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アラランド帝国物語  作者: レオレオ
アマウス国とケセラと竜神との約束
5/13

五、『ケセラ』の祠


(1)『ケセラ』の祠

「あれが、『ケセラ』の祠さ」


 朝靄の中、オリビアさんが示したのは、苔の生えた岩と石が奇麗に正方形に並べられて四段くらいに積まれている累石だった。自然に溶け込んでいて、そこに魔力の渦を感じなかったら、多分 気にも留めないと思う。


 魔力の渦


 そう、ガルクが私には魔力があるって言ってたけど、何の訓練も受けていないから、そんなもの感じたことがなかったのよね。 でも今、オリビアさんの保護下にいるせいか、魔力の動きが鮮明にわかるわ。


 「あの累石の下にケセラがいる。ついておいで」


 『ケセラ』の祠がある場所から下り坂を少し歩くと、横穴が見えてきた。

その横穴の入り口を守る様に三名の騎士が立っている。

 

「止まれ。ここは立ち入り禁止だ」

「どうやってここまで来たんだ」

 

 それぞれが口にし、二人の騎士はそれぞれ矛を構えていて入り口封鎖し、残りの一人がこちらに踏み出してきた。警戒心丸出しで、直ぐにでも構えた矛で

切り付けられそうだったんだけど、


「お前さん方には用はないんだ。どいておくれ」


 オリビアさんがそういうと、三人の騎士はあっけなく場所を開けた。


「すげぇ~ 婆ちゃん それ、言霊か? 今度教えてくれー」

「お前さんにはまだ難しいの~。まだまだ頑張らんとな」


 リアムはオリビアさんが三人の騎士に何かしら、力を使ったことがわかったみたい。「すげぇ~」を連発している。私はそれどころでなく、微動だにしなくなった騎士たちの様子を不気味に思いながら、その側を通り抜けたわ。

瞬き一つしなくなった武器を持った人間って本当に不気味よ。



 横穴に入ると、狭い通路が奥の広まった空間まで続いている。石敷きの通路は薄暗く、奥から漏れてくる明かりを頼りに進んでいくと、女の叫び声が聞こえてきた。


「スーザン 駄目よ。お母様を残して逝かないで」


 叫び声の主は、当然、バベリー男爵夫人ね。


 奥の空間の入り口に辿り着いて、中を覗き込むと神官たちや王族、それと王族を守る王宮騎士団が十数名、それとバベリー男爵家の方々がいたわ。


 今の王家は、前王と王太后の他、王様と王妃様と王太子と弟王子と妹姫がいるんだけど、この場にいるのは、王太子と妹姫ね。王家の皆さまは絵姿が出回っているから、救民院の常連だった私は良く知ってるの。


 私がいなくなってから、結局、姉が【神の花嫁】に選ばれたみたい。 

 ホールの中央で、姉のスーザンは真っ白な神服を着せられて、神官たちに囲まれている。姉の前には、神官長なのだろう、豪華な刺繡をしたストラをかけた神官が祝詞を唱えているわ。その祝詞が終わったら、姉は『ケセラ』に捧げられるのだろう。魔法陣が、神官長の左隣に浮かんでいるもの。その祝詞を妨げるようにバベリー男爵夫人が声を上げるけれど、騎士の一人に取り押さえられているから、姉の方には近づけないでいる。男爵の方は虚ろな顔をして棒立ちになっているわ。


 どうして、この場に男爵夫妻を連れてきたんだろう。


 ふとした疑問よね。 親の前でその娘を死に追いやる。

貴族って言うのは、それを名誉として受け取るもんなんだろうか。

 だとしたら、動揺しまくってるバベリー男爵夫妻は貴族失格ね。ガルクの言葉通り貴族らしくないのかもね。 でも、それが貴族なら、ちっとも羨ましくなんてないわね。



「シャオオオォォォ-ーー」 


 地下から地響きを伴った雄たけびが聞こえる。


「ドラゴンの咆哮みたいだな」

「似たようなもんさ」

 

 リアムとオリビアさんの会話が聞こえたようで、彼らのほとんどがこちらに振り向いた。


 『アンナ』男爵夫人の唇が私の名前の形に動いたのを見えたわ。

姉の方は、微笑を浮かべたまま何も言わなかった。


 動きを見せたのは妹姫の方ね。

「オリト、あの娘を捕らえて」と傍らにいる銀髪の騎士に命令したのよ。


「神官長 儀式を少しの間止めて欲しいわ。 本来の【神の花嫁】が駆けつけてくれたのだから」

「承知いたしました。殿下」

 


