第六十四話 ダンジョン用キャンプ道具購入
ダンジョン用のキャンプ道具は高い。普通のキャンプ道具も結構高い気がするんだけど、ダンジョン用になると下手をすると桁がふたつ位上がる事も珍しくないって話だ。
原因はダンジョンに吸収されないように素材に結構な量の魔石が使用されてるからなんだけど、大きくなればなるほど魔石の使用量が増える訳で、一定以上のサイズになるとキロ単位で割と高純度な魔石が必要になる為に値段が跳ね上がるって仕組みなんだとか。
「基本的にダンジョン内のキャンプ場にコテージは無いし、大型のテントが必要になるのは当然なんだよな。あの牧場型ダンジョンの一階にはコテージがあるけどさ」
コテージの使用料は確か一泊二百万円だったか?
ダンジョン内ホテルどころじゃない額を取られるんですけど!! 普通のダンジョンでも一階に宿泊設備を用意してるとこをもあるけどさ~、そこでも大体一泊数万だよ?
ゲームとかで魔王城近くにあるのになぜか普通に存在する村の宿泊料金じゃないんだからさ。あの手の値段も馬鹿高いけど……。
さて、今回牧場型ダンジョンキャンプに誘ってるのは、桜輝さんと生徒会パーティ四名。それと今回は虎宮達のパーティ三人も呼んであったりする。
小谷野は虎宮のパーティを追い出されたから今回は誘ってないし、あいつが居るといろいろとややこしくなりそうなんで、正直パーティから抜けてくれてて安心した位だ。
そこまで悪い奴じゃないんだけど、トラブルメーカー気質でいつも何かしら問題を起こしてくれるからな。
普通の時にはそれを含めて楽しめるけど、命がけのダンジョン内でアレをやられると割と面倒だしね……。
「女性用と男性用のテントを分けるのは当然として、女性用のテントを複数用意するかどうかか」
姫華さんたち生徒会パーティにテントをひとつ、玲奈と紫峰田さんと桜輝さんでテントをひとつって感じで……。
魔物対策は俺がいれば問題ないけど、キャンプ場に神域を展開するつもりだからあそこにいる魔物程度だとテントに近付けなくなる筈なんだよね。
異常に持続される能力を考慮に入れた普通は絶対にやらないというか、普通の冒険者には出来ないセーフティゾーン確保。
生命力と魔力の回復効果付きだぜ。
「それはさておき、テントだよな……。ダンジョンキャンプ用テント、二百万……。このサイズで二百万するのか」
標準サイズというか、ホームセンター辺りで数万円で売られてる大きさのテントに二百万って値札がつけられてる。
高額になった理由なんだけど、やっぱり大量に使われている魔石が原因らしい。このテントの使い心地は少し悪そうだね。
「錬金スキルとか使えば自分でテントくらい作れそうだけど、経済を回すのも大切だしな。稼いでるんだからこういう時は使わないと駄目だろう」
武器やアクセサリなんかに関しては自作してるし、防具に至っては装備すらしていない。経済を回すってのは稼いでいる人間の義務みたいなものだし、俺だって稼いだ金を見て笑ってる趣味は無いから。金は食えないしな。
戦闘面での話だけど、今まで戦った敵で俺に攻撃を当てられた魔物がレッサーゴブリンだけってのが笑えるしね。誰もレベル一の時は弱いもんだ。
それはさておき、ウサギ用に毎日に近い位購入してる果物類とかで色々散在してるけど、稼いでる額に比べたら微々たるものだしね。
しかも俺は特殊インベントリ内にある財宝を殆ど売りもしていない状態だぞ。
アレの半分でも売れれば、何兆円に化けるか分からない。
「そう考えるとこの辺りを揃えるのは間違いじゃない気がするな。冒険者がダンジョン内でキャンプをする時はもう少し雑なテントで寝るらしいけど」
