それじゃあこのまま自分で武器を強化するかな」
「ご祝儀じゃないけどこのショートソードと魔銀、それに魔物の素材はお前にやるよ。いい鍛冶師になってくれよ」
最初の頃に買った予備のショートソードと、俺が練習の為に打った同レベルの性能しか持たないショートソードを十本ほど。
鍛冶修行の材料にするんだったらちょうどいいだろう。
「何処にでもあるありふれたショートソードだが、付与とかの練習にはちょうど良さそうだ」
「サンキュ。この辺りの素材はなかなか手に入らないし、練習し辛かったんだよ」
切れ味を増すレッサードラゴンの牙や爪、耐久力を増すリトルサイクロプスの角。
そこまで高レベルな魔物の素材じゃないけど、鍛冶レベル二だったら何とか扱えるレベルの素材だろう。
ギガントミノタウルスの角とかサイクロプスロードの角とかだと流石に使う為のレベルが不足しているし、要求される魔力に勢多の持つ魔力が足りないだろうからね。
「鍛冶レベル三になったら学院に報告しろよ。それだけでも優遇されるし、学院からの援助も出る」
「援助?」
「魔銀や低レベルな素材なんかがタダで手に入るし、レベル四以上の武器を打つ事が出来れば学費も免除だ」
それは初めて聞いたけど、学費免除はかなりデカイな。
ここは私立の学院だから学費は馬鹿みたいに高いからね。
授業に使う消耗品の経費や装備類を揃える金も必要だけど、いざって時の保険とかも高いからだけどさ。
学費免除の特待生の条件がかなり厳しくて、みんな早い段階でその枠に入ろうと必死になってるらしい。
うちは割と裕福な部類だし、俺も稼いでるから申し込まないけど……。
先日俺のステータスがなんとなく親父たちにバレたらしくて、来月から学費とかは自分で払えとか言われましたとさ。
何百億も持ってて、親のすねかじりとかかっこ悪いしな……。
「しかし、こんな時期に鍛冶スキルを上げてる奴が居るとか、今年の一年はホント向上心が高いよな」
「例の噂が流れて、赤無しの二色以上の奴は緑スキルを獲得する為に頑張ってるらしいし、卒業までに二色増やしてる奴も多いだろう」
「五色持ちとか伝説だよな……。ただ、金色を増やす為には……」
「自力で高純度の魔素を含んだ魔宝石のイエローダイヤを手にするか、同レベルの魔石を手に入れるかだな。流石にオークションに参加して何十億も出せないだろう?」
高純度の魔素を含んだ魔宝石イエローダイヤ、もしくは同レベルの魔石。
金スキルを入手するにはどちらかが必要だし、確実に色を増やす場合には錬金術で魔宝石を魔石化させた物が必要になる。
錬金術を使える人なんていないし、その魔石を作ろうと思ったら高レベルな付与系のスキル持ちが必要なんだっけか。
「自分で使うか、それともオークションにかけるかは一生悩むところだろうな」
「最低十億は行くからな。以前は数億だったんだが、近年急激に値上がりした」
「数億でも俺達には手の届かない宝石だよ。お前の武器は同レベルっぽいけどさ」
「そのまま鍛冶スキルを上げ続ければ、お前の武器もそのうち同じくらいの価値が出るぞ?」
「マジで?」
「マジだ」
若くて高レベルな鍛冶師なんて国に囲われるレベルだぞ。
在学中に鍛冶レベル三にあげれば、奨学金どころか国から特別奨励金が出るレベルだ。
鍛冶スキルが上がりやすい人種というか人間もいるっぽいらしくて、同じ様に武器の手入れをしているのに不思議とそいつだけ武器レベルが上がるって事がある。
鍛冶の神様に愛されてるのか、それとも何か特殊な才能があるのかは知らない。
クラスによっては鍛冶特化的な場合もあるらしいけど、その場合使ってる武器が槌系らしいから勢多は違うだろう。
「鍛冶職も希少だし、冒険者にとっちゃ腕のいい鍛冶師は更に貴重だからな」
