第五十九話 魔王と魔族に関して少し調べてみよう
記憶を思い出した後、俺は学校や他の場所で魔王や魔族に関する情報を集めるようになった。
こうして魔族や魔王関連の情報を調べるようになって分かった事がいくつかあるんだけど、意図的に魔族関連の情報が伏せられてるって事実もその一つだ。
私立深淵学院の様な冒険者育成学校ではダンジョン学や魔物学といった授業も存在するし、この辺りは他の効率の冒険者養成学校でも授業内容として取り入れられている。
それどころか魔力や魔素に関しては他の一般的な学校でも授業に取り入れられてるし、魔道家電や機械関連の仕組みなんかも工業高校なんかの授業に存在する。まあ、この辺りは勉強していかないと世の流れに取り残されていくからしかたないよね。
魔道家電の回路とかの製造時はあまり魔力が高い人間が関わると、製造中に魔道回路が魔力に反応して暴走する事があるから逆に冒険者や元冒険者立ち入り禁止の場所とかがあるらしい。
完成した魔道家電はちゃんと安全装置とか制御装置が働いてるから暴走しないけど、この辺りは割と面白いなと思ったり……。って、いつの間にか魔王や魔族と関係ない話題読んでる!!
「いかん。魔族の情報を調べてたのに関係ない話題調べてたよ……」
「図書室ではお静かにお願いします」
「あ、すみません。……この状況だと流石に声が響きますよね」
「そうですね……」
放課後の図書室。
実践本意のうちの学校の生徒が図書室で調べ物などする訳もなく、この場所にいるのは馬鹿でかいテーブルを一人で利用している俺と、当番で受付に座っている図書委員二名だけなんだよな。
本の貸し出しもしてるみたいだけど今のご時世殆ど借りていく人間なんておらず、気になる事があれば大体スマホでポチポチと調べるのが主流になってるしね。
冒険者のスキルとか隠し要素なんかの情報は確かにネットで調べた方が早いんだけど、魔族関連の情報とかは何処かで弾かれてるのかいくら調べても殆ど出てこないんだ。
「ダンジョンから出て来る魔物関連の情報を探しているんですが、詳しい書籍が何処にあるかご存じありませんか?」
「ダンジョンから出て来る魔物ですか……。難しい質問ですね」
「極稀に魔素溜で発生する厄災級の魔物じゃなくて、ダンジョン一階やその周辺に住み着く亜人種系の情報が出来ればいいんですけど」
「そっちですか!! ん~、うちの蔵書にあったかな?」
転移ポーターを利用してダンジョンから出て来る魔物にはいくつか種類がある。
ダンジョン内で死亡した冒険者が何らかの形でアンデット化しして這い出して来るパターン。
ダンジョンから出るにはグールやゾンビ状態になっている事が条件で、ゴーストの様な悪霊系になっているとダンジョンの一階からは出てこれないそうだ。
この辺りはダンジョン内の魔素と外部の魔素量の問題らしくて、ダンジョンの外でも魔法が使えるようになった近年でもダンジョンから抜け出した悪霊系の魔物は一例もないという話だね。
ダンジョン内で発生したコミュニケーション能力と高い知能を持つ亜人種が人類側と接触してきて、ダンジョンやその周囲に住み着いて共存を提案してくるパターン。
高い鍛冶能力を持つドワーフや独自の魔法系統を持つエルフなんかが特に有名で、ドワーフが接触してきた国は何処も歓迎してダンジョン用の高性能な武器の開発に力を入れているって話だ。
残念ながら日本ではドワーフが接触してきた前例はなく、どんなダンジョンでいつ彼らが発生して集落を形成するかさえも謎のままだったりする。
エルフに関しても似たような物だけど、種族適性というか人類にはそう簡単に使えない魔法にあまり価値が無いらしくてドワーフよりもハズレ扱いされているのが彼らにはなんとなく納得できないそうだ。
そして一番厄介なのがダンジョン内の魔素溜で発生した高能力の魔物が自由を求めてダンジョン外に進出してくるパターン。
発生したダンジョンにその魔物を満足させるだけの魔素がある時はそこから逃げ出そうとはしないそうだけど、ダンジョンから発生する魔素の量が不足していると新天地を求めて転移用ポーターを利用して地上を目指すって話だね。
過去にダンジョンから出た魔物の例は少ないけど、強力な重火器などの現代兵器を駆使しても魔族討伐は大変らしくて発生する度に結構な規模で犠牲者が発生してたりする。
俺は魔族もこのパターンなんじゃないかと思ってるんだけど、それを裏付ける情報は全然ないんだよね……。
「日本語訳されてる本には無かったと思います。英語で書かれてる本でしたら何冊かありますが」
「あるんですか!!」
「はい。でも、こんな感じですよ」
かなり分厚い本で、当然タイトルも英語だし当然中も英語で書かれている。ここに書かれてる文字が全部英語なのか……。
以前の俺だったら尻込みしたかもしれないけど、知力四十億オーバーの俺を舐めて貰っちゃ困るな。
本気を出したらどこの国の言葉でも数秒で理解できるし、ここにスパコン詰んでる以上のスペックなんだぜ。……割と抜けてるけどさ。
さて、どんな感じかな?
