表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/108

第六十二話 ダンジョン犯罪者の暗躍


 ???サイド、トレジャー暗躍。


 毎年五月になると可愛い雛鳥が先輩鳥に手を引かれてダンジョン内で活動を開始する。


 全国にいくつもある冒険者を育成する機関。その多くは四月中に基礎的な知識を教えて最低でも五月中旬には最初のダンジョン内で実習が行われるのが普通なのよね。


 まだダンジョンがどれほど恐ろしい場所かも知らず、ほぼ警戒心ゼロの状態で冒険者たちがダンジョン内を探索するのはおそらくこの最初の実習の時くらいだわ。


「よし、次の十人は先輩冒険者に続いて先に進め!!」


「このダンジョンにはトラップは無い、だから自然発生するダンジョントラップを警戒する必要は無いぞ。出現する魔物のレベルは低いが慎重に行動しろ」


「そこ!! 隊列を乱さない!! その油断が命取りになるのよ!!」


 まるで遠足感覚な新人冒険者を護衛しながら指導する先輩冒険者。


 情報では彼女たちは二年生の中でも優秀な人を集めているそうね。


 最高で三色持ち。


 発行時の時点で四色持ち以外はわたしたちの脅威にはならないけれど、だからと言って全然間引かないのも面白くないのよね。


 わたしたちを導いてくれる存在、魔王様はまだこちらの世界に現れていないのだから。


「結局、ここ最近冒険者を一番間引てるのはあの裏切り者のトレインなのよね。魔獣使いティムを失ったのが本当に悔やまれるわ」


 わたしたちの存在を人間サイド、特に勇者に知られるわけにはいかない。


 だからあまり大胆に行動する事はできず、一度に間引ける冒険者の数も限られている。


 ダンジョン内で発生したダンジョン犯罪や事故として処理できる数は一度に数十人程度。


 それ以上被害を出せば、専門機関が動いてわたしたちの存在まで辿り着くでしょうね。そうすれば流石にあの勇者やヒーローを送り込まれて私はその時点で塵も残さず消し去られる。


「小競り合い程度であればわたしたちが勝つ。しかし、人間側にも切り札がいくつも存在するし、いまだにその力を残したままの勇者の存在は脅威以外の何物でもない」


 元々魔王様を殺すだけの力を秘めている勇者。


 わたしの様な魔族を殺す事など造作もない。マリオットやシアターは戦闘面ではわたしより強いが、それでも勇者を相手にするには分が悪い。


 勇者の恐ろしい所は魔族特攻能力だ。レベル一の時点で闇魔法無効、魔族に対して全ステータスが倍になるバフ、更のその状態で攻撃時には攻撃力をあげる効果まで付く。


 魔王様以外での魔族との戦闘では防御力も無効化してくると聞く。


 まさに魔族を殺す為に生まれて来たようなクラスだ。


「さらに言えばわたしたち魔族が殺してきた人の数に応じて能力が上がる。このカウントはわたしたち魔族一人一人に対応しているので、実質死者を出していないわたしだけはその能力から逃れる事が出来る」


