第五十四話 まさかのレイド戦
ダンジョンの十三階まで何事もなく降りてきた。
たまに魔宝石の原石を掘ったりしたけど、あまり見せ場の無い配信になっちまったな。
運よく鉱山型ダンジョン名物の戦闘渋滞に巻き込まれなかったし、サクサク来れたのはよかったけど……。
「戦闘渋滞というか、こういった鉱山型のダンジョンだと他のパーティが戦闘してて通れないなんて事もよくありますよね」
「道が限られてる上に狭いですからね。戦闘に時間をかけると割と容赦ない罵倒が飛んできます」
「あまりに時間をかけすぎると、へたくそそこ変われとか罵倒が飛ぶ事も多いからね。実際、変わって貰う冒険者もいるそうですし」
鉱石とか魔宝石目当てで来てる冒険者だと、ここに出て来る魔物を倒せない人もそこそこいる。
身の丈に合わせてもっと上の階で採掘すれば良いのにな。
っと、この先は地下十三階の大広間か。
この大広間で採掘してる人も多いし、広い場所なんで休憩所としても割と利用されてるって話だ。
狭い鉱山ダンジョンだと休むのもひと苦労だしね。
「何か様子がおかしくないですか?」
「ん? まさかレイド戦が発生してる? 急造レイドパーティであいつの相手は厳しいと思うけど」
おそらく魔力溜から発生したと思われる黒光りする巨大なサソリ。
ジャイアントスコーピオン系の何かだと思うけど、詳しい事は分からない。
「でっかいサソリだね。こういうのも戦闘渋滞になるのかな?」
「ん~、微妙な所ですね」
「レイドパーティは通常四パーティ。最低でも十六人くらいで挑むのが普通だけど戦ってる冒険者の数が少ない気がする」
「入口辺りで回復させてますね。もしかしたらちょっと前から始まってたのかな?」
――――十分くらい前に別の配信であがってるな
――――えっと、【今からレイド戦!! 鉱山ダンジョンの大サソリ】とか上がってるね
――――開始三分で前衛が崩壊。回復が間に合ってないって既に終わってる感じかな?
――――崩壊速すぎ。というかあのクラスのレイドに鉱山採掘用の装備で何とかなる訳ないし
――――鉱石を一つでも多く持ち帰る為にダンジョンリング内は空けてくるのが暗黙の了解だしな
基本鉱石とかを採掘するのに疲れるから、鉱山で採集する時は軽めの装備になってるしね。
ダンジョンリング内に用意する予備の装備も必要最低限にするしな。
採集中のインベントリは開いてるに越した事は無いし。
「すまない!! 非常識だとは理解しているが、支援ヒールをお願いできないか?」
「この位の場所で支援ヒールとか普通ありえませんからね~。で、どうするの?」
「しばらくここ使うだろうし、神域でも作っておくよ。神域展開&重ね掛けエリア・ヒール」
怪我人を治療している場所を中心に直径百メートルほどの浄化空間を展開した。
これで一分ごとに確実に一割ずつ生命力と魔力が回復する。
間に合わない人がいたらいけないからエリア・ヒールもかけておいたし、これで生命力の回復に関しては問題ないだろ。
「これ……、神域か?」
「金スキル持ち!! それにこのエリア・ヒールの威力!!」
一瞬で生命力全快するし、これから半日近くは確実にこの神域が効力を発揮する。
採掘もかなり楽になると思うけどどうだろう?
「ん~、流石にやりすぎじゃない?」
「面倒が無くていいでしょ? それより、あのサソリ、あの人たちで本当に倒せるかな?」
「前衛の人が頑張ってくれていますが、無理っぽい気はします」
魔素溜から出て来る魔物を討伐できる冒険者は少ない。
高レベルな四色持ちが何人もいないと厳しいし、三色以下だと半数位はカンストしないとまず失敗する。
ひとりでも二色以下が混ざっていると絶望とか、かなり無理ゲーだしな。
ホント、色数の格差が酷い世界だよ。ここは。
「神域で回復しつつ、魔法を使ってるけどダメージ入ってんのかこれ? もしかして、やつも回復してる?」
「神域は魔物の生命力とか魔力までは回復させない。ダメージが入らないのはステータス不足だね」
「ここまで好条件でも勝てないのか……。仕方ない、レイドパーティはいったん解散だ!!」
レイドパーティのリーダーっぽい人が撤退を選択した。
これであの魔物との戦闘権は解放されたって訳だ。
待ってた甲斐があったかな?
