第百話 そこで俺を待ち続けた存在は……
夏に雪が降るダンジョンなんて洒落てるかなって思って選んだんだけど、色々あってそれどころじゃなくなったな。
春先からの難解な状況の説明も出来たけど、実は魔族がすぐそばで俺達を狙ってたなんてシャレにもならない状況だった~って話なんだよな。
結局あの雪のダンジョンはすぐに攻略しちゃったし、あれだけ厳重に用意した装備も殆ど活躍する場は無かったな。特に語るべきこともないダンジョンだったし……。
あの装備は冬場に普通に使えるし、同じ様なダンジョンを攻略する時には役に立つだろうけどね。
「という訳で~、今回もやってきました地元の温泉!!」
「あの話し合いの後で私も泊りがけの温泉に誘う眩耀が凄いよ」
「そこが眩ちゃんだからね~。悪意はないから」
「そこは分かってる。私も温泉好きだし、毎回全部出してくれるのは気が引けるけど……」
「せめてこのくらいは出させて。これでもいろいろ考えてるんだから」
この程度じゃ罪滅ぼしにならないけど、せめてね……。
さて、この辺りもかなり温泉が多いし、温泉宿も結構な数がある。
幾つも温泉を備えたホテルもあるし、趣のある旅館も結構あるんだよね。
「今回選んだのはホテル秋紅葉~。地元の食材を使った料理と大浴場が自慢の素敵なホテルだ!!」
「たまの息抜きなのはわかるけど、年頃の男女が遠征先で宿泊ってよくないと思うよ」
「婚前旅行としては悪くないけど、あまり回数行かなくてもね~」
「はいはい。最後に勝つのが自分だと思わないでよね」
桜輝さんはやっぱりまだあきらめてくれないみたいだ。
本当のところは分からないけど。
「こういったダンジョン近くのホテルとかにはさ、意外とあるんだよねああいったのも。今回は事前に何を扱っているのか調べての事なんだけどさ」
「……ダンジョン産の商品を扱ってるの? 食材とかじゃなくて、普通のドロップアイテム」
はっきり言えば普通だと利用法の分からないアイテム類。
鑑定しても性能が分からない謎アクセもそうだし、武器以外の商品が結構雑に扱われてたりするんだよね。
この辺りは事前に情報として入手してるし、この辺りで何が出てるのかも調べてある。
「あの辺り。アレがここに泊まった理由なのね」
「正解。姫華先輩もどこかから探して来てくれたけど、俺も本腰を入れて探そうと思ってさ。で、ここに辿り着いた訳」
「玩具に見えるけど、アレ本物なの?」
「一緒に並べられてたら判別できないね。玩具が混ざってたら流石に分かるけど」
ダンジョン産ヒーローグッズ。
灰色カードに対応した様々なヒーローグッズは実はあちこちで見つかってる。
最悪、中古おもちゃ売り場みたいな場所で玩具に紛れて売られてる事もあるらしいけど、分かる人間が見たらすぐに本物かどうかわかるんだよね。
まず、本物には電池を入れる場所が絶対にないし、オンオフスイッチの類もついていない。
逆に言えば、それらがあった時点で確実に玩具で、俺達が求める物じゃないって事だね。値段が全然違うのにわざと混ぜて売ってるらしいけど。
「それで、アレを買うの?」
「そこなんだけど、対応してる装備に種類があるというか、俺にあった装備じゃないと使えないんだよね」
そこが分からないんだけど、どうやら俺に対応してるのは親父と同じ【ブレイブ】って系統のアイテムらしい。
ヒーローとして活動するにはこの前貰ったブレスの外に、セットアップ用のバックルとチップ類が必要って話なんだ。
家にある親父用のバックルなんかは流用出来なかったし、チップも世代が違うとかで役に立たなかったんだよね。
だから今回は以前同じブレイブ系のアイテムが取り扱ってるって噂のこのホテルに泊まりに来たって訳さ。
夏休みの活動実績の為に、ついでにあのダンジョンを攻略するって目的もあったけどね。
「結構色々あるけど、こっちは玩具みたい」
「もしかしてなんだけど、これってわざと混ぜてない?」
「そこなんだよな~。意図的に混ぜられてるアイテムがホントに多いんだよ」
本物はこんなチップひとつでも最低数十万するし、そこに数千円の偽物を同じ様な価格で紛れ込ませて売れればかなり儲けものだ。
しかもさ、全部厳重に管理されてるみたいで、実はそうじゃないんだよ。
売ってる側も分かってて混ぜ込んでるし、これを使えるヒーローなんて本当にいないから本気で売ろうなんておもっちゃいないんだろうね。玩具だけに~、ね……。
「この辺りでホントに出てるの?」
「それは間違いないし、ここは意外に有名なスポットらしいよ」
