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第百六話 決戦!! 世界の運命を決める最後の戦い


 夏休みは進み、二学期が始まる十日ほど前。


 そろそろ三回目のバーベキュー大会をしなきゃいけないかなって思っている時に()()は起こった。


 突然全世界に発信された魔王降臨の宣言。


 どこの国がどんな時間だろうが一切のお構いなし。この日本では朝三時にすべてのテレビや映像機器が自動的に起動し、空にも馬鹿でかい映像がいろんな角度で出現している。


 これだけの事が出来るのが神か、流石だな……。


「ダンジョンの出現より四十年。そして世界の混乱から二十年。ようやく人類と魔界との戦いの場が整った」


 映像に映っているのは俺と同じ位の年齢の少女。そしてその左右にいるのは人類側の神と魔界側の神だろう。


 うわぁ……、どれだけ絶望を味わえばあんな目になるんだよ……。


 完全に死んでんじゃん。


「人類側の代表は期日までに申し出るように。最低条件は勇者かヒーロー。参加人数は三人までだ」


 完全に俺達をターゲットにしてやがるな。


 しかし、魔族側参加資格の無いトレジャーはともかく楢丈(ならたけ)の姿が無いんだけど、どうなってるんだ?


「今回、我々魔界側はこの決戦に参加可能な者が魔王だけなど様々な状況を憂慮し、禁断の魔王の種を二回使用した。当然、成長後……、決戦直前に使用している」


 魔王の種? なんだそりゃ?


 使用回数を宣言するぐらいだから、それなりの力を持つんだろうけど。……ん? 買い取りさんからメッセージコールが届いてるな。トレジャーさんか。


『魔界の神は魔王の種を使ったって!!』


『凄いアイテムなの?』


『魔王を百人以上埋めた場所に生える、魔界の禁断の植物よ。育てる最中で殺した歴代魔王を、どこかにまとめて埋めていたんだわ』


『数が少なくない?』


『発生率がかなり悪いのよ。それを二つも用意出来たって意味。分かるでしょ?』


 それだけ多くの魔王を殺してきたって訳だ。


 向こうの都合だけで……。


『それで、その効力は?』


『魔王の全ステータス能力の倍化。魔王にしか使えないアイテムなの』


『という事は元のステ―タスの四倍か!! 一体どの位なんだろう?』


『全ステータスがおそらく三万くらい? あんたの方が上だろうけど、油断はしちゃダメよ』


『了解。何を使っても余裕だけど、出来るだけ苦しめないように倒すよ』


『ありがとう。人類側の代表が貴方でよかったわ』


『真の敵は別にいるしね』


『そこはノーコメント』


 かわいそうに。


 次々に殺される魔王候補。そして数日育てて見切られる魔王。


 それをやってるのが魔界を支配する神だってんだからやってられない。


 人類側の神は基本的に人類の進化を信じて、極力冒険者や勇者の育成には手を出さない方針らしい。


 それでも神の存在を否定したり、自分たちが信じる神だけが真実だってやると背筋が凍りそうなほど恐ろしい罰が待っている。


 ダンジョンの出現以来、それで滅んだ国もいくつもあるからね。


 個人で口にする程度は見逃されるけどさ。


「さて、すべてを終わらせに行くか。こんな朝っぱらなのが癪だけど」


 勇者とヒーローが全員この国にいるのを知っていながら、こんな時間を選びやがったからな。


 嫌がらせじゃないけど、こっちの都合とかはお構いなしって事だ。


 逆に言えば、お前らなんてその程度の存在なんだってバカにしてるのさ。


 ん? 親父たちからのメッセージコールだ。


『とうとう来たな。流石にあのステータスチートはどうよ?』


『親父でも勝てるだろ?』


『変身してギリギリだ。予想ステータス平均三万だぞ。あの武器でぶん殴って何とかって相手だ』


『俺は楽勝だけどな。純金鋼晶(きんこうしょう)製魔道展開式太刀があるけど、攻撃力の補正は億超えるよ』


『億って。相変わらずすげえ武器があるな。でも、使わないんだろ?』


『俺は冒険者である前に、ヒーローだからな。使うのはこれさ』


 左腕に嵌めているブレス。


 これはヒーローの証で、ここに俺のすべてが詰まっている。


 手に入れるまで時間はかかったし、手に入れた経由も決して褒められたものじゃないさ。姫華(ひめか)先輩が探し出すまで、俺はこれを手にしようとすらしなかった。ヒーローなんて肩書をずいぶん前から背負っていたのにね。


 あのとき、なぜかあの場所に導かれ、そして必要な物は何故かあそこに全部揃っていたのも運命なんだろうけど、このブレスが俺をあの場所に導いてくれたんだろうな。


 そして多くの力が俺が訪れる時を静かに待ってくれていた……。


 ごめんな、もっと俺はヒーローとしてもっと早く動かなきゃいけない事だったのに。


「さて決戦だ!!」


 絶対に負けない。


 俺はヒーローなのにあのかわいそうな魔王を救ってやる事はできない。


 だからせめて、一撃で楽にしてやる!!


