第六十七話 単独で先行攻略、牧場型ダンジョン その二
何度も言うようだけど、牧場型ダンジョンは本当に夢の様な場所だ。
正直な話、ダンジョン使用料の百万なんて、地下二階で少し頑張ればすぐに取り戻せるぞ。
二階はのどかな牧場とがメインだけど、いい感じな川と湖も何ヶ所か存在してる。
貰った資料通りの場所にダンジョン内で自生する果物や野菜はあるし、平地なのに何故か山菜まであるんだぜ。
はっきり言ってこの地下二階だけでも採集で一日過ごす自信があるぞ。
一応キャンプの下見も兼ねてるから向こうに設置されてるキャンプ場もチェックしたけど、テントの設営場所や排水先も含めて完璧な条件が揃っていた。
流石はダンジョン使用料百万もする場所にあるキャンプ場、キャンプ設備だけでも十分に金がとれる内容だ。誰も使ってなかったけどさ……。
「急いで七階に向かわないといけないから程々だけど、これだけでも十分な収穫だぞ」
ダンジョン白菜やダンジョンキャベツ。他にはダンジョン玉ねぎとかダンジョンニラとかね。
このダンジョンには水連は生えてないので、安心してニラの収穫が出来る。
「ダンジョン水連はマジでシャレにならないらしからな。生えてるダンジョンではダンジョンニラの収穫まで禁止されてるし」
元々毒性がヤバいけどダンジョン産は更にパワーアップしてるって話だし、過去に結構な犠牲者が出てるって聞いてるからね。
調べられてないダンジョンで採集するのが危険なのはこの辺りが理由で、高性能な鑑定機能付きのアプリを入れていれば新種であってもある程度は毒のあるなしを判定してくれるって話だ。
後は高レベルな鑑定スキル持ちな冒険者?
キノコ類とかも結構気を使うって話も聞いてる。
「次は地下三階か……。羊をどうするかな」
羊毛も意外に人気なんだよね……。
羊が生息するダンジョンで微妙に毛の質が違うらしくって、この牧場型ダンジョンの羊毛はそこまで人気じゃないって話だ。
ここは基本的にダンジョン肉が有名なダンジョンだしな。
「とりあえずここはパス。地下九階以降を探索して、時間があればこの辺りの食材も回収するか」
地下八階のドラゴン肉も貴重だけど、地下九階より下に何があるのかが重要だしな。
誰も立ち入った事のないエリアだし、情報もだけでもかなりの額が期待できるぞ。
◇◇◇
「全力で上空を飛んで地下五階まで一気に降りて来た。飛行魔法を覚えていると、鉱山型のダンジョン以外はこれで攻略可能なんだよな」
普通の冒険者がこれをやると魔物に囲まれてえらい事になるけど、俺の場合魔物の方が逃げていくからね。
ダンジョン鴨とかも飛んでるけど、あいつは機会を見て狩ってやろうと思う。
アレで作る北京ダックは絶品に違いない。
「漆黒の毛に覆われた影豚。暗い所に隠れられるとホントに見つけにくいって聞いてたけど、アレ見つけるの苦労するよな」
気配察知で調べた結果だけど地下五階では二パーティが活動中で、一生懸命影豚を探して狩り続けてるみたいだ。
影豚はダンジョン豚じゃなくて魔物なので倒した十秒以内にダンジョンリング内に収納すれば、本体分の肉とドロップした分の肉で二度おいしいんだよな。
ダンジョンミートなんかの企業に買取して貰える肉は、基本的にこのドロップした方の肉だ。
どの部位をドロップするかどうかは賭けだけど、苦労して解体した魔物の肉よりドロップした肉の方が品質が高い事が多い。それと、影豚は豚にしては割と生えてる毛が長くて、その毛皮も高品質で肉以上に高値で売れる事も多いとか。
当然その毛皮も運が良ければドロップするぞ。
他の魔物と違ってかなりドロップがおいしいから、影豚を専門で狩る冒険者も意外に多いって話だね。
「お、あれ菅笠侍じゃないか?」
「お~い!! 情報と肉やるから支援頼めるか?」
「情報と肉か。了解、その辺りに神域張ってやるよ」
「神域か!! マジ助かる」