よし、この程度の本だったら問題なく読めるぞ。
「全然問題ないです。お借りしてもいいですか?」
「ここで読む場合はこのまま持って行って構いませんよ」
「それじゃあお借りしますね」
そうか、今の俺だったら日本語以外のサイトとかでも普通に利用できるんだな。
以前の感覚で日本語でしか検索してなかったけど、他の言語で検索してみるって手もあるのか……。
「あの本読めるんだ……。あの子、まだ一年だよね?」
「三年生には知力のステータス上げて洋書とか読み始める人もいるって話だけど、入学二月程度でそこまでレベル上げてる人もいるのかな?」
「知力極振り? 高ランクの魔法使いとか」
「ステータスの影響で頭が良くなるには知力が五十程度は必要って話らしいよ。普通の人の最高値が十八だから、昔はそれを越えたら誰でも超天才とか思われてたらしいいけど、調べてみたら初期ステータスと冒険者のステータスって結構差があるって話なの」
小声で話してるけど向こうも結構気になる話題をしてるな。
普通の人間のステータスがマックス十八なんで、冒険者で知力十八の奴が世界最高の才能や頭脳を凌駕してるかって言われるとそうじゃないってのが最近の考えだ。
身体能力に関しても最近は色々研究が進んでて、ステータスカードの数値が本当は何を表しているのかって議題で大いに盛り上がっているところだね。
ステータスの数値がすべてじゃないにしてある程度の目安にはなる訳で、つまり牛頭達三人がいかにアホだったか分かるってもんだけど、本当にあいつらどうやって筆記試験をパスしたんだろう?
知力五とか、マジで小学生と変わらない位の脳味噌だぞ……。
……そんな事より、この本の内容だな。
書かれている内容は三つ。
ドワーフなんかの亜人種がダンジョン内に発生する条件と、彼らが集落を形成するのに必要な時間の予測。
この本ではそこを一番重要な項目として扱っており、その条件を人為的に構築できないかを研究しているって話だね。
魔道展開式の武器なんかを打つ事が出来るドワーフもいるそうで、彼らがいるかどうかでダンジョン内で使用できる強力な武器の保有数にかなり影響するからな。
魔道展開式の武器を打てる人間なんて国内でもホントに一握りだし、レベル六を超える魔道展開式の武器を打てる人はドワーフも含めて世界でも数える程しか存在しないらしい。
俺も打てるけどさ……。
錬金術やクラフトスキルを使ったアクセ作成もそうだけど、制作時に要求されるスペックや魔力が何気に高いんだよね。
亜人種でアクセ類の製作が得意な種族がいるって話があるんだけど、極秘情報なのかネットにすら情報が上がってないんだよな……。
もしかして魔族がそれじゃないだろうな?
「魔族の情報に関しては意図的に隠されてるってのがどうやら正解みたいだね」
魔物以外で人類に悪意を抱いて活動をしている種族に対する言及がされているのに、人の姿をした何かに関する情報だけがごっそりと抜け落ちてる。
魔族や魔王に関する情報を此処まで隠す意味は分からないけど、バレたらまずい何かがあるのか?
魔王のスペックが異常で、人類が絶望するとまずいから隠してる?
