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プロローグ
人は誰しも何かを隠して生きているものだ。
本当の自分を隠し、都合の良い虚栄を張り、自分自身を守る。 そういう身勝手なことをするのが人間だ。
私はそう考え続けてきた。
誰かの都合でこの身体を得てしまい、周囲から恐れられても、それが人間としての醜い本性の表れなのだと。 誰だって同じなのだから、それならば自分も同じように隠してしまえばいいと、そう思うようになった。
だから私は隠す。
自分の出自を。
自分の醜い場所を。
自分の湧き上がる感情を。
こうしてしまえばきっとこれから先の長い人生の中、苦しむことはないはずだとそう思っていた。 そのはずなのに。
なのにどうやら人生とは、苦悩とトラブルが不可欠らしい。
目の前に現れた彼女は───、私の考えていた人生を全てめちゃくちゃにしてしまった。
ああ、身勝手なものだな。 と思う。
私の身勝手な、自分だけの幻想のような夢に、彼女という存在はきっと最初から必要不可欠だったのだろうか?
「ああ、解らないな───」