第六十三話 資金調達。たまにはインベントリ内のお宝を売ってみようかな
今俺の資産というか持っている財宝。その殆どが特殊インベントリ内にダンジョンからドロップした金銀財宝や素材の形で存在している。
最初に換金したお金のうち残ってる三千二百万円は特殊インベントリ内に移動させてるけど、冒険者をしていると割と簡単に数千万円飛ぶ事があるって聞いて戦慄したんだよな。
今度行く牧場型ダンジョンのダンジョン使用料金が馬鹿高くて、一人当たり百万円必要になるって話も聞いた。
どうしてそこまで高いのかっていえば入手できるダンジョン肉とかの価値が高いってのがまず原因で、次に地下二階にキャンプ場を維持する為に結構金が掛かるのでこれだけ高額になるそうだ。
この値段が原因で牧場型ダンジョンを利用するのはもっぱら社会人冒険者で、学生冒険者でこれだけ高額なダンジョン使用料を払う者はほとんどいないって話だね。
学生冒険者の多くはダンジョン肉の様な高額ではあるが扱いにくいダンジョン産の商品には手を出さないようで、普通の金銀財宝を落とすダンジョンを好んで攻略するって話だ。
その普通の金銀財宝も手に入るダンジョンは少ないけど、鉱山型ダンジョンなんかもかなり高確率で魔宝石の原石とかを手に入れられれるからあんな額だった訳だね。
今度行く牧場型ダンジョンにはダンジョン内に流れる川や池もあるそうで、ダンジョン魚なんかも期待できる。
入口で百万円払えばダンジョン内でどんな方法で肉や魚なんかを手に入れても咎められる事は無いって話だね。
そのあたりがかなり緩いのは、多少壊しても簡単に再生するダンジョンの性質があればこそだけどさ……。
ダンジョン内でバーベキューをして使用済の炭とか食べ残しを放置しても、そのうちダンジョンに吸収分解されるってのが普通のキャンプ場とは大きく異なる点かな?
元々火災が発生しにくいし、ダンジョン内の魔素でその手の被害がかなり軽減されるって話だ。
気を付けないと置いてた荷物がダンジョンに吸収される事があるってのは、ダンジョンでキャンプする時に気を付けなきゃいけない点だね。
ダンジョンに吸収されにくい素材で作られたバッグやテントを使う事は常識って話だ。
商業ダンジョン内にある専門店で資金調達とこうしたキャンプ用品を揃える為に顔を出した訳だけど、今回売りに出すのは何処でも比較的換金しやすいダンジョン金だけにしたんだよな。しかも今回持ち込むのは金塊だ。
宝石類を売ってもいいけど、クリエイト系のスキルを使う時に宝石を使う事があるからあの辺りは材料として確保しときたいんだよね。
「やっぱり買い取りをお願いするとなるとここか~」
目の前にあるのはハマグリを咥えたアオサギの店。
ここはダンジョン産のアイテム類を買い取る店の中でも業界最大手の会社らしくて、数億までは対応してくれるからありがたいんだよな。
ネットで調べたら流石に即日で億を払ってくれるところは他ではないらしい。
若干査定額が渋いって書かれてるけど、ダンジョン協会の買取査定もかなり渋いからね。というか、一番買取査定が低いのがダンジョン協会だとまで言われている。
「金に関してはレートで価値が決まっているから何処で売っても同じだけど、そのあたりも色々あるんだよな」
ダンジョン産の金に偽装させて普通の純金を混ぜて売る奴もいるらしいけど、ダンジョン産の金に刻まれている特殊な刻印まではまねができないらしく、そのあたりを調べられるとすぐにバレるっぽい、
バレたら当然二度と取引はして貰えないし、あまりに悪質だった場合は運が良ければ警察に突き出され、運が悪いとそのままダンジョンの闇に消える事になるそうだ。
その辺りはあくまで噂で、ホントかウソかは知らないけどね。
「お久しぶりですね。今回も買い取りをお願いに来ました」
「いらっしゃい。……ちょうどひと月くらいかしら?」
「その位ですね。暇があったらもう少し早く持ってこれたんですが……」
「冒険者で忙しいなんて才能あるのね。普通は回復休暇とか言ってダンジョンで儲けた分をある程度使い潰すまでダンジョンに潜らない連中が多いのよ」
その話は聞いてるし、そうやって人生を謳歌してる人も嫌いじゃないよ。
ダンジョン探索はいつだって死と隣り合わせだし、ダンジョンで稼いだ金を溜め込んでいると命を落とした時にその金が全部使えなくて無駄になるからさ。
だからある程度残して豪遊する冒険者の割合は八割以上って言われてる位だしね。だからこの商業ダンジョンの周りや、高難易度ダンジョンの周りにはいろんなサービスを提供する店が多いって事だね。
「人それぞれですよ。今回換金して欲しいのは分かりやすいこれです」
「ダンジョン金、しかも綺麗な状態の塊……。この刻印を見る限り本物で間違いないわね。せこい連中はこの辺りを削ったりしてるんだけど、流石に貴方はそんな真似をしていないわね」
