第六十話 ゴールデンウイークの成果発表 その一
ゴールデンウイークが終わった翌週末。
私立深淵学院の一年は実習用ダンジョンの一階にある講堂スペースに集められていた。
実習用ダンジョンの一階もかなり広くて、大規模な工事が行われて全校生徒が余裕で入る大講堂なんかも存在する。別の部屋なんて特殊な板で加工して体育館にしてたりするしね。
講堂スペースは運動場として利用される事は無いけど、卒業式なんかはここを利用したりしてるんだよな。
流石にこのダンジョンを利用できるのは在校生と教師だけだ。
「よ~し、それじゃあゴールデンウイーク中の成績発表だ。今年のゴールデンウイークは怪我人も多かったようだが、死人が出なかった事は大変喜ばしい事だった」
今年のゴールデンウイーク探索で死者は出なかった。
確かに死者は出なかったんだけど、大なり小なり怪我を負った者は多くて、四肢を失っていなくても体の至る場所に深い傷跡を残している人も多い。あれも結構堪えるんだよ。ホント、高い授業料だよな……。
初心者用ダンジョンでも六階より下は普通に強い魔物が出るし、魔物を舐めてかかると大怪我なんて珍しくも無いからね。
初日にダンジョンを舐めていきなり地下三階に下りた牛頭達三単は正式に退学が決まったそうで、奴らが今後どうするのかまでは聞いていない。あの知力で別の学校に転校とかできるのか?
「まず最優秀者は神崎パーティ。メンバーに生徒会長もいるパーティだが、主な戦果は神崎があげているという話だな。神崎は初心者用ダンジョンの初制覇者でもあるぞ」
「え? あの灰色が?」
「灰色に魔法攻撃力なんてないよな? 肉弾戦で魔物を圧倒できるの?」
「生徒会長の戦果を横取りとかじゃないのか?」
「……やはりそうか。最初にパーティに誘わなかったのは本当に失敗だったぜ」
まあ、信じられないよな。
というか、虎宮の奴は姫華さんから話を聞いてないの?
流石に相手が家族で俺と友達とはいえ、他の冒険者の能力とかをばらしたりしないか。
「次点が虎宮パーティだな。小谷野が抜けて三人パーティになったらしいが以前より強くなってるようで何よりだ」
「くそっ!! なんで俺が追い出されるんだよ!!」
「自分の胸に聞いてみるんだな。自分の所持する色のスキルレベルや、ステータスの意味をもう少し理解したらどうだ?」
「そんなの聞きゃいいだろ!! 今に見てろよ」
小谷野が虎宮達のパーティから追い出されたのは知っているけど、虎宮はそのまま三人パーティで活動しているのか。
全員最低でも三色持ちだあそこは安定して強いパーティ編成だよな。虎宮はもしかしたらもう四色持ちかもしれないけどさ。
そうなると二色の小谷野がパーティにいる意義はない。能力不足を補うほど何か持ってれば別だけど……。あいつは何となくだけど胡散臭いんだよな。そこを気付かれてるのか、他の奴からも嫌われてるし……。
「やはり一年全体位に言えるが単色組は苦戦しているようだな。限界まで鍛えてダメだったら支援に回るって手もあるぞ」
「それ、言うのが遅すぎますよ。今更ステ振りを支援系に切り替えてもポイントが足りませんし」
「ステータスも単色だと厳しいよな。一回でも一が出たら終わりとか言われているし」
単色のレベルアップ時のステータスボーナスの最高は六だけど、最低の一をどれだけ出さないかが勝負の分かれ目と聞く。
六を出し続けても最高で二百九十四しかもらえないステータスポイント。
平均するとすべての能力値を四十九あげて終わりってかなり厳しくない?
