7話 変なライバルが現れたようです。
柚希と恋人のフリをすることになった翌日。
昼休みになってクラスメイトは学食に行ったり、持参のお弁当を食べたりしている。
そんな中、俺は柚希の手作り弁当を振る舞われていた。
「……露骨過ぎないか」
「これくらい普通でしょ」
ご飯の上には『大好き』とご丁寧に文字が描かれている。
いくら彼氏彼女のフリと言えど、ここまでする必要はあるのだろうか。普通にしていてもカップルと認識されると思うが。
なんとなく文字を崩しに箸を動かすと、柚希が悲しい顔でこちらを見ていた。
……崩すのは避け、おかずへ目標を変えてぱくりと食べる。
緊張した表情でこちらをじっと見つめている柚希、そんな彼女の顔色を窺いながら俺はゆっくりと飲み込んだ。
「んっ、美味い」
「ほんとっ!?」
ここだけの話、見た目で料理が下手だと思い込んでいた。
「柚希って意外と料理上手いんだな」
思わず言葉が漏れてしまった。
慌てて口元を手で塞ぐが今更遅い。
不服そうな表情で柚希はぷくっと頬を膨らませた。
「意外って、ちょっとショック。……んー、でも美味しいって言ってくれたならよかった!」
笑顔を浮かべて告げた柚希。
もっと褒めなさい、とでも言いたげな目で俺にアピールしているが、そんな彼女を敢えて無視して話を変える。
「……そういや、付き合ってること広まるの早くないか?」
周囲を横目で見ると、教室でお昼を食べているクラスメイトが興味津々な目で俺たちを見ていた。
昨日の午前中の休み時間に柚希から告白されたわけだが、その日の放課後にはクラスメイトの半分以上に知れ渡っていた。
おそらく今は他クラスにも情報が流れているに違いない。
「そんなもんでしょ。去年もウチの学校ってそんな感じだったじゃん?」
「……まあ、そうだけどさ」
「ウチとしては知られていた方が嬉しいけどね。当初の目的は達成してるわけだし」
柚希は男除けの為、俺に嘘の恋人をお願いしてきた。……事なかれ主義の俺としてはあまり広まって欲しくないのだが、彼女にとってこの状況が都合いいのなら俺は従わざるを得ない。
ただ柚希はモテる。
これが厄介だ。俺への嫉妬で被害が被るようなら何かしらの対処が必要になってくるだろう。
「何も問題が起きなければいいけどな」
「問題、そんなの無いに――」
「いぇーい、卵焼きもーらい!」
柚希が笑顔で答えている途中、突然横から手が伸びてきてお弁当にあった卵焼きが一つ攫われた。
掴んだ卵焼きをぱくりと食べ、ツインテールの女の子はじっくり味わうように噛み締める、
……誰だ、こいつ。
「ふーん、ゆずにしてはよく出来てるじゃない」
金髪ツインテール、高校生にしては化粧が濃く、柚希と同じように制服を着崩してスカートもかなり短い。
柚希よりもギャルというか、二人はどことなく雰囲気が似ている。
知り合い、いや友達か。
「な、なんでっ、アンタがここにいんのよ」
口元をひくひくと震わせ、少しイラついた様子で柚希はツインテールの彼女を睨みつけた。
だが彼女はそんな柚希を物ともせず、周囲をキョロキョロと見渡す。
「彼氏できたんでしょ、誰? サクヤって男は」
「アンタの目の前にいるのがウチの彼氏、綺堂朔夜くん」
柚希が右手に握り拳を作りながら、引き攣った笑顔で言った。
「え……、これ?」
そこでツインテールの女の子と完全に目が合った。
一瞬、間が空いてから俺は軽く会釈をする。
女の子は戸惑った表情で口元を手で覆った。
「ちょっと待って、……え? これがゆずの彼氏? こんな陰キャ丸出しの奴が? 聞いたことない名前だし、もしかしたらと思ったけど……これがゆずの彼氏なんてあり得ない」
初対面の名前も知らない女の子にいきなり俺の存在を全否定された。
ただ、彼女が言わんとすることはわかる。
つまり陽キャ側の柚希と、陰キャ代表のような俺じゃ釣り合わないってことだろう。
「あ、アンタねぇ……、ウチ本気で怒るよ」
柚希はツインテールの子を睨みつけ、ピリピリした雰囲気を放っている。
怒ってくれるのはありがたいが、食事中に修羅場は勘弁だ。
一旦、この空気を変える為、俺は一つ息を吐いてから女の子に問いかけた。
「で、君の名前は? 柚希の友達?」
「陰キャのクセに偉そうに聞かないで。私は夢咲萌花、ゆずとは一年の時に同じクラスでライバルなのよ」
「ライバル? そうなんだ」
柚希に視線を送ると、ぶんぶんと首を横に振って答える。
「違うから。ウチに対して一方的に敵意を向けるストーカーみたいなもん」
……え、それって俺で言うところの成島みたいな女ということか。
二人は似ていると言ったが、言い方を変えれば柚希を真似ているようにも見える。
「ライバルの柚希がこんな芋みたいな彼氏連れてるなんて……、私は恥ずかしくて堂々とライバル名乗れないよ!?」
「まずウチとアンタはライバルじゃないから! それと、こう見えても朔夜は意外と凄いんだから、あんなバカにしてると痛い目見るよ」
そこまで持ち上げられる程のことはしてないが、取り敢えず柚希の話に乗っておこう。
俺としてもひたすら見下されるのは気分が悪い。
「凄い? ふんっ、どうせ円周率百桁言えるとかそんなことでしょ」
「んなわけないでしょ!」
呆れた笑みで柚希がツッコミを入れる。
でも円周率百桁は普通に凄いぞ。
「じゃあなによ」
「アンタも成島くらい知ってるでしょ? 朔夜はその成島を倒した男なの」
「でも所詮、成島でしょ。あんなのいつか落ちてたでしょ」
「そ、そうかもしれないけど、とにかくウチの朔夜をあんまバカにしないで。っていうか、ウチのことより自分の心配したらどうなの、どうせまだ彼氏募集中でしょ」
柚希が決めつけたように言うと、夢咲がにやっと微笑み笑った。
「実は私、彼氏できたから」
「え?」
「しかもその彼は、ゆずもそこの男も知ってるようなイケメン陽キャなんだからねっ!」
それは完全なる勝利宣言、どうやらその彼氏くんを自慢しに彼女はここに来たのだった。
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