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第百五話 救出記念の大宴会!! 再会、愛しい人たち


 色々あったけど、無事に準備が終わって舞莉愛(まりあ)さんの帰還パーティは始まった。


 当然主役は舞莉愛(まりあ)さんで、雄三おじさんはその隣で珍しくおとなしくしているみたいだ。


 せっかく牧場型ダンジョンに行ってたのにあそこで獲れる野菜や海産物などを堪能できてないってのはかわいそうなので、俺が大量に保有するあの牧場型ダンジョン産のさまざな物でいろんな料理を用意しておいた。


「それでは、舞莉愛(まりあ)の帰還を祝って乾杯をしたいと思います。謎の失踪から実に十四年。まさかあんな場所に囚われているとは……」


「長いからその辺りでっ。はい、かんぱ~い」


 雄三おじさんの挨拶をぶっちぎる舞莉愛(まりあ)さんは意外に容赦がなかった。


 いや、こんな性格だったんだ……。流石に玲奈(れいな)の母親というか、似た物母娘だったんだな。


「かんぱ~い!! お~いしぃっ!! このダンジョン産地ビールもおいしいけど、このダンジョンアユの塩焼きも最高っ!!」


「ダンジョン鮎が好きだって聞いていたから用意しました。あの牧場型ダンジョン産だから最高ですよ」


 純天然物で苔を食いまくってるからはらわたの香が凄いんだよ。


 その辺りが鮎好きにはたまらないらしくて、これをあの牧場型ダンジョン産の地ビールで食うのが最高らしい。地ビールは出始めたばかりだけどね。


「この塩も凄いな……」


「あのダンジョンの地下十四階の海水を大量に採集して作った塩です。ミネラルたっぷりですよ。あ、天ぷら用には抹茶塩とかダンジョン産岩塩もありますよ」


「至れり尽くせりだな。こっちの七輪はアワビの姿焼きか。向こうの七輪がマッタケ?」


「ダンジョン産マッタケですね。香りがいいですし、そこにある土瓶はマッタケと鱧の土瓶蒸しですよ~」


 全部ダンジョン産だ。


 舞莉愛(まりあ)さんは和風の料理が好きって聞いているので、今日の料理はほぼ和食がメインだ。それ以外もあるけどね。


 意外に胃袋の若い親父たち用に、大鶏の唐揚げとかレッドチャージブルのローストビーフなんて物も用意しているぞ。


玲奈(れいな)にはダンジョンイセエビのグラタンと、ダンジョン蝉海老のエビチリなんてどう?」


「これすっごい!! ダンジョン蝉海老なんていつの間に手に入れてたの?」


「ダンジョンカカオ豆を探している時にね……。あまり数が無いから、今まで出さなかったけど」


 あの時、いろんな魔法を駆使して海の中に潜んでいた色んな海産物も手に入れてたんだよ。


 バーベキュー大会で使わなかったのは、本気であまり数が無いからだ。


「凄い……。どの料理も一流シェフに作らせたのかってレベルなんだけど……」


「私が作った料理より美味しいわ。いつの間にこんな腕に……」


「冒険者になって、家で腕を振るう機会なんてほとんどなかったからね。まだまだ修行中だけど、ほとんどの料理はできるよ」


 天ぷらの減りが早いけど、横のテーブルでいつでも揚げたてを提供できるようにしてある。天ぷらは揚げたてがおいしいしね。


 海老の天ぷらとか、小魚の天ぷらなんかも用意してあるぞ。


「これ、幻の魚じゃない?」


「ダンジョン産ギンポですね。ほんと、天ぷら以外にならない魚です」


「こっちはダンジョン産バカガイの貝柱の天ぷら……。もしかして、特殊インベントリ内にそれぞれ揚げる用の鍋を用意してるの?」


「味が混ざると美味しくない時もありますんで、油の温度管理も楽ですし」


 玲奈(れいな)は本当に海産物好きで、揚げたての魚介類を美味しそうに口に運んでいる。


 若返ったお袋とか、元々ほぼ老化してない親父なんかはすっごい勢いで肉類を食ってるけど、俺が渡した若返りの薬で同じくらいに若返った雄三おじさんも負けないペースで……。いや、あの人はいつでも何処でも酒メインだ!!