「ホント、持つべきは気前のいい高レベルな冒険者だよな」
神域は生命力と魔力を回復させるし、十二時間ほど持続するからね。
こんなダンジョン使用料が高額な場所だと助かるだろうよ。
で、情報と肉か……。
「上でも聞いてるかもしれないけど、竜狩人が赤火竜退治に向かってる。俺達もここですれ違ったんだが、あいつら多分失敗するぞ」
「……見てわかるレベルだったのか?」
「装備がな……。竜狩人のスキルは強力だろうが、少なくとももう数ランク上の武器じゃないと強化種のドラゴンの鱗は裂けねぇよ」
「俺もレッサードラゴンをいくつかのパーティで倒した事があるんだが、その時でももう少しマシな装備だったぜ。あんたのその太刀とまではいわないが、戦う相手に合った武器は必要だろ?」
俺が打つ武器はそりゃ強力だけど、姫華 さんたちに渡した武器と同レベルの武器があれば強化種のドラゴンでも楽勝だろう。
依理耶先輩に渡したシールドがあればドラゴンブレスも無効化できるし、大剣を魔道展開させて刃を飛ばせば翼を簡単に斬り落とせるしね。
強力な武器があれば覚醒していない冒険者でも確かに強化種のドラゴンを倒す事が出来る。
しかし、そんな強力な武器を打てる人間なんて俺以外に居ないしな。
「……マジで次元が違う太刀だな。しかも魔道展開式か!!」
「そのレベルで魔道展開の武器を作れる奴が居るんだな。おそらく億を軽く超えるぞ」
「俺達には手が届かねぇ武器か……。まあいい、例の竜狩人は……、大体このクラスの武器だった。流石に耐久力はまだあったみたいだけど」
男はダンジョンリングから古びた武器を取り出した。悪くない武器だけど、流石に耐久力がギリギリでもう何度か魔物を斬ればぱっきり割れた事だろう。
ああ、昔使ってた武器をそのまま記念としてダンジョンリングに残してる冒険者も多いんだよね。
特に男性冒険者に多いって聞く。
女性冒険者の多くは容赦なく捨てるそうだ……。ダンジョンリングのインベントリも制限があるし、その気持ちも分かるけどさ。
「ちょっと拝借……。悪くは無いけど、これで赤火竜退治とかぞっとするな。赤火竜を相手にするには、最低でも神銀か何かで打ち直した方がいいレベルだ」
「流石だな。これは数年前まで使ってた俺の愛用の武器なんだ。いい剣だったんだが、流石にこれで赤火竜討伐なんて御免被るぜ。いつか直してやろうと思ってとってるんだが、打ち直す金が無くて代わりにこれを使ってるのさ。愛着のある武器ってなかなか手放せないだろ?」
「分かる気がする。何か思い入れがあるのか?」
「俺達は以前トレインの奴に嵌められた事があってな。こいつが最後の最後まで折れないでいたおかげで、仲間を死なせずに済んだのさ」
へぇ……、トレインは割と確実に獲物を追い詰めるって聞いたけど、あいつが引き連れて来た魔物を全部倒したのか。
こんな浅い階で影豚なんて狩ってるからそこまで強くないと勘違いしてたけど、結構な熟練冒険者だった訳だ。
「その時にこいつの嫁さんが大怪我をしてな。影豚狩って、その肉と毛皮の売り上げで奇跡の再生を頼もうって事なのさ」
「ちょ!! そこまでばらすなよ」
「今日は連れて来ていないのか?」
「今は家でこいつとこさえた子供の面倒を見てるよ。だが、怪我のせいでいろいろ苦労させちまってるんでな」
どこに怪我をしてるのか知らないけど、怪我をしてるのに子育ては大変だよな。
今日一緒に来てたら俺が治してやったんだけどね。
「もうすぐ貯まりそうなのか?」
「ここに神域を張ってくれたおかげで何とか稼げそうだ。感謝するぜ」
今使っている武器も悪くは無いが、以前使っていた武器の方がグレードは上だな。
この剣に刻まれた無数の細かい傷跡。こいつの言ってる事は嘘じゃなさそうだし、この剣もこいつの為にまだまだ働きたそうに見える。
流石に耐久値がギリギリで、これ以上無理をさせると折れるだろうが……。
