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5話 嘘は恋人の儀式です。

 翌日、学校に行くと久しぶりにクラスメイトから挨拶された。


「おはよ」


 今日もギャルらしく制服を着崩し、相良柚希(さがらゆずき)は上機嫌な様子で俺に話しかけてくる。


「おはよう、相良」

「いやー、昨日は痛快だったね」


 成島のことか、……俺としてはちょっとだけ複雑な気持ちだ。

 例えるなら、ラスボスだと思っていた敵が最初の街で出現する初級モンスターだった、みたいな。

 サッカー部だし、一年の頃も目立っていた……悪い方向でだが。

 友達も多かったし、もう少し人望があると思っていたがあんなことになるとは想像だにしなかった。


「ちょっとこのクラスにも平和な未来が見えてきたんじゃない? ナルシスト成島も流石に調子乗らないっしょ!」


 ふふん、と胸を張って言う相良に俺はため息を吐いて答えた。


「さあな。アイツは何を考えているかわからない奴だ。俺や相良に恨みを持って仕返し、なんて考えていてもおかしくはない」

「えぇ! こわっ」

「だからあまりアイツを刺激しないように気を付けた方がいい」

「でももしウチが襲われたらまた綺堂が助けてくれるんだよね?」


 上目遣いで彼女はあざとく言った。

 相良が成島に何かされるとしたら俺が原因である可能性は高い。そうなったら俺は彼女を助ける義理がある。

 一つ間を空けてから俺は頷いた。


「まあな」


 そう言うと、パァっと満面の笑みを浮かべてグッと親指を立てる。


「頼りにしてるよ、クラスリーダーさん」

「え、クラスリーダー?」


 まさか俺のことを言ってるんじゃあるまいな。

 自他共に認める陰キャぼっち、リーダーシップなんて言葉とは無縁の人生だった俺が、まさかな……。


「だって今のクラスグループ作ったの綺堂じゃん。ウチでもいいけど、綺堂の方が似合ってるよ」


 昨日作ったグループがそのままクラスグループとして流用されているのか。……いや、それでも俺がリーダーってのは違うような。

 俺は相良から目を逸らしながら告げる。


「成島の一件でわかったと思うけど、リーダーとか最早どうでもいいだろ。どうせ大した意味のない肩書きなわけだし」

「ん? それってやってくれるってこと?」


 相良は期待の眼差しを俺に向けて尋ねた。

 なんで、そうなる。

 と言いたいところだが、成島をクラスリーダーから引き摺り下ろしたのは俺だ。その役目を俺が背負わなければならないのは世の道理か。


「……わかったよ」


 成島よりは良いリーダーになれると信じたいものだ。


「がんばってね、ふぁいとぉ」


 相良との話を終え、俺は自分の席に座った。




 その日の一限目が終わった休み時間。

 俺は次の授業で使う教科書を鞄から取り出し、軽く寝ようとかと思っているとなんだか視線を感じた。

 顔を上げると、何人かのクラスメイトが俺を囲んでキラキラとした目で俺を見ていた。


「昨日は凄かったな、僕ちょっとだけ感動しちゃったよ」

「綺堂って成島となんか関係あるの? やたら目をつけられてたよね」

「成島がこれで静かになってくれるといいんだけどさ」


 様々な声が聞こえ、俺は苦笑いをしながらテキトーに返事をした。

 クラスメイトからの評判が上がるのは構わないが、昨日と状況が変わり過ぎて戸惑いが勝っている。

 その時、スマホの通知に気付いて俺はスマホの画面へと視線を落とした。

 メッセージを送ったのは相良だった。


『次の休み時間、中庭に集合』


 相良の方を見ると、友達と会話をしている。

 ……また中庭か。




 休み時間になって昨日ぶりに中庭へとやって来た。


「いやはや、なんだかすごいことになってますなぁ」

「……なんだその喋り方。てか何で中庭なんだよ」

「綺堂が大人気だからね。教室だとあんまり話しできないじゃん」


 まあ今の状況だと教室で会話するのは難しい。でもそれならラインを使ってやり取りすればいいと思うが。

 わざわざ何で中庭に来たのか。

 もう来てしまったし、まあいいんだけどね。


「綺堂に言いたいことがあって」

「……ん?」


 相良が改まった様子で俺のことを真っすぐとした目で見据える。


「ウチと付き合って欲しいの」


 その瞬間、全ての時が止まったような感覚に陥った。

 聞き間違いじゃなければ、『付き合って』って言わなかったか。

 どう反応すればいいかわからず、ぼーっと突っ立っていると相良が慌てた様子で身振り手振り大きく言葉を続ける。


「あ、いや、本当に付き合うわけじゃなくて……その、アレ! 恋人のフリをして欲しいって言うか」

「恋人のフリ?」

「そう! だってウチって結構モテるし、しょっちゅう告白とかされるし。それが鬱陶しいわけ、だからその……綺堂と恋人のフリをしたら解決するかな~って」


 そういうことか。

 普通に告白されたのかと思ったが、……ちょっとショックだ。


「なんで俺なんだよ、それなら別に誰でも」

「綺堂じゃなきゃダメ! 絶対に。理由は言えないし、聞かれても答えないから」


 力強く言い切られ、俺は返す言葉を見失った。

 恋人のフリをするだけ、それなら簡単か。……成島が相良に何かしたとしても守りやすいし、アリではある。


「……わかった、恋人のフリしてもいいよ」

「じゃ、じゃあ決まり」

「本当に決まったのか……」


 戸惑いながら呟くと、相良が俺に近づいてきて下から覗き込むようにして言う。


「決まりなの! だからこれからは下の名前で呼びましょ。ホンモノの恋人っぽくさ。いいでしょ?」


 それはやり過ぎじゃないか。

 別に下の名前で呼び合わなくても、恋人ってのは成り立つような。


「いいでしょ!」


 まるで俺の心を読んでいるかのようなタイミングで追いうちをかけられ、俺はため息と共に言葉を吐き出した。


「……わかったよ、柚希」

「うん、ありがとね。朔夜」

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