元が青単か黄単だとかけてる色を足して緑を入手、最終的に三色なんて荒業も可能だけど、この情報もあまり知られてないしな。
「白単だとそれでも卒業後の就職には困らないんだがな。回復系と支援系の魔法が使えるといろいろ助かるし」
「逆に言えば単色で白以外は卒業後に仕事が無いと?」
「赤単でも炎耐性や炎無効が使えるといろんな場所で重宝されるし、青単も同じだ。スキルポイントがギリギリだがな」
魔法スキルを最大まで上げようと思うと、クラススキルとか他のスキルにポイントを振る訳にはいかない。
一回でも振ったら色スキルをレベル十まで上げる為に必要な七十八ポイントを確保するのが難しくなるしね。
レベル五十のカンストまであげれば九十八ポイントはいるから二十ポイントだけ使えるけど、それ以上振ると詰むんだよな。
「冒険者を諦めて一般職に就く奴も多い。だが、冒険者時代に得た体験は必ずお前らの財産になる。あげたステータスはうそをつかないし、ここで得た友達も生涯の財産だ」
「こういわれてるが、あまり高レベル冒険者にすり寄るなよ。三色持ち以上は割と世の中で重宝されるからな」
他の先生からもひとこと追加されたな。擦り寄りの件と、三色持ちの件。
後で調べれば分かるんだろうけど、青単か黄単は割と簡単に三色持ちまで引き上げる事が可能だ。
早めにあの情報を知れば、低レベル時に一色増やせる訳で最大二色分増えるとかなり条件が変わるぞ。
二色持ちも同じ条件だから、四色持ちに化ける訳だしな。
……青とか黄色用とはいえ増色の魔宝石や魔石はそこまで安くないか。
「さて、ここからはお願いになるんだが、この中で再生や奇跡の再生を使える者はどのくらいいる? 正直に手を挙げて貰えると助かるんだが……」
「流石に一年全員集まっても三人だけか。玲奈がそこまで白をあげてる事に驚いたけど……」
「治癒系の方が喜ばれるかな~と思って……」
「眩耀は渡さないよ?」
桜輝さんが滅茶苦茶威嚇してるんだけど。
最近は割と疎遠になってるとはいえ、玲奈は子供の頃からの幼馴染だしそこまで警戒しなくてもいいと思うよ。そっけない態度だと俺はさみしいけどね。
やっぱりあの記憶の封印の影響ががデカすぎるんだよ!!
話を戻すけど、本当に俺達三人だけしかそこまで白レベルを上げてないの?
それとも、レベル自体がそこまで上がってないのか、賢力が不足してるとか?
「三人か。レベルは足りているが、賢力が不足の者もいるかもしれないな。最低でも賢力が八十必要だからな」
「八十!! 道理でいつまで経っても覚えられない訳だわ!!」
「知力じゃなくて賢力の方か!! やっちまったぜ」
ああ、魔法系は全部知力がトリガーになってると思い込む罠。
攻撃魔法の中には知力が要求される魔法もあるし、間違えても仕方がないよな。
賢力が上がると何故か手先も器用になるんだよね。弓系武器の扱いも上手くなるらしい。
「ダンジョンでの怪我が四肢の欠損までいった奴は学院を去っているケースもあるが、ここに居る者で割と無視できない怪我をしている者も結構いるんだ。同級生のよしみじゃないが、再生や奇跡の再生で治して貰えないだろうか?」
「……魔力の関係でそこまで多くは治せませんよ」
「そうですね。それに、治癒が必要な人の数次第ですが、結構期間も必要になります」
「そうだな。それについては申し訳ないと思っている。だが、全員が全員、気軽に怪我を治せるほど稼げてないのが事実だ。こんな行為はあまり褒められたことじゃないんだが、私たちも教師として生徒の無事を願ってるんでな」
魔力回復薬を飲めば結構な回数を使えると思うけど、あれも値段が高いからな。
というか、怪我程度は俺が治せば済む話だけどさ。
「怪我を治すんでしたらもっと向いてる魔法があるじゃないですか。パーフェクト・ヒール!!」
「ちょ、パーフェクト・ヒールが使えるのか? というか、その魔法は……」
「マジか。パーフェクト・ヒールが範囲魔法になってる。信じられない」
