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アラランド帝国物語  作者: レオレオ
アマウス国とケセラと竜神との約束
9/13

八、宗主国アラランド帝国(別視点 スーザン・バベリ-)


(1)収容中

 『ケセラ』の【神の花嫁】の儀式から約四か月、アマウス国は激動の時を過ごしたわ。


 儀式の後、私と両親は王宮騎士団に拘束されて、王城のそれぞれ別の場所で拘束されてたの。

窓とベットしかない部屋で、三食の食事は提供されるけど、お風呂に入ることは許されない生活。 排泄用のバケツが部屋の隅に置いてあるような部屋で、とても食事をする気にはなれなかったから、断食してたら、体の方が限界が来て倒れたの。それからは待遇が少しましになったわ。

 

 貴族の娘の癖に『クリーン』の魔法が使えないのかですって?


 知らないの?王城では、魔法が使えないのよ。

だって、王城で魔法が使えるなら、暗殺のし放題じゃない。

貴族が本当の能力を王家に報告しているとは限らないですしね。


 だから、王城では各部署に一か所、『クリーン』用の小部屋が一つ用意されてるの。 待遇がましになったというのは、その部屋に入ることが許されるようになったということだけなんだけど。



「貴女に、妹さんが居そうな場所を教えてもらえると助かるんだけど」


 アメリア王女の訪問は何回かあったわ。

王女はもう、「国の為、国民の為」という言葉を使わなかった。言ったところで、私の心にもう響かない事がお分かりだったからだと思うわ。

 それに、私たち家族が妹の居場所なんて知るはずがないことも、王女はご存じだったはず。それでも、私の所に来るのは、きっと、妹とあの老婦人の出会ったきっかけを知りたいのね。どんなに些細な情報に見えても、それがどこに繋がってるかはわからないもの。


 私たち家族の存在価値って、今やあの『ケセラ』の儀式場で突然現れた三人組の中に、妹がいるって事だけなんだと思うと、皮肉すぎて笑ってしまうわね。

 

 そう。 もしあの時に現れた中に妹がいなかったら、私たち家族はとっくに王家の手で殺されていたと思うの。男爵家の一つや二つ、いつ潰れても王家(あのひとたち)は何の痛みも感じないわ。

 

 それはそうと、儀式の時、王太子殿下王女殿下の他に、サンセスター公職家の小公子がいらっしゃったわね。

 小公子ってね。 女子学院で学ぶ貴族の子女にとって、憧れの存在なの。

もちろん、公爵家の嫡男である事とか、その容姿が黒髪に深緑色の瞳で端正な顔たちに似合っている事などもその人気の理由ではあるんだけれど、何より彼女たちの心を奪ったのは、対外向けに行われる軍事行進の時の、総指揮官の時の姿なの。 白馬にのって、全軍に指揮をした後、頭上に掲げた剣を下し、刃を自分に向けてそこにキスをするの。そして、その剣を国王陛下に捧げる事で行事は終わるんだけど、「その剣を捧げられるのが自分だったら」なんて、女子学院の令嬢たちは、よくそんな夢物語を語っていたわ。


 わたくし? 


 私はそうじゃないと言いたいけれど、残念ながら私もその中の一人だったの。

  だから、儀式の時に、謎の少年に向けて発した小公子の「ケセラの生贄には、バベリー男爵家の娘位の魔力があれば良いと判断されたのだ。何も私の命を懸けるまでもない」っていう発言には、正直胸を(えぐ)られたわ。

 

 王女のお茶会で、小公子が姿を見せられた時に言葉を交わしたことはあるのよ。もちろん、特別扱いをされているとは思わなかったけれど、優しい言葉の端々に少しばかりの好意はあると思い込んでたから。


 でも、小公子の言葉と私が妹にしたことと変わりないという事実を自覚した方が辛かったわ。


 だから、妹が大精霊に救われたのだという事は、私の心の救いでもあるの。

あの子は私なんかより、ずっと心が奇麗だから助けがあった。

 