以前俺が倒したティムとかいう魔獣使いは間違いなく魔族だろうけど、あいつでも相当異常な能力だったからね。
「直接会えば大体わかるんだけどな……。もしくは同じダンジョン内に居ればかなり高確率で……」
な~んていうかさ。あいつらからは、形容しがたいぬめっとした人とは違う魔力を感じるんだよ。
悪意を練り込んだというか、絶対人じゃありえないような闇で塗りつぶされてるんだよね。流石にあれは俺じゃなくても気が付くと思うんだけどさ……。
「魔族に関して調べるんだったら、雄三おじさんに聞いた方が早いか」
魔王討伐の使命を持つ勇者だし。
うちの蔵書には魔族に関する本はほとんど見つからなかったけど、もしかして記憶の封印をした時にそれが記憶を取りもどすきっかけにならないように隠したのか?
だったら、俺が記憶を取り戻した事を話せば隠してる本を出してくれるかもしれない……。
おじさんに聞いて駄目だったらその事を話してみるか。
「ありがとうございます。いろいろ勉強になりました」
「返却ありがとうございます。……どうしました? 急に顔を覗き込まれると、その……」
「その右目。見えてないですよね?」
彼女の動きになんとなく違和感を覚えてたんだけど、その理由が今わかった。
右目が見えてないから右側にある物を認識できないんだな。
四肢の欠損みたいに視力の異常な低下とかは一目で分からないから、こういった異常は見逃されがちなんだよね。
「え? ええ、わたしが一年の時にダンジョンで……。未熟だった頃の高い授業料ですよ」
「治さないんですか?」
「流石に友第にも頼めませんし、頼んだからには報酬が必要じゃないですか」
「そうですね。やたらにタダで治すのは歓迎されてませんし」
治癒で生計を立ててる人もいるし、何でもかんでもタダで提供するのはよくない。
片目の治療となると最低でも相場は百万円。割と稼いでる冒険者だったらともかく、学生冒険者にポンと払える額じゃないよね。
「一応、卒業までには治すつもりなんですよ」
「そうですか。頑張ってくださいね」
「治してくれる流れかと思ったわ……」
あの会話した後にタダで治したら気まずいじゃん。
それに、隣の彼女も腕に包帯を巻いてるのが見えたし、大きな怪我をしてるんだろ?
俺くらいになると壁越しのパーフェクト・ヒールなんて余裕だし、流石に追いかけても来ないだろうしね。
「という訳で、範囲型パーフェクト・ヒール。図書室にはあの二人しかいないからバレないだろ」
『なに、この光の粒子?』
『これ、パーフェクト・ヒールじゃない? ああっ、右目が見える!!』
『わたしの手の傷も消えてる!! もしかして、背中の大きな傷跡も?』
『消えてるよ!! ていうか、全身の細かい傷とかも治ってるみたい……』
究極の治癒と神治癒以外で最高の治癒魔法だからね。同じパーフェクト・ヒールでもいろいろ手を加えてるんで、俺のはかなり特別製だけどさ……。
やっぱり金スキルは強力だよな……。
「廊下にはもういない!! 名前を聞いとくべきだったわ」
「一年でパーフェクト・ヒールを使える人なんてそうそういないし、すぐに見つかるわ」
「あんな将来有望な人、絶対仲良くなっておかなきゃ……」
助けた後で言い寄られるのが困るから今回もこんな手を使ったんだけど、みんなよく中身も分かんない異性に興味示すよね。
分かりすぎるとそれはそれで面倒なんだけど、ある程度ツーカーで分かり合えないと一緒に居ると疲れるじゃん。
玲奈の場合はお互いに分かり合いすぎてて面倒が無くていいけど、付き合うとなるとまた別問題なんだよな……。
雄三おじさんが割と重度の親バカだから、要求してくるスペックが結構厳しいんだけどね。
あれ、おじさんに勝たないと付き合うのを認めてくれないパターンだよな。
今の俺だったら勝てるけど……。
さて、そんな事よりおじさんに魔王の事とか聞かなきゃいけない。
玲奈の家にいつ行くのかも問題だよね……。割と勇者パーティって家にいない日も多いんだよ。
読んでいただきましてありがとうございます。
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