「行くぞ!! この馬鹿げた世界をこれで終わらせる!!」


【創造する事も可能です】


 最悪の時はそうするさ。でもな、そんな方法は必要ねぇさ。


 さあ、神の用意したこのくっだらないゲーム盤をひっくり返しに行くか。


◇◇◇


 人類側と魔界側の決戦。


 それはずいぶんと殺風景な場所で行われる事になった。


 そこは神が用意した特殊な空間。これで周りに力の影響を気にせずに存分に力を振るえるけどな。


 そして審判は三柱。


 この人類側の神と魔界側の神。そしてその上役、この世界どころかこのステータスやその他のシステムを構築した神らしい。


 二柱がめちゃめちゃ緊張してるけど、それほどの力を秘めてるの?


「それでは人類側の代表、ヒーロー神崎(かんざき)眩耀(げんよう)と、魔界側の代表、魔王シルヴィアの決戦を行う」


 魔王側の武器も無し?


 俺はヒーローだから当然変身しするし、ルール上でもその時間を与えられるらしいけど。


「意外に軽装だな」


「貴方とは違うけど、わたしも少し変化するわ」


 それ以上は口を開かない。


 そうだよな、望まない地位、望まない戦い、望まない事しかない今までの時間。


 おそらく多くの物を失い、そして相応の覚悟でここにいるんだろうからね。


「俺にはあんたを救う事はできない。でも、これで終わりにすることはできる!!」


「セットブレス、神崎(かんざき)眩耀(げんよう)


【セット、神崎(かんざき)眩耀(げんよう)。アクセス】


 特殊インベントリから二枚のメモリーチップを取り出す。


 一枚は親父の力を秘めたシャイニングブレイブチップ。


 もう一枚は俺専用に生成されたフェニックスチップ。


「シャイニングブレイブ、そしてフェニックスチップをセット完了!!」


【フュージョンフォーム発動!!】


「滅びる事のない勇気はここに!! フェニックス!!」


【ブレイブシャイニングフェニックス、ベーシスフォーム!!】


 光を纏った鳳凰。何度でも蘇り、破壊と再生を司る光の化身。ブレイブシャイニングフェニックス。


 この姿になった以上、もう負けは無いぜ。


「その力……」


「そっちが良ければ、すぐに始めるんだが」


「そうね……、あまりこの姿にはなりたくないんだけど……」


 いや、素手だから何か強化装甲っぽい物でも身に着けるのかなと思ったよ。


 まさかここまで異形な姿に変わるなんて……。


 結構綺麗だった肌は膨れ上がり、醜いゴツゴツとした鱗の様に覆われ始めた。体にも同様の鱗が生え、そして長大で醜い尻尾が形成される。


 背中からは蝙蝠の様な翼が生えて、どす黒い何かを染み出し続ける羽根を形作ってゆく……。


「魔界の竜。その力を取り込んだ究極の姿だ。素晴らしいだろう?」


「サァァァアァァッ、ハジメマショォォォッ」


「ここまで、やるのか?」


 魔王シルヴィアの瞳からはどす黒い何かが流れ続けている。


 それが、涙だって気が付かないほど俺は鈍くない。


 苦しいんだろう? 今、終わらせてやるよ!!


「動きは遅い。一気に決める!!」


「ドォォォォコォォッ? チョォォコォォマァァァカァァァトォォォォ!!」


「隙だらけだ!! 必殺!! シャイニングフェニックスクラッシュ!!」


 上空に飛び上がり、俺は最強の必殺技を繰り出す事にした。


 全身に神力(プラーナ)を纏って放つ究極の蹴り技。シャイニングフェニックスクラッシュ。


 この程度のステータスの相手にこの技を防ぐ術はなく、僅かに一撃で塵も残らず光の粒子へ変えて浄化した。 


 勇者と魔王は倒しにくい。


 その条件を完全に無視して、僅かこの一撃だけで魔王を凄まじい苦痛から解放する事が出来た。逆に言えば、この技以外では何度も死ぬような苦しみを与え続けていたことだろう。


 俺には魔王を救い出す事は出来なかった。でも、このクソみたいな運命からは解放してあげる事は出来たようだ……。


「勝者、ブレイブシャイニングフェニックス神崎(かんざき)眩耀(げんよう)!!」


「よっしゃぁぁぁぁぁぁあっっ!!」


「嘘よ!! 禁断の魔王の種を二つも使ったのよ!! 平均三万五千を超えるステータスを持つ魔王を倒すなんて、そこにいる人類側の神だって不可能な筈!!」


「そうですね。でもあなたは負けた。見苦しいですよ」


「そこのヒーロー。どんな手を使ったのかは知らないけど、卑怯な手を使った事は間違いないわ」


 んなわけあるか。


 卑怯な手ってのはな、俺が全部使わずにいる力だけだ。


 あの純金鋼晶(きんこうしょう)製魔道展開式太刀でぶった切っても魔王を倒せたけど、あんなもので斬り付けまくったら魔王の苦しみを長引かせるし、死ぬに死ねない地獄のような時間を増やすだけだしな。


 あ、そうだ。そんな事を口に出すって事は、もしかしたらこいつこの場に引きずり出せないか?


