不殺の女騎士は任務を請負ったそうです
いつもの部下達を背に、久しぶりに謁見の間へと足を踏み入れると、王様がニッコニコの笑顔で迎え入れてくれた。何か嫌な予感がするが、黙っておく。
とりあえず格式なんて無視して横の椅子に座りなされと言われたので、広い謁見の間に用意された椅子に、ポツンと座り込んだ。
この王様は言動が軽いなぁと時々思う。誰の為にあんなくそ面倒臭い格式を行なっていると思うのだね。
「うおっっっほん!! おほんおほんおほーーーん!」
わざとらしい怠い咳き込みを何度かした後、王様はじっと私の瞳を見続けた。
ちょび髭は私の笑いのツボを刺激してくるのは内緒の話しである。
「テシン・マサーカー、不殺の女騎士よ、事は重大だ。なんと、どこかの地で抵抗軍が生まれてしまったそうだぞ。どうしよう」
最後の一言は一旦無視し、頭の中を整理してみる。
抵抗軍か、何も珍しい事ではない。私も最後の戦争の後、何度か反乱分子を潰してきたし、それが今更出てきた所で驚きなどしないのだ。
「王様、その情報はどこからなのですか」
話を聞くと、自治を認めている領土の各国と偶に会議をするらしく、そこで秘密裏に結成していた諜報部隊の報告で発覚したそうだ。
国中の至る所で活動をしているらしく、その活躍も目覚ましい。
最近では若者だけではなく、老人すらも抵抗軍に身を寄せるらしい。
なるほど、いつもの王様の妄言ではないと言う事か。
それならば早急に行動に移さねば、最悪もう一度戦争になりかねない。
「単刀直入に申す。テシンよ、諸国を回り、その抵抗軍を潰し、首謀者を暗殺してくるのだ」
もう完膚なきまでに、けちょんけちょんにしてくれと任務を言い渡される。
地団駄を踏む王様の足はどこか震えており、まるで未知な出来事に怯える子供の様だ。
もしかしてこの王様、自国の軍事能力を理解していないのか? 領土増やしすぎて世界中を相手にしても余裕で勝てるレベルの大国なんだぞ? いくら抵抗軍が頑張ろうが、物事には限界がある。
「テシン、其方は不殺の女騎士。確かお主は言ったな? 私は私と同様な価値のある相手しか殺さないと。その言葉の通り、お主は戦争の時代、結局一人も殺さなかった。何人、何十人を相手にしようとも、誰一人殺める事なく戦乱の世を渡り歩きおった。恐ろしい女よ」
「いえ、私はその様な言葉、一言も口にしたことはありませんよ」
「あれ? そうじゃったかの。まあええわ」
全然よくねーよ!? お前がそんな変な事ばかり言うから私の噂が歪な形で広まるんじゃねーか!? 貼っ倒すぞこの老いぼれ!!!
「それでだテシン。お主の主義主張、ワシもよーく理解しておる。じゃがな、ワシはあまりにも怖くて飯も喉が通らんのだ。国民の不満を解消できないワシの不甲斐なさ、暗殺に怯える日々。辛そうとは思わないか?」
何も主義主張していないのだが、今それを指摘しても仕方ない。
ともかく内容を聞かなければ。
「暗殺とは穏やかではありませんね。その情報はどこから?」
勘じゃよ、勘。
と答えられたので、今すぐこの場でこの妄言じじいを暗殺してやろうかと感情が昂ったが、私は不殺の女騎士。取り乱してはいけないのである。
「ハァ、とりあえず任務内容はどの様な?」
この大陸は、東西南北と国が別れており、その中心にあるのが我が国「マナーカ」
東の国「ヤマー」西の国「シーカイ」北の国「ユッキー」南の国「アツーイ」
その全ての国を回り、調査せよと言う内容だ。
ざっくばらんな指示の仕方がいかにもこの王様らしい。王子様の方はもっと優秀なのに。
「テシン、今回の作戦の指示や権限は、お主に全て任せる。お主はこの国、いや、この大陸1番の騎士。何かあってもすぐに対処が出来るであろう。作戦内容をまとめ、ワシに報告するのだ」
一々内容を報告しなければいけないなんてクソ面倒だが、全権を私に任せると言う内容は魅力的だ。1週間ほど部屋で缶詰になり、書類をまとめることにしよう。
「仰せのままに、では私はこれで––––」
すぐに去ろうとしたが、王様に呼び止められる。
「お主、今日我が息子から手紙が届いていただろう? どうじゃった? どじゃった?」
うわぁ、嫌な所突いてきたな。
とりあえずお食事のお返事はお断りさせて頂きましたとやんわり口にする。
すると、王様は大きなため息を吐きながら、哀れみを込めた憂いた瞳で私を視界に入れるのであった。
「テシンよ、大きなお世話かもしれないがの、お主もそろそろ身を固めてはどうかの? 折角の美貌じゃ。擦り寄ってくる者が後を絶たないのは分かるが、選り好みをしていると次第に愛想を尽かされるぞ? ただでさえお主は強過ぎると言うのに」
その強過ぎる奴のおかげで、戦争が順調に進んだのはお忘れですか王様。
「ワシの息子ではダメか? あいつは見た目はあんなに馬鹿っぽ……頑張り屋さんに見えるが、中身はとても賢い奴なのじゃよ? 国民の信頼もワシよりも百倍厚く、部下からも尊敬の眼差しで見られておる。お主と二人寄り添えば、より国は強固になるじゃろうて」
ゾワゾワと体全体に鳥肌が立った。
あの筋肉だるまに抱かれると思うと、どうも生理的嫌悪が拭えない。
「お言葉ですが王様、王子様にはもっと素敵な女性がいるかと。私は所詮は農家の娘、王家に組みすると周りの貴族達が黙ってはいないのではないでしょうか」
王政は権力社会。
血で血を洗う、醜い抗争に巻き込まれるのは真平ごめんなのだ。
「あ、それなら大丈夫じゃ。皆お主の事を怖がっておるし、逆らえば生きたまま血を吸われると語る者もおる」
誰だ語ってる奴。
見つけ次第ボコボコにして言葉を現実にしてやろうか。
ていうか怖がってる理由が知りたい。私は何もしてないのに。
「ははは、それは面白いですね。ちなみにどなたがその様な荒唐無稽を?」
「喋る訳なかろう。一つの命を毟り取る様な真似、王様であるワシには出来ん」