第四十四話 封印されていた記憶……その一
この話から第二章となります
楽しんでいただければ幸いです
夢を見た……。それも割と懐かしい頃の夢だ。
最初に現れた俺は本当に小さな子供で、目の前に若い頃の親父がいるから多分五歳くらいだろう。今の親父は髭をもっさもさに生やしているから見る影もないけどさ。
というか、この頃からなんだよな。親父が『男には誰かを守らなければいけない時が必ず来る。だから今日から俺が稽古をつけてやろう』なんて言い出して俺を鍛え始めたのは。
ありがたい事に子供に対する配慮位は持ち合わせてくれていたからそこまで厳しい訓練じゃなかったけど、剣術とか格闘術まであったのは俺が冒険者になる事を見越していたのかもしれない。
ちょうどその頃、俺は近所に住む親子と交流を始めた。
同い年の舞秦玲奈とその親父さんの雄三さんだ。雄三さんの奥さんの舞莉愛さんも冒険者だったらしいけど、単独で依頼を受けてた時に行方不明になったらしい。
「僕は神崎眩耀。よろしく」
「わたしは玲奈。よろしくね」
玲奈との出会いで親父の特訓が一段階きつくなった気がするのはたぶん気のせいじゃない。
今だったらその理由がよくわかるし、もしあの時、親父が俺かわいさに特訓の手を抜いていたら生涯恨んでいただろう。
誰かを守らなければいけない時。その時に無力な事を死ぬほど後悔しただろうからな。
親父は元々雄三さんと交流があったそうで、冒険者時代には他の二人と組んでパーティで活動してたらしい。というか、その二人が雄三さんの奥さんの舞莉愛さんとうちのお袋だよ。
そのパーティはいろいろ伝説を残してるらしいけど、その時のパーティ名や活躍に関しては絶対に話してくれなかったけどな。お袋もね。
ある日、雄三さんは世界に一人しかいない勇者ってクラスについてる凄い人だって聞いた。
世界に一人だけか……。凄いよね。
だけど俺はこの時、世界にたった一人だけのクラスって言葉の意味と重さを欠片も理解しちゃいなかったんだ。
◇◇◇
気が付くと夢の中の俺は玲奈と出会って三年が経過した頃の姿になっていた。
親父の特訓も次第に武器を使う事が増え、明らかに冒険者としての経験値をあげようとしているのが明らかだ。
ステイタスカードが無いからレベルアップする事もなければスキルを覚える事もないけど、その経験は確かに俺の中に積み上げられていた。
この特訓で超人的な能力を得る事はできないけど、親父は俺や玲奈にステータスカード発行時の色数は十五歳までにどれだけ自分を成長させたかで決まるとか言い出した。
そういえば、この時の玲奈は雄三さんが鍛えてるんだったっけ? 結構きつい特訓だって聞いてたけど……。
「玲奈ちゃんの色数はもう決まってるんだけどな」
「聖!!」
「いいじゃないか。玲奈ちゃんも八歳だ、そろそろ覚悟を決めておいた方がいい」
「しかし……」
「力を持つ者の宿命だ。勇者の力と使命。それは軽い物じゃない」
「えっと、俺の色数も決まってるの?」
「最終的にはおそらく決まっているだろう。ステイタスカードが最初何色かはそれまでの行いで決まるが」
この時は最終的にはって言葉の意味が分からなかったが、おそらくこの時から俺が灰色のステイタスカードを得る事は確定してたんだろうな。
親父は俺がステータスカード発行後に苦労しないように、五歳の誕生日を迎えたあの瞬間から出来る限りのことを叩き込んでくれた訳だ。
おかげさまで今はおそらく世界最強の力を得ちまったけどな。
「わたしの色数は何色なの?」
「五色だ。世界でもステータスカード発行時に五色持つ者は限られているんだがな」
「五色……」
「もし玲奈が五色の力を引き継いだ時は、白、赤、黄、銀、金の五色だろう」
「銀と金ってすっごくレアな色じゃないの? 二色とも揃ってるなんてすごいよね!!」
「それが条件なのさ。世の中には何故か増色の魔石を使っても混ざらない組み合わせがある。赤、青、黄の三色全ての組み合わせと白黒二色の組み合わせだ」
基本五色の色付き三色と白黒二色?
どうして混ざらないんだろう?