 こいつ短気っぽいし、挑発とかに簡単に乗りそうじゃない?


「出て来いよ。不服があるんだったら、俺はこのままあんたと戦ったもいいぜ」


「たかが人がっ!! いいわ、そこの人側の神、文句は無いわね? こいつが言い出した事なんだから」


「ええ、この時点で魔界側は人類の物ですし、あなたは暇な神のひと柱。滅びても問題ないでしょ?」


「そうだな。審判はわたしが努めますわ」


 このシステムを構築した神か。


 公平な審判はありがたいしな。


「私のステータスはあの魔王と比べて劣りません。平均四万越えのステータスを持つ神なんて、わたくし位ですのよ」


「神のくせに神域まで達してないのか? あんたが始めた馬鹿なこの戦いで、どれだけ多くの人が悲しみ苦しんだか……。魔王は出来るだけ苦しまないように倒したが、あんたはその身に罪の重さを刻んでやんよ!!」


「たかが人間がっ!! 魔族に劣る身体能力、ゴミの様な生命力、魔族に及びもつかない魔力、そんなカスの様な存在が偉そうに!!」


 確かにあんたは人類や魔族以上の存在だろう。


 本来であれば、俺達を導くべき存在だ。


 この戦いの発端はこいつの暇つぶしだと聞いている。


 暇つぶし?


 多くの冒険者が、魔族が、力を持たない多くの存在がっ!! あんたの暇つぶしの為にどれほどの苦しみを味わったか!!


 確かに魔法は便利で救いだ。この力をこの世界に齎した功績は小さくないさ。


 だがな、そんな事で許されるほど、あんたの罪はちいさくねぇんだよ!!


「なんだこのへっぽこな攻撃は? あのトカゲ、大邪竜ファフニールでももう少し手応えがあったぜ」


「馬鹿な!! なぜ人間がこの攻撃を受け止められる? 攻撃力十万を優に超えるのよ!!」


「ステータス。あんたらはそれに縛られ過ぎてるのさ。確かに凄いシステムだけどな……」


 ステータスをそこまで口にしながら、神域まで達していない神。


 何の冗談だ?


 たかが覚醒してるだけの存在が!!


「ここだったら、力を開放しても世界が滅んだりしねぇだろ」


「馬鹿なっ!! なんだその力は!!」


「神域まで達した力、存分に味わいやがれ!!」


 オールステータス四十億越えの無敵の力。


 いつもうるさいくらい出る警告は頭に響かない。


 そうだよな、()()は間違いなく神を滅ぼす為の力だよ!!


 神を滅ぼすブレイブの力、そして俺の力もな!!


「フェニックスナックル!! 存分にその汚らしい顔をぶん殴ってやるよ!!」


「熱いっ!! 痛いっ!! どうして神の持つ結界を易々と……」


「シャイニングスラッシュ!! どうだ? 少しは人の痛みが……、いや、この戦いに巻き込まれたすべての存在の痛みを覚えたか!!」


「こんな人間が……」


 魔界の神は俺の繰り出す技に全力で抵抗するけど、それを容赦なく打ち砕いて切り刻んでゆく。あの綺麗だった姿は既に見る影もなく、打ち捨てられたボロ布の様に無残な姿でまともに歩く事もできやしないみたいだな。


「流石にもういいだろう、そろそろ退場しやがれ」


 これ以上は必要無いか。


「必殺!! シャァァァイニングゥゥゥゥ、フェェェェェェニックス、クラァァァァァッシュ!!」


 魔王相手には手加減したが、今度は正真正銘全力のシャイニングフェニックスクラッシュだ!!


 このクソ野郎の塵ひとつ残してやるもんか!!


「この私がっ!!」


 自らの快楽の為に多くの存在を苦しめた魔界を支配する神は、光の粒子と化して完全に消滅した。


 これでようやく、このくっそくだらない戦いの決着がついたって事だ。


「勝者、ブレイブシャイニングフェニックス神崎(かんざき)眩耀(げんよう)!!」


「凄い!! まさか神を倒すなんて……」


 こちら側が勝った時点で退場して貰う予定の神だ。


 後腐れなく消滅してくれてよかったな。


 ……こうして、人類と魔族の長い戦いは終わった。


 この先は冒険者としていろいろあるけど、これ以上の不幸は生み出されずに済むだろう。




読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。

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