「この講堂内全域を範囲指定して発動したのか? いったいどんなカラクリだ!!」
究極の治癒でもいいんだけど、こっちは誰も知らない魔法なんで使いたくなかったんだよな。
パーフェクト・ヒールを範囲魔法にするには金レベルを二十まで上げれば可能だ。消費魔力も五千になるけど、俺の場合は五百で済むしね。
「……神崎、ステータスカード発行時の発言を謝罪する。まさかこの短期間で金スキルまで取得しているとはな」
「金スキルを増やしたのか? マジか? 何十億かけたんだよ」
「増色の魔石か魔宝石。どっちもそのくらいするって話だよね……」
いや、増やすも何も最初から持ってたし、増色の魔石と魔宝石も持ってるよ。
しかも成功率百パーセントのすっごいのがあるし……。
これに関してはそのうち桜輝さんの色を増やそうと思ってるしね。
いつまでパーティを組むかは分からないけど、このまま配信を続けるんだったら長い付き合いになりそうだしさ。
「今の一回で全員の傷を治癒したっていうのか。……馬鹿な!!」
「流石だ。あいつに追いつくには時間が掛かりそうだぜ」
「……どうして私はあの時灰色ってバカにしちゃったんだろう。絶対覚えてるよね……」
初期にパーティの加入を断ったクラスメイトや、前回の限界突破ヒールの時にすり寄ってきていた連中も後悔してるみたいだ。
このレベルの金スキル持ちが居たら死霊系の魔物も狩れるし、極稀に出る魔族系の魔物を恐れずに済むからね。
それに、四肢の欠損や大怪我を瞬時に治せる仲間がいるってのはものすごく心強い。
パーフェクト・ヒールが使えるって事は、パーフェクト・レイズを所持している可能性も高いしね。
一時間の制限付きとはいえ、死んでも生き返られるって安心感はこれ以上なく頼もしいし。
「神崎、パーフェクト・レイズも使えるのか?」
「使えますよ。パーフェクト・レイズでしたら死者蘇生で生き返らせられない状態での蘇生が可能ですし」
「っ!! マジか!!」
「どうにかしてあいつをうちのパーティに入れられないかな?」
「回復専門でも頼もしすぎる。これ以上ない保険だ」
即死系の闇魔法を使う敵もそこそこいるし、金魔法所持者は元々かなり貴重なんで、もし見つける事が出来ればパーティに欲しいと思う気持ちは分かる。
っていうか、増やすまでも無く俺は最初から所持していた訳で、ステータスカード発行時にパーティに誘ってくれてたら他が全員単色パーティでも喜んで参加したんだけどね。
レベル二まで付き合ってくれてたら、パーティメンバー全員がその後は超楽なレベリングが出来た筈。
「しばらくは桜輝さんとコンビ組んでるからこれで十分ですね。彼女がOKを出すんでしたらあと二人まで枠がありますけど」
「あの時……、誰か私に声をかけてくれたかな?」
桜輝さんが右の頬と耳を摩りながらそんな事を口にしていた。あの時、本当に人の醜い面を散々見せつけられているからね。
「くっ!! 自分の狭量さが悔やまれる」
「まさかあの怪我が治るなんて思わなかった……」
流石に桜輝さんもあの時の事は忘れないだろう。
五人パーティが可能だったら虎宮達と組んでもいいんだけど、今更パーティメンバーを増やすのもなんだかな。
「よ~し!! この後は大講堂で立食パーティを用意している。全員腹いっぱい食ってくれ!!」
「おおっ!! あの噂は本当だった」
「あの噂?」
「成績優秀な生徒がいる年は豪華な立食パーティが用意されるって話だ。ゴールデンウイーク中の成績が悪いとこの後は馬鹿みたいにキツイ補修になってたって事だな」
まさかダンジョン制覇までしてる生徒がいるとは思わなかっただろうね。
今となっちゃ初心者用ダンジョンが開校から誰も突破できなかった理由は分かるけどさ。
あのケンタウルスは強い。とうか、初心者用ダンジョンのラスボスにしては強すぎる。
レイドボスとまではいわないけど、誰か一人は覚醒者がいないと倒せない気はするね。
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