第四十六話 パーティを組もう!! (強制)
高難易度ダンジョンで馬鹿でかいトカゲを討伐してから少しだけ時間が経ち、今はゴールデンウイーク直前だったりする。
あの夢を見て記憶を取り戻したにも関わらず、結局俺は玲奈をパーティに誘う事も出来ずに今迄通りに桜輝さんとの二人パーティなんだけどね。
ステータスカードを発行した時に玲奈の色数を知ったけど、勇者じゃなかったから金と銀が不足してたって訳だな。
どうして四色にならなかったのかと不思議だったけど、金か銀の片方だけ不足した状態だと一色までは増やせるから勇者の条件が揃っちまうからなのか。
やっぱりそのあたりも細かいんだな……。
相変わらず毎日の様にウサギからの餌要求があるが俺は真面目に餌である野菜や果物の補給をしているし、俺も自室に小型冷蔵庫を導入してついでにいろんな果物を堪能しているぞ。
い~や、お高いメロンはやっぱりうまいね~。ビタミン類を多くとるようになったからなのか、身体の調子も良くなった気がする。
……さて、考えを逸らさずに現状を整理しよう。
今日は四月の二十八日で、明日から始まるゴールデンウイーク中に新一年生は必ず三人以上でパーティを組んでダンジョンに潜らなければいけない。
ソロがダメな理由は過去の挑戦でソロでダンジョンに挑んだ生徒の多くが大けがをしたり命を落としたからだそうだ。
仕方ないんでパーティを組もうと思った矢先、俺とパーティを組もうと言い出す奴らが大量に湧いて出た。本当に多すぎだ。
というより、パーティの誰を追い出して俺と入れ替えるかって話し合いはやめた方がいいと思うぞ。
案の定、俺に断られた後でそいつに再加入を断られて三人組のパーティが大量に発生したし、追い出された奴らは逆にいい感じのパーティに収まってるのはなんだか笑える。
あの上限突破ヒールを使えるってわかってから、何度もしつこいくらいに俺を誘って来るのは分かるよ。そりゃ、俺のヒールだったら生命力一桁からでも確実に生命力が全快するからな。そこらの奴のヒールとは安心感が違う。
色々ステの高い俺の魔法発動はかなり速い。普通だったら間に合わないタイミングでもヒールが間に合うからな。
っていうか、俺がパーティに居たらそもそも死にかける事なんてないけどね。俺がそこそこバフかけりゃ、レベル一の冒険者でも安全にそこそこ強い魔物を倒せるし。
俺のステータスがバレた訳じゃないが、一部の奴は俺が覚醒状態にある事も見抜いている。
覚醒前のステータスだとどう計算してもヒールがあの数値に辿り着かないからな。
「という訳で俺のパーティ候補なんだけど、どうして生徒会長までいるんですか?」
「元々このゴールデンウイークのダンジョン探索は生徒会が取り仕切っているイベントなの。だから、メンバーの足らない人や、レベル帯の合わない生徒は私たちがパーティを組む事も良くあるの」
「逆に生徒会長とレベル帯が合う一年が異常な気がします。どう考えてもレベル四十近くですよね?」
単色でカンスト間近の生徒とか、本当に条件が絞られそうだ。
単色でも入学してから半月ほどでそこまで上がる奴はいないだろうけど。
「わたしもパーティが組めるレベル帯です。もう三十五まで上がりましたので」
桜輝さんにはマジレベリングの時以外にパーティを組んでもいいといったけど、俺がカンストしてるのでレベル上げって言い訳はできなくなった。
だから先日、配信を手伝ってくれるんだったらパーティを組んでも良いって話をしたんだ。身バレ防止の意味で桜輝さんには巫女さんの格好をして貰うけどさ。顔は猫のお面で隠してるし。
嫌がってパーティを組むのを諦めるかなと思ったんだけど、割とノリノリで巫女さん姿で配信に協力してくれた。
配信での反応も、俺よりも巫女姿の桜輝さんを映せってコメントで溢れているくらいだ。
「うちのパーティに入ってほしかったところだが、小谷野がなかなか抜けてくれなくてな。それに桜輝も一緒という事だと枠が足りない」
「本当に真ちゃんと友達だったのね。でも、神崎君は譲らないわよ」
「おい、取り合いってどういう意味だ?」
「あの二人、割と言い争ってるけど怪しいと思ってたのよね……」
イカン!! なんか腐りかけた奴らが根も葉もないうわさを流そうとしてやがる!!