「ダンジョンワインも旨いな……。ダンジョン日本酒なんて最高なんだが」


「香りも楽しめるように燗にしてありますけど、冷酒もいくつかありますよ。瓶はかなり小さいですけど」


「この小瓶ひとつの値段を知っている身としちゃ、そこまで気軽に飲めないんだが」


「飲んでくださいよ。これ以上の規模の宴会の機会なんて、数える程しかありませんよ」


 酒類も錬金術で造ろうと思えば作れるんだけどね。ただ、色々問題があるから造らないだけでさ。


 という訳で、市場に出始めたダンジョン産日本酒を可能な限り買い漁ってみた。本当はあまりやりたくないけど、菅笠侍とかいろんな手を使ってまで……ね。


 という訳で、流石に盆正月程度じゃ今後俺はここまで提供しないぞ。


 結婚式や出産みたいな大きなイベントが無い限りはね。


「正月くらいは派手に行きたいな」


「その辺りは主催者の親父たちに任せるよ」


「これだけの食材と料理を用意できる気がしねぇ。酒も凄まじいが……」


「今回、牧場型ダンジョンで稼いだ以上の額になりそうですね」


「あの辺りの料理だけでな。それだけ歓迎してるって事だろうが……」


 あの隠し旅館『迷宮』に泊まれば同レベルの料理が出て来るよ。


 流石にダンジョン産の食材は使わないだろうけど、あそこの地元産の野菜とかも旨いからな……。


「ダンジョン産の地ビールなんて、この前ようやく売りに出され始めた銘柄だろ?」


「麦が必要な量を確保できてなかったですからね。量産は好調らしいですし、今後は大規模に行くそうですよ」


「水が良くて麦がいいからのど越しがたまらん。瓶入りなのが凄いな」


 まだまだ気軽に頼める値段じゃないけど、こんな機会にビールが無いのはさみしいからね。


 舞莉愛(まりあ)さんはビール派らしいし。


「天ぷらにもビールが合うわ~。お刺身もおいしいっ!!」


「ダンジョン産のクロマグロの刺身か……」


「赤身から大トロまでいろいろ用意してありますよ。あ、向こうは握り寿司にしてありますので」


「これをこいつは全部一人で用意しやがったからな。料理の腕もそうだが、これだけの食材や酒を用意出来る男になっていたか」


「酒に関してはまだまだですけどね。ダンジョン産でなればウイスキーとかもありますよ」


 流石にダンジョン産ウイスキーはまだ売られていなからね。


 熟成の若いウイスキーは幾つかあるけど、それだったら普通に売られてるウイスキーの方がおいしいらしい。


 ダンジョンがこの世界に導入されて数十年。


 まだまだ地上産の物がいい場合もあるって話だね。


「それで、この先はどうするつもりなの?」


「前みたいに四人でパーティを組もうと思うんだけど、流石にレベル差とかいろいろ問題があるから……」


「武器とアクセに関しては俺が用意するよ。親父たちに渡したのと同レベルでいいでしょ?」


「同レベルって……。いや、今回の遠征でものすごくこれが役に立ったぞ」


「武器を回収する必要が無いし、あの赤火竜(レッドドラゴン)対策だとあれしかないかなって」


 親父に渡した魔力の槍を無限生成する腕輪。


 赤火竜(レッドドラゴン)を何度も攻略するんだったら、アレが一番楽だよな……。


「あれ、俺もサブウエポンにほしいんだが」


「いや~、他の冒険者から質問が殺到してたぞ。特に手槍とか使う奴らはあの便利さを痛感してたし」


「投げた後で回収が大変ですからね。舞莉愛(まりあ)さんも必要だったら作りますよ」


 投擲系の武器として、あれ以外だと同じ様な魔力製の矢を自動生成する弓?


