第十二話 ダンジョン犯罪者
サイド???
ここは中国地方のあるダンジョン。
過疎ダンジョンとまで言われないけど、攻略難易度がそこそこ高いから幾つかのパーティが常にレベルアップや素材集めに利用している場所。
わたしたちのパーティも今日このダンジョンで素材集めとダンジョンキャンプの配信をしている。いや、もうすでにいたといった方がいいかな?
わたしたちの配信も、他のパーティのライブ映像も既にネットには送られていないし流れてもいない。
最近ダンジョン犯罪者の活動が活発になってるって聞いていたけど、まさかこんな辺鄙な場所にあるダンジョンにまで進出してきてるとは思いもしなかったわ。
「きゃぁぁぁっ!!」
「防げ!! どうにかして転移ポーターまで逃げ切るんだ!!」
「それはさせん。追加の魔物だ、ありがたく受け取れ」
「くそっ!! このトレイン野郎!! ロックブラスト!!」
「これだけの魔物の壁を抜ける訳ないだろう。ここで無様に死ぬがいい」
遠くから悲鳴が聞こえて来る。
その後の会話は聞き取れなかったけど、おそらくあのトレインって奴がまたあのパーティに魔物を擦り付けて来たんだろう。
彼らが逃がしてくれなければ、わたしたちもあそこで死んでいたかもしれないわ。
悔しいけど今のわたしたちには打つ手がないの。
わたしたちの撮影用ドローンはジャミングされてもう映像をライブ配信していないわ。
犯罪の証拠も残せないし、何よりこんな状態だと救難信号すら送れない。
「恵海!! トレインの奴は引き離した?」
「えっと、魔物の群れは見当たりません。索敵でも見つかりませんし……」
「逃げきれたの? 他のパーティが幾つか巻き込まれたみたいだけど」
「向こうのパーティはもうあきらめた方がいい。おそらく……」
トレイン。
ダンジョン内で速度と筋力を生かして魔物を集め、そして大規模魔法で一気に殲滅する作戦を模倣したダンジョン犯罪。
普通は集めた者が殲滅する魔物を他の相手に擦り付け、そして最終的には死に至らしめる最低な奴。
最初に始めた奴らはダンジョン犯罪結社か何か知らないけど、今ではそれをマネして気に入らない冒険者や自分たちより人気の配信者を殺したりする冒険者もいる。
命が軽くなったというか、簡単に人を殺せるような冒険者が増えたのは本当に危険な傾向だと思うわ。
「ダンジョン犯罪者。生きて戻ったら必ず通報してやる」
「警察が動いてくれるかな? ここはダンジョンの中だし」
「そのあたりは法整備があまり進んでないのが問題よね。元々魔物と命の取り合いをする戦場だし、誤射やフレンドリーファイアなんて日常茶飯事だから」
範囲魔法で仲間を巻き込むこともあるけど、一番厄介なのが他の階から移動してきた冒険者がメキドなんかの範囲魔法に巻き込まれる事なんだよね。
だからポーター狩りは禁止されてるし、ポーター周辺で高火力な魔法を使う事は歓迎されない。
ダンジョン犯罪者はそれが分かっててポーター周辺でトレインとかを仕掛けて来るのよね……。
「大丈夫? トレインに待ち伏せされてない?」
「このダンジョンは転移ポーターの数が多いから大丈夫だと思う」
「転移ポーターの少ないダンジョンは危険だしね~」
他の冒険者の待ち伏せというか、下層から上がってきた冒険者を狙う冒険者も存在するのよね。
疲れてるっていうか、下層を探索する冒険者はアイテムとかを割と使い切ってるからやり方次第で低レベルの冒険者でも倒せる場合があるし……。
大体どのダンジョンでも転移ポーターは複数存在するし、転移した先が行き止まりなんて事も良くある。
だから知らないダンジョンを攻略する時はまずマッピングからって言われてるわ。
どこかが管理してるダンジョンの場合、最初に地図を渡されるって話もあるけどね。
「この先を抜けたらあまり知られていない転移用ポーターがある。転移先も多分大丈夫」
「流石恵海。ホントいろんな情報を持ってるわよね」
「冒険者は情報が命だから。あまり知られていないポーターの位置はホントに貴重」
その情報はこういう非常時に本当に役に立つ。
普段のダンジョン攻略でも時短に役に立つけどね。
逃げきれた、そう思っていた私たちの目の前に現れたのは転移用ポーターと一人の女性冒険者だった。
信じられない位にかなりの軽装っていうか、ダンジョンでよく無事だったって姿なんだけど。
「あの。トレインするダンジョン犯罪者がいますので、あなたも早く逃げた方がいいですよ」
「あら? トレインもいたの?」
「……あなた。何者? ダンジョン犯罪者だったらここで……」
魔法使いの瑛梨奈が杖を構えた。この女の人も奴らの仲間なの?