「白黒二色や赤、青、黄の三色は特定のクラスを引く予定の奴には現れる事がある。今では誰が言い出したのか知らんが、最凶の不遇色と呼ばれている灰色さ」
「灰色?」
「そう、灰色だ。世界のバグではあるんだが、艱難辛苦を乗り越え光を掴む者にのみ与えられる色でもある。多くの若者はその意味を理解せず、道半ばで挫折するがな」
「眩耀。お前は必ず覚醒するまで苦難の道を乗り越えろ。お前の求める力は間違いなくその先にある」
「覚醒?」
「その言葉の意味は自分で調べるか、その場所まで自らの力で到達しろ」
つまり、親父はステータスカンスト時のその先に覚醒がある事を知っているし、もしかしたらその先があるのかもしれないって気が付いてた可能性まである。
覚醒の先に待っているのは神域。
神の領域、人ならざる力。実際今の俺が全力で力を振るえばどんな物でも破壊できるし、下手するとこの星そのものも破壊してしまうかもしれない。
世界で最強に威力のある核弾頭の攻撃力が百万くらいって話だしな。
俺はバフ込みでよければ攻撃力を数百億まで引き上げられる。引き上げる途中で脳内にうるさいくらいに警告が流れるし、聞き覚えの無い優しい声が力の行使の中止を勧めて来るけどね。あの声、いったい誰なんだろう?
「実はな。三色以下はステイタスカード発行時までの行いに応じて割とランダムなんだが、四色以上のステイタスカードを得た者のクラスは初めから決まっているんだ」
「固定なの?」
「運命に選ばれたというか、力を得た代償を押し付けられたというか……」
「四色持ちは英雄、姫騎士、大賢者、剣聖、覡。この位か?」
「そうですね。三色に聖女が出る事がありますが、極稀に覡に化ける事があるそうです。それに四色には竜狩人もいますよ」
「そういえばいたな……。竜種特化の特殊クラス竜狩人」
一度ステイタスカードに表示されたクラスのチェンジは無いって聞いてるけど、変わる事があるの?
もしかして、聖女だけ?
「それは元々覡の器を持つ者が何らかの原因で聖女にしかなれなかったからだろう。色が足りない理由も努力不足や心因性な原因もあるらしいし理由は様々だ。色を増やせば自動的に覡に上がる」
「クラスチェンジなんてあるんですか?」
「聖女だけだな。その下の巫女を引いた場合、二段階上がる事は無い」
「そして五色だが、最初から五色を持つ者は勇者か魔王のどちらかだ」
「え? でも勇者は世界に一人……」
「そうだ。だから既に勇者が居れば五色持ちは出てこない。色を減らされた状態でステータスカードが発行される。そして色数に応じた勇者以外のクラスを得る事になるだろうな。だいたいそれが四色持ちなんだ」
勇者は雄三おじさんがいるから現れない。
だから四色持ちまでしか出てこないのか。
「勇者と魔王には金と銀交じりの五色が必ず割り当てられる。それと、勇者は白、魔王は黒を持つ事も確定だ」
「それもう、最初から全部決まってませんか?」
「混ざらない色があるから、基本七色の中で五色の組み合わせはそこまでないしな。それが勇者と魔王に与えられた色だ」
確かにそこまで組み合わせは多くない。
勇者は白・金・銀が確定で、赤と黄、赤と青、青と黄の三パターンだけだ。
魔王も黒・金・銀が確定で、赤と黄、赤と青、青と黄の三パターンだけ。
「頭の中で組みあわせ考えているんだろうが、勇者と魔王に青と黄の組み合わせは無い。だから二パターンずつって事だな。男の場合、白、赤、青、銀、金で、女性の場合は白、赤、黄、銀、金なんだ」
「もう決まってるんですね」
「そういう決まりらしい」
誰が決めているのか知らないけど、最初から決まっているのは面白くないな。
勇者は分かる。雄三おじさんは勇者って事だし実在してるからね。
でも、魔王って何?
そんなクラスについてる人がいるの?
「あの魔王って……」
「その話はまだ早い。もう少し力を付けて、本物の冒険者になった後で教えてやろう」
「わかりました……」
俺が魔王の存在を知ったのは確かこの時だ。
ネットで調べてもゲームに出てくる魔王や神話に出てくる魔王の情報は山ほど出て来るけど、実際に存在する魔王の事には何一つ書かれていなかった。
この時、魔王の存在を知っているのは親父と雄三さん。それと、親父たちのパーティメンバーの二人だけって事だ。
親父たちがどうやって魔王の存在を知ったのかは不明だけど、ダンジョンには色々な謎があるって事をこの時に知った……。
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