第七十話 牧場型ダンジョンに眠っていたお宝
ダンジョン地下十一階。
この階は少し雰囲気が変わってるというか、少なくとも今まで見たいな牧場って雰囲気じゃなくなった。
例えるんだったら里山? と言っても広さが半端ないからここで採集するのは結構な手間だと思うんだ。
しかも何ヶ所も川や湖があるタイプか~。あ、川ごとに生息している魚とかが違うパターンだな、ここは。向こうの清流にはヤマメとかがいたけど、向こうの川はかなり広いから鮭とかイトウなんかもいる可能性もあるな……。
「川は釣り師が喜びそうなエリアとして、他の広大な森林は山菜エリアなのかな? ……この匂い、もしかして」
よく見れば少し先には見事な赤松の林が広がってて、その根元にはいい感じに育った待ったマッタケがびっしりと生えそろっている。いや、ダンジョンマッタケなんて存在したのか。ダンジョントリュフはあるっていう噂だったけどさ。
同じ松の林でも、おそらく向こうがダンジョントリュフの林なんだろう。
他にも椎茸や舞茸、エリンギやエノキタケなんかが生えてる林もあるし、ここはキノコ群生地帯で決まりっぽいな。
「マッタケは焼いてもいいし、土瓶蒸しにしても最高だ。ダンジョントリュフに関しては一年中最高の状態で手に入るってのが最大の強みで、特に夏にはひとつ数十万なんて値段が付くらしい。その代わり目利きも必要っていうか、いいトリュフを見分ける目も必要なんだけどね」
普通は適当に採集して持って帰って、専門の業者に鑑定して貰うのが一般的だ。
鑑定スキルがあると品質とかを見極められるんだけどね。
「最低でも毒の有無は確認したいところだけど、ここに生えてるキノコに毒キノコは無い気がする……」
それでもキノコ類はいろいろ怖いからね。
食べる前に一度鑑定しないと怖くて調理はできない。
今回は椎茸やエリンギを中心に、マツタケとかをごっそり収獲して下の階に向かう事にした。
この椎茸類はバーベキューで使わせて貰うし、マッタケはどうするかな……。
香りが割と強いし、バーベキューとかキャンプ料理には向かない気がする。
このキノコ類が活躍するのは寒くなって鍋シーズンに入ってからだろうね。
トリュフに関してはいろいろ使い道があるけど、こっちもキャンプ料理には使いにくいしな……。
「川にはドジョウやウナギ、上流に行くとヤマメとかイワナとかもいるね。やっぱり清流エリアか……」
釣り好きな冒険者もいるし、連中にはたまらない場所だろうね。
ダンジョン内の川に漁業権なんて存在しないし、思いっきり釣り放題だ。
こんな感じでアクティブタイプの魔物がいないダンジョンなんて珍しいし、全国から冒険者フィッシャーが集まるかもしれないね。
ただ、ダンジョン利用料の百万は痛いけど、ここで適当に何か採取して戻ればすぐにそのくらい稼げそうだ。というか、あのダンジョンマッタケを数キロ持って帰れば百万なんて一瞬だろうぜ。
「川魚は諦めて、下の階の調査に行かないといけないな。あの鮎は最高なんだろうけどさ」
あれだけ形のいいダンジョン鮎だと塩焼きにしたらさぞかし美味いだろうけどね。
川底に生えてる苔も幾らでも再生するから、ダンジョン鮎は思う存分苔を食っていい香りがするんだ。他の場所で獲れるからその辺りは有名だったりする。
初夏に来るのもいいかもしれないね。
◇◇◇
ダンジョン地下十二階。
ここはこの階全体が野鳥エリアのようだね。
雉、鶉、鶏、オナガドリ、ヤマシギ、ヒヨドリなんかの野鳥が広大な森の中に無数にいる他、大きな池には鴨とか白鳥とかアヒルなんかも気持ちよさそうに浮かんでる。
というか、鶏とかまでいるっぽいんだけど、もしかして野鳥エリアじゃなくて鳥ゾーンなのか? 流石にオウムとかは見かけないけど……。
基本的に食用とされてる鳥の楽園?
「鶴までいるよ……。ここはダンジョン内だから狩猟が禁止されてる鳥肉も合法的に手に入るし、あの辺りの鳥に手を出しても罰せられないのがデカいんだよね」
でも、美味いのか鶴肉?
