第五十話 最下層で待っていたものは……
八階で魔素溜に出た魔物も無事に処理し、俺達は全速力で最下層へと急いだ。
このスピードで攻略してきて間に合わなかったという事は、どうあがいても間に合わなかって事で間違いない。
それは事実なんだけど、やっぱり同じ学校に通う生徒のこんな姿を見るのは流石に堪えるよね。
「二年の天城さんのパーティだね。ごめんね、間に合わなくて……」
「ダンジョンの攻略に危険はつきものだ。万全な状態でここまで来れたからには倒したいという気持ちはわかる……」
「後は此処のボスだけですからね。初心者用ダンジョン制覇がかかった戦いです。此処から引き返すのは相当に勇気が必要ですね」
俺達がいるのはダンジョンボスの部屋前にある待機室の様な場所。
ダンジョンボスに挑戦できるのは一パーティだけだから、入室できるようになるまで待機できる場所が用意されているダンジョンも多い。
また、ボス部屋で敗北するとこの待機室の端にあるスペースに転送される事も多い。中には倒した冒険者を食う魔物もいるらしいけど。
この部屋には地上に引き返す転移ポーターもある。だから諦めて帰るって選択肢はいつも提示されてるんだけどね。
ただ、俺が逆の立場であったとしてもおそらく挑んだだろう。
「引き返せばまた五階から攻略のやり直しだ。いい状態でここまで来れる可能性は少ない」
「録画済の携帯液晶パッドには突入前の様子が映ってるね。準備万全で挑んだのは間違いないよ」
「だけどこの状態か……。いったいどんなボスがいたんだか」
ボス部屋で敗北した者も今部屋に送り替えされる。
そして一定時間経過してもそのままだったら遺体はダンジョンへと吸収されて消滅。
今回は遺体を発見できたし、このままダンジョンの外に持ち出す事も可能だ。最悪の事態とは言いにくいけどいい状況でもない。
パーティメンバーの一人は下半身が存在しなかったし、全員がかなり大きめのダメージを負っている。
このまま遺体をダンジョンリングか何かに収納して持ち帰ることはできるけど、ここまで損壊が激しいと蘇生させるのは大変だと思う。
通常の死者蘇生は死後一時間までしか蘇らせないしね。
「この状態ですと、死者蘇生も無理ですよね」
「ああ。死後一時間経過していなくても、ここまで損壊が激しいと無理だ」
「奇跡の再生も対象が生きていないと発動しないからね」
魔法が使えるようになって分かった事実が一つ。魔法の力は奇跡みたいだけど万能じゃないって現実。意外に助けられない状況は多いし、制限もかなり多いんだよね。
だから通常の魔法にはこの状態から蘇生させる術はない。
一般的に知られる八色の魔法。そして無色の魔法でも流石にここから蘇生させる事は無理だ。
でも、あるんだよね。この状態からでも何とかする方法が……。本当に一つだけ。
おそらく俺くらいしか詳しくは知らないだろう緋色の魔法。
「これから使う魔法の事は内緒って事にして貰えるかな?」
「……もしかしてこの状態からでも何とかなるの?」
「流石に眩耀でも無理でしょ? この子なんてこんな状態だよ? 蘇生させてもすぐに死んじゃいそう」
「わかった。私たちはこの先に使う魔法には何も言わないし誰にも喋らない」
「ありがとう。これ系の魔法は多分他に使える人はいないと思うんだよね……」
対象は床に並べられている四人。
普通の死者蘇生じゃ絶対に助けられない状況だけど、多分俺にはこれがあるから大丈夫なはず。
「究極の蘇生」
「嘘!! こんな状態から体の再生と蘇生が可能なの!!」
「光の粒子がすごい勢いで体を再生してる!! 凄い、奇跡だよ、これ!!」
消費魔力が五万って異常なうえ、フルカラーでないと使用できない究極の蘇生魔法究極の蘇生。
同じ系統でどんな状態からでも癒す究極の治癒なんて魔法もあるけどね。
「あ!! 天城さんが目を覚ましそう!!」
「んっ……、あれ? 生きてる? わたし、助かったの? みんなは!!」
「落ち着いて。大丈夫、何とかなったから」
「生徒会長!! 明日奈!! 明日奈があの魔物の魔法でっ!!」
あ~、その子って下半身が無かった子の事かな?
あの状態だと流石にパーフェクトヒール辺りでも治せるかどうかがギャンブルだし……。
究極の治癒を使えば死ぬ前だったら傷は癒せる。死んだらもう究極の蘇生しか方法は残されてないけどね。
「あれ? 私……、生きてるの? どうして?」
「明日奈。良かった助かったんだ……」
「おっと、その布は外さないでね。もし着替えを持ってるんだったら、向こうのスペースで着替えて来てもらえると助かるんだけど」
下半身が無い状態から蘇生しました。
肉体は元に戻りますが装備は再生しません!!
さて、どうなるでしょう?
という事で、ちゃんと蘇生前にでっかい布を取り出して被せましたとも。エチケット? それともマナー?
「……っ!! 分かりました」
「最初に布をかけてあげてるのがポイント高いよね~。さっすが眩耀」
「これ以上めんどくさい状況にしたくないだけです」
危険な状況から助けられたら惚れられましたってのは流石にもう勘弁してほしい。
いや、俺の性格とか色々見て好きになってくれるんだったら大歓迎だよ。
俺だって相応の歳の男だし恋人は欲しいと思ってるからさ。
でも、こんな感じで助けた挙句に一方的に好意を寄せられても困るんだよね。
「でもそれで気が付くなんてすごいと思うよ」
「うんうん。細かい気遣いが出来る人って素敵ですよね」
「流石だな。他の男どもとはやはり違う」
さて、これで死の気配は完全に消え去った。
残る問題はダンジョン攻略位かな?
どんなボスがいるか知らないけど、ここまで来れる冒険者にあんなダメージを与える位は強いんだろ?
ちょっと気になるじゃないか。
「えっと、ダンジョン攻略は任せて貰っていいかな?」
「え~、わたしたちも戦えるよ」
「無理!! あいつには勝てないわ!!」
「助けて貰った恩人がむざむざ死ぬのを黙ってみてられません!!」
温度差が酷いな。
死ぬ目にあった天城さんは全力で姫華さんたちを止めようとしてるし、同じパーティだから当然姫華さんたちは戦いたいと言い張ってる。
おそらく経験値は入ると思うし、手に入るドロップも公平割でいいと思ってるんだけど……。
「強い魔物だったらたまには戦いたいと思うでしょ?」
「瞬殺する方に一票」
「私もだ。あれと比べて強い魔物なんて存在しないからな」
大邪竜とか呼ばれてたあのトカゲね。
アレはただデカいだけだったしな~。俺に目も合わせようとしなかったチキン野郎だし。
小型でも強敵とかいると思うんだよね。ちょっとは速い敵とか。
「それじゃあ、一緒に戦います?」
「バフありですと居ても居なくても結果は同じですよ。私たちは邪魔ですからここで待ってませんか?」
「あ~、確かに履かせて貰う下駄がこんなに高かったら意味無いか~」
「そうだな。ここは眩耀に任せよう」
レベル強化した祝福のバフで全員ステータスが二百くらい上がってる。
一時的に上がってる合計ポイントが千超えてるんだから、そりゃ強いよねって話。
でも、流石にパーティメンバーをバフなしで戦わせたくないからさ。
バフありだと実力を遥かに上回る能力が手に入る訳で、その状態で戦うのをよしとしない人もいるだろうけどね。
「それじゃあ、サクッと倒して来るよ」
さて、どんな魔物がいるのか今から楽しみだ。
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