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不殺の女騎士は戦争を終わらせたようです

「爆発と共に粉塵が巻き起こり、周囲の景色を真っ白に染める。

 奥では掛け声が聞こえ、足音は真っ直ぐにこちらに向かい、迷う足取りは一音も響かない。

 それが敵の選択であり、覚悟なのだ。

 決して無謀だとは思わない、だって戦場だ、命を賭けて前に進まなければ明日は訪れないのだ。


 だから––––私も私なりに精一杯、応えるとしよう。


「うおおおおお!!!!」


 粉塵の中から、一人の重厚な鎧を着た戦士が剣を抜きながら、私の方に向かって突進して来た。足跡が深く地面を抉る程その鎧は重たく、体に掠っただけでも勢いで飛ばされ、地面に尻餅を着くこと間違い無しである。


 敵の勢いに影響され、思わず私も剣を握ろうとした。

 本来なら自分みたいな騎士隊長は、装飾煌びやかな剣を腰に据え、向かってくる敵に対して一閃をかますのが流儀なのだ。


 そう、流儀。


 後ろで同じく剣を構えている部下達の前で、いい格好を見せる最大のチャンス。きっと夜の酒のお供に私の英雄譚は語り継がれ、国中に広まり、将来私が天寿を全うした後に絵本になったりするのであろう。

 それを読んだ子供達は将来立派な大人になり、あの物語の様な強い騎士になるのだ! と希望を胸に抱いて門を叩くのだ。美談である。


 けど、それを為すのには一つだけ足りない物があった。

 そう、本来なら腰に据えてるであろう、一本の剣である。


「死ねええええええ!!!!!」


 三流の雄叫びを上げながら、重厚な鎧の戦士が私に斬りかかる。

 ちょっと唾が顔に飛んで汚かったので、いつもより強めに対処することにした。


 右手を前に出し、降りかかる剣の刀身目掛けて勢いよく手刀を入れると、先程まで立派に伸びていた剣が、最も容易く粉々になってしまった。


 そして瞬時に後ろに回り込み、首元目掛けて手刀を入れ込む。

 いつもならふらりと糸が切れた様にその場に倒れる敵だが、今日は地面に陥没するまで力を込めてしまった。

 やりすぎだとは思わない。だってこんな美女の顔に屈強な男の唾が掛かったんだぞ。重罪だとは思わないかね諸君。


 そう思ってニコッと笑顔を見せながら後ろを振り返ると、まるで雷に怯えている子犬の様な目をした部下達が、畏怖を持って視線を私に送っていた。

 

 なんだねその目は。敵を一人倒したのだからもっとこう盛り上げたまえよ。


 すると、一人の小さな男がパチパチと小刻み良い拍手を一生懸命入れ始める。まるでナッツを食すハムちゃんの如く、じっとこちらを見ながら模った笑顔を浮かべるのだ。


「う、う、うわああああああああ!!!!!」


 後ろの粉塵から、今度は四方八方雄叫びが聞こえ始めた。

 きっと一人目をあっさりやられたのが誤算だったのだろう。


 またもや勢いよく飛び出し剣を振るおうとする。が、そんな同じ戦法が通じる程、私は甘くない。

 

 今度は剣を砕かずに、瞬時に後ろに回って手刀を入れる。

 さっきみたいに力を込めるのではなく、柔らかく優しく包み込む様にゆっくりと入れたので、膝を着きながら地面に顔面を突っ伏す形になった。

 これは芸術点満点の出来、きっと部下達も圧倒されたに違いない。もしかして感動して涙を流しているかも。


 再び後ろを振り返りニコッと笑顔を見せると、皆戦々恐々とした顔付きに変化し始めた。

 さっきのハムちゃんは再び小刻み良い拍手を鳴らし、たった一人で場を盛り上げようとしてくれている。


 おかしいな、戦場って敵を倒したらもっと称賛される筈なんだけど。

 あれかな、やっぱ皆緊張しているのかな。だよね、そーだよね。だってここは戦場だ、平原のど真ん中で障害物も無く戦ってたらそりゃ疲れちゃうよね。私だってさっきので五百人目だし、もうそろそろ右手も痛くなって来たしさ。