しょうがねぇな、滅多にやらない事だけどほんの少しだけよくしてやるか。
「この剣、打ち直してやろうか?」
「え? あんたそんな事もできるのか?」
「この太刀を打ったのは俺なのさ。新規で打つ事もできるし、打ち直して強化もお手の物だ」
さて、流石に神銀での強化はやりすぎだ。
となると使うのは魔銀と魔物の素材だな。割とどの魔物にも有効なギガントミノタウルスの角辺りを強化素材で使うか。
「鍛冶フィールド展開。材料投下、……融合、精錬、……仕上げ」
「はええ!! あんな速さで剣を打ち直せるのか?」
「鍛冶レベルが相当高くないと出来ない芸当だ。……ギガントミノタウルスの角って!! そんなレベルの素材を使って貰えるのか!!」
ギガントミノタウルスの角はもう一万本以上あるしな。
無限インベントリとはいえ、ダダ余りしてる素材は遠慮なく使えるのがいい。
魔銀も試しに作ったインゴットが山ほどある。
俺や知り合いの武器にはすでに神銀か神白金しか使わないから、魔銀ももう使う事なんてほとんどないんだよね。
「完成!! 武器レベルは五程度だけど、十分な切れ味と耐久力がある筈だ」
「いや、武器レベル五程度ってのが既におかしいぜ。武器レベル五の武器なんて俺の有り金全部はたいても買えやしねえぞ」
「攻撃力に補正は無いが、この武器だったら赤火竜の鱗も斬り割けそうだな。いいのか? この武器の価値は分かるが、タダで受け取れる武器じゃないぞ」
「こいつで稼いで、はやいとこ嫁さんを治してやりな。滅多にしない事なんで、他言は無用で頼むぜ」
その剣があれば影豚狩りなんて余裕だろう。
影豚相手じゃ耐久力もほとんど減らないし、千匹以上狩っても刃こぼれひとつしないだろう。
「ありがてぇ、マジ感謝する。ここまでして貰って言いにくいんだが、……影豚じゃなくてダンジョン鴨の肉しかお礼に出せないんだ」
「ダンジョン鴨はダンジョンミートみたいな企業の買取対象外の食材だからな。で、どのくらいある?」
「十羽だ。こいつの弓の腕がいいから状態は良いし、内臓はちゃんと抜いてあるぞ」
「いい状態のダンジョン鴨だ。これを十羽だったら十分だよ」
「マジか……。こいつの剣の刃先の価値にも足りない気がするが」
「物の価値なんて人それぞれさ。俺は急いで地下八階に向かうから、もし例の竜狩人が戻ってきたら声位はかけてやってくれ」
「下手な慰めはあいつらを貶めるだけじゃないか?」
「生きてりゃそのうち再戦の機会位あるさ」
その竜狩人のパーティが覚醒してない状態だったら流石に笑うけどな。
武器が本当にこの冒険者の言ってるような状態で、覚醒もせずに強化種のドラゴンを倒せるとか考えてるお花畑な脳味噌をしてないと思いたい。
竜狩人だってレアクラスで、かなり強力なクラスなんだから。
「それじゃあな」
「ああ。この剣、大切に使わせて貰うぜ」
「丈夫に作ったつもりだけど、刃が欠ける前に手入れくらいしてくれよ」
「もちろんだ。本当に感謝する」
軽く手を振って別れたけど、この件はこれでおしまいだ。
俺の名もそうだけど、この冒険者も自分の名を名乗ろうとはしなかった。
ダンジョンで他の冒険者に支援して貰った時に名乗ろうとしたりメッセージコールを教えようとする冒険者もいるんだけど、本来はこの冒険者みたいに相手の名を聞かない自分も名乗らないが正しい対応なんだよね。
感謝はするし最低限の礼はする。命がけのダンジョン内でのやり取りなんてそれで十分なんだ。
ダンジョン内で勝手に支援した上に相手の名前を聞いて、後になって色々要求する馬鹿もいるけど、本来は支援ヒール系の行動なんて無報酬が当たり前なのさ。
この点だけでもこの冒険者たちが全員一流だってわかる。
俺との会話中に仲間の名前を一回も口にしなかったし、おそらく普段からそう心がけてるんだろうね。
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