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9話 足跡を辿っているようです。

 二人を見失わない程度に距離を取りながら俺と柚希は後をついていく。

 これと言って面白いことが起こることもなく、淡々と駅の方へ向かっている。


「もしかしてだけど、このまま帰ったりしないよね」


 柚希が不安そうな顔で言った。

 一拍空けて俺は二人を目で追いながら呟く。


「さっき夢咲は行きたいところがある、って言ってたけど……どうだろうな」


 駅ビルや駅近くの喫茶店に行くのかもしれない。

 ただ、今のところ遠くから見てる限りだと二人の様子はあまり良好のように見えない。

 ずっと夢咲が喋りかけてばかり、横河も薄く反応するものの会話が弾んでいるようには見えなかった。


 彼女選り取り見取りの横河がコミュ障なわけないので、考えられるのは敢えてスルーしているとか。


 でも何の為に。


 もし彼氏役を頼まれたのだとしたら、嫌いな奴のそんなお願いを引き受けるとは思えない。

 普通に付き合ってるとしたら、彼氏彼女になって三日目で全く会話に反応しないのはあまりにも不自然だ。


「夢咲って一年の頃はどんな奴だったんだ?」

「萌花? なんでいきなりそんなこと」

「いや普通に知りたくて。二人がどんな関係なのかって」


 最初は、俺と成島のような関係性かと思ったが、少し違う。

 二人は表面上ではぶつかっているように見えるが、夢咲と柚希はどちらも相手に好意的で、関わることが嫌ではないようだ。

 ……俺と成島は完全な敵対、友好なんてものは存在しない。


「うーん、とにかく萌花がやたらライバル視してくる。テストの点数とか体育の成績とか誰々と喋ったとか」

「喋った? そんなの競ってたのか」

「ウチじゃなくて萌花がね。例えば上級生の誰々と喋ったとか。学校の人気者と喋った回数とかを聞いてきたりさ」


 喋ったことが優劣になると思えない、という正論は一旦置いておき、俺は話を進める。


「ちなみにそれを夢咲から言われて、柚希は何て返すんだ?」

「うーんとね。『その人にこの前、告白されたよー』って返したら黙るから」


 それを言われた夢咲の表情が鮮明に思い浮かぶのはなぜだろう。

 ……にしても、結構むごい事を言うんだな。


「柚希って負けず嫌いな性格か」

「だってそんな程度でマウント取られたら悔しいじゃん、テストもあの子に負けないように滅茶苦茶頑張ったし、体育の授業だってその種目始まる前に自主練してるくらいなんだから」


 そう言えば、テストの点数上位者の一覧に柚希の名前を何度か見かけたことがあった。

 見かけは勉強できない、料理できない、運動やらないのギャル三拍子なんだが実は柚希って凄い女かもしれない。


「夢咲と仲良く接するのはダメなのか?」

「そんなことしたらあの子が調子に乗るに決まってるじゃん? きっと何かしらずーっとマウント取ってくるから」


 そうは言いつつ、彼女は夢咲のことをちゃんと考えている。


「まあでも、そんな夢咲の存在が嫌でもないからこうして尾行しているわけか」


 すると柚希は不服そうな表情で唇を尖らせた。


「……まあそうだけどさ、今回は流石に朔夜も心配でしょ! なんかあの二人怪しいって言うか、萌花が空回りしてる気がして」

「それは俺も思うんだが、……ところであいつらどこ行った」

「え?」


 いつの間にか、二人の姿はなく見失ってしまった。

 俺と柚希は虚空を見つめ、どうすることもできずにいた。

 柚希がはぁ、とため息を吐く。


「しゃーない、帰ろっか」



 ◇ ◇ ◇



「ん、あれ、夢咲じゃないか?」


 駅まであと少しという場所にある公園。

 そのベンチで夢咲が座っているのを俺が見つけた。

 横河の姿はなく一人だ。

 さっきまでの元気な明るい笑顔はなく、鬱々とした顔でうな垂れている。


「ウチ、ちょっと」


 そう言って公園に入ろうとした柚希を俺は咄嗟に止めた。


「なに?」


 イラついているのか彼女の声音には少し棘があった。

 一つ息を吐いてから俺は諭すように語り掛ける。


「今、柚希が行ったら虚勢を張って本心で喋ってくれないだろ。柚希が声かけても事態の解決には繋がらない」

「じゃあ、あのまま萌花のこと放っておくって言うの!?」


 手を振り払って怒る柚希に対し、俺は彼女の目をしっかり見据えて告げる。


「違う。俺が話を聞いてみる」

「…………」

「……いや、あのそんなに目を丸くして驚かなくてもいいんじゃないか」


 俺が言ったこと別に間違ってないよな。

 何の反応もないと、めちゃくちゃ恥ずかしいんだが。

 そう思ってると、柚希はぽつりぽつりと呟き声を上げる。


「だって朔夜らしくないじゃん? 事なかれ主義って言うか、クラスでも他人に無関心だし、ウチのことも……」

「そういう所があるのは否定しない、ただ彼女が助けたいと思う相手に彼氏である俺も手を貸してあげたい、そう思ったんだよ」


 少しカッコつけすぎた気もする。

 彼女は笑っているだろうか、そんな思いで顔を上げた。

 少し笑いを堪えているようだが、柚希はすぐにいつもの表情に戻って告げる。


「そっか。じゃあ朔夜に任せる」


 柚希ははにかみながら言った。そしてぽんと軽く背中を押して俺を送り出した。

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