深いダンジョンってのはいくつもあるし解放されているダンジョンには一日で攻略できないダンジョンの方が多い、だから冒険者をしているとダンジョン内で休みながら攻略する機会なんてのは当然ある。
そういう装備はここよりより実用的なコーナーに展示されてるんだけど、流石にあれはバカンスで使う気にはならないんだよね。
実用的なテントの多くは魔物に見つかりにくいようにボロボロの布で偽装されてるし、魔物除けの香とかが焚けるようになっている。
神域とまではいわないけど、簡易的な結界を発生させたりとにかく魔物に襲われないように何重にもいろんな機能が搭載されてるって感じだ。
で、そのものすっごい使い心地の悪そうなボロボロなデザインのテントが、軽~く一千万円位する訳なのさ。
いくら冒険者用とはいえ、足元を見過ぎだろう。
「ダンジョン用のテントをお探しですか?」
「ん? はい、出来るだけ快適で見栄えが良くて大きめなのを三つくらい欲しいんですけど」
「三つもですか? 失礼ですが、ご予算の方は……」
ああ、流石に学生冒険者に買える額じゃないって事くらいは分かってるよ。
この店員が話しかけて来た理由は、接客よりも盗難防止なんだろうしな。
「テントの外に簡易型のコンロとかいろいろ揃えて五千万くらいまでに収まれば~って感じですね。現金もありますし、この位の魔宝石を幾つも持ってますよ」
ちょっと大きめな拳大のエメラルドの魔宝石を見せてみる。
ダイヤじゃないから価値は低いけど、これでも軽く億位はするからさ。
特殊インベントリ内にはまだ換金してないこのクラスのお宝がごろごろしてるぞ。ホント幾らでもね……。
この手の店はこういったダンジョンからドロップ品の買い取りもしてくれるから、現金が無い時はこれで支払う事も可能だ。
「っ!! 大変失礼しました!! まさかその年齢で一流冒険者様だとは思いませんでした」
「五千万円くらいですとすぐに現金で用意できますので。なんかこう……、いい感じのテントとか教えて貰えますか」
「わかりました。どちらのダンジョンでご使用ですか?」
「ああ、隣の県の牧場型ダンジョンですよ」
「あそこですか。あのダンジョンですといろいろと設備が揃っていますが、この辺りのテントですとコテージと比べても遜色がないレベルです」
こいつ、一階にある貸し出し用コテージの話を切り出そうとして辞めたな。
アレを借りたら確かに話は早いだけど、俺達が泊まるのは二階だしね。
一日中そこそこ明るくて武骨で情緒の無い地下一階より、割と自然を満喫できる地下二階の方がキャンプには向いてるから。
しかもあのダンジョンは昼と夜時間が存在して午後七時を超えると少しずつ暗くなるし、その気になると花火とかも楽しめるって話だ。
その時はダンジョン用の特殊な花火を使わなきゃいけないけどさ……。
そんな事より勧められたテントだけど、これはテントというより携帯型簡易コテージって感じだね。
魔道展開型の武器と同じ様な技術で組み上げられた簡易コテージで、地面に置いて魔力を注ぐと十畳くらいの小屋が出来上がるって仕組みだ。
割と丈夫だけど流石に重く、ダンジョンリングでも使わない限り持ち運びは難しいんだよね。
その辺りの恩恵を使える冒険者を狙い撃ちにしたような商品だ。
「これを三つとなると、四千万円近いですよね?」
「丈夫でそう簡単には壊れませんので、普通のテントを買うより長い目を見ればお得ですよ」
「床が丈夫だから小型ベッドも使えますし、確かに快適でしょうけど……」
俺がいるし神域を展開してるから魔物対策は必要ない。
やはりここは快適なこれを買うのが正解なのか?