「了解。……えっと、あなたたちはどうするの?」
「え? 倒しちゃいますよ。っていうか、倒しますよね?」
「そうだね、鉱山型ダンジョン内だからあまり派手な技は使えないし、これで斬り殺すだけかな?」
今日装備してきているのは神銀と魔石をふんだんに使った魔道展開式の小太刀だ。
狭い鉱山型のダンジョンだと、長めの太刀とか選ぶと攻撃しにくいんだよね。
「待っているんだろうが、もう攻撃しても構わないぞ」
「今攻撃したらそっちに経験とか入りません?」
「微妙なタイミングだね。与えるダメージが多いからこっちに入るだろうけど」
レイド戦はパーティ合計でダメージの多い順に経験値とかが分配されるそうだ。
だから回復専門の人が居るんだけどね。
「邪魔だし倒しちゃう? こんな所で時間食ってる暇はないし」
「そうだね、それじゃあ……、行きますか」
かなり手加減してるけど高速で大サソリの前身を斬り割く。
一撃で真っ二つに斬り殺してもいいけど、鉱山型ダンジョンが崩壊しても困るしな。
「これでラストっと。ねっ、簡単でしょ?」
「金スキルを使えてた時点で分かってたけど、やっぱり化け物っているんだな」
「レイドモンスターを単独撃破か。それも一方的にな……」
――――菅笠侍相変わらず強すぎ
――――戦闘面でここまで安心できる配信者は他に居ない
――――毎回ほぼ一撃じゃん
――――鉱山型ダンジョンに配慮する位は出来るんだな
流石に毎回見てくれてる人は俺の事を良く分かってる。大丈夫、俺だってちゃんと周りに配慮くらい出来るし。
ここで攻撃魔法使ったらなに使ってもダンジョンにえげつないダメージが入るしね……。天井が崩落とかしても困る。
ドロップは相変わらず美味しいけど、俺に目標が無いから宝の持ち腐れなんだよな。
金色を増やす為の魔石や魔宝石は欲しいと思ってるけどね。
俺以外の誰かの色数を増やす為に……。
「俺達にも経験が入っちまったか。すまないな」
「それはあなた方が戦っていた時の経験値ですし、そこまで気にしませんよ。レイド戦お疲れ様でした」
「強くて謙虚か……。いつも配信見てるよ」
「ありがとうございます~。菅笠侍さん格好いいですよね」
「猫巫女さんが参加するようになってほんとによくなった。掛け合いとかが面白いし」
戦闘が無くて暇だから雑談とかしてるだけなんだけどね。
配信を見てくれてる人がいるのはうれしいな。
最近は一千万再生とかしてるみたいだし、結構な数の人が菅笠侍の存在を知ってるみたいだけど。
「私たちは下の階で採掘しますのでこの辺りで……」
「流石ですね。ところでこの神域はどのくらい持つんですか?」
「たぶん半日くらい持ちますよ。神域の持続時間は最大で十二時間ですから、十二時間後には消えると思います」
「え? 十二時間も持つんですか? 神域が?」
賢力のステが高いからそうなるんだよな。
持続系の魔法は最大二十四時間まで設定されてるらしく、俺の場合は殆ど何を使ってもその位維持される。
神域だけ十二時間って縛りがあるっぽい。
この魔法だけ魔力も回復するからかもしれないけどさ。
「今日は回復スポットとして使うといいよ、じゃあね」
「……ほんとに凄い人だな。あんな人がパーティに居たらそりゃダンジョンの探索は楽だろう」
楽かもしれないけど、苦労してダンジョンを攻略するってのもいいと思うよ。
本来冒険者って楽な稼業じゃないんだし……。
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