「なぁ もしかしてお前って 有名人?」


 リアムが、私の顔を見て一斉に動きを見せた向こう側の様子に小声で聞いてきた。


「ううん。 身内がここにいるだけ。 あそこで白い神服着せられて【神の花嫁】にならされてるの、私の姉よ」 

「へぇ じゃ あそこで捕らえれてるのはお前の母ちゃんか?」

「血縁関係があるだけのね」

「お前も苦労してんだな」

「まあね」


 妹姫の騎士がゆっくりと近づいてくる。


 どうしてだろう。 恐怖を感じてもおかしくない状況なのに、全然怖くない。


「おい、娘。 ついて来い」


 偉そうに命令してくる銀髪の騎士に向かって、言ってやったわ。


「 イ・ヤ・ヨ 」


 騎士の手が私の腕を掴もうとしたから、思いっきりはたいてやった。

思ってもみない打撃だったみたいで、騎士の身体が大きく揺らいだの。

騎士だって、威張っていても大したことないのね。

 

 騎士は驚いた顔を浮かべたけど、直ぐに怒りの顔に変わったわ。

勢いよく、私に掴みかかろうとしてきたから、全身で抵抗してやろうと身構えたんだけど、


「おやめ」


 とオリビアさん一言で、姫の騎士は動かなくなったの。

この際だから、その騎士の頭を殴ってやろうと思ったんだけど、手が痛くなりそうなのよね。丁度いいのはないかと周りを探してると


「オリト 何をしている!」


 王太子の叱責が聞こえてきたわ。でも、それに被せるように姉のスーザンが張った声を上げたの。


「王太子殿下、アメリア王女殿下、【神の花嫁】はわたくしでございます。妹は、生憎魔力なしの生まれ故に、我が家から離れて平民として生きることが決まっている次第。わたくしの代わりが務まる訳がありませんわ」


「何を言っているの。貴女の妹がここにいるのよ。それに、スーザンより、貴女の妹の方が魔力量が多いわ。【神の花嫁】には、貴女より貴女の妹の方が適任なの」


 なぜか、妹姫が泣きそうな顔で姉を説得している。王太子もそれに続いた。


「スーザンよ。 そなたにも言いたいことはあるだろうが、これは国の為の犠牲。私心を捨てるのが肝心だ。そなたの妹の方が適任なら、そうするまでのこと。何も言わずに従え」



「なぁ~  【神の花嫁】って、魔力量が多い方がいいのか?」

「ええ。 魔力量が多い子供が、選ばれるんだって」

「じゃあ。何でお前の姉ちゃんが選ばれてるんだ?」

「え?」

「いや、だって、ここにはお前の姉ちゃんより魔力量の多いのが何人かいるじゃねぇか?」 

「どういうこと?」


「なぁーお前。 そんな所で偉そうにしてるけど、この中で魔力量が一番多いのはお前だろう? お前がなればいいじゃないか? その【神の花嫁】ってのに」


 リアムは王太子に向かって声を張り上げた。


「無礼な!」と王太子の周りにいる騎士たちはみな、腰の剣に手を置いたわ。


「俺は親父に、国王ってもんは、国の為に首を差し出すのが仕事だって聞いてんぞ。国の為の犠牲なら、まずはお前がなれよ。王族だろ」


 リアム、あんたって凄い子ね。こんなに大勢の王宮騎士がいて、剣に手が伸びてるのに全然怯んでない。


「御免」と王太子の横に仕えている黒髪の騎士が、王太子に断ってこちらに近づいてきた。 腰にお金のかかってそうな黄金の鞘に入った剣をぶら下げているから、高位の貴族だわね。


「坊や。 子供と言えども、王族に対する無礼は、許されないことを知っているか。選択肢を二つあげよう。 ここで這いつくばって殿下に無礼をお詫びするか、私の剣の錆になるか、選べ」