あの手の話は最初に否定しとかないと後が大変だ!!
「んな訳ないだろ!! 俺はパートナーは女性がいいと思ってるぞ」
「うわ、言い切りやがった!!」
「だからパーティ候補が女性だけなのか!!」
……まずい。今度は別方向に悪い噂が広がり始めてる。
って言っても、最初パーティを組んでくれなかったのはこいつらなんだけどな。
もしあの時組んでて俺がレベル二に上がるまで気長に付き合ってくれたら、今頃一緒にパワーレベリングでカンストしてただろうに。
「別に俺は楽しくダンジョンの攻略が出来ればいいのさ。邪魔をされないってのが一番デカいけど」
「眩耀の実力から考えれば当然よね。実力不足の仲間なんて、眩耀が利用するだけされて終わりだもの」
「……名前呼び?」
「桜輝さんの言う通りだね。信頼できる仲間にだったら色々と手を貸してもいいんだけど」
俺はあくまで名字で呼び続けるぞ!!
いや、桜輝さんはホントに可愛くて美人だしいい子だと思うよ。
ただね、絶対ヤンデレ気質があるというか、思い込みの激しいタイプだと思うんだ。
にっこり微笑むとは別の感じな笑い顔も何度か見てるしな……。
「これだけの冒険者を奪い合うのは珍しくないからね~。あ、わたしの事は姫華って呼んでね。苗字だと呼んでるのが真ちゃんかもしれないでしょ?」
「生徒会長じゃダメですか?」
「ん~。夏の生徒会長選挙が終わったらどうするの? 流石に次は二年の誰かが生徒会長だよ?」
そうなんだけどね。
言われてることは一々正しいんだけど、こっちにも心の準備が……。
「虎宮。同級生の義兄さんが出来そうだぞ」
「桜輝さんとどっちが勝つか……」
外野は好き勝手に言ってくれる。
確かに、学生時代から一緒にパーティを組んでた冒険者の結婚率は高い。
そう、本当に異常に高いんだ。冒険者養成高校が将来有望な相手との婚活会場なんて噂まで飛び交ってるしな。
というか、ダンジョンっていう命がけの戦場で生活していると、相手のいろんな面は見えるしいざって時にどういう行動をとるのかがはっきりとわかる。
仲間を見捨てようとしたり、高額なドロップがあった時に態度が豹変したりと相手のダメな面を見るには本当に冒険者は向いてるんだよね。
だからゴールインした後の離婚率は限りなくゼロだし、離婚理由はほぼ死別って話まである。流石にそれは仕方がないよな。
記憶を取り戻した訳だし、俺は本来玲奈一筋だった筈なんだけど……。こんな状況になると、なかなかアプローチできなんだよね。
「ゴールデンウイーク中に初心者ダンジョンの攻略と、もう一ヶ所くらいしか計画してませんからね」
「え? 狙ってるのは高難易度ダンジョンじゃないの?」
「わたしもそう思ってたよ。今更あそこに何か用でもあるの?」
身バレする可能性があるから、この学校が管理してる初心者用ダンジョンと超過疎ダンジョンは配信できないんだよね。
だから今後行く機会がない初心者用ダンジョンを攻略しておきたかったんだけど……。
「別にドロップとかに期待してる訳じゃないし、どうせだったらこの機会に攻略しておこうかなって……」
「……という事は神崎はあのダンジョンを余裕でクリアできるだけのステータスがあるのか?」
「嘘だろ、入学してまだ半月だぞ。あそこ初心者用と呼ばれているけど、レべル四十台の冒険者でも下手すりゃ命を落とすんだぜ」
……そうだったね。
俺の場合は確実に余裕だけど、普通の新入生はあのダンジョンを攻略できるだけのステータスに達してないんだった。
あと半年もたてば虎宮や桜輝さんはソロで攻略できるようになるかもしれないけどさ。