「高難易度ダンジョン産のダンジョン金塊ですからね。あのダンジョンはドラゴンのマークなんですね」
「この金塊には最下層にいるダンジョンボスを刻印してあるのよ。特殊な機械で調べたら偽物はすぐに弾かれるわ……」
刻印を調べる機械を被せたらすぐに本物って表示された。
偽物の場合、あそこに警告文と偽物って表示が出るらしい。
わざわざどこかから純度の低い金塊を入手してきて偽装するのも大変だろうに……。
「本物で間違いなくてよかったです。問題は買取可能な量なんですけど」
「ダンジョン金の今日の相場はグラム一万五千円ね。純金よりだいたい二割くらい高いの」
「グラム一万五千円でどのくらいまで買い取れます?」
「……どれだけあるの?」
「二トンくらいはあるかな? 結構ドロップしますよね、ダンジョン金」
「んな訳あるかぁぁぁぁぁぁぁっ!! 普通のダンジョンだと、この位の金貨一枚ドロップするのに下手すると数年かかるのよ!! 金塊だって持ち込まれるのは稀なんだから」
思わず素が出てますよ……。
そっか、あんな百グラムくらいの金貨一枚ドロップするのに数年かかるんだ~。
高難易度ダンジョンの十階から八階のボスクラス倒したら確実にドロップするんだと思ってた。
というか、最下層のダンジョンボスの宝物庫には確実にあると思うよ。
俺も今までドラゴン肉目当てで三回くらいあのドラゴン倒してるけど、毎回金塊は手に入ったし……。
「結構貴重だったんですね」
「そう言いながら、ダンジョンリングから馬鹿みたいに金塊出すのやめない?」
「ほんの一部ですよ。これで十キロくらいですかね?」
「二キロの金塊を五つだから間違いないわ。……信用されているのはうれしいけど、こんな物を見せたら最悪殺してでも奪おうなんて連中もいるわよ」
「俺を殺せる奴が居たら会わせて欲しいですね。ちょっと一勝負してみたいですし」
神域まで行ってて、しかも運優先でステ振った奴限定。
その条件でも最初から四色持ちで、緑と金を増やして二回レベルリセットしても俺のステータスに追いつくのは不可能だしな。
「そこまで言える冒険者ってある意味貴重よね……。どんなレベルよ」
「レベルだけでしたら……。カンスト済ですよ」
「カンストは強い冒険者の最低条件だしね。確かに強いんでしょうけど、油断しちゃダメよ」
「肝に銘じておきますよ。それで、どのくらいまで買取可能ですか?」
「今だったら二十キロまでは買取可能ね。即金で三億用意できるなんてうちくらいなのよ」
流石に業界最大手!!
まさか三億も換金できるとは思っても無かったよ。
それだけあればしばらく資金には困らない筈。
俺が打った武器を売れば最低でもその位の値で売れる事は理解してるけど、あんな物騒な武器を市場に流す訳にもいかないからね。
「それじゃあこれで二十キロですね」
「まるで羊羹か何かみたいにテーブルの上に並べるのはちょっと引くわ~。それひとつ千五百万円するのよ」
「金塊は食べられないじゃないですか~」
ドラゴン肉のサーロインなんかも、古龍の場合はグラム数千万とか言われてるしな。
今はその高価で貴重ないろんな部位がたっぷりと特殊インベントリ内に山積みになってるぜ。
「男の子らしい言葉よね……。でも、その歳でその感覚は貴重かも」
「金なんて稼げばいいですしね。というか、インベントリ内の財宝全部売ればいくらになるやら……」
「ある程度売った後で資産運用って手もあるわよ。手堅くいく方法もあるし、若いうちから始めるのも悪くないわ。そのままダンジョンリング内に塩漬けってのも悪くは無いんだけどね」
「今のところ間に合ってますね~。その辺りは難しそうじゃないですか」
「お金ってモノはね。そこにあるだけじゃ本当の価値は無いのよ」
「分かってるんですけどね、そのうち勉強してみますよ」
その辺りは実は俺もいろいろ悩んでる問題ではある。
財宝の状態で持っているのも間違いじゃないんだろうけど、いざって時に使いにくいんだよね……。
「恋人でも出来ればいろいろ考えも変わるわよ。その時は相談に乗ってもいいわよ」
「ありがとうございます」
恋人か……。
今度の牧場型ダンジョンキャンプで色々答えが出せたらいいなと思っているけど、玲奈が今の俺の事をどう思ってるかも分からないしな。
この前見た夢の一件。
雄三おじさんの自殺を阻止した一件で一時的に玲奈は心を閉ざしかけてたし、それが治った後は俺に異様に依存するようになってた。
俺は割とどうしていいか分からなかったから少しずつ距離を取るようになってたし、家の食事会でもあまり話をしなくなってたしな……。
冒険者になった後で一緒にパーティを組めてれば色々変わってた気がするんだけど、多分一緒にパーティを組んでたらまだ俺はここまで強くなれちゃいないだろう。