「値段は凄いけど偽物とか酷くない? ちゃんとチェックしてるのかしら?」
「こういう作業は根気だからね。砂浜から一粒の砂金を探すようなものだとしてもさ」
本物を見つければそれは俺の力になるし、この先で必ず役に立つだろう。
しかし、この莫大な偽物の中から本物を見つけるのは骨だけどね。
「……私たちは自由行動でおーけー?」
「そうだね。せっかくこんなに設備の揃った温泉に来たんだし、こんな無駄な作業に付き合わなくてもいいよ」
「やった~、留美ちゃん。向こうで遊ぼ」
「そうだね。眩耀もほどほどで切りあげてよね」
あの二人はホントに仲が良くなったな。
一緒にレベル上げもしてるって話だし、冒険者活動をしてたらいろんな面が見えて来るしね……。
さて、俺もこの膨大な数のアイテムから本物があるかどうか調べないとな。
「いってみれば超巨大な特撮系中古おもちゃ売り場の壁にずらっと吊り下げられた変身アイテムから、目的のアイテムを探すような気分?」
一つ一つ吟味しながら、食玩とか色々混ざってるのを確かめて、そこから欲しいアイテムを見つける作業。
しかも今回は本物があるかどうかもわかりゃしないし、このチップに刻印されてるマークが、おもちゃメーカーのマークが正規の部隊の物であることを確認しないといけない。これがまた小さいんだよ。
こんなのどれが本物か分かるかよ!! って、電池ケースが付いてる奴は全部玩具だ。
外れは二束三文の商品を数十万で買い取る羽目になるしな。
金額的にはそこまで痛くないにしても、そんな物を掴まされるのは流石に腹が立つ。
「……何か判別法お方があればいいんだけど。そういえば、あのブレスは本物だよな?」
特殊インベントリからあのブレスを取り出してみた。
おおっ!! 本物のチップは反応してくれるよ!!
しかも、結構ある!!
「これは本物。こっちもか……。これで後はバックルがあれば完璧なんだけど」
結構な数のチップが手に入ったけど、肝心のセットアップ用バックルの本物がなかなか見つからない。
いや、本物っぽいのはあるけど旧型だったり俺用のチップに対応してなかったりと、俺の持つ最新型のブレスに対応してないんだよな。
せっかくだから姫華先輩が用意してくれたこの最新式のブレスを利用したい。いい物みたいだしさ。
「セットアップ用バックル……」
俺をヒーローへと導く最後のパーツ。
俺は冒険者だから、そこまでヒーローに拘ってる訳じゃないけど、クラスヒーローである限り避けられない問題だからな。
山の様なバックルが収められた箱の底。
他のバックルは殆どシュリンクしてあるのに、シュリンクどころか小さな値札が張られただけのバックルの欠片がそこに鎮座していた。そして値札よりはるかに大きな注意書きが張り行けられている。
【付属ベルト無し、無可動、無反応、ジャンク、返品不可】
それでも、このバックルは、俺とこのブレスを呼んでいる気がした。
こいつはずっとここで、俺が来るのを待っていたんだ。
「ずいぶん待たせちまったな、相棒。必要なチップも揃った。後は会計を済ませて、本当に俺の物にするだけだ」
ジャンクでも価格は容赦のない二億円!!
無可動のジャンクじゃないのかよ!!
それに結構な数のチップを購入したから、総額は軽く三億円を越えましたとさ。
結構な出費になったけど、これで俺が必要とする物は揃ったぜ。
【すべての条件が揃いました。【ブレイブシャイニングフェニックス】への変身が可能となりました】
【必要なチップが揃いましたので、【アルティメットシャイニング】フォームへの変身が可能となりました】
【必要なチップが揃いましたので、【ファイナルフェニックス】フォームへの変身が可能となりました】
【必要な……】
いや、どれだけいろんなフォームがあるの?
ものすっごい数のフォームに変身できる状態なんだけど。
……基本のフォームは【ブレイブシャイニングフェニックス】か。今は変身しないし、まだ初期登録も始めないけど、家に戻ったらすぐに変身できるように登録をしておこう。
親父も言っていたけど、変身する機会なんて本当にない。
だけど、これを身に着けるって事は、その瞬間から俺はヒーローでなけりゃいけない。
なんとなく導かれるようにここに来たけど、ここに来て正解だったみたいだ……。ネットの噂と俺の勘。どっちも意外に馬鹿にできないな……。
この後俺達は温泉と料理を堪能して帰還した。
いろいろと覚悟が決まった遠征だったな……。
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