第六十一話 ゴールデンウイークの成果発表 その二
大講堂に用意されていた料理。
そのなかでも一つのテーブルが異様に目を引いていた。いや、圧倒的に正しいと思うよその判断。多分、誰も文句を言わないし、ここに居る一年全員がそれを歓迎してるのは間違いないだろう。
テーブルには大皿が置かれ、その上にまるでクロカンブッシュを模しているように大量の鶏の唐揚げが積み上げられている。ホント、壮観というか見るだけで圧倒されそうだよ。そこから漂って来る美味しそうな匂いはマジで反則だ。
ちゃんと座って食べるスペースも用意されているし、飲み物も缶や瓶で提供されているジュース類以外に、ファミレスなんかにあるドリンクバーの機械が何台も設置されていた。
「あ、眩耀君だ~。最優秀者表彰おめでとう~」
「姫華さん!! 生徒会も手伝っているんですか?」
「元々ゴールデンウイークのダンジョン探索は生徒会が主催だからね~」
「そういう事だ。順当に最優秀者だったが、本来であればあの程度のポイントで済まなかったんだがな」
「その点は仕方ないですね。今の点数でも十分ですよ」
魔素溜から出た魔物の討伐はもちろんケンタウルスに至るまで倒した魔物はパーティで協力して倒した事になっているし、二年の天城さんたちを蘇生させた事も今回は報告していないのでポイントとして加算はされていない。
支援ヒールとかも評価ポイントの対象になるので、支援で死者蘇生なんてしたらそれだけでかなりポイントが入るからね。
しかも場所が場所だし、最下層のダンジョンボス部屋の前で四人蘇生させるだけの魔力の浪費。
僅かな魔力を惜しんで支援ヒールすら断る人間がいるこのご時世で、その何倍も魔力を要求される蘇生系の魔法。それを四人分なんて正気の沙汰じゃないからね。しかもその後キッチリダンジョンボスを討伐してるし。
「本当に器が大きいな」
「別に大した事じゃないですしね。それよりこの料理、どれもおいしくて最高です」
「喜んでもらえてうれしいな。今回は予算がかなりあったから専門の業者にお願いしたんだ~」
「予算が少ない時は我々生徒会のメンバーで料理を用意する時もあるんだ。料理スキルは全員獲得しているが、同じレベル一でも差が出るんでな」
「あ~、その辺りは本当に謎ですよね。鍛冶スキルもそうですが、熟練度でレベルが上がるスキルの多くは同レベルでかなりの差がでるって聞いていますし……」
そう。世の中には同じレベルなのに埋めがたい差が出るスキルがいくつか存在する。
料理スキルなんかがその典型で、スキルを手に入れたからといってその瞬間からプロの料理人になれる訳じゃない。
ポイントを振ってレベル五にあげたとしても、それだけで一流のシェフになれるかと言えばそうじゃないらしいんだよね。
おそらく本当に一流の腕を手に入れるには料理以外にもいろいろと習得しなければならない技術があって、一流のシェフはそのほかの技術も会得してるって話なんだろう。
俺はさらに上の料理レベル十だけど、一流のシェフと料理勝負をして勝てるとは思えないんだよね。
ホント、スキルレベルっていったい何なんだろう?
「……眩耀は恋人に料理スキルを要求したりするのか?」
「ん~、やっぱり好きな人の料理も食べてみたいですし偶にでも作ってくれると嬉しいですけど、絶対って事は無いですよ。適材適所ですし、料理をする時間を作れる方が作ればいいんじゃないですか?」
「流石だね~。料理スキルは覚えてるの?」
「一応覚えてますね。でも一流のシェフに勝てるとは思いませんよ」
「……いったい幾つまで上げてるのかな? 今度その腕を振るって貰えると嬉しいけど」
料理の腕を振るう機会か。
ちょうどいい機会があるじゃん。
「こんど牧場型ダンジョンに行こうと思うんですが、せっかくなんでキャンプもしませんか? そうすれば料理を披露する機会もできますし、美味しいダンジョン肉も食べられますよ」
「ダンジョンでキャンプか~。そうだね、眩耀と一緒だと安全で安心かな?」
「あ、桜輝さん。詳しい事はメッセージコールで連絡しようと思ってたんだけど」
「牧場型ダンジョンにはいくつもキャンプスペースがあるしね。地下二階から下のキャンプスペースはあまり使う人がいないって話だけど」
「魔物に襲われる可能性が高いからな。熊の巣のど真ん中でテントを張る人間はいない」
いつの間にか虎宮も近くに来てた。こいつも誘おうと思ってるしちょうどいい。キャンプはある程度人数がいた方が楽しいだろう。
ただ、ダンジョン内でも俺がいる場合、そこが安全地帯に変わるからな。
魔物が逃げて肉が手に入らなくなるんじゃないかって事だけが心配だ。
隠密とかいろいろ使って気配を消した上で釣りとか狩りをしなきゃいけないだろうけど。
「それじゃあ、詳しい事は後で連絡しますね」
「了解。それじゃあ、料理を楽しんで行ってね」
「……うわ、あの唐揚げの山がいつのまにか消えてる!! って、料理の減るペースが速くない?」
「全員ある程度氣力をあげたからだろう。氣力をあげると食欲が上がるし、ある程度は食べても太らなくなるからな」
「え?」
「え?」
「え?」
何気ない依理耶さんの一言から広がった波紋。
あっという間に大講堂中を駆け抜け、一斉にその情報の裏をスマホで確認する女生徒で溢れた!!