 やっぱりさ、効率とか考えるとあんなデザインになるんだよね。


 矢もそうだけど、回収するの面倒じゃん。


「俺達は昔に戻るだけだ。お前らはあの学院を卒業してその後は色々あるんだろうがな」


「俺の記憶を封印した事は感謝してるけど、おかげ様で超面倒な状況になってるんだからな」


「……なるほどな。お前の性格だとそうなるか」


「八方美人というか。ヒーローやってりゃそうなるよな」


 親父も散々にたような状況で苦労したんだろうしな。


 ただ、記憶を封印されてなければ、俺は確実に死んでただろうし……。


「あの学院が管理する過疎ダンジョン。あそこが魔族の拠点だったんだよ」


「あそこが……。よく無事だったな」


「いろんな偶然が重なって、俺が記憶を封印されてた事もあって見逃されたんだろうけど、俺の記憶がそのままだと玲奈(れいな)もヤバかったかもしれないぞ」


「そうだね……」


 勇者の娘とヒーローの息子を一度に処理できるボーナスタイム。


 あの野郎が見逃す訳ないよな。


 と言っても、地下三階に送り込んだ時点で何もしなくてもあいつの勝ち確って状況だったんだけどね。


 俺がソロで、しかもあんな成長速度で強くなるなんて、完全に想定の範囲を超えてたんだろうしな。


「その魔族は?」


「協力者を連れて既に身を隠した。そいつが最後に残った魔族側の幹部さ」


「最後……、か。雑魚魔族は多く処理してきたが、幹部級は結局全員お前に任せちまったな」


 トレジャーは倒してないし、あの人は今まで通りにあの商業ダンジョンで買い取り業者を続けていくそうだ。


 もう二度と人類側に手出ししないし、もし次に人を襲った時は俺に倒して欲しいとまで言ってくれた。


 なんていうかさ、あの人って最初から人間臭い所があるっていうか、アレが結構素だったんじゃないかと思う。


 やった事が大きすぎてだれ一人殺してないってのは詭弁だけど、直接その手にかけてないのは嘘じゃないだろうしね。


「そろそろお開きかしら?」


「そうだな。細かい片付けは明日にするか」


「これ。明日の朝ごはんとか、この後家で話をしながらつまんだりできる小料理です」


「本当に気が利くわね。助けてくれてありがとう。まさか助けてくれる人がこのひと以外だとは思わなかったわ」


 雄三おじさんにも立場があるし、自由に動くには色々しがらみがありすぎるからね。


 まさかあの商業ダンジョンに囚われてたとはおもわなかったけど。


「恋人の母親を助けるのは彼氏の役目ですよ」


「そうなの?」


「そうだよ。でも、ここでそれを宣言していいの?」


「面倒な状況だけど、俺の気持ちは変わらないよ。あの日、玲奈(れいな)と出会って俺はすべてを受け入れたんだから」


 灰色カードも、ヒーローへ至る過酷な道も、すべてを守る力もね。


 俺が手に入れたすべては、基本的に玲奈(れいな)の為だったのさ。


 記憶を封じられてる間に、ホンットにめんどくせぇ状況にされちまったけどな!!


