表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/108

第百三話 ダンジョンの最下層の信じられない光景


 翌日。俺は目的のダンジョンに足を運んでいた。


 いつも通りに菅笠侍の姿だけど、ここを正式な目的で利用する気はない。今日の目的は別だからね。


『カカカ、カイトリ~♪』


 いつものセンサーで反応する挨拶か。


 そうだよな、このセリフを何度も聞いていたが、まさかここを拠点にしてる魔族がいるなんて夢にも思わないよな。


 腸が煮えくり返る気分だけど、それは今までこんなに近くに望む人が囚われているのに気付きもしなかった俺の無能さに向かった物だ。


 何が知力四十億だ。こんな単純な仕掛けにすら気が付かなかったなんてな。


「過疎ダンジョンと同じ……、って訳じゃないんだよな実は。このダンジョンが地下何階なのかは殆ど知られてないし、魔法の試し撃ちや武器の試し斬りが出来る程度の魔物はいるんだよ……」


 調べてみたんだけど、実はこの商業ダンジョンは地下八階まである。


 出て来る魔物は大した事は無いし、ドロップもまずいから過疎化してた経緯は納得できるんだよね。


 やっぱりさ~、何かこれっていう売りが無いと、ダンジョンってすぐに過疎化するんだよ。


 特にこんな遺跡タイプのダンジョンは……。


「遺跡ダンジョンは基本何処も不人気だよな」


 特徴。攻略が面倒で、ドロップがまずい。


 敵とのエンカウント率が高いのにドロップがまずい。


 部屋にいる魔物はそこそこ強いのに、報酬の宝箱のドロップ率がまずい。


 兎にも角にも、ドロップが不味すぎんだよ。


「だから俺もここを攻略しようなんて思わなかったし、ここが魔族の拠点だなんて気付きもしなかった」


 商業ダンジョンの地下八階。


 本来だったらこの部屋は丸ごとダンジョンボスの部屋になっていたみたいだけど、俺の目の前に広がる光景は流石に呆れるというかここまでやるかって状態だった。


「まさかダンジョンボスの部屋を丸ごと自分の趣味の為にこんな形に変えたのか? ここのダンジョンボスは? ……まさか、あそこの石像が元々のダンジョンボスだって言わないよな?」


 だだっ広い地下八階のダンジョンボス部屋。


 そこは丸ごと美術館の様に様々な姿の女性の宝石像が並び、そして所々に普通の石像なんかも混ざっていた。


 でも、あの石像も普通じゃないんだろうな。


「ここは立ち入り禁止ですよ。商品の買い取りは上の階でお願いいたします」


「あんたがトレジャーだったのか。最初に感じたドス黒い気配は間違いじゃなかった訳だ……」


「ご明察。貴方とはこのままいい関係でいたかったけど、これを見られた以上流石に終わりよね……」


 いつもお世話になってた買い取りのお姉さん。


 俺は……、何度も何度もこの人に会っていながら、今この瞬間までこの人が魔族だって気が付かなかった大間抜けだ!!


 元々この人には悪意が無い。人と言っていいのかは微妙だけど、俺の事を普通に店を訪れる客として対応してくれていただけだからな。


 俺がヒーローだって事は気が付いていたんだろうけど、最初に太古の孤王(ロストキング)の魔石を見せた事、あそこを支配している楢丈(ならたけ)が俺を放置している事を知っていたから、既に倒す事が不可能って判断したんだろうね。