「ひと月で鍛冶レベルを上げる奴なんて俺は知らん。才能で片付けられない位には異常なんだぞ」
「そんなに褒めるなよ。よし、このまま学園一の鍛冶師を目指すぜ」
既に俺を除けば間違いなく学園一の鍛冶師だろう。しかも他の追随を許さないレベルでな……。
こんな才能の塊がいなくなるのは痛いし、勢多は悪い奴でもないからこれを渡しておくか。
あれから今度のキャンプ用で幾つか余分に作ったんだよね。
「闇魔法と火無効の効果付きアクセ。一流鍛冶師になる前祝でプレゼントするよ」
「マジか? 火無効はともかく、闇魔法無効はマジ感謝するぜ」
「即死魔法は恐いからな……。で、これは何の真似だ?」
「臨時とはいえ今日のパーティにも渡しておこうと思ってな。玲奈と虎宮だったんでちょうどよかった」
「ありがとう。って、授業の終わりに返せばいいのかな?」
「そのまま使ってくれていいよ。別に大したアクセじゃないし」
「という事は、お前はこれを作れる訳だ。……アーティファクト量産人間め」
はい、きこえませ~ん。
ダンジョン犯罪者に巻き込まれてこいつらが死んだりしたら後悔してもしきれないからな。
特に玲奈はね……。
「眩ちゃんから何か貰うなんて初めてだね」
「そうだったか? 昔は色々と……」
「ちゃんと貰うって意味だよっ。昔のアレは私も色々と悪かったって思ってるんだから」
玲奈は勇者である雄三おじさんに溺愛されて育ったし、親父もかなり甘めの対応をする事が多かった。
だから玲奈が俺の玩具とかお菓子を横取りする事も笑って見逃してたし、俺もそこまで物に固執する性格じゃなかったから気にもしてなかったんだよね。
一緒にお風呂とか色々追及されるとヤバいイベントもあったし、兄妹みたいに育てられたから妹に譲る感じだったし。
「お前たち仲がいいんだな」
「虎宮君と唯奈ちゃんほどじゃないよ。一緒のパーティだと二人とも凄いんだから……」
「いや、唯奈とはそんなに……」
流石にあれだけいろいろ伝説を残しといて関係ないは通らないだろう。
こいつら、アレで人目をはばかってるつもりなんだろうが、爆発しろバカップルってほぼ全クラスの奴から言われてるんだからな。
一緒のパーティに居る玲奈がお邪魔虫扱いされないのは、ちゃんと二人の距離に入らないように苦労してるからだし……。
「三人パーティになってからが凄いんだ~。普通にジュースの回し飲みとかするし、ご飯の時にひと口頂戴とか、あ~んとか平気でするんだよ」
「判決。有罪」
「今日はその嫁さんと別パーティでよかったのか?」
「唯奈ちゃんはその事で他の子たちから追及を受けてる最中かな? 今日は色々聞きたい事があるんだって~」
年頃の女の子に恋バナは鉄板です。
しかもいいとこのお坊ちゃんの虎宮と、その許嫁って噂まである紫峰田の話だしな。
虎宮がいると邪魔なんで、今日は俺達に押し付けられたって事だったのか。
「聞きたい事ってなんだよ? まさかステータスとかスキル編成じゃないだろうな?」
「そんな事をわざわざ聞く筈ないでしょ。虎宮君とどこまで行ったのか~とか、そんな話題?」
「そんな事って、冒険者にとっちゃステータスとスキル編成は極秘内容だぞ」
普通の冒険者にとっちゃ、何色持ちって所すら極秘情報だからね。
色数をばらすステータスカード作成も、そのうち枠で囲って個別対応になるんじゃないか?
色数が分かれば大体の強さが分かるし、単色持ちとかバレると冒険者として活動しにくいからね。
……というか、ステータスカード発行時に一色とか二色の奴って、それまで冒険者として何の準備もしてこなっかったて事だろ?
なんでそんな奴が冒険者の道を目指したのかが不思議なんだよな……。まさか本気で冒険者の才能がランダムだとでも思ってるのか?