魔王を倒すって目標の為には俺の選択は間違ってなかった気はするんだけど、玲奈を守るって選択に対してはもう少しやりようはあった気はするんだよね。
……そのうち桜輝さんや、姫華さんたちの事も決着付けなきゃいけないしさ……。
「身持ちが堅いのは評価できるけど、そのくらいの歳の時はもう少し気軽に遊んでもいいのよ。何事も経験だしね」
「そのあたりも色々ありましてね……。それで、換金の方なんですけど」
「全部本物と判別できたからすぐに換金出来るわよ。ちょっと待っててもらえる?」
「あ、お手数をおかけします」
金塊二十キロが裏に運ばれ、すぐに頑丈そうな移動式テーブルに山積みされた札束が運び込まれてきた。
っていうか、そんな運び方なんだ。
「正真正銘、一千万円の束が三十。うちの信用にかけて一枚たりとも欠けていないわ」
「流石にそこは信用しますよ。偽札や不足なんて出したら信用問題ですしね。この程度の取引で失うには大きすぎる信用です」
「三億をこの程度って言える金銭感覚は凄いけど、おおむねその通りよ。うちくらいの規模になると、三億程度で信用を失う訳にはいかないわ」
この辺りが小さな怪しい企業と大企業の差だ。
流石にバイトや派遣社員にこの規模の取引をさせる事は無いだろうけど、信用できる人間を配置しなかったばかりに会社そのものを失う事も多い。
ダメダメな買い取り業者だとバレないと思って札束から数枚抜いたり、偽札が混ざった束を用意したりするらしいね。
すぐに発覚して倒産してすべてを失ってるけど、年にいくつもそんな話を聞くしな。
「今後もお世話になりますし、次回もまたお願いしますね」
「どのくらいの間隔で来店しそう? 事前に連絡を貰えれば、もう少し現金を用意出来るわよ」
「ん~。それじゃあ、メールアドレスとメッセージコールの登録をお願いします」
「助かるわ。大口のお客さんは大歓迎なんだけど、急に来られて億単位の取引は結構緊張するのよ」
「そんなものなんですね。ここは大手ですし割とあるのかと思いました」
「……億単位の取引なんて、普通は年に数度なのよ。何故か今後は増えそうな予感がするけど」
「暇な時に度々お願いします。金塊全部の買い取りだけでも大変だと思いますが」
「二トンあるとか言ってたわね。あれ、冗談じゃなかったの?」
「最低でもその位はありますよ。あまり流すと相場がすっごい事になりそうなんで、ほどほどにしますけど」
「一度辞書でほどほどって言葉の意味を調べて来てもらえる? ダンジョン金は需要も多いから相場が崩れる事は無いけど」
魔道家電製品の基盤に使われている金はこのダンジョン金の場合が多い。
普通の金に比べて魔素の伝導率がいいとかで、高性能で高価な魔道家電製品の基盤や集積回路には必ずダンジョン金が使われている。
ダンジョン金を使っていますよ~って示す専用のマークもあるそうで、そのマークを悪用して儲けようとする企業も存在し、普通の金を使っているのにそのマークを使う事もあるらしい。
バレた後は会社を潰して逃走するのが得意な国に多いんだけどね。
「今日は助かりました」
「いえいえ、今後も良い取引が出来そうで安心しました」
受け取った札束は特殊インベントリ内に保管したぞ。
これでいつでも取り出せるし、資金難になる事は無いだろう。
牧場型ダンジョンの使用料を出せないって時に代わりに立て替えてあげる事もできるし、キャンプ道具も遠慮なく買える。
何をどの位買っていくかな~。
食糧とかもそうだけど、罠とか調理器具とか必要な物はたくさんあるしね。
ダンジョン内のキャンプと普通のキャンプが大きく違うのは、蚊とか虻なんかの不快害虫対策が必要ないって事だ。
流石にダンジョン内に普通の虫なんて存在しない。だからダンジョン内でのキャンプは割と快適だって話を聞いたりする。
地下二階にまでキャンプスペースのある牧場型ダンジョンとは流石に違うけど、一階にキャンプ場があるダンジョンも割とあるんだよね。
何処も割と広めなダンジョンの一階を丸々使うのは結構大変らしくて、店とかいろんな設備を用意しても結構な土地が使われずに残ったりする。
そこを管理しないとおかしな連中が住み着いたりするし、余剰スペースの有効活用は割と問題になってるらしい。
たまにダンジョン一階の巡回とか、信用されてる高レベル冒険者にだけお願いされる依頼があるんだよね。
仕事内容に割に依頼料は安いそうだけど、受けるとダンジョン協会からの評価がさらに上がって、最終的に色々とお得なんだそうだ。
姫華さんたちも偶に受けてるって話だね。
さてと、そんな事よりキャンプ道具を買いに行こうかな。
読んでいただきましてありがとうございます。
楽しんでいただければ幸いです。
誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。




