3話 金髪ギャルは優しいです。
「なーにしてんの?」
そう言いながら、金色の髪をした女の子が俺の顔を覗き込むようにグッと顔を近づけてきた。
思わず身体を仰け反らせてしまい、俺は苦笑いを浮かべる。
「びっくりしたぁ……」
「あははっ、ちょっとウケる」
何がウケたのかピンと来ないが、俺はゆっくりと息を吐いて落ち着かせる。
冷静に状況を整理してから声をあげた。
「なんか用か」
「うーん、用って程でもないけど」
「もし用がないのなら俺と会話することはあまりオススメしない」
成島は事ある毎にイチャモンつけて文句を垂れてくる。それは俺だけではなく、彼女にも影響が及ぶかもしれない。
「ひどっ、用なくても会話しようよ」
くすっと笑いながら俺の背中を軽く叩いた。
改めて彼女の顔を見る。
相良柚希。このクラスの中で数少ない一年の時から目立っている女子の一人。
一言で言うなら、金髪ギャルだ。
制服を着崩してアレンジしており、髪も染めている。ただこういうタイプの女子にしては珍しく、男ができた噂は聞こえてこない。見た目はかなり良いし、スタイルも抜群。告白もされてるだろうが、全部断っているのだろうか。
相良のように目立っている女子は誰かと付き合うと一斉に噂が広まっていく。それは人と関わろうとしない俺にも届いている。一年の頃に何度かそういう情報が風のように入ってきた。
「ね? いいでしょ?」
そう言う相良を視線に捉えながら、俺はチラッと横目で成島の方を見た。
「ほら、成島がこっち見てるぞ」
相良に聞こえる程度の小声で教える。
さっきから奴がチラチラとこちらの様子を窺っていた。相良も一瞬、振り返って成島の方を見る。
「……うわっ、ほんとだ」
ドン引きした声が聞こえ、俺は思わず吹き出して笑いそうになる。
なんとか堪え、見なかったことにして俺は低い声音で告げた。
「ってことで、さっさと自分の席に戻れ。成島がこっちに近づいて来る前にな」
しかし相良は俺の席から離れようとしない。それどころか隣の席の椅子を拝借して何事もなかったようにちょこんと座った。
「いいじゃんあんなの放っておいてさ、ウチと会話しよ」
「……はぁ、知らないぞ。どうなっても」
「そんな大袈裟だなぁ。別になんもないよ」
成島隼人という男を知らないからこんなことが言えるのか。正直、散々絡まれている俺でもアイツの行動は読めない。
もちろん俺の心の声など届くはずもなく、相良は楽しそうに喋り出す。
「ウチさ、ちょっと綺堂と話してみたかったんだよね」
「俺と?」
「んー、だってあの成島から一方的に反感買ってるからさ。いや悪い意味じゃなくて。なんか面白そうじゃん。なんでだろーって」
「知るか、俺が聞きたいわ」
「え、じゃあ成島が一方的に喧嘩売ってるってこと?」
「まあそうだな」
なんであの男は俺にそこまで執着してくるのか、最早俺のことが大好きなのではと思ってしまう。
「後さ、幼馴染がいるってのはほんと?」
「……本当だよ」
幼馴染がいるのは事実ではあるが、認めたくない気持ちもある。
「その幼馴染と成島が付き合っているのは?」
「それも本当」
「で、綺堂が幼馴染を好きって――」
「それは違う! 神に誓ってないと言える!」
成島に誤解されるのは構わないが、相良や他の奴にまで誤解されるのは我慢ならない。
食い気味に答えたせいか、相良は驚いた表情で固まっていた。
「……そ、そっか。綺堂の気持ちは伝わったよ」
相良は気まずそうな顔をして、目を泳がせる。
俺は一つ息を吐いて心を落ち着かせ、話題を変えた。
「とにかく俺は目立つことは避けたい、成島が絡んできてウザいからな」
「ねえ、一年の時の成島ってどうだったの? 今みたいに変だった?」
「ある程度は噂に聞いてるだろ。そのまんまだよ」
俺みたいに友達の少ない奴に絡んで奢ってもらおうとしたり、女の子にナンパしまくって断られ、サッカー部では練習をサボりまくっている。二年になってから相良に話しかけまくてるから狙っていると思った矢先に、……早川と付き合うとは。
相良は顎に手を当てて小首を傾げた後、ニコっと可愛く笑った。
「このクラス終わりだね!」
成島がこうしてオラついている限り、このクラスに平和が訪れることはないだろう。
相良柚希も陽キャだし、クラスに与える影響はそれなりにあるが、それは成島を飲み込めるほどではない。
「あ、そうそう。ライン交換しよ!」
「え?」
「クラスのグループラインに入ってよ。後は綺堂だけだよ」
別に入らなくてもいいが、せっかく誘ってもらったのに断るのは人としてどうなのかと俺の良心が訴えている。
スマホを取り出して相良とラインを交換した。
「じゃあ招待するね」
相良がスマホを操作しようとすると、ひょいっとそのスマホが上に持ち上がった。
「おい、ちょっと待て。こいつを招待するな」
上から声が聞こえ、顔を上げるとそこそこの長身である男。成島隼人が俺を見下ろしながら立っていた。
「招待しないってどういうこと?」
「ああ、そのまんまの意味だ。綺堂をグループラインに入れない」
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