「女生徒は恋バナ好きだしな。修学旅行とかダンジョン攻略旅行だと鉄板の話題だ」
「一番近いダンジョン攻略旅行は夏休みか。盛り上がるだろうな」
「まだひと月先だぞ。今年は何処に行くか決まってないらしいが」
「ダンジョン犯罪が多発してるからね。ホント、いなくなればいいのに」
一瞬、いなくなればの前に小さな声で魔族なんてって声が聞こえたな。
確かに重大なダンジョン犯罪の多くに魔族が関わってるらしいけど、一部の人しか知らない極秘情報の筈。
おじさんから聞いたのか、それとも元勇者候補としての直感でその結論に辿り着いたかは分からない。
実際魔族は人類と相容れない存在だし、共存とかもまず不可能って話だからな。
「……よし、みんなとまってくれ。そこの岩場で採掘してみる」
「おいおい、こんな場所に何かあるっていうのか? ここは鉱山型ダンジョンじゃないんだぞ」
「お前の事は信用しているが、こんな場所で何が採れるんだ?」
流石に玲奈は俺の事を信用してるけど、虎宮と勢多の奴はこんな岩場で何が採掘できるか分かってないみたいだな。
……よし、手応え十分。一応どのダンジョンでも魔石くらい出るし、運が良けりゃこうして魔宝石も採掘可能なのさ。
「ダイヤ系じゃ無かったが、十分なサイズで純度を持つルビーの魔宝石だ」
「……マジか!! え? 初心者ダンジョンのこんな岩場で魔宝石なんて採掘できるんだな」
「今まで初心者用ダンジョンで魔宝石の採掘に成功したって話は聞かない。どうして知っていたんだ?」
「ん~、勘というかなんとなくわかるだろ? 初心者用ダンジョンでも五階まで潜れば魔宝石の原石くらいどこかで生成されてるさ」
元々は鉱石と魔素から作られてる宝石だし、魔素溜が出来る位にはこのダンジョンも魔素が豊富だ。
その魔素の流れを辿れば、魔宝石が埋まっている場所位予測できる。
要は、慣れの問題さ。
「凄いね~。さっすが眩ちゃん」
「もしかして他の場所でも採掘可能なのか?」
「勢多が鍛冶スキルを三まで上げたら、なんとなく鉱物や鉱石の埋まってる場所を感じ取れる筈だ。上手くいけば下の階だともう少しいい魔宝石の原石を見つけられるかもしれないぞ」
「鍛冶スキルってそんな力もあるのか……。ん? もしかしてこの感じがそうなのか?」
勢多が俺が採掘した場所と反対側にある岩を見つめ、そこに持ち込んでいたツルハシを思いっきり打ち込んだ!!
魔宝石じゃないけど、結構大き目な魔銀の塊を掘り出す事に成功したぞ。
へぇ、一回でものにするなんてなかなかセンスがいいな。というか、マジで鍛冶の神様か何かに愛されてるんじゃないか? こいつ。
「精製前の魔銀とはいえ、そのサイズはかなり価値が高いぞ」
「サンキュ。これで練習に使う材料に困らないぜ」
「おめでとう。流石にここより下じゃないと碌な素材は手に入らないから、最低でも地下五階より下の階にした方がいぞ」
今回俺達が提出した魔宝石と魔銀は当然過去に類を見ない採集物として登録され、この後しばらく初心者用ダンジョンの岩場でツルハシを振るってる一年や二年の姿を見かけるようになったとか……。
しかも、何処で掘ればいいのか分からないから地下二階とか三階で採掘を行い、銅とか鉄なんかの鉱石を見つけたって話も聞いている。
あの辺りはあまり武器に使えないし、鉄に魔石を溶かして魔鉄にするより銀を使って魔銀にした方が色々と使い道が多いからな。
魔鉄は死霊系にダメージがほとんど入らないし、杖なんかの材料にするには重いし弱いからね……。
読んでいただきましてありがとうございます。
楽しんでいただければ幸いです。
誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。




