第百七話 神の力を得た存在
魔界の神との戦いの後、いちおう今後についての話し合いが設けられる事となった。面倒な事だけどさ……。
その中で、人間界側でダンジョン犯罪を繰り返してきたトレジャーや楢丈の処分なども議題にあげられる事となった。
「まさか人類側に神域まで達する者がいるとは……」
「普通は無理なんですか?」
「不可能ですね。絶対に辿り着けない領域なので【神域】なのです」
神の領域ね。
逆に、神でありながら神域まで達してない魔界側の神とかどうなんだ?
魔界側の神のあの言いようだと、人類側の神もそこまで達してない気が……。
「神にも格があります。もう少し位が上がれば、神域に達するでしょう」
「なる程ね……」
あの二柱はそこまでの神だったって訳だ。自分たちの都合で二つの世界を繋げたりするような神だもんな。半人前っていうよりも半神前の存在?
「大変に失礼な事なのですが、ステータスカードを見せていただけますか?」
「あれ? 神様って、ステータスを見れないんですか?」
「すべてのシステムを作った神でも、自由に相手のステイタスカードは観れないようになっているのです」
「そんな物なんですね。はい、これです」
ラメ入りで燦然と輝く緋色のカード。
そのカードを見た瞬間、人類側の神はもちろんシステムを構築した神まで動きが止まった。
なんだ? 珍しいカードなのか?
沈黙は軽く数分続き、そしてまるで油が切れた玩具みたいな動きで全員が一斉に俺の顔を見た。
その顔は畏怖だったんだけど、そこまでの事なの?
「そそそっ、創造神様!!」
「え? どういう事ですか? なぜ創造神様がこのような場所に? しかも人の姿なってまで……」
「いえいえ、俺は人ですって」
「人はフルカラーになれません。緋色のステイタスカードは創造神様専用で、それ以外の存在が手にするなんてありえないんです!!」
そういえば神ですら白と黒は同時にもてないんだったか。
俺の場合はその条件をクリアしてなっているんだから仕方がない。
フルカラーも問題だけど、ステータスがカンストしている状態も相当に問題らしい。
システムを構築した神ですらステータスはオール十万程度。
億越えなんてありえないそうだ。
特に魔力と生命力。兆なんて何の冗談だって乾いた笑いが暫く響いていた。
「もしかして元のカラーは……」
「灰色ですよ」
「やはり、世界のバグでしたか。それで終わらせていい話ではありませんが……」
いや、この神界が始まって以来の大問題らしい。
こっち側すべての世界はこのフルカラーステータスシステムで構築されているそうで、上は神から下は微生物に至るまですべての存在がこのシステムに従って管理されているそうだ。
覚醒前の普通の領域。
ここに多くの生物が存在し、よほどの事が無ければこの領域を超える事が無いらしい。
神界にもいろいろあるらしくて、親父はこのシステムを導入していない世界から来たそうで、その辺りの調整は苦労したそうだ。
親父の力が普通の人間程度だったらシステムに組み込んで終わりだったそうだけど、元々ブレイブだった事が問題に拍車をかけたらしい。
それはさておき、冒険者のシステムを理解して効率よく力を求めた者が辿り着く領域が【覚醒】。
錬金術やラッキーダイスなど、到達した者には様々な恩恵が齎されるけれど、普通はこの覚醒領域を超えることは無い。
システムのバグというか、俺が見つけた緑色を早々に増やしてそこに金を加える二色増殖法を使えば三色持ちでも割と簡単に覚醒領域には辿り着くんだけどね。
一部の神。いくつもの世界を管理する神だけに許された領域が【神域】。
それでも精々平均ステータスは八万程度で、身に着ける色の数も八色までとされている。
緋色は絶対に手に入れられないし、白と黒のどっちかの色は神ですら欠けるらしい。だから十色のフルカラーに至る事は絶対にないって話だったんだけど、灰色の場合その白黒が最初から揃ってるしな。
なるほど、明確なバグだ。
「正直、あなたに対する処置はしばらくかかりそうです」
「えっと、他の議題って何かありましたっけ?」
「人類側に手出ししていた魔族に対する処置ですが、あなたが創造神認定されますと問答無用で処分です。処分されるのは魔界側丸ごとですが……」
「ちょっ!! 魔族も割と被害者ですよ。魔族側が人類サイドで犯した罪は確かに重いですけど」
「貴方から既にトレジャーに対する助命嘆願が出ているのは確認しています。彼女の罪を確認しましたが、無罪放免はあり得ませんが」
そりゃ、俺も散々悩んだからね。
大きいんだよ。あの人が犯した罪の大きさが馬鹿みたいにさ。
こいつが犯人ですって、石とか宝石に変えられてた人の家族の前に連れ出せば、間違いなく全員声を揃えて殺せって言うよ。
玲奈には話してないけど、玲奈だって許してくれるとは思ってないしさ。
「残された最後の幹部であるシアター。楢丈と名乗っていたこの魔族ですが、既にこちら側が派遣した者の手で処分が完了しています」
「あいつがシアターだったのか」
「重ねての嘆願でしたのでトレジャーに関しては様子見ですが、本当によろしいんですね?」
「魔界側にも手出しはしないでくれよ。魔族とは相容れないかもしれないけど、殺し尽くす必要はない」
ダンジョンの数を増やして、後は交流可能な亜人種をこちら側に送り込んで貰う。
もうダンジョンの攻略に血眼になることは無いけど、既にダンジョンは世界や生活の一部だしな。
ダンジョンの中には本当にすべてが隠されている。
地位や名声はもちろん、抱えきれない財貨なんかも裸一貫から手にする事ができる夢の空間だ。
「創造神様と連絡が付きました。その世界は元々創造神様があるヒーローに憧れて作ったシステムという事で、今回は本当にありえない確率で灰色のステータスカードを持つ者が存在した為に、フルカラーに至る道が発生したんだろうという事でした」
「あるヒーロー?」
「創造神様がこの辺りの神界を構築する前。神となる為に修行をしていた時に助けてくれたヒーローだそうです。話や名前だけはいろんな神からも聞いている存在ですね」
「そんな存在もいるんですね……」
「そのヒーローの名はアルティメットブレイブ。貴方と同じ力を持つ、気高い精神を持つ者だったそうですよ」
アルティメットブレイブ!!