 そういえばあの過疎ダンジョンの事も聞いて来たよな。


 それに何度か俺の能力を探ろうと、いろんな手で質問してきてたけどさ。


「まさか俺が探してた魔族がこんな近くにいたなんてね」


「あら? 私を探していたの? 探されるような関係じゃなかった筈だけど……」


「勇者の妻にして、俺のパートナーの母親。舞秦(まいはた)舞莉愛(まりあ)の身柄っていえばわかるだろ?」


 このフロア全体が豪華な美術館みたいな内装に変えられているけど、おそらく一番中央に宝石像に変えられた舞莉愛(まりあ)さんが飾られている筈。


 こいつはそのくらいする奴なのは分かってる。


「人質の意味わかる?」


「普通の人間には十分な脅しになるだろうけど、俺にはその脅しは通用しないぜ」


「ここにある宝石像には、私以外には永遠に元に戻せない呪いをかけてある。こういっても?」


「残念ながらあんたの目の前にいる人間はそんな呪いなんて関係なく助け出せる存在なのさ。俺がその気になれば、あんたの世界の神も殺せる」


 完全なカンスト状態でも無敵だったが、ブレスの力を手に入れてさらに強化されたからな。


 もう俺をどうこうできる存在なんていないさ。


「あの忌々しい神を?」


「おいおい、自分の世界の神だろう?」


「因子があるからと言って、十五になったばかりの魔族に魔王のクラスを与えては殺しまくっている存在に好意を抱く魔族なんていないわ。一応魔王様には様付けをするけど……」


「マジか。だから魔族からいまだに魔王が出てこないのか……」


 背筋に冷たい汗が流れた。


 勇退の強要。


 おそらく予知能力か何かで能力のあがりが悪い事を調べているんだろう。で、魔王のクラスも世界に一人、次の魔王を育てる為には当然今の魔王を……。


「殺した後で魔王を生き返らせたり……」


「する訳ないじゃない。勇者もそうだけど、魔王様を殺すのも大変なのよ」


「二度と甦れない様に、結界内で殺してるのか……」


「そういう事。そして完全に消滅させた後で、次の魔王候補にステータスカードを作らせて魔王を生み出す。この作業を既に魔族側は二十年以上繰り返しているの」


 二十年……。


 ああ、親父がこの世界に流れてきた辺りで一度ルール改正があったんだか?


 灰色のカード持ち……、つまり親父の力が強すぎた。


 だから、双方が万全の状態なってから戦おうってルールに変えたんだったよな。


 既に人類側には雄三おじさんが十分に勇者としての力を有していたのに、あの状態だと魔族側が不利すぎるって事で決戦が先送りにされたって話だ。


「ラッキーダイスとか使わなかったのか?」


「ラッキーラビットは人類側に用意された救済措置。魔族側には使えないわ」


「そんな事情があるんだな……」


「魔王と勇者の育成に使えるアイテムもかなり制限というか細かい決まりがあるの。それをひとつ犯すだけで重大なペナルティが課せられるわ」


「能力の低下とか?」


「他にも色々ね。ペナルティがあるのは勇者と魔王様だけだから、他の誰が何を使ってもペナルティは無いんだけどね。それに、お互いの妨害行為が厳密に禁止されてるのもクラス勇者と魔王を持つ者だけ」


 あくまでも魔王と勇者にしか適応されない訳だ。


 灰色カード持ちは成長率も悪いし、自分専用のアイテムを身に着けない限り真価が発揮されないからな。


「五色持ちだったら、どうやってもそこまで強くならないだろう? 仮にも世界の代表だぞ、もう少し色数を解放できないのか?」


「あまり強くし過ぎて、自分を倒せるだけの力を有するのを警戒しているの。あの忌々しい神の上にはさらに力を持った神がいて、世界の理とかはその神が管理してるって話だし……」


「そんな事情があるんだな……」


 もう一段階上の神か……。


 神域カンスト後はそれ以上の成長はできなかった。


 という事は俺ってマジで神より強いのか?


 さて、そんな事よりこの魔族、トレジャーをどうするかが問題だ。


 今まで散々世話にはなったけど、だからと言ってこいつが今までやってきた罪は笑って見逃せるレベルじゃない。


 確かにこいつは誰も殺しちゃいないだろう。だけど、こいつに時間を奪われた人の苦しみはある意味殺した時よりも大きい!!


