第七十一話 ダンジョン最下層で待ち構えるダンジョンボスの正体は
牧場型ダンジョンの地下十四階は予想通り海エリアで、飛行魔法か何か無いと島から島への移動すらできない酷い状況だった。
水無効の魔法を使って島から島へ泳いでいくって方法もあるけど、流石にそんなに無限の体力がある奴はいないだろうし、そもそもどっちに向かえば島があるか分からない状況で闇雲に泳ぐなんて自殺行為にしか過ぎない。
だから地下十四階を攻略できるのは飛行魔法を持った本当に一部の冒険者だろうけど、転移用ポーターで一番最初に下りた島で釣りをするのもそこまで悪くないかもしれない。
目と鼻の距離でマグロとか泳いでるし、島自体も結構大きいからね。
「ダンジョンマグロ、しかもあれクロマグロだよ……。釣りあげるんだったら結構いい釣り竿用意しないと駄目だろうな」
他のポイントだとメートル級の真鯛とかいるし、堤防風に加工された場所には鯵とかをサビキで連れそうな場所まである。
どうせ最下層のダンジョンボスは海龍種だろうし、よっぽど装備を整えてないと戦いにすらならないだろうから、ここで引き返す人がいてもおかしくないかもね。
「このダンジョンの近くに大型の釣具屋が出来そうな気がする……。ダンジョン利用料の百万は高いけど、釣り好きだったらこのダンジョンは最高の場所だろう」
上には清流もあるし、鮎やイワナが釣り放題。
アクティブタイプの魔物はほとんどいないし、低レベルの冒険者でも赤火竜以外は殆ど戦わずに済むしね。
赤火竜に関しては親父か雄三おじさんを呼んでる時期に同行するしかないだろう。知り合いに赤火竜を討伐できる冒険者がいれば話は変わるけど、流石に強化種の竜を倒せる冒険者の話は聞かない。
リポップ時間とおじさんたちの時給から考えると、赤火竜討伐に一回同行するのにはやっぱり百万くらいはとられそうだけどさ。
一日十二組限定だし、もしかしたらもう少し参加費は高くなるかもしれないね。
価格はどのくらいの期間それを実施するか次第だろうけど。
「俺は飛べるから奥にある島まで行けるけど、この距離は泳いで何とかなるような距離じゃないな。途中でサメっぽい背びれも見えたし……」
いたよ、アクティブタイプの魔物というかダンジョン動物。
サメタイプの魔物もいるし、ダンジョン動物もいるからあいつがどっちなのかは倒してみないと分からない。
魔物だったら割と使いやすい状態のフカヒレとかドロップするだろうし、ダンジョン動物だった場合は気の長くなるような時間をかけてフカヒレを食える状態まで加工しなけりゃいけない。
ダンジョンミート系の企業が買取してくれるのも、この魔物タイプのサメからのドロップだ。
「仕方ない。あのサメを一体、銛を作って倒してみるか……」
あいつが魔物だった場合、オートドロップがあるから倒しさえすればドロップは回収できる。
ダンジョン動物でただのサメだった場合は、諦めて海の藻屑になって貰うしかない。
……っと、銛完成。武器レベル五だけど、投擲したら回収不可能だろうな。
「サメ一匹倒すにゃ少々贅沢だけど、この銛をお前にやるよ!!」
狙いを定めて眼下を泳いでる巨大鮫の頭部めがけて銛を投擲する。
俺の放った銛はギリギリ音速を越えない速度で海面に到達し、何とか水面に衝突した衝撃で破壊される事なくサメの頭部に大きな穴を穿った。
……これ、衝撃波で津波とか発生しないよね?