確かにこんな所に一人でいるのはおかしいけど。
「あらあら、怖い目をするのね。でも、これで動けなくなったわ」
「っ……」
「からだが……」
女の瞳が怪しく光り、それを見た私たちは身体が痺れたように動けなくなった。
あんな魔法は知らない。
もしかしてコンタクト型のアイテムか何かを装備していたの?
「闇魔法の一つ、拘束の魔眼。ここで私の物に変わる貴方達には特別に種明かししてあげるわ」
「やみ……まほう?」
「それは単なるうわさじゃ……」
特殊なスクロールで覚える色系スキル以外の魔法。
身体に悪影響がある上に、馬鹿みたいな魔力を使うって聞いているけど……。
「物知りなのね。さて、そろそろ始めるわよ」
「いったい何を……」
「そうね……、まずは静海瑛梨奈さんだったかしら? あなたからよ」
怪しい女は瑛梨奈に近付いて、そしてゆっくりと顔を……。って!! あれ、キスしてない?
……何かおかしい。キスしているっいてよりは、何かを飲ませてるような……。
あ、ようやく離れた。
「うぁ……、あ……、いやっ……」
「えり……な?」
「うそ!! こんなのって……」
瑛梨奈の身体が透き通り、薄い水色の宝石へと変わっていく。
魔物にも石化や宝石化の魔法や毒を使って来る奴が居るって聞いているけど、まさかこの女……。
「宝石化。人を宝石に変える素敵な魔法よ。どんな宝石に変わるかはその人次第ね」
「人殺し……、こんなに簡単に……」
「あら? 貴方は殺して欲しいの? 宝石化は変化系の闇魔法。体は一時的に宝石に変わるけれど、解呪されれば元に戻るわよ」
宝石に変えられるけど死なないで済む。
そこから助かるかは運だろうけど、この場で殺されれば間違いなくそれで終わり。
あまりにもひどい二択だけど……。
「宝石に変えられる方が……いいです」
「あなたは細川恵海さんね、物分かりが良くて助かっちゃう。もう少しかわいい顔で宝石像に変わってくれると嬉しいわ~」
「んっ!! ……ぁ」
恵海は覚悟を決めてあの女の唇を受け入れ、ちょっと無理をしているような笑顔でその体を薄い緑宝石へと変えた。
ここで死ねばダンジョンに吸収されて骨も残らない。
それを考えれば一時的な屈辱なんて幾らでも受け入れられるわ。
「次はあなたね。柿村中暁美さん」
「クッ……」
暁美はこの期に及んでまだ抵抗をきらめていない。
反抗的な目をの女に向け、そして何一つ抵抗らしい真似もできずに身体を紫色の宝石へと変えた。
「お待たせ。貴方で最後よ江利川椎奈さん」
「んっ!! ……ぁ」
身体から力が抜けていく。
頭がぼぉっとして……。
何も……考えられなく。
◇◇◇
私の前には美しい宝石像が四つ並んでいる。
ここがダンジョン内でなければ、色々と楽しんだ後で宝石に変えてあげたんだけど……。
「とりあえずこの子たちはダンジョンリングに収納。もう人じゃなくて物だからインベントリに収納出来るのよね」
そう、後で来ている服を剥ぎとって、余計な物を纏わない格好で飾ってあげるわ。
魂の籠った美術品。これこそが最高の芸術品よ。
「私が飽きたら売りに出してあげるわ。その時は元に戻れる可能性があるわ」
わざわざ宝石化した女性を買い取って解呪する物好きはいない。
永遠に人から人へと渡り、美しい宝石像として飾られ続けるのよ。
今までの子たちと同じように……ね。
「あやうくトレインにこの子たちを殺されるところだったわ。あの馬鹿にはよく言っておかないと……」
ダンジョン犯罪者同士でも仲が悪い者もいる。トレインなんて駆け出し冒険者でもマネできる雑なダンジョン犯罪だわ。
美しさの欠片も無い。
わたしは魔族にしてダンジョン犯罪者のひとり、美術商トレジャー。
魂の籠った美術品を生み出す者。
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