 舞莉愛(まりあ)さんがいれば玲奈(れいな)もっと幸せな子供時代を過ごせただろうし、親の愛情をこれだけの長い時間奪う事がどれほど罪深いか、おそらく魔族であるこいつは理解もしちゃいないだろう。


 時間は取り戻せないけど、今ここでこいつを倒して囚われている人を助け出せば、これからの時間でそれを埋める事も可能だ。


「で、どうするの? 戦うんだったら相手になるわよ。でも、さっき言った通り私を殺してもここで宝石像に変わってる娘たちは元には戻れない」


「戻せるんだな……。そうだな、試しのこの子を……」


 近くにある宝石像に近付いて、掛けられている魔法を全部消滅させた。


 トレジャーはこれを見て驚いてるけど、こんな魔法なんて俺にはないも同然なのさ。


「信じられない。貴方、神だとでもいうの?」


「能力的には近いだろうな。で、あんたが死ねばここにいる人は全員助けられるって事が理解できたか?」


「私の生き死になんてもうどうでもいいんでしょ? 趣味が祟ったというか、これがわたしの存在する意義だった。魔界で美しい人型の魔物を宝石に変えていた頃が懐かしいわ……」


「なんでこの世界に固執する? 魔界に戻ればいいだろ?」


「戻れないのよ!! ダンジョン犯罪者? 魔族の幹部? はん、あの禍々しい神が自分の勝率を少しでも上げる為に力を持った魔族を選んでこの世界に送り込んでるだけ。私はこれでも趣味と実益を兼ねてた方だけど、魂の穴を埋める為の無為な行為に過ぎなかったわ」


 そういえば表向きには買い取り業者だしね。


 ……もしかして、魔族としてもかなり上の方なのか?


「買い取り業者は?」


「意外に楽しかったわよ。あの会社はわたしがたちあげたの」


「なるほどな……。で、質問。確かトレジャーは石とか宝石に変えた犠牲者を売ってるって話だったけど……」


「売ってた時期もある事は確かよ。今は全員買い戻して、ここに飾ってあるけど」


 という事は、ここにいる人で全員か。


 それでも相当な犠牲者の数だけど。


「俺だって和んだ事もある相手を殺したいなんて思わない。提案なんだが、ここにいる人の全開放。それと今後人類側にちょっかいを出さないって条件で手打ちにしないか?」


「私に利益が大きいけど、あなたはそれでいいの?」


「正直、あんたの犯した罪は大きい。簡単に埋める事はできないけど、人は悲しみを越えていける」


 石や宝石に変えられていた時間で色々と失った人も多いだろう。


 でも、九州のマリオネットの犠牲者も今その時間を取り戻そうとしている。


 殺されてたら存在しない時間。だから、俺はこいつを一度だけ許してみようと思う。


 玲奈(れいな)が失った時間や愛情は取り戻せないけど、これから少しずつ取り戻せばいいしな。


「優しいのね」


「出来れば楢丈(ならたけ)の奴も改心して欲しいんだけど、その基準が俺達人類基準だと無理なんだろうな」


「無理ね……。長年商売をして人と接してきた私の感覚はあなたたちに近いけど、それでも魔族としての衝動を抑える事は出来なかった」


「今後は抑えられそう?」


「分からないわ。でも、何とか出来る気がするわ」


 お、俺がさっき元に戻した子が意識を取り戻しそうだ!!


 ちょっとまず……。


「スリープ」


「あ……」


「躊躇する事なく睡眠の魔法をかけたな」


「今、この子に目を覚まされると面倒でしょ? 怪我はさせてないわよ」


 そこは分かるけどね。


 さて、元に戻すにあたって用意しないといけない物がかなりある。


 まず、こいつがひん剥いたまま飾ってる人が多いからこのまま元に戻すとシャレにならない事態に発展する。だからそれを何とかする為に服が必要になる。これだけいたらマジで店ごと衣類をごっそり買占めるとかって規模を越えてるぞ。


 元に戻した後、事象を説明してそれぞれの故郷に送り届ける必要があるんだけど、一番長い人でやっぱり二十年位囚われていた人がいるらしい。


 そうなるといろいろ生活基盤の件で問題が発生するし、あの温泉ダンジョンの時と同じ様に様々な支援が必要になるだろう。


 それに、この人を助けるとして、ダンジョン協会の協力とかは必要不可欠だけど、どうやってこの事実に辿り着いたか説明しないといけないんだけど……。


「なあ。あんたのその顔ってトレジャーと同じなのか?」


「ちゃんと変えてあるわ。私は上で商売もしてるのよ」


「となると、この子たちに正体がバレる事は無いのか」


「そんな事を心配してくれてたのね。ありがとう」


 身バレの心配が無いんだったら、この惨状の原因は偽トレジャーに全責任を押し付けられるな。


 助けた後でここを管理するダンジョン協会の職員に任せればいいか。


「問題はこいつか」


「元ダンジョンボスのアラクネさんね。どうするの?」


「こうして……、こうする」


 元に戻した後で一瞬で切り倒した。


 はい、商業ダンジョン攻略完了!! ぜんっぜん攻略したって達成感は無いけどな!!


