第四十七話 探し物は何でしょうか?
翌日午前十時。初心者用ダンジョンの一階にある鍛冶スペース近くに用意されたレンタルブース。
ここは飲食物の持ち込みが可能で、鍜治場の近くなんで鍛冶スキルを発動させる事もできる。
だからこうして武器の作成や、ダンジョン探索前のパーティなんかが最終打ち合わせで使う事は珍しくない。鍛冶スキルで武器の修繕とかもできるしね。
本気でダンジョンの探索をする冒険者はとっくに潜っているから、この時間帯は割と空いているんだよな。
「という訳で自己紹介だな。私は蛍川依理耶。先日は助かった」
「これで依理耶もメッセージコールに登録完了ね。後は細かい話し合いかな?」
「そうですね。武器は今から話し合うとしまして、まずこれを全員に渡しておきます」
俺が取り出したのは小さな赤い宝石のついたネックレス。
邪魔にならないように飾りは最低限に調整してあるぞ。
「ありがとう……。これ、魔道具だよね?」
「小さいですがこれでも炎無効と闇魔法無効の効果があります。どっちもいざって時の対策なんですが」
「ここまでして貰わなくてもいいと思うんだが……」
「炎無効に関しましては、一番よく使う魔法だから選びました。闇魔法に関しましては即死対策の為ですね。常識の範囲内でパーティの安全確保をと思いまして……。何をしてるんですか?」
姫華さんと桜輝さんが足元を見まわしてる。
ん? 何か落としたのかな?
「何か探してるんですか?」
「え? あ~、その辺りに誰かさんの常識が落ちてないかな~、と思ってね」
「わたしも同じもの探してました。多分すっごい向こうに落ちてるのかも」
「落ちてませんよ!! 大体常識って落ちないでしょ?」
「「「え?」」」
俺の常識はころころと足元に落ちるものだと言いたげだね君たち。
でも、この辺りは渡しておかないと流石に高レベルな死霊系の魔物の攻撃で即死されると困るしな。生き返らればいいけど面倒だしさ。
炎無効は毎回バフかけるよりこうして魔道具にして装備させた方が早いと判断したからだ。
俺は錬金術も使えるからこうした魔導具なんかも自由に作れるんだよね。
売ったらすっごい額になりそうだけど、作るのに結構な材料と手間がかかるからパーティメンバー以外には作ろうとは思わないけどさ。
「それはそれとして、本当にいいの? 闇魔法無効というか、即死無効なんてダンジョンでドロップする超レアなレジェンド級のアイテムだよね?」
「炎無効もだ。どっちかひとつが付与されたアクセサリーでも数千万ダンカはするぞ」
「アクセサリーはうれしいけど、どうせだったら指輪タイプが良かったな」
桜輝さんは絶対そういうと思ってネックレスタイプにしたのさ。
姫華さんも何故か一緒に頷いてるし。
「指輪はサイズとか色々細かい事を調べないといけないし、変に誤解されても嫌でしょ?」
「そうだね~。わたしだけにくれるんだったら大歓迎だよ」
「生徒会長は何か勘違いしてるみたいですけど、眩耀は渡しませんよ?」
「二人とも別に付き合っている訳じゃないんだろう? だったら私にもチャンスがある筈だ」
「え? もしかして依理耶も参戦するつもり? あなた、男嫌いじゃなかったの?」
「軟弱で軽薄な男連中が嫌いなだけだ。どんな状況にも動じない神崎のような男であれば大歓迎なのさ」
……知らいないうちにパーティ内で俺包囲網が出来上がろうとしてた件について~。
というか、蛍川先輩とはほとんど話した事もないよね?
この話を続けると面倒な展開になりそうなのでスルーして本来の目的を進めるか。
「それで話を戻すんですが、パーティの戦力強化のために全員の武器を用意しようと思うんですよ。鍛冶スキルはありますんで、常識の範囲内で一番いい物を作りますよ」
「……また常識が迷子になりそうな武器が出てきそうね。それじゃあわたしからいいかな? これが今使ってる剣だけど」
「魔道展開式ツーハンデッドソードですか。いわゆる両手剣ですね」
姫華さんの武器は一見ちょっと細身な両手剣。
魔道展開式っていうのは、鍔の部分と刀身に組み込まれてる魔石を使うとより強力な魔力の刃を展開できるタイプの事だ。というか、剣類は魔力の刃だけど盾とかだと魔力の防壁が展開されるんだよね。
近年人気のモデルで、組み込まれている魔石の純度次第で軽く億を超える値段になる。
ただ、鍛冶スキルだけじゃなくて錬金術的なスキルが必要だし、魔道展開式の武器を打てる人がほとんどいないんで馬鹿高いのが難点なんだよね。
見た感じ結構いい魔石が使われてるけど、残念ながら武器レベルは五か……。ま、普通の人間だとそのあたりが限界だよな。
「虎宮家で長年打って貰ってる鍛冶の作なの。レベル五の武器なんて滅多に見ないんだから」
「そろそろ高齢なんでおそらくそれが遺作になるだろうって言われてるな。魔道展開式を打つには体力だけじゃなくて魔力も消費するのが原因だ」
その辺りがステータスの恩恵というか、高レベルな冒険者がいろんな分野で活躍してる理由なんだよね。
冒険者登録してないと魔力なんて絶対百以下だし、どれだけ腕のいい鍛冶でもその差を覆す事はできない。
技術系のスキルは要求されるスキルポイントが多いのは、長い年月をかけて来た職人の経験値は簡単に埋められないからだろうね。
一レベル上げるのに百って異常だし。
「それじゃあこっちで打つね。材料と魔石は何を使ってもいい?」
「お任せで~。って、魔道展開式の剣を打てるの?」
「そりゃ……ね。今の俺にできない事なんてほとんど無いから」
鍛冶スキルと錬金術を発動。
材料は神銀をメインにサイクロプスの角で強化……。魔石はギガントミノタウルスの物を四つ使用。
これだけ材料を使うと鍛冶スキルが要求してくる魔力が一万を軽く超えるけど、今の俺には何でもない量だしね。
鍛冶スキルを上げてもこの必要魔力は下がらない。
しかも剣を打つには体力というか生命力も割と消耗する。
だから魔道展開式の武器に限っては純粋な鍛冶師よりも俺みたいな冒険者の方が圧倒的に有利なんだよね。
「完成!! 銘はまだつけてないけど、いい感じの魔道展開式両手剣が出来たよ」
「……ありがとう。って!! これ!! 武器レベル十なんだけど!! 攻撃力補正が一万入ってるし!!」
「展開させたら多分その倍くらい補正が入ると思うよ。それがあればこの辺りのダンジョンは余裕でしょ?」
「余裕どころか……、国宝級だろ?」
「えっと、常識の範囲内ってどこ? 武器レベルも補正値も常識が裸足で逃げ出しそうな数値なんだけど」
そこ!! 一生懸命床に落ちてる常識を探さない!!
落ちてないから!!
とりあえずこの後、蛍川先輩の魔道展開式ショートランスと魔道展開式の小型盾、桜輝さん用の魔法封入型杖を打ってそれぞれに手渡した。
魔道展開式の小型盾は全力で防御魔法を発動させると、一分くらいはどんな攻撃でも無効化させるフィールドを展開してくれる優れものだ。
で、毎回武器の説明した後に床に落ちてる常識探すのやめて貰えるかな?
あと、床にあった小さなホコリを見つけて、常識落ちてたよってのも無しだ!!
俺の常識はそんなちっぽけなホコリじゃねぇし!!
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