確実にこの二人は色増やして覚醒まで行けそうだし。
「俺は今回は諦める。姉さんに譲るよ」
「真ちゃんありがとう♪ ……うちのパーティの重騎士の子も組みたがってるんだけど、今回はそこのあなたも入れて四人パーティって事で妥協しない?」
「……仕方ありませんね。今回はそれで手を打ちましょう」
「俺も異存はないですよ。細かい話し合いは明日でいいですか?」
どうせ初心者用ダンジョンの攻略なんて一日で終わるし、どんな装備で行くのかとか色々聞いておきたい。
後は装備関係の問題もある。
高難易度ダンジョンで何階か焼き尽くした時に入手したアイテム類を使って防具や武器を作ってもいいし、錬金術を使ってポーションとかを作っておいてもいい。
即死防止用の装備品とか、色々作れるものはあるしね。
「了解。話し合うのは何処にする?」
「面倒が無くていいのは初心者用ダンジョンなんですけどね。あそこでしたら鍜治場もありますし、レンタルスペースもあります」
「そのまま潜った方が早い気がするんだけど……」
「準備は必要だと思うんだ。油断して万が一が……」
「無いよね?」
「あると思う?」
「そりゃそうですけど」
万が一どころか億にひとつすらあり得ない。そう、無いに決まってるけどさ~。
あのダンジョンで沸くどんな魔物に囲まれたとしても、確実に切り抜けられるし。
というか、囲まれる事がまずない。魔物の方が逃げるだろうから。
でもね。
「あのダンジョンがうちの学校の管理下にあるとして、それでもダンジョン犯罪者の存在とか不安要素はある訳ですよ。その対策というか、準備もね」
「そういう事か~。確かに必要かもね」
俺が幹部の一人を倒したっぽいから組織内で何か動きでもあったのかもしれないけど、ここ最近ダンジョン犯罪者による被害が急に増えた。
増えたダンジョン犯罪は比較的模倣犯の多いトレイン。
それとダンジョン内で行方不明になる冒険者の幾らかが攫われているんじゃないかって噂だ。
ダンジョン内で死亡事故なんてよくある事なんで、その中のどれくらいの比率でダンジョン犯罪が起きているかなんてわからないんだよね。
「ダンジョン犯罪者を見つけたらまず自首して裁きを受けるかどうかの確認、それで拒否れば仕方が無いから倒すしかない」
「いきなり攻撃しないだけ有情よね~。殺しても罪には問われないのに」
「ここは法治国家ですからね。無法地帯のダンジョン内でも犯した罪を償う意志さえあれば尊重しましょう」
「そんなものがあったらダンジョン犯罪になんて手を出してないんじゃない?」
そりゃそうなんだけどね。
その辺りはこっちの心情的な物だから。
最終的にそいつらを殺す事になってもさ。
「詳しい話し合いは明日初心者ダンジョンの一階で。あ、とりあえず今日のところはメッセージコールに連絡先の登録を……」
「そうですね、それでお願いします。登録完了」
「わたしも登録しました。それじゃあ、またね」
メッセージコールってのはスマホのアプリの一つでかなり使い勝手のいい連絡手段の一つ。
細かい設定も可能で、ダンカを登録して買いものなんかもできるって話だ。
っという事で、色々あった波乱のパーティ編成は何とかなった。
成り行きとは言え、他のクラスメイトと潜るよりはかなりマシなパーティになったんじゃないかと思う。
ただ、レベル三十台半ばだとそう簡単にレベルは上がらないだろうな。
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