第五十一話 激闘!! 初心者用ダンジョンボス
俺の目の前にいるのはダンジョンボスの魔物。今回は槍を装備した下半身が馬になっているケンタウルスのようだ。
五メートルを超える巨躯。あんな槍で薙ぎ払われたらそりゃ下半身位吹き飛ぶだろうね。実際には魔法か何かであんな状態になったらしいけど、それって特殊攻撃を魔法と見間違えたんじゃない? どう考えても魔法とか使って来るようなタイプの敵には見えないんだけど……。
それにこのダンジョンボスは下半身が馬だから走る速度もものすごく速い。
普通の冒険者が相手をするには幾重にも策を張り巡らして戦わないと駄目だろう。
「だけど巨躯を生かしているとはいえ力任せな攻撃が多いし、速いといっても小回りが利く訳じゃない。ここが広くなけりゃ、その実力は発揮できないだろうね」
こいつを正攻法で潰す方法はいくつもある。
氷で壁を作ってこいつが自由に行動できる範囲を狭めるか、同じ要領ででかい岩を作り出して同じ状況を作り出す。青魔法か黄魔法。この二つのどちらかをある程度上げてれば対策を用意する事が可能って訳だ。
まず機動力を封じて厄介な突撃からの薙ぎ払いを封じ、こっちは岩や氷の陰から魔法でダメージを与え続ければいい。
面倒だけど、これだと確実にこいつを始末出来る筈。
「問題は俺がそこまでする相手じゃないって事だ」
今回は瞬殺せずにわざと攻撃を受けてみた。
片手で止められる威力だし、高速チャージも正直期待外れの速さだ。
俺を前に逃げ出さないだけでも賞賛ものだけど、こいつの行動はどっちかっていえば勇気というより蛮行で、俺との実力差に気が付いていない可能性すらある。
……やっぱりさ、強力な魔法使って来るほど知力タイプじゃなくない? こいつか~な~り、頭が悪いよ。ダンジョンに潜むボスというより、ダンジョンに潜んでた牛頭っていった方がしっくりくるくらいの知能だ……。
俺との力の差なんてさ、上の階の昆虫ですら分かる事なのにな。
「さてと、氷や岩で荒らした部屋は片付けないとな。メキド!!」
メキドと言っても本当にメキドを使う訳じゃない。今の俺のステータスでメキドなんて使ったら大事なんだよね。
【このまま魔法を行使すると周囲が消滅する危険性があります】
こんな感じで警告がでるしさ。
だから俺が魔力でメキドと同程度の火炎魔法を作り出してるって訳。かなり威力は調整してるしね。無色の魔法、何の意味もない色だと思ってたけど、結局こうして魔法を創造するのにかなり役に立ってくれている。知力、賢力、魔力と色々高くないと本当に無用の長物のような色なんだけど、俺が持っていると本当に凄まじい威力を発揮するんだよな……。
という訳で無慈悲な炎が部屋を包み、俺が造りだした氷や岩ごとケンタウルスを焼き尽くす。
このオリジナル系魔法でも攻撃力の補正値が数百万を超えてるから一部の壁も溶けかけてるけど、一応そのあたりは十分に考えてあるからこの部屋が崩壊しない威力に調整してあるぞ。
毎回警告文が出るのも色々と精神的に来るしな……。
「という訳でダンジョン制覇。……これでいつでも最下層まで潜れるな」
と言ってももう二度とこのダンジョンに潜る事は無いだろうけどね。
最後のケンタウルスは楽しめたけどドロップも微妙だし、あまり面白い場所でも無かったからな。
◇◇◇
転移ポーターがある待機室に戻ると、驚いた顔の二年パーティ四人組といつも通りの姫華先輩たちがいた。
今回は少し時間が掛かったから心配してたんだろうか?
ダンジョンボスの情報が漏れないように、なかの様子は見えないんだっけ?
この辺りはダンジョン側の都合だけど、ボスの攻撃方とかいろいろ分かったらあとから戦う冒険者は事前威対策できるからね。同じダンジョンボスと戦う場合、それはかなり有利になるし仕方ないのか……。
「ずいぶん遊んでたみたいだね~」
「珍しく逃げない魔物だったんで少し遊んでみた。正攻法で倒せない魔物じゃないけど、あの機動力をどう殺すかがポイントかな?」
「え? どうやったんですか?」
「とりあえず氷と岩で部屋を狭くして、普通に戦ってみた。最後は綺麗に燃やしてきたけど」
あれ? 反応が薄いな。
姫華さんたちは指で何か数えてるし。
「えっと、氷の青。岩の黄。それに炎の赤ですか?」
「もしかして四色持ちさんですか? 今年の一年にはいないって聞いてたけど」
「なるほど~。そこかっ!!」
確かに最低三色。俺の能力とか考えると白か黒辺りを持っててもおかしくはない。
それどころか知らない色まで使ってるし、最低でも五色くらいは持ってる事も知ってるからね。
桜輝さんは俺が十色持ちのフルカラーなのは知ってるけど、それを他人に言いふらしたりする人じゃないのは分かってる。口は堅いし、俺以外の男性には本当にドライな対応しかしないからね。
あの時の体験で他の男性を信頼してないっていうか、どういう態度を取ってくるか骨身に染みて理解しちゃったからさ……。
さて、俺の色数の事を姫華さんたちに説明するかどうか……。説明すると、俺がどのくらい強いか理解しちゃうしな……。
「そのあたりはそのうち話して貰えると信じてるよ。でも、あまりやりすぎはよくないかな?」
「そうだな。久しぶりに戦えたのが嬉しかったのかもしれないが」
「ソンナコトハナイデスヨ」
正攻法を探すといいながら、途中から遊んでたのは認める。
普通の冒険者だったら、こんな感じで攻略するんだろうなって感じでいろいろやってたからね。
調子に乗って石とかで攻撃するフリとかしたりもしたけど。
「報酬は後で均等割りにするとして、何処で分けます?」
「朝のあそこでいいんじゃない? 飲食物の持ち込みもできるから」
「一階の売店で何か買って帰りましょ。中途半端な時間になっちゃったけどね」
今は午後四時。晩御飯には早いし昼飯にはかなり遅い。
急いできたからこんな時間で攻略できたけど、これでも結構な距離を走ってるからね。
配信時の時もそうだけど、桜輝さんが平気な顔で付いて来てるのは意外だった。いや、ちゃんと彼女のペースを乱さないように配慮してるし、少しでも疲れてるって感じたら速度を落とすようにしているけどね。
ダンジョンで普通に活動するより、俺と一緒に行動をすると魔物の気配とか奇襲をそこまで警戒しなくても済むし、精神的にかなり楽なのかもしれないけどさ。
俺が考えるより高めに筋力と速力にステを振ってるのかな? どっちもある程度はあげておいた方がいいステだし、特に筋力はいろんな面で役に立つからね。