っていうか、せっかく教えてくれたのに情報の裏取りなんて失礼じゃない?
「あった!! 氣力五十で食欲上昇、百でダイエット効果!!」
「え? 氣力を百まで上げると、毎日こんなに食べても太らないの? ケーキバイキング食べ放題!!」
「どうしてこんな重要な情報を……」
「百……、ハードルは高いけど、そこまで無理な注文じゃないわ」
「わたしには無理……」
要求される百って数値に絶望する単色組と二色組。
三色の人は逆にその位だったら~と言ってるのが怖い。
二色持ちは運のボーナスを考えない場合レベルアップごとに最高で十二。
更に言えば一色持ちは最高六だから流石に能力ひとつに百も振る真似なんてできっこない。
しかも氣力はあげても防御力と生命力が上がる位しか恩恵が無い。
百も突っ込むには躊躇するステータスなのは間違いないんだよね。
生命力をはじめいろいろ役立つ力が強化される筋力、思考力や状況判断能力が上がるし魔法の威力にも関係する知力、冒険者は全体的に走ったりする事が多いし割と重宝する走力。この辺りが人気のステータスかな? 運は割と重要なのにホントにポイントを振る人がいないんだよな……。
「それでも料理が減る速度が落ちないな」
「ダイエットは明日からでいいからじゃないかな? こんな料理食べる機会は少ないと思うし」
「そうですね……。どの料理も驚く位に美味しいです」
作って時間が経ってる筈なのに、びっくりするくらい美味しいんだよ。
ピザは頼んでから出て来る方式なんだけど、それ以外の料理も作りたてみたいな感じだし……。
「今回お願いしたシェフの料理レベル三なんだって」
「何処のレストランに頼んだんですか?」
「レベル三か……、現在ほぼ最高レベルだよな」
レベルだけだったら俺の方が高いけど、料理の腕ではかなわないだろう。
特に唐揚げとか最高だった。味の染み具合も揚げ具合も最高だ。
「唐揚げ売り切れで~す。ピザの注文も残りわずかですよ~」
「今からデザートコーナーを開放します。アイス類もありますよ」
「フルーツコーナーの補充これで最後です」
立食パーティは開始から二時間続き、そしてほとんど料理が残る事なく無事に終了した。
最後の最後。
割と食欲を抑えて食べる量をおさえていた女生徒の多くは出て来た絶品のケーキ類を一口食べた瞬間にリミッターが外れ、テーブルの上に並べられたケーキが一つ残らず無くなるまで激しい攻防が繰り広げられた。
「幻のパティシエスキル。本当に存在したのか」
「料理スキル持ちのパティシエじゃないの?」
「たぶんこれ別系統だと思うよ。どうやって取得したんだろ?」
クラス系から入手可能なレアスキルか?
こんなに旨いケーキなんて初めてだし、あの割と控えめな玲奈がケーキ争奪戦に参戦してたくらいだからな。
当然というか、第一陣以降に参戦しようとした男子生徒は全員叩き出されてたみたいだ。
アイス類とフルーツ類は許されてたから、みんなあっちに行ったけどね。
こうしてゴールデンウイークでの活動は正当に評価されて終わった。
次は夏休み中の冒険者活動か。
今回も含めてこの二つで二年以降のクラス分けとかに影響するって話だね。
うちの学校は文系とか理系とかで進路を分けずに冒険者としての能力でクラス分けするし……。
読んでいただきましてありがとうございます。
楽しんでいただければ幸いです。
誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。




