第五十六話 久しぶりに生徒会メンバーでの配信を
サイド虎宮姫華。
今日は五月の一日。ゴールデンウイークのまっただ中で、わたしたち生徒会冒険者チーム虎姫もいつものメンバーで高難易度ダンジョンで配信を行っていま~す。
先日眩耀君にもらったアクセサリーを陽花里達に渡したし、とりあえずこれで今後は即死系の魔法におびえなくて済むよ。
これひとつあるだけでどれだけ助かるか、あの人はちゃんと理解してるんだろうか? まるで飴玉か何かをくれるような感覚で渡してくれたけどさ。
「本当に凄いですね。姫の剣もそうですけど、依理耶の盾も……」
「そうだな。魔導展開しなくても恐ろしいほど防御力があるが、展開させればドラゴンブレスですら弾き返すだろう」
「展開させなくてもすっごい切れ味ってのは分かるよ。ギガントミノタウルスってここまで簡単にまっぷたつにできないよね」
「炎無効はものすごく助かる。これで巻き込みを気にしないで炎系の魔法が使えるから」
高難易度でばかり配信してるけど、私たちが気軽にレベリングに利用できるダンジョンが近場だとここしかないから仕方が無いんだよね~。
とりあえず地下五階まで転移して、こうしてギガントミノタウルスを倒すのが一番確実な方法だし。
経験値的にはソロ外微妙なんだけどね。
「菅笠侍さん。今ネットでも彼の噂で持ちきりだし、知り合えたのは本当にラッキーだったよね」
「今まで二度も助けられてるし、今度何かお礼をしなければいけないな」
「このアクセのお礼はしたい。でも、直接会うのは恐い」
「わかります。私は結構生命力が見える体質だし、アリスさんは魔力が見えるんだっけ?」
「え? 二人とも、そんな真似ができるの?」
「正確な数値までは分かりませんが、大体どの位あるかはわかりますよ」
たま~に鑑定とか使わなくても他人の生命力とか魔力が見える人がいるって話は聞いた事がある。
狩人系の職業や聖職者系のクラスを持っているとそんな感じのスキルが手に入るって聞いてるけど、体質で生まれながらそれが分かる人がいるって話も聞いてるね。
ん~、それってどんな感じなんだろ?
「生命力が見えるのは頼もしい。それで何度も助けられているしな」
「やばい状態ってわかるから焦ったりするのが問題ですね。もう少し回復魔法の威力が上がればいいんですが」
「菅笠侍みたいにか?」
「あの人は異常です。普通エリア・ヒールであそこまで回復させられませんし」
そうだよね~。正確なステータスを教えて貰えてないけど、最低でも覚醒済で各ステータスが千は超えてると思うよ。
初心者用ダンジョン攻略の時、眩耀君はただの一撃も攻撃を受けなかった。
正直、彼が攻撃を受ける姿を想像なんてできないし。
「私は魔力が見えるけど、あの人は直視したくないレベル。あの時に私たちを襲ってきたダンジョン犯罪者もものすごい魔力量だったけど、彼に比べたら本気でゴミ位以下だった」
「あの大邪竜ファフニールを開放した奴か。確かにあいつは強そうだったが」
「あの犯罪者は生命力も相当に高かったです。推測の域を出ませんが、おそらく千を超えていると思います」
「生命力千!! という事は例の覚醒をしてるって事か?」
「そこまで力を持った冒険者が犯罪に手を染めていたなんて残念だね。良い方に力を使えば英雄だったのに」
覚醒について色々調べてみたけど全ステータスを二百五十六まで上げるのは簡単な事じゃない。
まず前提条件というか、最初にステータスカードを作った時点で最低三色。出来れば四色以上必要で、最初から銀を持っているとかなり有利って感じかな?