 神様っているのね。



 

 収容されてから二ヶ月と少し経った頃、王城が突然、騒がしくなった。

 私は部屋を出る事ができなかったから、当初、騒がしい理由がわからなかった。 いつも食事を運んでくれる下女たちも姿を見せなくなって、「私、このまま忘れ去られるのかしら」という考えが浮かんできたころに、部屋を開けた異国の兵士によって、私は解放されたの。


 王城の中は、異国の兵士で埋め尽くされていたわ。

私は、解放してくれた兵士にその上司がいる部屋に案内されて、簡単な質問に答えた後、帰宅が許されたの。


 私を質問した兵士は、アマウス国の宗主国アラランド帝国の大佐を名乗ってたわ。

「レディ。 私どもは戦いに身を置くので、レディのような繊細な女性に対して扱いが下手です。 が、我々もあなたと同じ、大地の女神と、天におわす神の両方に愛されて、この世に生まれたのだと理解して頂ければ、私どもが、貴女に無礼な真似をしないとわかって貰えると思うのですが」


「貴方の意思はそうでも、貴方がご自分の部下に対してそのような信頼を持つのは、傲慢ではなくって。 だって、みんな自分の都合の為に生きてるんであって、国や自分以外の人の為に生きてるんじゃないわ。貴方の知りようのない理由がいつ発生するかなんて、把握できるはずないもの」


完全な八つ当たりね。

殿下たちや小公子に言いたかったことを気が付いたら口にしてた。


「そうですね。レディ。 でも、私は自分の部下を信じてますよ。たとえ私の首が彼らの手によって刈られる事があったとしても、その時は、彼らの中に彼ら流の正義があったのだと信じます。 もっとも、その正義が正しいかどうかなんてものは、時間をおいた他者にしかわからないもんですが、」


「他者にしかわからない? 自分では自分の正義がわからない?」


「分かる訳ないじゃないですか。正義の流儀なんてコロコロ変わりますからね。だが、我々軍人の思考はもっと単純です。上司を信じて、その指揮に従う。その指揮が正しいかどうかを疑うような性格の者は兵士なんてなれないですよ」


「信じられなかったら?」


「除隊します。仲間を信じられなかったら、そもそも戦えませんから」


 そのアラランド国の大佐は、エドワード・グリーンベッジと名乗ったわ。

小太りでしもふくれで童顔の男。 絶えず笑顔を浮かべていて、私の失礼な質問にも顔色変えずに答えていた。

 

「レディ、最後に魔術計でご自分の魔力量を図って頂ければ、帰宅して結構ですよ。 ご両親も解放されてるはずですから、一緒に帰られると良い」


 って言われて、隣接に用意してあった魔道具に言われる通り、右腕を突っ込んだら解放されたわ。



 城門ではご丁寧に馬車が用意されてた。

なんと、アラランド国兵だとわかる二名の騎乗兵の護衛付きだったの。

馬車の中には両親がすでに座っていたわ。


「スーザン よくぞ無事で」

「本当に貴女が無事で良かった」

「お父様、お母様も無事で何よりです」


 後は、言葉にならなかった。



(2)収容後

「お帰りなさい 姉上」


 バベリー男爵家では、ジェイソンと執事のガルクが玄関先で出迎えてくれたの。屋敷の中に入ると、中が明らかに閑散としているのに気が付いたわ。人も物もなくなっている。王城に収容された貴族の屋敷なんてこんなものなのね。


 屋敷で働いていた人が、減った理由をガルクが説明してくれたわ。

ガルクが、お父様の拘束が長引いた時の事を考えて、働いている人全員に賃金の減額を申し入れたら辞めていったらしいの。

 