「おっ、魔石をドロップした!! あいつやっぱり魔物なのか……。他にもメガロドンのフカヒレと切り身が手に入った。他は歯とかサメ皮とかだね」
体長十五メートルくらいあったし、なんとなくだけどただのサメじゃないと思ったよ。
大きさに対して手に入った量は少ないけど、魔物からのドロップなんて普通はこんな物だしな。
運が悪いとこれすら入手できない事もあるそうだし、フカヒレだけでも十分か。
鮫皮は太刀の柄に使えばいい感じになるんだよな……。太刀は俺が武器として愛用してるからありがたい。
「という事は、この海の中には意外に魔物も生息してるって事か。泳いで渡るとか自殺行為だな」
鮫もきついけど、クラーケンとかもいるんだろう。
体長十メートル越えの烏賊との水中戦とか悪夢以外の何物でもない。
ドロップは烏賊の切り身だろうし、倒す労力に対して報酬が安すぎる。
しかも烏賊に関してはある程度以上デカくなるとそこまでうまくないって聞くしな。普通のダンジョンスルメイカとかダンジョンアオリイカで十分だ。
「あそこが一番奥の島か……。ちゃんと最下層に繋がる転移用ポーターと、一階まで戻れる転移用ポーターがあるね」
最下層にある待機室の様な状態って事は、最下層は丸ごとボス部屋で間違いないな。
という事は、あそこをくぐると最下層でダンジョンボスとの戦闘が待ってるって訳だ。
流石にリバイアサンは出ないだろうし、強化種の海竜種かな? 海龍種の可能性もあるけど……。
「さて、それじゃあダンジョンボスの面でも拝みに行きますか」
フロアボスが赤火竜だからほぼ竜種確定だけどね。
さて、これで大蛸とか巨大がにとかだったら笑うけどさ。
◇◇◇
牧場型ダンジョン最下層、ダンジョンボス部屋。
予想通りというか、下りてきた俺を待ち構えていたのは海龍種で、しかも全長が何百メートルあるか分からない長大な海龍だった。
外見は割と一般的な海龍だけど鰓とかヒレとか海龍種独特な器官がいくつも見受けられるね。
「あのデカさだとまともに攻撃しても殆どダメージなんて入らないだろうし、身体の大半が水面下にあるからあの辺りは攻撃しても無駄だろうな」
水中に逃げられたら攻撃手段が限られるし、しかもあの図体の割に水中での動きが早いんだよ……。
龍種だから防御力も高いだろうし、俺はともかく他の冒険者であいつ倒せるのおじさんたちか親父くらいじゃないのか?
「水面から顔を出してきたけど、お得意の高圧水ブレスの時間ですってか。あいつ定期的にこうやって水掛けてきやがるけど、そろそろ無駄だって学習してくれないかな?」
首の付け根の太さを二倍くらいに膨らませて放ってくる超高圧の水ブレス。
ちょっとかすっただけで軽々と木々は薙ぎ倒すし、これを防げる盾なんて依理耶先輩にあげた魔道展開式の盾位だぞ。
俺の場合はただうっとうしいだけなんだけどね。
「で、この高圧水ブレスを放ったら直ぐに水中に逃げて、そしてしばらく海中を泳いでるんだよな」
アレを放つのに結構な負担がかかるのか、高圧水ブレスを連発する事はまずない。
だからこうして一度打つと暫く海面下を泳いで回復させて、また打てるような状態になったら水面から顔を出して高圧水ブレスを打ち込んでくるんだよな。
その時身を隠しているとあたりを見渡して怪しそうな場所に高圧水ブレスを打ってくる。
打ち終わった後で姿を見せると、若干イラついたような行動をする事もあるのが楽しかったりするぞ。
「とまあ、こいつの行動パターンはこの位記録してりゃいいだろ。次に倒す人の参考になる」
普段の俺の討伐情報は役に立たないと評判だからな。
大体一撃だし、魔法を使った時も威力が桁違いだから……。
「という訳で、首を出したところで斬り付けて終了。いい気になって高圧水ブレスを打ち込もうとしてきた海龍君の首を斬って試合終了って感じだ」
あの馬鹿でかい巨体でも丸々収納できる特殊インベントリが凄すぎる……。
報酬の財宝系も凄いな……。超大粒なダンジョン真珠がぎっちり詰まった宝石箱とか、これだけでもひと財産なのは間違いない。
財宝系のドロップも凄いけどメインはやっぱり肉系だよな。……なんとなくだけど、海龍の肉は赤火竜とかなり違う気がするぞ。
魚とは違うけど、普通の竜種ともかなり肉質が違うし。
流石に刺身で食おうとは思わないけど、どんな料理にしたらいいのか結構悩むな……。
「ダンジョンボス討伐の証明も手に入ったし、これでこのダンジョンの好きな階に転移する事が出来るぞ」
浅瀬で潮干狩りし放題じゃないけど、あの階にいきなり行けるのは大きいな。
九階の大農場も凄いと思うけど、そこも収穫に熱をあげたら数日仕事になりそうだし、生えてる農作物のリポップ時間考えたらどれだけ収穫しても二時間で元の状態に戻るんだよね。
だから収獲に終わりが無いし、この辺りでやめとこうかの精神が無いと延々と収獲する羽目になる。
今回の探索でもかなりの量のダンジョン米やいろんなダンジョン野菜などを収穫したし、しばらく畑仕事はしなくていい気がするぜ。
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