偶然にも俺と同じブレイブかよ!! ……そういえば親父も俺と同じくらいの力を持つのはアルティメットブレイブだけだとか言ってたよな。
まさか別の世界で神様まで助けてるなんてね……。
ん? まてよ。
「もしかして、あの世界に親父を呼び込んだのって……」
「気が付いちゃいましたか……。ライジングブレイブの雷牙勇慈をはじめ、多くのブレイブがほかの世界に転移して信じられないほど多くの世界を救っているそうです」
本当に凄いなブレイブ……。
「呼び込んだ理由は、あのバカげた戦いをゲーム盤ごとひっくり返す為ですね?」
「創造神様は元々あの世界で何かあった時、あの世界の理を根底から破壊して再構築する存在としてブレイブを選んでいたそうです。バグというよりは救済措置的な感じですね。当のブレイブの皆様には説明してなかったみたいですが」
めっちゃ迷惑じゃん。
親父は独身だったからいいけど、妻帯してたら大変だろうに。
「その辺りはちゃんと考慮するそうです」
「シャイニングブレイブだと世界の再構築はできないでしょ?」
「世界にブレイブが現れた時、必ず世界の救済が始まるそうです。だからあなたがあの世界であの力を手にしたのですから……」
それで世界の創造権や再構築の権利が委ねられたのか……。
いいさ。アレがあの世界を正しく導くさ。これも、ヒーローの務めだろう。
◇◇◇
とりあえずそんな感じで話し合いは終わった。結構疲れる流れだったな。
「それで、俺の処置はどうなりますか?」
「一応人ではありますが、最上位神にも認定されています。あの世界に戻る時に人の身で戻れますが、その気になればいつでも最上位神として活動できるそうです」
システムを管理している神様はもちろん、人類側を管理する神の遥か上の存在に認定されたらしい。
怖いから。
全身から光撒いてる周りの神が、一斉にかしこまるのはさ……。
「魔界とトレジャーに関する処分は保留。最上位神様を差し置いて申し訳ありませんが、人類側を管理していた神が今後は魔界側も管理するという事で決着がつきました」
「ありがとうございます。それで、もう人類と魔族が争う事は無いんですね?」
「ありません。ダンジョンに関してですが、今までよりも人類側に旨味の大きな調整が入ります」
「もしかして、そこも弄られてました?」
「魔界側の神が色々と手出ししていたみたいですね。特に武器類や鉱石類のドロップに関しては半分以下でした」
ドロップがまずいダンジョンが多い訳だよ!!
やっぱりいろいろやってくれやがってたな!!
その辺りの調整はキッチリして貰わないと……。
「人間側の神に命じて、バランスが崩れない程度の調整が入ります。あとステータスカードの色数に関してですが、おそらく今後は最低でも二色程度は与えられるだろうという事ですね」
「そこもでしたか」
「普通は一色なんてありえないんですよ。あの魔界の神は自らを有利にする為に、本当に姑息な真似を多くしていたようですね」
単色は弱すぎるからな。
そっか……、本当に色々とやらかしてくれてたもんだ。あの魔界の神は!! 勝率をあげるためとはいえ、限度があるだろう?
「後は必要経験値の緩和。入手経験値の増加など冒険者に有利になる様な調整を行います。それでも、ダンジョンで命を落とす事はあると思いますが」
「そこは仕方ないですよ。ダンジョンには色々ありますが、舐めていい場所じゃないですし」
ダンジョンは遊び場じゃないんだ。
命がけで挑んで、その報酬で様々な物を手に入れられる夢の様な場所。
そうじゃなければ、いろんな物に対する冒涜だしな。
「眩耀様はこれからどうされるのですか?」
「俺? 俺は普通に冒険者を続けるよ」
「既に遊び場ですよね?」
「救える者は救うし、手が届かなくてもそれはそれで受け入れる。ダンジョンは公平で、誰かだけを不幸にしたりしないしね」
死にたくなければ努力すればいい。
いろんな努力が実を結ぶ場所。そこがダンジョンだ。
「今後も何かあればご連絡ください。そのブレス経由で時空を超えて会話が可能です」
「凄い装備ですよね……」
異次元通話機能は標準装備らしい。
マジでぶっ壊れ性能だよね。
「色々とお世話になりました」
「こちらこそ」
こうして魔王戦から続いていた様々な問題はすべて終了した。
トレジャーも殺さずに済んだし、おおよそいい感じに収まったとおもう。
記憶を封じられた状態で最凶最悪の灰色カードを手にした俺が、まさかこんな最高のヒーローになれるなんてな。
ホント、人生は何があるか分かんないぜ。
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