その上で出来るだけ早い段階で金色を増やして一色追加し、カンストさせた後でレベルリセット。
この条件でも最初が三色だと結構厳しいって話だ。
そもそもレベルを五十のカンストまで上げること自体が結構難易度高いし、いったいどのくらい時間を掛ければあの膨大な経験値を稼げるか分からないんだよね。
一番確実なのが十階層以上あるダンジョンのボスを倒してボーナスレベルアップを繰り返す方法。
これだとどれだけ必要経験値が高くても関係ないし、何億も必要な経験値を稼ぐ必要が無いからね~。
そのダンジョンボスを倒すのも相当にハードル高いんだけどさ。
「力は人を狂わせる。強い力はなおさらな」
「菅笠侍さんが凄いって思うのはその点もですよね。配信で見ましたけど、彼に助けられてる冒険者の数って物凄く多いですよね?」
「基本的に支援ヒールしかしないけど、どんな場所でも躊躇うことなく貴重な魔力を使って回復させてくれるなんて本当に凄いです」
「陽花里は回復担当だから、うちのパーティだとダンジョン内での魔力の価値を一番分かってるよね」
攻撃担当のわたしたちでも魔力は当然貴重だよ。
でも、パーティメンバーの命を預かってるって言われてもおかしくない回復担当の人は、本当に魔力残量に気を使うってきいてるからね。
レベル四十台の私でも魔力は五百くらいしかないし、三色持ちの子だと三十台でようやく二百五十に届くかどうかって数値の筈。
そのレベルになると回復魔法はスーパーヒール位しか役に立たないし、そうすると一回で魔力を五十消費する。つまり、魔力回復薬無しだと五回しか生命力を回復できないんだよね。しかも、その場合は魔力が足りないから他のバフは一切なし。
自分の魔力が一足りなくて、パーティメンバーの誰かが命を落とす。冒険者を長くやっているとそんな場面が何度もあるって聞くし、責任の重圧に耐えきれなくて冒険者を辞める人も多いんだって。
だから見ず知らずの誰かに支援ヒールを頼むのは本当に命に係わる時に限られているし、その見返りに何を要求されても文句は言えない。
あの時も本当に限界ギリギリだったんだよ……。
「助けた後で何も要求してこないですし、菅笠を被ってるから正体も分からない」
「正義の味方っていうか、あんな人が本当に居るんだって思っちゃうよね~」
「あれこそが本物の強者の余裕だ。世の男どもが全員彼と同じだといいんだが」
「あの話。本当だったんですね」
「それはここではオフレコね。詳しい事はまた後で」
依理耶が眩耀君の事を好きなのはまだほとんど知られていない。
基本、依理耶は女性から好意を寄せられる事が多いし、本人も男性を毛嫌いしてたから男嫌いだと思われてたんだよね~。私も含めてそうだと思ってたんだ~。
でも驚きと言うか、眩耀君の事を好きだって言い出すなんて思いもしないじゃない。今まで散々男は汚いだとか姑息だとか言ってた子なんだよ。
「私は賢力をあげてますから魔力が少し多めですが、多分同レベルの冒険者と比べてほんのわずか高いだけです。高難易度ダンジョンの地下六階をソロで探索中に、誰かに使えるような魔力なんて一ポイントもありませんよ」
「陽花里でもそうなのだな。相手が瀕死でもそうなのか?」
「心の中で全力で謝罪をしますが、支援ヒールはしないですね。エリア・ヒールなんてありえません」
「魔力を二十も消費するからね~。魔力回復薬を山ほど持ってきてるんだったら別だけど」
「魔力を百回復させるのに、あの不味い薬を二本も飲まないといけないんですよ。しかも一本五十万円はします」
回復させる魔力一に対して一万円とか言われてるからね~。
味に関しては先日かなり改善されたって聞いてるけど。
……あった、これだ!! あれ?