 え? 薄情なんて思わないわよ。


 お金のことだけではないと思うわ。先がない雇先は離れる方が賢いもの。

その方が我々としても助かるしね。そう思って辞めていった人もいると思うのよ。



 「今夜くらいは、せめてワインで祝杯をあげよう」


 お父様が提案したんだけど、ワインセラーには、ワインが一本もなかったの。高価な物はガルクが売ったそうだけど、それ以外は働いていた人たちが、退職金代わりに持って行ってしまったそう。

 

 その夜は、硬いパンと野草のスープ、香草入りのチキンのソテーの晩餐にお水で乾杯をしたわ。それでも、ジェイソンの顔が輝いていたから、普段はもっと貧相な内容なのがわかったわ。




「父上、陛下たちが国替えされるカッサロという土地はどういう土地かご存知ですか」


 晩餐の際のジェイソンが出した話題で、私と両親は、殿下たちが置かれている状況を知ったの。


「国替え? 陛下たちが? すまない。ジェイソン、初耳だ」

「そうですか。 王城におられても情報は入ってこないんですね」

「ジェイソン 私たちは、王城にいたけれど、部屋に閉じ込められて、ずっと気の利かない下女の顔を見るしかすることがなかったのよ」

「ええ。そうでしたわね、お母様。 人生で一番退屈な時間でした。 私たちを解放してくれたのはアラランド国の兵士でしたね」


 ジェイソンは辛そうな表情を受かべる。


その後、ジェイソンは、「自分の話は、アラランド国がアマウス国の人民に向けた立札から得たものです」との前置きをして話してくれたわ。


「二ヶ月程前にアラランド国の帝王から陛下に、叱責の書簡が届いたんですよ。 期限付きでイムル河の枯渇を解消できなければ、その土地の統治能力がないとみなして国替えを命ずるって」


 二か月前という事は、儀式が失敗して私と両親が王城に連れてこられた頃だわ。


「でも、そんなの無理じゃない?」

「無理なんですか?」


 ジェイソンの言葉が余りにも軽く聞こえたので、顔を凝視してしまったわ。


「ああ、すみません。姉上が【神の花嫁】に選ばれなくて嬉しい限りなんですが、イムル河が枯渇しているのに儀式を行わない王家に対して、国民の怒りは凄まじくて、儀式を行わない理由がわからなかったものですから」

「『ケセラ』はもういないの。 だから、私は【神の花嫁】になれなかったのよ」

「え? 『ケセラ』がいなくなったら、イムル河の枯渇が治まるんじゃないんですか?」

「違うの。『ケセラ』はイムル河の水の源だったみたい。五十年はその魔力が枯渇する周期だったの。でも、『ケセラ』はいなくなってしまったから、王家にイムル河の枯渇を治める力はないわ」


「では、アラランド国の帝王には、『ケセラ』に関係なくイムル河の枯渇を治める力があるというんですか? 」

「ないと思うけど」

「しかし、陛下たちが国替えを承知して、王都を離れてから、イムル河の枯渇は治まっています。だから、僕は帝国が儀式をしたもんだとばかり思ってました」

「どういうことだ? あの婆さんは、自分たちで竜神の怒りを解けというようなことを殿下たちに言ってたではないか。 あの婆さんは、帝国の回し者か?」

「チャールズ あの方は大精霊でしたわ。竜神様の行方もご存じだったじゃないですか。おそらく、あちらの国では、竜神さまとコンタクトが取れる人物がいるんですわ。 もう少し早くにそのことがわかっていたら、我が家が振り回されることもなかったですのに。 ニクラスやその息子たちや娘もこの国から追い出されて当然ですよ」

「お母様」

「その通りだ。シルビア しかし、宗主国の命令だとは言え、よく国王は国替えを承諾したな」

「一万の兵に王都を囲まれたら、承諾するしかなかったんだと思います」

「まぁ」

「一週間前に、期限がきたとかで、突然、アラランド国軍が一万現れて王都を囲みました。陛下たちは抵抗することもなく、アラランド国軍に投降したようですよ」

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