第六十五話 赤火竜に挑む者たち
サイド冒険者竜狩人。
冒険者のクラスには色々ある。
下位クラスの剣士や盗賊なんかを引くと三色持ちでも詰むって話も聞いた事はあるが、クラスで手に入るスキルや魔法に馬鹿みたいな格差があるのは世の不条理として全冒険者に認識されていることだろう。
ただ、運よく上位クラスを引いた俺みたいな人間でも、流石に与えられたスキルを持て余す事も割とあるんだよな。
竜狩人。
俺が引いたドラゴン退治専用の様なクラスもその一つだが、そもそもドラゴンなんて冒険者が生涯で一回戦闘すればいいってレベルの魔物で、あの強力な魔物と何度も戦いたいってやつは相当に頭がおかしいに決まっている。
竜狩人のレベルを最高の五まで上げれば様々な恩恵がある。食らえば即死と評判のドラゴンブレスを無効化する防御スキルや、ドラゴンに対して攻撃力五十倍なんて言う馬鹿げた力も手に入ったりするしな。
だから俺はあんな夢……、クラスだけじゃなく称号としての竜討伐者を手にしたいと思っちまったんだ……。
◇◇◇
「しっかし、ダンジョン利用料百万は流石にぼったくりだよな!!」
「このダンジョンを利用する他の冒険者の目的は各階で手に入るダンジョン肉だもん。ダンジョン利用料百万でも安い方だよ。むしろ良心的?」
「特に地下六階で出るレッドチャージブルの肉は特に高価だからね~。このダンジョンで寝泊まりして、数日がんばったら家が買えるよ」
「後は七階に出る大鶏かな。肉ももちろん評判良いけど、偶にドロップする卵を一定量確保できればどこでも高値で売れるしね~」
大鶏の卵。
卵としての価値が高いそうで、料理や菓子の材料として需要がが高すぎて供給が追い付いていないのが現実だ。
もう少し上の階で手に入ればもう少し出回るんだろうが、地下七階まで下りなければいけないのが入手困難な一番の原因だろう。
そこまで潜る位だったら普通は六階でレッドチャージブルの肉を狙うし、四階や五階で手に入るダンジョン汽水湖産のウナギやスッポンもかなり高額で売れる。
ただ、ウナギなどを手に入れるんだったら罠が必要だがな。
「本当は地下十五階まであって潜れるって噂のこのダンジョンが、実質八階までと言われている最大の理由。それがこの先にいるあいつ原因なんだよね?」
「ああ。地下八階の番人にして割と珍しい中間階層ボス。赤火竜」
「今まで千人近く挑戦して誰一人討伐できなかった強化種のドラゴン。倒せたら地下十五階までのダンジョン肉を狩りたい放題だよ~」
ダンジョン肉で言えば赤火竜の肉の方が圧倒的に高価だがな。
地下八階はその階そのものが赤火竜の狩場となっており、冒険者が攻撃を躱したり身を隠す岩場が本当に少しあるだけで、後は赤火竜の餌であるダンジョン鹿などが定期的に姿を現すだけだと聞いている。
赤火竜は上空を飛んでいる事が多く、どうやってそこから叩き落すかが勝負の分かれ目だとか。
「わたしたちが全力で石刃の竜巻を使ってドラゴンの翼を破壊。その後は霧臣が竜狩人で真っ二つにして終了って感じ?」
「上手くいけばな。三人全員黄持ちな俺達のパーティならではな作戦だ。もう少し威力を落としてロックブラストって手段もあるとは思うが」
石刃の竜巻は範囲魔法なんでドラゴンが逃げても多少はダメージが入る。
ロックブラストの場合は飛ばす石の飛礫の数が多くても、躱されたら終わりだからな。
どの魔法も魔力の消費がデカいから仕掛けられるのは一度が限界だ。
「でも、確実に竜種がいるダンジョンってここが一番狙いやすいんだよね?」
「有名な東京の高難易度ダンジョンの最下層にもドラゴンはいるが、アレは古龍でしかもレイド型って聞いている。単独パーティで挑むなんて自殺行為だ」
「古龍種の討伐条件って、参加メンバーが全員覚醒してる事だっけ? ステータスの限界を超えて覚醒状態なんてよっぽど運がよくないと無理だよね?」