少し高いけど、この店員の言う通りに長い目で見れば十分に元は取れる。
「これを三つ用意できますか?」
「はい!! すぐに用意いたします」
「それと、調理用の器具なんですけどバーベキューコンロじゃない普通のキャンプ用携帯型コンロで、そこそこ火力あのあるタイプが欲しいんですけど」
「その条件ですと魔道家電の携帯コンロしかないですね。どっちにしてもダンジョン内ですとガス式のカセットコンロタイプは作動しませんし」
魔素が濃いから普通の家電が動く訳が無いんだよね。
代わりに魔道家電の場合、エネルギーになる魔石を差し込まないでもダンジョン内の魔素を使って作動するらしい。
いろいろお得だな。
「それじゃあそのコンロと、いい感じのランタンとかあります?」
「お客さん分かっていますね~。ただ明るいだけの照明機器は幾らでもありますが、キャンプに相応しい物は意外に少ないんですよ。……この辺りを幾つか用意するのがいいと思います」
「キャンプをしてるって雰囲気が出てるいいデザインですね。明るさも十段階で調整可能で、ダンジョン内の魔素だけで作動するタイプですか」
「いざって時は魔力を使ってエネルギーの補充が可能です。一時間で一程度しか使用しませんし」
一度に百まで充填可能なのか。
最初にフル充電しとけばいいな。そうすりゃ百時間使えるっぽいし……。
「後必要なのは椅子やテーブルですか?」
「安定性が良くて座り心地の良い椅子ですとこの辺りで、テーブルはサイズ次第ですね」
「食事用は大きいのが欲しいけど、それとは別にくつろぐ用にも手頃のサイズのテーブルがいくつか欲しいかな?」
「そうなりますとこの辺りですね……」
小さ目なテーブルや椅子でも最低百万円……。
ダンジョン内のキャンプは本気で金持ちの趣味だな。
ダンジョン肉とかも超高級品だしね……。
「色々合わせると全部で八千万円ですか」
「魔石の買い取りも行っていますし、クレジットカードも使用可能ですよ」
「この位でしたら現金で払えますので……」
「流石は一流冒険者様ですね……」
「冒険者は運ですよ。鉱山型ダンジョンでも稼ごうと思えば稼げますし」
冒険者って高レベルになっても運が悪いと本当にギリギリの生活になるらしいしね。
魔石はそこそこ高いけど、魔物の素材が意外に安く買い叩かれるんだよね。
需要の高い素材はいつでも高値で売れるんだけど、あまり使用頻度の高くない素材はかなり希少な物でも安いって話だし……。
「わたしも元冒険者でしてね。育成学校には通わず大学時代にバイト代わりにしていた程度でしたが、五年間でドロップした一番高い物は魔石でしたよ」
「魔石は確定ドロップの事も多いですからね。安定して稼げますけど、かなり大きめの魔石でないと……」
「そこなんですよね。レベルもそこそこ上がってステータスもいい感じでしたのでこうして用心棒代わりに雇って貰えましたし、冒険者時代はいい思い出ですよ」
「元冒険者は何処でも引く手数多ですよね。レベル三十辺りからレベル上げもきつくなりますので、カンストしてる人は少なっぽいですが」
「色数次第ですね。私はこれでも三色持ちですので」
「それはすごいですね」
三色持ちなのに五年で冒険者を見限って就職したの?
確かに命のやり取りに嫌気がさして辞める人もいるって話だけどさ。
ただ、今の流れというか流行で言えば、三色持ちだと赤無しが条件で緑と金を追加して五色にしてからが本当の勝負なんだよな。
自力でかなり高純度なイエローダイヤの魔宝石を手に入れられれば、五色への道が簡単に開くんだけどね。その辺りも含めて本当に運だ。
「全部で八千三百二十五万円になります」
「えっと……、一千万円の札束が八つとこれが残りの三百二十五万円です」
「本当に現金で支払えるんですね。しかもこの札束、業界最大手のあそこの札束じゃないですか」
「ちゃんと全部本物ですよ。帯も含めましてね」
「この帯には細工がしてありますので、手を加えたらすぐに分かるんですよ。しかし、あそこを利用しているような冒険者って、本当に一流の一握りですよ」
信用第一じゃないけど、あのカイトリさんは状態の悪い物は突き返してくるって話だし、横暴な態度で持ち込むと簡単に出入り禁止にされるらしい。
大手ってのはそこを利用しているってだけでそれなりの信用になるそうで、三流の冒険者はやっぱりそれ相応の店で取引をしてるって話だ。
「会計が終わりましたらダンジョンリングに収納しますね」
「確認しましたのでいつでも大丈夫ですよ。またのご利用をお待ちしております」
「その時はお願いします」
ここは品揃えもいいし、大当たりだったな。
まさかこんなにいい携帯型簡易コテージが手に入るとは思ってもいなかった。
っていうか、こんな高額商品を三つも置いてるってのは異常だよな……。
とりあえずこれで準備は整った。
後は食料だけど、やっぱり事前に一回潜ってくるしかないよな。
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