 ただし他の魔族と行動していると、その魔族が殺した人間の数だけキッチリ能力が上がるのが難点だ。


 年齢による能力の低下はあるが魔族特攻のバフを考慮した場合、魔王様以外では勇者を倒す事は不可能だろう。


 そんな事よりも、今はこのダンジョンで探索を行っている初心者冒険者の処理だ。


「ティムの遺産。保有していた魔獣の中で、この魔獣だけは私と相性が良かったのよね」


 残りの魔獣は何故かトレインが引き取ったという話ね。


 あの裏切り者は人間のくせにわたしたち魔族に協力する忌むべき存在だ。


 ティムが彼の心の多くにある闇を感じたとかで仲間に引き入れる事を認めたし、彼のトレイン行為を真似した似非トレインの出現で多くの冒険者を間引けたのは認める。


 裏切り者のくせにね。


「……やった!! ゴブリン討伐成功!!」


「ハイハイ油断しない。技と仲間を囮にして、油断させるゴブリンもいるのよ」


「え~!!」


「そんなゴブリンいるの?」


 いる。


 群れで虐めている仲間をわざと単独で冒険者たちに向かわせた後で、油断したところを後ろや遠距離から奇襲する頭のいいゴブリンが極稀に出現するのよね。


 わたしたち魔族もダンジョンのすべてを理解している訳ではないし、魔王様もダンジョンの事を全て把握している訳ではない。


 もし知っているとすれば、あの忌々しい魔界側の神くらいだろう。


「彼らはわたしという存在に気が付いてすらいない。気が付いていたらあんなにのんきに狩りなどしていないでしょうしね」


 わたしたち魔族の気配は独特だ。


 勇者やヒーロー当たりのクラスを持つ者だったら同じダンジョンに居ればどこにいるかさえ特定してくるだろう。


 特に忌々しいのがあのヒーローというイレギュラーな存在だ。


 元々この世界にもわたしたち魔族がいた世界にもヒーローなんてクラスは存在しなかったし、世界の法則に奴らに対応するステータスカードすら存在していなかった。


 だから彼らの持つカードは【灰色】。


 (ひかり)(やみ)を両方持つ事を許された唯一の存在。


 存在しない者が世界に出現した瞬間、この世界でも多くの灰色カード持ちが生み出された。


 我々魔族は彼らがヒーローとして覚醒する前にその殆どを処理して来たけれど、よく観察してみれば灰色カードを持った冒険者は成長過程が非常に過酷で、ヒーローとして活躍できるレベルに達する者が存在しない事に気が付いた。


 脅威になるまで成長しなのであれば、わざわざ危険を冒してまで間引く必要はない。灰色カード持ち以上に四色持ちの方が現実的な脅威なのだから。


 そんな事情があって、今は灰色カード持ちが出ても様子見だ。


「さて、この魔獣に暴れて貰いましょうか」


 取り出した魔石に封じられているのはシャドーバジリスク。影から出現した漆黒のこのバジリスクは元々バジリスクとして持つ猛毒などの多くの能力を失っているが、石化能力だけは残されている。


 この子だけはわたしによく懐いたし、持っている能力も私好みだったのよね。


「行きなさい」


「ギギッ!!」


 洞窟の影の中に姿を隠し、影から影へと伝いながら獲物へと向かっていく。


 おそらく、彼らを全滅させるまでその存在に気が付かれる事は無いだろう。


「っ!! 三組のパーティが石化して全滅だと!!」


「このダンジョンには石化能力を持つ魔物はいない筈。魔素溜(まそだまり)から出現した可能性がゼロじゃないが、事前の調査で魔素溜(まそだまり)が存在しないことは確認済みだ」


 流石にその位は調べて来てるのね。


 そうなると、今この場で何が起こっているのか位は理解できる?


「ダンジョン犯罪者が潜んでいたか。とりあえず探索は中止。石化した生徒はダンジョンリングに収納して回収だ」


「わかりました……」


「石化させた何かはまだ存在している筈だ。警戒を怠るな」


 あの子、なかなかいい判断ね。


 他の冒険者に見るべきものはいなかったけど、あの子だけは確実に取り除いておいた方がよさそう。


 よく見たらかわいい顔をしているし、しばらく売らずに手元に置いておいてあげるわ。


「……撤退は完了しそうね。わたしたちも戻るわよ」


「きゃぁぁぁぁっ!!」


南方(みなみかた)さん!!」


 残っていた三人の冒険者のうち、二人をシャドーバジリスクが石像に変えた。


 その子たちもついでに宝石像に変えてあげてもよかったんだけどね。なかなか綺麗な顔をしているし、私の趣味と実益の為に特別な魔法をかけてあげるわ。


「なかなかいい指揮だったわ。ご褒美に、あなたを美しい宝石に変えてあげるわね」


「宝石? いったい何の……。っ!!」


 隙だらけの唇を奪い、いつも通りに宝石化(ジュエライズ)をかける。


 僅か数秒後には目の前に宝石像が一つ完成していた。


宝石化(ジュエライズ)は殺した訳じゃなから勇者のカウントに入らない。石化もそうだけどね」


 これが最も効率のいい冒険者の間引き方。


 いずれ来る魔族とこの世界の冒険者の戦いに備え、少しでも有能な冒険者の数は減らしておく。


 ただ、あまりやりすぎると人類側を管理する神から警告が来るだろうし、魔王様がいないのに勝手に全面戦争を始める訳にはいかない。


 人類側にはすでに勇者とヒーローが揃っているのだから……。


「ホントに面倒よね。いざって時には切り札もあるけど」


 わたしだけが持つ勇者用の切り札。


 たとえほかの魔族が滅んでも、わたしだけは生き延びて見せるわ……。


 数日後、このダンジョンは一時的に封鎖され、大規模な調査の後で再解放された。


 あのダンジョンはしばらく間引きには使えないわね……。



読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