「うわああああああ!!」

「うあああああああ!!」

「うあああああああ!!」


 今度は三人同時で襲って来たが、数など私には関係がない。速さは一般兵に比べて桁違いだし、力だって私の方遥に上だ。


 手刀、手刀、手刀。

 ひたすらに手刀。


 バッタバッタと人が倒れ、地面に顔を埋める。

 情けなくお尻を突き出しながら。


 もうそろそろ潮時かなと思った所、今度は今までよりも大きい足音が私に向かって歩いて来る。

 のっしのっしと牛みたいな足取りだ。


 粉塵の中から出て来たのは、大木とも言って良い程の大男。

 手元にはこれまた大きなオノを持ち、顔は大きく、鼻息も荒い。


「クックック!!! 貴様が噂の女騎士だな?」


「噂? 知らんな」


 興味ないっぽく返答をしてしまったが、正直な所めちゃくちゃ気になる。私は向こうの国でなんて呼ばれているのだろう。やっぱりこの麗しい見た目から天使とか呼ばれてるのでは! そうだ、きっとそうに違いない!

 

 大男は口元から汚いよだれを垂らし、私の事を見続けた。


「不殺の女騎士、テシン・マサーカー。こちらでは破壊神と言われているが、まさかこんな綺麗な女だったはなぁ……ヘッヘッヘ、じゅるり」


「破壊神……ね。良い二つ名じゃないか。私も箔が付いてきたかな?」


 そう言いながら後ろの部下達を方へ振り返る。

 みんな初めて聞きましたと言わんばかりに一生懸命に首を横に振っていた。ハムちゃんは一生懸命拍手をしているが、タイミングが最悪なことに気づいてない。


「よう破壊神、俺が貴様のその鎧を剥ぎ取って、自分がいかに無力な女なのかを分らせてやるよ! 覚悟しやがれ」


 何か汚い言葉を吐いていたが、上手く耳に入らなかった。

 なぜだ、どうしてこうも変な方向に舵が切られてしまうのだ。

 破壊神? 若干否定出来ないけど、もうちょっと上手い名前を考えなかった訳? 戦場で天使の様な私に会えるんだぜ? 


 ––––天国かと思ったら、気がついたらベッドの上だった。

 戦場で出会った彼女の姿は幻。

 その憂いた瞳は出会う者を眠りに就かせ、天国へと旅立たせてくれる。


 最初の一週間くらいはこんな風に言われていたのになぁ。

 もう向こうの国では破壊神なんでしょ? 戦いで勝ったら我が国が敵領土を支配しちゃうし、そうなったら二つ名の逆輸入でこの国全体での私の二つ名が決まってしまうじゃないか。


 ハァ、とため息を吐く。

 とりあえず振り下ろされようとしているオノを砕くと、大男の目玉が飛び出るほどまん丸と開かれた。

 そりゃあね、オノ砕かれたら誰だってびびるよね。


「く、くそおおおお!!!」


 もう一本腰に付けてあるオノを取り出し、もう一度私に振り上げる。

 面倒臭いので、またもや瞬時に後ろに回り、首元に手刀を入れ込む。


「がっっ……」


 変な呻き声を上げながら、大男はどさりと地面に突っ伏した。

 まだ意識がある様で、地面に横たわりながらも、目線を自分に向けてくる。


「く、殺せ……!! 敵の捕虜になるくらいなら、死んだ方がましだ!!!!」


 返答に困ったので、部下の方へと振り返ってみた。

 皆うんうんと頷きながら親指を上げ、合図を送ってきた。

 意図は分からないが、とりあえず自分の好きにすれば良いのだろう。


「悪いな、私は不殺の女騎士。その名の通り人は殺さない。これまでも、これからもな。それに戦争は終わった。我々の勝利だ」


 粉塵が晴れると、敵の旗が白旗になっている。


「ば、そんなばかな……俺達が……負けるなんて」


 戦争は終わった。

 これで、私の戦いも終わる。

 





 筈だったのだがーーーーー!?!?!?!?!?

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