「覚醒にはステータスポイントが最大で二千八百必要だからな。実際にはもう少しだけ少なくてもいいみたいだが、三色持ちがどう頑張っても辿り着ける数値じゃない」
ステータスボーナス二千八百なんて三色持ちだとずっと六を出し続けてもまず辿り着けない、だから最低でも一度はレベルリセットをして上げなおす必要がある。
そこまで経験値を稼ぐのにどれだけ時間が必要になることか……。
「ここの赤火竜も強化種だよね? 何とかなるの?」
「俺のスキルでドラゴンブレスだけは無効化出来る。これはパーティ全員に有効だから、かなり有利な条件なのさ」
「食らえばまず即死のドラゴンブレスを警戒しないでいいのはかなり有利だね」
竜狩人最大の利点というか、ドラゴン種と戦うんだったら最低でも炎無効を全員にかけておくのが条件なんて言われているからな。
それでもドラゴンブレスを一回でも喰らえば炎無効は効果を失うし、あまり長時間受け続ければ一回目のドラゴンブレスでそのまま焼き殺される事になる。
魔物の頂点に君臨する竜種って連中はそんなバカげた奴らばかりなんだ。
だからこの竜狩人ってクラスは、上級職一の死にクラスなんて言われているし、方々でハズレ上位クラスなんて陰口を叩かれるんだよな。
俺だって好きでこんなクラスを引いた訳じゃないぞ。
実際には竜種だけじゃなくて、リザードマンや大蛇系の魔物に有効なスキルも多いんだが……。
「よし、無事に辿り着いた。この移動用ポーターを使えば赤火竜との決戦だが、覚悟は良いか?」
「ここまで他の魔物やダンジョン内の動物を狩らずに来れたから力を温存できたのは大きいよね」
「赤火竜を倒せたらドラゴンスレイヤーの称号と、今後隣のポーターを使って地下八階をスキップして地下十五階まで利用できるようになる。ただし、地下十五階にはダンジョンボスがお待ちかねだろうけどな」
地下七階から地下八階に移動する為のこの場所は、まるで最下層にあるボス部屋前の待機室の様に地下一階までの直通の移動用ポーターと地下八階に移動するポーターがあり、さらにもう一つ地下九階に移動出来るポーターまで用意されている。
この地下九階に移動するポーターを利用するには赤火竜を倒して利用する為の資格を手に入れなければならないがな。
今まで誰一人として手に入れられなかったその称号と資格、今日俺達がこの手に掴ませて貰うぞ。
「よし、莉緒、佐緒理、千鳥。行くぞ!!」
「了解!!」
「頑張ります」
「き……緊張してきました」
「俺達は勝てる!! なんてったって、全員レベル四十台なんだからな」
レベル四十台まで辿り着く冒険者の数は意外に少ない。
多くの冒険者はレベル三十台から急激に増える経験値の量に絶望し、レベルアップを諦めるからだ。
俺達は地道な経験値稼ぎを続け、何とか全員レベル四十まで上げたんだからな。レベル十分の差はデカいぜ。
「突入!!」
地下八階へ俺達を導く移動用ポーターが作動し、そして俺達は殆ど身を隠す場所すらない地獄の地下八階へと身を投じた。
◇◇◇
戦闘開始からわずか十分。俺達は早くも窮地に立たされている。
ドラゴンブレスを封じただけで強化種のドラゴンと互角に戦えると思っていた俺の読みが甘々だったんだが、奴が繰り出してくる攻撃は忌々しい事に灼熱のブレスだけじゃなかった。
「まずいわ。あんな攻撃を何度も躱せないわよ」
「まさかダンジョンの天井を破壊して岩の雨を降らせて来るとはな……。石刃の竜巻も読まれていた。高い金を出して手に入れた武器もこの有様だ」
サイクロプスの角を使った竜退治に効果の高い俺の大剣。
手入れは行き届いていたしまだまだ耐久力はあった筈なのに最初の一撃で無残にひび割れ、そして二度目の攻撃で刀身が粉々に砕け散った。
まさか強化種の竜の鱗があそこまで硬いとは思いもしなかったぜ。
そのうえ石刃の竜巻で翼を破壊する作戦まで完全に読まれていた。
僅かにかすった石刃の竜巻では翼を破壊する事などできず、僅かなダメージすら与える事は出来なかったほどだ。
