第十一話 初日の成果とレベルアップの恩恵
サイド虎宮真治。
ダンジョン名物の雑魚ゴブリン。たかがゴブリン、されどゴブリン。おそらく全世界で冒険者を一番多く殺している魔物はこのゴブリンだろう。
数多くのダンジョンの二階に出没し、集団で冒険者を襲う狡猾な魔物だ。
そんなこともあって冒険者が一番最初に遭遇する事が多い魔物だが、雑魚だと舐めてかかって返り討ちに遭うケースは後を絶たない。
レベル一の時は冒険者と言っても何のスキルも無い。なのに配信なんかを見て冒険者である自分が強いと思い込んで、無謀な攻撃に出てそこで人生を終わる。
悪趣味だが、そのあたりを飛んでいる自立型中継用ドローンなんかで流されるプチっと配信なんかがいい例だ。
木の陰に隠れていたゴブリンが姿を現した。こいつらはダンジョンの魔力によって湧いて出てきた訳じゃない。すでにどこかで発生した個体だが、木に隠れる程度の知恵はあるって事だ。
「来たぞ、初心者ダンジョン名物ゴブリンの群れ。見た感じメイジ系はいないようだが」
「地下二階に魔法を使うゴブリンも出るの?」
「出るぞ。だからレベル一の時は特に警戒する必要がある。俺達の生命力も低いしな」
厳密にいえばレべル一の状態は冒険者とはいいがたい。
ステータスカードを発行しているが、ただそれだけで魔法が使える訳でも強力なスキルを保有している訳でもないんだ。
分かりやすく言えば、お前の今の能力はこれだと分かる状態になっただけといえる。
今の俺のステータスはこんな感じだ。
◆◆◆
【名前】 虎宮真治
【性別】 男
【種族】 人間
【レベル】一
【クラス】
生命力 二十九/二十九
魔力 三十三/三十三
筋力 十二
氣力 七
知力 十二
賢力 十一
速力 十
運 十
【次のレベルまでの必要経験値】六十
◆◆◆
魔力が神崎より低いのはおそらく運のせいだろう。
俺の初期能力値も低い訳じゃないんだがな。
「俺がこの剣で真っ二つにしてやる!!」
「まて小谷野。下手に飛び出せば死ぬぞ!!」
「え? あっぶねぇ!! この矢、何処から飛んできた?」
「あの奥!! あそこに弓を構えたゴブリンがいるわ!!」
「なんだよそれ!! こいつらは冒険者に狩られる雑魚じゃないのか?」
まずこの認識が間違いなのさ。
魔物は恐い。レベル一の俺達程度は油断するとすぐに命を落とすくらいには。
小谷野と同じ考えでダンジョンに潜って、今日冒険者を辞める羽目になる奴がいったいどのくらいいる事やら……。
「魔物を舐めると死ぬ。これはゲームじゃないんだ」
「そういう事ですね。私も子供の頃から何度もそう教わりました」
「世間一般じゃそういわれてないだろ。ネットじゃ配信する冒険者で溢れてるぜ」
「その配信者の陰に隠れて魔物に殺されてる冒険者は、その何倍も溢れてるよ」
意図的に流してるんじゃないかって思えるくらいにはな。
確かにダンジョンの出現によって魔法が使えるようになり、金さえ出せば四肢の欠損でも治せるようになった。
ダンジョンで見つかった植物を使った回復薬もあるし、今までは治療できなかった病気なども治るようになったがダンジョン製の薬を治療に使うには様々なハードルがある。
薬として正式に許可が出てる訳じゃないから病院などの施設では使えないし、支払い面でも保険も使えないので当然高い。
ダンジョン一階にある治療所なんかでは使っているみたいだが、効果が高い薬は平気で何千万もするそうだ。
「なんだよそれ。話が違うんじゃないか?」
「そんなモノだ。大体冒険者がそんなに美味しい職業だったらもっと志願者がいるし、この辺りにうち以外にももっと冒険者を養成する学校がある筈だろ? 全国的にはいくつもあるとはいえ、この辺りの規模でうちくらいっておかしいと思わないか?」
「今はそんな話はいいから。このゴブリンを倒さないと」
「そうだったな。奥のアーチャーを何とかできないか?」