「その辺りの正式な話し合いはそのうちな。いろいろ助かった」


「俺の為でもありますから」


「そうだな。お前は正しくヒーローだよ」


 舞莉愛(まりあ)さんたちは家に帰り、これから十数年の思いを語るんだろう。


 流石に俺は雄三おじさんがどんな気持ちでその時間を過ごしてたか知らないし、玲奈(れいな)もいろいろ思う所があるだろうしな。


◇◇◇


 三人を見送って片付けを済ませた後、俺は縁側でなんとなく涼んでいた。


 星の綺麗ないい夜だ……。


「隣いいか?」


「ああ。親父とこうするのも久しぶりだな」


「お前が小さい頃は、ここで玲奈(れいな)ちゃんとスイカを食ったりと色々あったもんだがな」


「小学の頃までな。楽しい思い出さ」


 庭にプールを置いて遊んだり、芝生に寝転んだりといろいろしたもんだ。


 厳しい修行の合間の、ほんの僅かな時間だったけどさ。


「大活躍だったな」


「ああ。今回の件は本当に苦労したよ」


「……なぜあの魔族を見逃した? あいつがトレジャーなんだろ?」


「ま、親父にはバレるよな。次は無いし、その時は俺が責任を以て処理するよ」


 仕方がないじゃん。


 俺だって許せないけどさ、あの人を殺したら方々に影響がデカいんだよ。


「あいつが元凶の魔族だって知って、雄三の奴は頭を抱えてるんだぞ」


「あ~、流石におじさんもあそこを利用するよね」


「割とヘビーにな。面の皮の厚いあいつが流石にへこんでたぜ」


「流石に盲点というか、仕方がないと思うよ」


 本気で誰も気が付かなかったからな。


 楢丈(ならたけ)に至っちゃ、十年そこで暗躍してるのに誰も気が付かなかった訳だしさ。


 というか、俺や玲奈(れいな)を始末する為にそれだけ長い時間をかけて罠を張り巡らせていたのが驚きだ。


 魔族って、マジでそんな長い時間をかけて俺達を倒そうとしてたんだな。


「そのブレス。俺の知らないタイプだな」


「ああ。親父もこんな物騒な物をつかってんのか?」


「物騒?」


「世界創造だとか、その手の力だよ」


 あ、親父の顔が面白い。


 なるほどね、この力は超特殊って訳か。


「アルティメットブレイブ並……。いや、それ以上の力を持ってるのか!! そりゃ……、今から散々苦労するぞ。お前」


「だよな。神様んなった気分だけど、俺には少々過ぎた力さ」


「いや。ブレイブの力はそんなに簡単には選ばれないんだ。お前がその力に相応しくないと判断されたら、起動すらしねぇよ」


「認められたって訳か。今更騒いでも仕方ないしね」


 むしろ、この力で何をなすのかだな。


 魔王。


 はっきり言って魔界側の神の犠牲者に過ぎない存在だけど、倒す以外に魔王を開放してあげる術は無い。


 本当の敵はその後ろ。多くの不幸と犠牲者を生み出してる魔界側の神なんだ。


 どうにか引きずり出して倒せれば……。


「この世界はお前に任せた。父さんたちは、またいろいろやらなきゃいけない事が出来そうだ」


「ヒーロー関係?」


「ああ。魔族の邪魔が無い以上、この先少しは増えるだろうからな。この世界で専用の組織を立ち上げようと思ってるんだが……」


「個人で持たせるにはこの力は強すぎるからね。他の国は良いの?」


「お国柄なんだろうな。ここまで馬鹿みたいな力を持つヒーローはこの国だけらしい」


 なるほどね。


 その傾向はあるのか……。


 ヒーロー像って本当に人それぞれだし……。


「すべてはステータス次第かな」


「そういう事だな。ステータスカードの提示は基本的に禁止されてるし、誰かのステータスを察するにはなんとなく相手から聞き出すしかない」


「魔族側が対戦相手の全ステータスを知ったら、自分が参戦資格を失うんだっけ?」


「らしいな。ホント、戦いたくないってのは理解できるよ。あいつの趣味が悪かったが……」


「性癖らしいよ。次は無いけどさ」


 善悪なんて本当にそれぞれだし、何が悪いかってこっちの国同士でもかなり変わるしね。


 それが魔族となると……。


 さて、これで後は魔王を倒すだけ。


 ダンジョンの存在も冒険者って存在も悪くないと思うけど、このくっだらない戦いだけはさっさと終わらさなきゃね。


 トレジャー情報だと、今育ててる魔王が最終段階なんだとか。


 出て来いよ。すぐに楽にしてやるさ……。




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