基本的にダンジョン内の動物は地上で獲れる野鳥より安全で美味いってのが常識だけど、雉はともかく鶴を狩る気にはならないな。
でも、確か鶴肉も高いんだよね……。この国だとダンジョン鶴以外は食えないし、上で鶴なんて狩猟したらお手てが後ろに回っちゃうからね。
その上、鶴なんかはダンジョン内でも珍しい鳥なのは間違いない。
森林型ダンジョンにも結構いろんな動植物が存在するけど、レア系というか滅多にいない動物とかも割と多いんだよね。
鶏も滅多に見ない鳥の一種だし……。
「鶴はともかく、あんなノーマルサイズの鶏は滅多に見ないしあいつはキャンプ料理にも使える。鶉は卵だけ回収すりゃいいだろ」
鶏卵もそこそこ欲しいけど、卵に関してはもう少し上の階にいた大鶏の方が高級品なんだよね。
ホント、ダンジョン肉は色々と難しい。
「ここも適当に確保したら下の階に行くしかないか。ホント、誘惑が大きすぎてハマるとそこだけで一日くらい平気で時間が経ちそうだ……」
こいつらは魔物じゃないから、この階丸ごと焼き払ってドロップで回収って荒業が使えないんだよね。
ダンジョンア動物のダンジョン肉が欲しいんだったら、地道にこいつらを狩って手に入れるしかない。
こりゃ、それなりに時間は必要だな。
◇◇◇
牧場型ダンジョンの地下十三階。
とうとう出てきた海エリア!! とりあえずこの階は汽水湖や浅瀬ゾーンか……。
浅瀬と言っても岩場でダンジョンサザエやダンジョンアワビも獲れるし、小魚や海老蟹タコといった浅瀬でよく見かける面々も結構な数で泳いでる。ナマコはいるけど海牛はいないな。
テトラポットが一つもない海岸ってのも新鮮だけど、ここ遠浅というかどこまでこの浅瀬が続いてるんだろう?
「見た感じあの辺りまでは浅瀬っぽいな。ここから百メートルくらいありそうだ」
で、少し離れた場所には砂浜もある。
砂浜なのにムツゴロウっポイ魚が刎ねてるし、マテ貝っぽい貝が時折砂浜から顔をのぞかせているな……。
潮干狩りをしたら、ダンジョンハマグリがザックザクとかありそうな雰囲気だ。
「とりあえずこの辺りのダンジョンアワビとかダンジョンサザエはある程度回収するとして、問題は砂浜での潮干狩りだよな」
岩場で獲れる貝類でさえここまで大きくて大量に手に入るんだ、あそこで潮干狩りをしたらさぞや大量のダンジョンアサリやダンジョンハマグリが採れるだろうて。
問題は塩抜きか……。
【一定以下の大きさを持つ生物に関する取扱い。特殊インベントリに収納すれば、取り込んだ状態で生かしたままで保有可能です】
これはありがたいけど、最終的に砂抜きをしないといけないのは変わらないな。
貝を食う為には仕方のない作業とはいえ、まさかダンジョンで手に入れた貝類の塩抜きをする羽目になろうとは……。
「それはさておき、ここで潮干狩りをしないっていう選択肢はないよな」
馬鹿でかいステンレスのバケツや大きめの熊手を特殊インベントリから取り出し、砂浜でほんの少し砂をかきだしてみた。
そうすると馬鹿でかいダンジョンハマグリやダンジョンアサリがゴロゴロと熊手の両端から転がり落ちる。いや、想像以上だしこんな熊手じゃ埒が明かない!!
ふっ。こんな事も予測して、ちゃ~んと秘密兵器を手に入れて来たぜ!!
「じゃっじゃ~ん。中型の籠型熊手~。これで効率は数十倍だ」
この手の籠は禁止されてる所もあるからな。
理由は取れすぎるからなんだけけど、取りすぎると資源が枯渇する地上と違ってダンジョン内は資源が減るって事が無いからね。
これだけ膨大な食料を誰のために用意しているのかって疑問は残るけど……。
「とりあえず今度のキャンプで食う分には十分すぎる量の魚介類が採れた。流石にこれ以上無駄な時間を費やすわけにはいかないぜ」
無駄な時間というか、ダンジョン協会に九階以降で手に入る食糧の報告に必要な資料なんだけどな。
ここから海エリアになった場合、最下層はかなり深い海が用意されてる可能性がある。
水無効の魔法を使えば水中でも呼吸できるし水圧も平気だけどさ、やっぱり動きが悪くなるから飛行魔法と併用しないとほとんど役に立たないんだよな。
そうすると緑魔法が必要な訳で、海エリアが割と放置されてる事が多い現実にはそれなりの理由があるって事だね。
「さて、このまま地下十四階と地下十五階も探索するか」
他のダンジョンの編成傾向から考えても、十五階まで海エリアが続くのは間違いない。
一度海エリアが始まると、最下層まで海エリアってパターンは意外に多いんだよね。
ただ、やっぱり海エリアは攻略が難しくて、最下層にいるダンジョンボスを倒したなんて話は全然聞かない。
空を飛ぶドラゴンも退治しにくいけど、深海に潜る魔物も退治しにくいからね……。
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