「飲みやすくなった魔力回復薬があるんだけど、ものすっごい見覚えのあるマークが描かれてるね」
「菅笠マーク? そういえば最近販売された美味しい生命力回復薬も同じマークが描かれてました」
「アレは革命だった。飲むのを躊躇わないというか、今迄みたいに生命力が一桁の時でさえ覚悟を決めて飲むという事は無くなったからな」
「鼻をつまんで飲んだり、飲んだ直後に他のジュースで洗い流すとかしなくてよくなりましたよね」
あの回復薬を飲んだショックで死んじゃうんじゃない? なんて冗談が流行ってたから……。
魔力回復薬に至っては更に酷くて、飲んだ端から戻しちゃう子もいた位。
それでもちゃん魔力は回復してたから不思議だよね……。
それに比べて新しく販売された回復薬の味!! レモンとオレンジの爽やかな風味。微炭酸の刺激がちょっと心地いい。
微炭酸? って思ったけど、直前までダンジョンリングに入れてるから別に問題なんだよね。
「もしかして、彼がレシピを流したのか?」
「そうかもしれないね。凄いよ、これだけ売れたらマージンも凄いんじゃない?」
「……その瓶の一番下。小さく何か書いて無いか?」
「……この回復薬のレシピ使用料は全額ダンジョン救済基金に寄付されています? え? 全額!!」
何度見てもそう書かれてる。
え? 今ものすっごい勢いで売られてるこの魔力や生命力回復薬だよ?
今後市場を独占するだろうし、そのマージンだけで一生食べていけそうなのに……。
「聖人君子とは、まさに彼の為にある言葉だな。とてもじゃないが真似ができない」
「無欲ってレベル越えてますよね……。器の大きさが違います」
「ダンジョン犯罪とか、ダンジョン内での事故で命を落とす冒険者は多いから。孤児とかも多いけどダンジョン内は自己責任だから、あまり国は支援してくれないんだよね」
自分でダンジョンに向かって命を落とす。
それがいやだったら普通の職業に就けばいいだけの話で、幾ら国が推奨しているとは言え冒険者になれと強要してる訳じゃないんだよね。
だからダンジョン孤児を預かる施設はダンジョン協会が運営するダンジョン救済基金からの僅かな援助で何とかしてるって話の筈。
十五になったら強制的に冒険者に登録させられて稼いでくるように言われるそうだけど……。ちょっとかわいそうだよね。
「本当にダンジョン犯罪者は許せないな。冒険者の風上にも置けない」
「ダンジョン犯罪者は結構強いって話だよね。どうして道を間違えちゃったのかな?」
「心が弱いから? 野放し状態なのが一番ダメ」
罰する法律が無いのも問題だよね。
でも報復で殺す事は認められてるし、捕まえて裁判にかける事は可能。
裁判まで行っちゃうと、間違いなく死刑だろうけどね。
というか、ダンジョン犯罪者の中に魔族が混ざってるのは世間では知られていない。
魔族の情報そのものも割と制限されてるしね……。
「そろそろこの高難易度ダンジョンでの配信は飽きられちゃってないかな?」
「ん~、近場にいいダンジョンが無いのも問題。泊りがけで遠征するんだったら可能。宿泊費とかの必要経費は自腹だぞ」
「そこだよね~」
私たちは別にダンジョン配信で稼ごうとは思っていないけど、配信で得る投げ銭とかが生徒会の運営費になっているのも確かなんだよね。
基本ダンジョンで入手できる物は倒した魔物の魔石だけ。採集とかをすればもう少し稼げるけど、基本的に魔物から何かをドロップする確率は一パーセント程度って言われてる。
毎回あんなに何かをドロップする眩耀君がどれだけおかしい存在かって話なんだよ。
あのドロップ能力だけでも他のパーティから引っ張りだこだろうしね。残念ながら眩耀君の魅力に気が付かなかった人ばかりだったけど。その点はすっごくありがたい。
「彼の存在を知られる前に、何とか隣をキープしなきゃだね」
「私も本気だ。いくら姫華が相手でもこれだけは譲らんぞ」
「わたしだって」
アリスたちが参戦しなかっただけでも十分かな?
私もスタイルには自信があるけど流石にあの子たちには負ける。一緒にパーティを組んでる桜輝さんだっけ? ホントあの子はすっごいから。
アリスも男の子が好きそうなスタイルしてるけど、ちょっとロリ入ってる……?
依理耶はスレンダーだし、背が少し高いのがネックなんじゃない?
彼の好みが分からないんだけどね~。
読んでいただきましてありがとうございます。
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