「過去に同じ戦法で挑んだ冒険者がいたのかもしれないわね。で、どうするの?」
「悔しいが撤退するしかないか……。緊急離脱用の移動用ポーターは使用可能か?」
「七階に戻るポーターは使用可能ね。ここが最下層じゃなくて助かったわ」
ダンジョンボス専用の部屋には戦闘開始から一定時間が経たないと離脱できない仕組みの部屋や、最悪な事に撤退不可能な部屋まで存在する。
そのタイプのボス部屋は足を踏み入れたが最後、栄光を掴むかそれとも死かの二択らしいが、ここは俺達が逃げる事を認めてくれてるようで何よりだ。
「ただ、七階に戻るポーターを利用するには、あの何もない岩の広場を駆け抜ける必要があるわ」
「しかも、あの赤火竜の攻撃をかわしてね」
「今ならまだ生命力も十分ある。悔しいがあの赤火竜は俺達の手に負える魔物じゃなかった」
俺が竜狩人で強化した魔法ですらほぼ無傷。
というよりも、強化してあの結果だったらどうやってダメージを与えるのかって話だよな。
莉緒達三人が放った強化されていない石刃の竜巻も幾らかかすりはしたが、欠片もダメージを与えていなかったくらいだ。
「全力で走ればなんとか間に合う?」
「全員に祝福を掛けます」
「俺も全員に加速をかける。これで速度は二倍だし、一気に駆け抜けりゃ何とかなるだろ」
「ありがとう。それじゃあ、一気に駆け抜けましょう」
この小さな岩場から移動用ポーターまでの距離は約百メートル。
世界記録を遥かに超える速度で走れるから、僅かに六秒から七秒程度攻撃を受けなければ何とかなるんだ!!
「それじゃあ行くぞ。さん……、に……、いち……。全員走れ!!」
「っ!!」
「お願い!!」
走った。全力で走った。生まれてこの方ここまで真剣に走った事なんておそらくなかっただろう。
硬い岩の地面を踏みしめ、目の前に存在する七階へ繋がる移動用ポーターめがけて全力で駆け抜ける。
俺はパーティのリーダーとして一番最後に走り出し、全員が移動用ポーターに飛び込んだ後であそこに飛び込むつもりだ。
いや、つもりだった……。
「よけろ莉緒!!」
「え? きゃぁぁぁっ!!」
「佐緒理、千鳥まで……」
走り出すまで赤火竜が攻撃を仕掛けてこなかったので俺たちは逃げきれると思っていた訳だが、赤火竜の奴は最初っから俺達を逃がす気なんてなかった訳だ。
闇魔法じゃないが、竜種にも独自の系統の魔法が存在するとは聞いた事があった。
まさか強化種の赤火竜が使って来るとは思ってもいなかったが、やつに言わせれば俺達はその魔法を使うまでもない相手だったんだろう。
そして、最後の最後に莉緒達を嬲り殺す為だけにその魔法を使いやがった……。
「莉緒……、佐緒理、千鳥、せめて遺体だけでも……」
赤火竜が使ったのは強力な斬撃魔法。
莉緒達は全員腰から真っ二つにされ、その一撃であっけなく三人は生命力を使い果たした。
俺は三人の上半身だけ移動用ポーターに投げ込み、なんとそれだけは取り戻す事に成功する。下半身は……、諦めるしかない。
「あざ笑ってやがる……。俺を無傷で生かして帰すつもりか……」
千鳥を殺した後、赤火竜は攻撃をしてくる事もなく楽しそうに俺の顔を眺めている。
格下の俺の生死になど興味が無いんだろう、仲間を失った俺が尻尾をまいて逃げ出すのを鼻で笑いながら見続けていやがった。
奴がその気になれば一撃で俺を殺せるはずなのに……。
「ちくしょう!!」
斬撃魔法の直撃を受けて損傷の激しい三人の下半身は流石に回収できなかった。
もし俺が奇跡の再生を使えたとしても、この状態では三人を生き返らせる事すらできない。
あの赤火竜は、そんな事もお見通しなのかもしれないな。
自分の命以外のすべてを失った俺は、完全に打ちのめされまま移動用ポーターに飛び込んだ。
いっそこのまま赤火竜に殺されていた方が、格好がついたかもしれないってのによ……。
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