4話 調子に乗るとボロが出るようです。
「成島、アンタいい加減にして。なんで綺堂がウチのクラスグループに入れないわけ」
怒気を含んだ声色で相良が反抗する。
それを聞いた成島は腕を組んで嘲笑の笑みを浮かべた。
「綺堂朔夜って男はな、クラスの雰囲気をぶち壊す奴なんだよ。オレの記憶だと、一年の時は学校行事に非協力的、隅っこでスマホを弄ってコミュニケーションを取ろうとしない、たまに何か言ったら空気の読まない一言。な、最悪だろ?」
「そうなの? 綺堂」
相良が俺に助けを求めるような困った表情でこちらを見る。
断言できる。
そんな事実は一つもない、と。
「全くの嘘、デタラメだ」
学校行事に関しては普通に目立たなかっただけで、手を抜いたことはない。話しかけられたら普通に会話してたし、現に今もしている。それに、空気の読まない一言なんて言ったことあったか? ……覚えてない。
全てが捏造であり、嘘とは言わないが、成島の発言はあまりにも目が余る。
そして何より、一年の時にクラスの雰囲気をぶち壊していたのは俺じゃなく、成島隼人本人だ。
学校行事は自分が目立とうと無茶な意見、行動。
自分の意見は絶対に曲げず、突然大きな声でわけのわからない事を言う。……全部当てはまってるな。
「綺堂、お前はグループラインに入らなくていいだろ? 一年の時も最後の最後にお情けで招待されただけだもんな」
成島は憎たらしい笑顔で俺の顔を両目でしっかりと見据える。
確かに、俺はグループラインというものに必要性を感じない。自分から入りたい、なんて口が裂けても言わないだろう。
でもこの男にそう指図されると逆に入りたくなる。……が今はまず、
「相良にスマホ返せよ」
「嫌だね。お前が入らないと宣言したら返してやる」
成島は俺を挑発するようにスマホを見せつけるように持つ。
その隙を見て相良が腕を伸ばす。
だが成島は相良の手を軽く避けて、今度はグッと力強く握り込んだ。
「ウチのスマホ、早く返せ! アホ」
「返せ、と言われて返すバカはいねえだろ。どうしても、と言うなら綺堂にグループ入りませんって宣言させるんだな」
相良はやるせない顔をして俺に近づく。
成島がここまでするとは思わなかった。グループラインに入れなかったのは残念だが、問題はない。
と思っていると、相良が意味ありげな視線を俺に送って耳元で囁いた。
「後で招待するから、今はスマホを返してもらう為に」
彼女の言いたいことはすぐに理解した。
小さく頷いて俺は成島の方へと向き直る。
「ようやく覚悟が決まったか、さっさと言え」
「クラスグループには入らねえよ、どうせお前が作ったグループなんだろうし、入る気失せた」
「はっはっは、愉快だ。最高だよ、綺堂朔夜くん」
「綺堂がちゃんと言ったんだからスマホ返してよね」
さてここで大人しくスマホを返して……くれた。
成島、お前はやっぱり大バカ野郎なんだな。
相良が成島からスマホを受け取ってすぐに慣れた手つきで操作している。
「綺堂、これでお前は完全に孤立し――」
「じゃあ招待するから」
カッコつけた成島を遮って相良が俺に向かってスマホの画面を見せた。
その瞬間、成島は目の色を変えて相良を睨みつける。
「おい女、あんま調子に乗るなよ」
成島が掴みかかろうとした時、俺の体は考えるより先に動いていた。椅子から立ち上がり、成島の手首を押さえつけるように掴む。
苦虫を噛み潰したような顔で成島は俺を見た。
「綺堂、てめえ何しやがる」
「それはこっちのセリフだ。今、女の子相手に手を挙げようとしただろ」
おそらく怒りに身を任せた行動だったのだろう。冷静さを取り戻した成島は焦った表情に変わっていく。
「ち、ちげえよ。オレはただスマホを取ってやろうと」
「そもそも相良のスマホを奪い取る権利はお前にない。そして俺がグループラインに入るかどうかもお前が決めることではない」
別に俺がこの男にいびられる分には問題なかった。俺が無視をしていれば、誰にも迷惑はかからなかった。
だが第三者へ迷惑がかかるというなら話は別だ。コイツの暴走を止められるのは俺しかいない。
「うるせえな、綺堂のクセにイキがるんじゃねえ。オレが認めないって言ったらグループには入れねえんだよ」
「ねえアンタさ、もしかしてこのクラスを自分が纏めてる……なんて考えてないわよね?」
「あ? オレが一番相応しいに決まってる。他に誰がいるってんだ」
「女の子相手に暴力を振ろうとした男が本当に相応しいのか? 片や一人の俺をグループに誘ってくれる彼女と、俺を仲間外れにしようとするお前、どっちが相応しいかなんて一目瞭然だろ」
「いや、オレはみんなの為に、その」
成島は目線を左から右に流れ、口元をもごもごと動かしている。必死に反論できる言葉を探しているが、見つからないと言った様子。
「成島も綺堂も、これで終わり。もういいでしょ」
態勢決したか、相良が丸く収める方向にもっていく。周りでやり取りを聞いていたクラスメイトも少し安堵した様子だった。
「まだだ! まだオレは綺堂に負けてない」
「……はぁ? アンタいい加減に」
「オレと綺堂、どちらもラインでグループを作る。より多くの人数を集めた方の勝ち。二つのグループに入るのは禁止。これでどうだ」
成島が必死に考えた結果がこれか。
まあいいんじゃないか、自分で決めたゲームで負けるのなら納得がいくだろう。
スマホを弄り、欠伸をしながら俺は首を縦に振った。
「いいよ」
「綺堂、マジで言ってる?」
驚いた表情で相良がこちらを見ている。だがもう俺が了承してしまった以上、話は進んでいく。
「じゃあ今からスタートだ。制限時間は五分! ちなみにオレのグループは元からある奴だから今は三十九人のはずだ」
今のクラスグループは成島が作ったはずだから、ルール上は問題ない……が、あまりの反則技に相良は顔を歪ませた。
「五分!? そんなの綺堂に勝ち目に。それになんでアンタが」
「もうオレの勝ちってことでいいか? いいよな? だってお前に勝ち目なんてねえからな」
相良の言葉を遮って成島は俺に言葉をぶつけた。
「……いや、俺の勝ちだな」
俺は自分のスマホの画面を見せる。
「お前、話を聞いていたのか。グループの人数を競ってい――」
そこで成島は言葉を失ったようにフリーズして動かなくなった。
画面には二十一の文字があり、この数字が本当ならクラスの過半数を獲得していることになる。
その数字を信じていないのか、成島は自分のスマホを取り出し慌てた様子で操作した。
「……なっ!?」
おそらく見たのだろう。
自分の作ったグループがいつの間にか、もぬけの殻になっている惨状を。
種明かしって程ではないが。
さっき相良から招待されていたグループに入って、俺が作ったグループに片っ端から招待しただけだ。成島の声がデカいお陰でクラスメイトに状況は知れ渡っていたから皆すぐに受け入れてくれた。
「成島、アンタの負けね」
「……ふざけんなっ、ふざけんな!」
成島隼人が二年生になって僅か一週間の出来事だった。
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