「矢を警戒しつつ、手前の奴から倒すしかない。多少はダメージを喰らうだろうがな」
急所はカバーしているが、レベル一で頭に矢を喰らえば生命力がどれだけあっても致命傷だ。
ステータスを上げると防御力も上がる、極端な話だが氣力を百まで上げた場合、相手がゴブリン程度では目に矢を受けてもダメージが入らないと聞いた。
やはりステータスがすべてって事だな。
「くそっ!! 一回斬り付けただけじゃ倒せねぇ」
「当たり前だ。俺たちはまだレベル一だぞ!!」
「運がいいとクリティカルで一撃なんですけど」
神崎クラスだとほぼクリティカルだろうな。
あいつの運はおかしい。
そこに気が付いてレベルアップ時に運に振る可能性もある。そうすればクリティカルで戦闘面ではかなり有利になる筈だ。
それに運が高ければレベルアップ時にステータスポイントにボーナスが入るらしい。微々たる量という話だが……。
「この群れを何とか倒すしかない。回復薬も持ってきたから多少の傷は治る」
「流石虎宮。用意周到だな」
「私も持ってきていますよ。ダンジョン探索には必須ですし」
「わたしもです。お父さんが比較的マシな物を選んでくれましたので……」
「悪いが俺は持って無い。アレでかなり高いからな」
俺や唯奈が持ってきた回復薬でもひとつ数万する。若葉マーク付きの初心者冒険者が気軽に使うには高すぎるからな。
俺より二歳年上の姉さんが使ってるのはひとつ百万以上する回復薬だが、姉さんくらいまでレベルが上がると俺の持ってきた回復薬なんて気休めなんだそうだ。
だから家にあるこのクラスの回復薬は俺が全部使っていい事になっている。
舞秦の言っていた比較的マシってのは味の事だろう。酷い回復薬は飲むのが苦痛だって話だし……。
「まずレベル二にあげる事が最優先だ。このままこいつらを倒すぞ!!」
「了解!!」
レベルが上がるまで唯奈達は殆どあてにならない。
魔法が使えるようになれば違うんだがな……。
◇◇◇
ゴブリンを狩り続けて何とか全員最低でもレベル三になった。
今現在の俺のステータスはこんな感じだ。
◆◆◆
【名前】 虎宮真治
【性別】 男
【種族】 人間
【レベル】三
【クラス】魔剣士
生命力 四十一/四十一
魔力 四十三/四十三
筋力 二十一
氣力 十
知力 十七
賢力 十六
速力 十五
運 十
【次のレベルまでの必要経験値】百三十五
◆◆◆
俺のクラスは魔剣士で、クラスレベルをあげられれば魔法と剣の両方にボーナスが付く中位クラスだ。
上位クラスでなかったのは残念だが、魔剣士は割と当たりの部類だしな。
このクラスに関しては転職もできなければ再取得もできない。一発勝負の運試しだが中位以上を引けば冒険者として何とかやっていける。
最悪なのは単色下位クラスと呼ばれているが、色に関してはかなり運が良ければ二色に増やせる可能性はある。かなり金がかかるし確率は低いけどな。
二色の小谷野は既にレベル五だが、おそらくステータス的には俺の方が上だろう。
レベル三位あがった時にどうやらピンゾロが出たっぽいしな。
「今日はこの位で引きあげるか……」
「ごめんなさい。私がいるから……」
「いや、今日は最初という事もあって俺も結構疲れた。生命力が回復しても、疲れまではとれない。おかしな話だ」
「そのあたりは本当に謎だ。生命力が何を指すのかもな」
ゼロになったら死ぬ数値。
生命力について分かっているのはその位だ。
そういえば神崎の姿を見かけなかったが、あいつは別のダンジョンに行ったのか?
低レベルの過疎ダンジョン。安全にレベルを上げるんだったらありなんだがあそこはあまりにもわきが悪いって噂だしな。
ここ十年位はあのダンジョンに誰も潜ってないんじゃないか?
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