第四十三話 ダンジョンに潜む闇の正体
この話で第一章が完結となります
明日から第二章を投稿しますので、引き続き楽しんでいただければ幸いです
サイド、ダンジョン犯罪者結社、死と快楽の使途。
ダンジョンが世界に開放された瞬間、新たな組織が数多く産声を上げた。
人あるところに犯罪あり、人の欲望は留まる事を知らず新たな刺激や体験を求めてそしてやがて闇へ足を踏み入れる。
なぜダンジョンがこの世界に出現したのか、何故全世界で一斉に解放されたのか。それすら考えもせずに……。
ダンジョンで犯罪を犯す組織は幾つかある。その多くは有象無象のチンピラに過ぎないが我々はそれらとは一線を画している。
わたしはダンジョン犯罪結社【死と快楽の使途】幹部、人形遣いマリオネット。
その正体は魔族で、我々魔族の存在を知る者は少ない。
我が組織には多くのダンジョン犯罪者が集っている。皆有能で高いステータスを誇る魔族だ。
高い筋力と速力で多くの魔物を引き連れ冒険者を地獄へ誘う、魔列車トレイン。
バジリスクやコカトリスなどをはじめとする魔獣と魔毒を駆使して人を宝石や彫刻に変える、美術商トレジャー。
様々な毒を使って冒険者が苦悶の表情で最期を迎える瞬間を配信する、死の毒使いシアター。
そしてこのわたし。パペットやドールといった人形型の魔物を使って冒険者を追い込み、そして絶望の底に叩き落して命を絶つ最強の人形遣い、マリオネット。
今日は姿を見せていないが、大邪竜ファフニールを封印した魔石まで持つ最強の魔獣使いティム。
この五人の幹部で構成された世界最高の犯罪結社、死と快楽の使途。
意外な事に表の世界の人間も私たちのシンパが多い。
シアターの配信を見ている者や、トレジャーから人で作り上げた美術品を買い上げる者もいる。
当然彼らは我々に協力的だし、ネットにも流れないような様々な情報を我々にもたらしてくれる。
◇◇◇
今日信じられない情報が我々の耳に入った。
「魔獣使いティムが冒険者に討たれただと!! 奴は知力五百を誇る覚醒者だろう?」
「しかも今回は大邪竜ファフニールが封印された魔石まで使ってこの様だそうだ」
「大邪竜ファフニールを倒せる冒険者がいたのか? そっちの方が驚きだぞ」
「それに関してなんだが……、この配信を見てくれ」
最近人気の虎姫とか言う小娘か。
こいつらに大邪竜ファフニールを討伐できる実力があるとは思えないが……。
「ギガントミノタウルスの群れを相手に苦戦してる冒険者が大邪竜ファフニールを倒したというのか?」
「いや、続きがあるから見てくれ」
「続き?」
大邪竜ファフニールが指先ではじいた岩で虎姫たちを弄ぶ。
直撃した女騎士は即死は何とか避けたが、おそらく後一撃でも食らえばその生を終えるだろう。
この状態からこいつらが助かる展開があるのか?
いきなり画面に派手な着物を着て菅笠を男が姿を現した。
「……なんだこのふざけた奴は?」
「こいつが問題の菅笠侍です。観ていてください」
「なっ!! 一瞬か?」
おかしな格好の男が刀を抜き、そして僅かに一刀で大邪竜ファフニールの首を斬り落とした。
こんなことはあり得ない。大邪竜ファフニールの防御力が幾らだと思っているんだ。生半可な武器ではかすり傷もつかないというのに……。
「大邪竜ファフニールを失った事は理解した。で、肝心の魔獣使いティムの映像は?」
「ありません」
「ないだと?」
「はい。この後高難易度ダンジョンの五階でこの男と遭遇したようでして、同胞が駆け付けたところ転移ポーター近くにこのような跡が……」
異常に平らな床に赤黒い染み。
魔獣使いティムを魔法で倒したというのか?
「グラビティブラストで魔獣使いティムを倒したと?」
「状況から判断しました」
「あの男の魔法防御力は八百を超える。覚醒もしていない冒険者の魔法なんて通用する訳がないだろう」
「だからおかしいのです。この映像をよく見てください」
「……なるほど。もし仮にグラビティブラストを使ったとすればあまりにも範囲が狭すぎる」
グラビティブラストの効果範囲は半径五十メートルほど。
こんな狭い範囲だけ魔法の効果が及ぶなどあり得ない。
「ははぁ、低知力冒険者が狭い範囲限定のグラビティブラストを編み出したか。その為に威力が増したと考えてもおかしくはないな」
「おそらくそんなところでしょう。この男が魔法を創造できるレベルなのが問題ですが」
「何処かで運よくスクロールでも手に入れたんだろう。アレがあれば色スキルなしでも魔法を覚えられるからな」
忌々しいダンジョンの宝物。
我らも利用しているが、こんな形で足元をすくわれる事もある。
まったく、厄介な存在だ。
「大邪竜ファフニールの魔石を失った件ですが……」
「ここまで派手に配信されては隠す事などできまい。それに奴が居なければあの魔石を使いこなせるものはいない」
「では、他の魔物が封印された魔石は幹部で分配いたします。それで、この男ですが……」
「様子見だ。まずは情報収集。もし討伐できる相手であれば、同胞の仇くらいは討ってやらねばなるまい」
問題はこいつも覚醒者だった場合だ。
どこまでステータスをあげているかは知らないが、一万を越えている事は無いだろう。
ダンジョンは闇に満ちている。
我々の存在もそうだが、ダンジョンそのものがな……。
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