「容赦ないわね……。ホント、どれだけ強いのよ」


「二兆」


「え?」


「知りたかったんだろう? それが俺の生命力だ」


「え? 二兆って……。ありえないでしょ?」


 そりゃそうだよな。


 どうやったって普通は兆まで生命力が増えない。


 多分神以上だろうし。


「信じるかどうかはあんた次第さ。あ、ステータスは流石にかなり少ないぞ」


「そりゃね……。貴方と敵対しないでよかったわ」


「さてと、これからかなり面倒な事になるぞ。で、手伝えそうな奴の心当たりは?」


「一応人を集めるけど、全員をちゃんと助けるにはそれなりの金がかかるわ。うちの商会を潰して、全財産を使うつもりなんだけど……」


 業界最大手の買い取り業者がつぶれると方々の影響がデカすぎる!!


 いろいろと便宜は図って貰うとして、俺も少しくらいは出してやるよ。


「ちょっとこっちへ来てくれ」


「なに? 何かするんだったら、ここでもできるでしょ?」


「そっちはしねぇよ。その脱ごうとした服はそのまま着てくれ」


「なんだ……。で、なんなの?」


「二トン分のダンジョン金塊。大ぶりの魔宝石をこの箱にいっぱい。後は神白金のインゴットを一トン」


 かなり広いスペースがあったからそこにいろいろ積み上げてみた。


 ダンジョン金塊はあれから結構手に入れたからまだまだあるけど、とりあえず二トンでいいだろう。


「買い取りは上でお願いできる?」


「これをこの子たちの救済に充ててくれ」


「私も人と長い時間接してきたけど、あなたはかなり異常だわ。これだけの財宝を目にしたら、相手を殺してでも奪おうとするわよ」


「これはこのままの形だと何の価値もない。でも、あんたがちゃんと売り捌いてくれればここにいる人を助ける力になるだろう。これを売れば、あんたは会社を潰さずに済む」


 これは偽善じゃない。


 業界最大手の買い取り業者には今後も取引を続けて貰わないと困るんだ。


 あそこで働いている人の数も全国規模になると千人じゃ止まらないし、その後の業界の混乱も無視できない規模になる。


「ヒーロー……、ね。私は初めてその存在の意味を理解したわ」


「何もかも助けられるなんて事は言わない。でも、助けられるんだったら躊躇する事なんてないさ」


「こんな形でも誰か助けるのね……。ありがとう。うちで働いてる人たちの心配までして貰えるなんて……」


「世の中に貢献してるって意味じゃ、俺はあんたにかなわない。これだけ多くの人の生活を支えてる会社のトップなんだからさ」


 ここの業者の福利厚生は良いっぽいし、給料もかなり高いって話だ。


 そこは流石に俺はマネができない。


「ありがたくこれを利用させて貰うわ。やっと手配した人員が到着したみたいね」


「それじゃあ、全員元に戻すぞ!! 神治癒(ゴッド・ヒール)!!」


「何その魔法!! そんな、わたしの掛けた魔法がこんなに簡単に解けていく。それだけじゃないわ。この魔法の力は……」


 死後二十四時間以内であれば体の一部でもあれば元通りに再生可能で、死者すら蘇らせる上に遺伝病なども完全に治癒してしまう究極の治癒アルティメット・ヒールを上回る最強の治癒魔法。


 消費魔力が当然億超えるけど、これさえ使っておけば治癒に関しては間違いないからね。


 さて、問題はこの後だな。


 それはそれとして、面倒な手続きが山の様に残ってるけど、舞莉愛(まりあ)さんをこの手で助け出す事に成功した。


 それだけは本当に心から喜べることだった……。




読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