「お前、馬鹿じゃねえのか。 何で俺が謝らないといけないんだ~。俺は嘘は言ってないぞ。それを無礼だと感じるんだったら、お前らの感じ方がおかしいんだよ。この国で一番魔力を持っている者が国の犠牲になるってのは、この国のルールだってんなら、俺はいう事ねぇ。でも、ずるはするなよ。アンナの姉ちゃんはこの中にいるお前たちの中ではせいぜい五番目じゃないか」

 

「坊や、それは本当?」

 バベリー男爵夫人が、力のない声で呟く。


「ああ。一番目はあの偉そうなにいちゃんだろう。二番目はこの目の前にいるこいつだ。三番目は、アンナにはたかれた男だし、四番目はあのお姫さんだ。アンナの姉ちゃんは、五番目だな」


「へぇー 坊や いい目してるな。だが、それがどうした?」

「どうしたって、お前が犠牲になりたくないなら、他人にそれを押し付けるなって言ってんだよ。アンナの姉ちゃんでなきゃいけない理由なんてないんだろう?」

「それを言うなら、殿下も私も同じなんだが、私である必要はない。ケセラの生贄には、バベリー男爵家の娘位の魔力があれば良いと判断されたのだ。過去からの事例でね。何も私の命を懸けるまでもないってね」


 リアムは、黒髪の騎士に言い返したいのに言い返せなくて、オリビアさんの方へ向いた。


「婆ちゃん これでいいのか? 俺、腹が立つんだけど」


「そうだね。帰って、マテオにでも聞きな」


「婆さんよ。こんな子供と、バベリー家の娘を連れて、何しに来たんだい。行方不明だった娘を、こんなところにわざわざ案内する婆さんなんて普通存在しないと思うだが?」

「あたしの目的は簡単さ。 『ケセラ』を返してもらいに来たのさ」



(2)『ケセラ』の祠の地下の底


「婆さん、頭 大丈夫かい?」

「ああ、お陰様でしっかりしてるよ。 お前さんたち、『ケセラ』の事を誤解してないかい。ケセラは別に化け物でも、大蛇でもない。 二百五十年ほど前の大体十代くらい前のこの国の王様に貸してあげた魔法生物さ。五十年の約束で貸していたのに、まだ返せないというから、一回だけ延長を許したら、そのままずるずるとなってしまってるがね」

「婆さんが、ケセラの飼い主だと?」

「違うね。ケセラは、あたしより神聖なお方のペットさ。お前たちの御先祖が、竜神様を怒らせてな。罰としてイムル河の水を全部枯らされちまった時に、その当時の王様が泣きついてきたから、その方が、五十年の約束で水を融通されたのさ。ケセラはその触媒に選ばれただけで、別に魔力のある人間を食ったりはしないよ」

「では、イムル河の水枯れはどうして起こるというのか?」

「文字通り、魔力切れだろう? お前さんたちの先祖の魔法使いが自分の魔力をケセラに送ることで、強引に延長させたからね。それを真似ているのが、今のこの行事なんだろう。『ケセラ』も可哀そうさ。魔法での契約が終了して、家に帰れると思って起き上がったら、また強制的に延長されるんだからね」


「お婆さん。貴女がケセラを連れて帰った後のイムル河はどうなるんでしょう?」


 妹姫の顔色は、真っ青だわ。


「枯れるだろうね」

「そんな。 大勢の人間がイムル河を頼りに生きているんです。お願いです。ケセラをこのままにしてくれませんか」

「お断りだね。大体、二百五十年もあったんだよ? どうして、竜神様の怒りをそのままにしておいたんだい。竜神様は呆れ果てて、地の底に籠ってしまわれたよ」

「竜神様の怒りを解く?」

「そうさ。竜神様の怒りを解くために時間稼ぎの為に『ケセラ』は、お前たちの為に働いていた。もはや解くことが出来ないなら、もう『ケセラ』はお役御免だろう」


 オリビアさんは、最後の言葉を言うのと同時に縛りの魔法を使ったみたい。ここにいる私たち以外の人間が全員固まってしまった。


「さぁ お前たち 付いておいで」


 私たちは、固まって動けないでいる神官たちの横を通り、『ケセラ』を観察するように開けられた覗き穴から、『ケセラ』の祠を見下ろしたの。

 『ケセラ』の祠の地下は凄く広くて、エミリーのお祖母さんが見たという山より大きいというのは大袈裟だと思うけど、救民院の建物よりは大きい大蛇がとぐろを巻いている。


「シャオオオォォォ-ーー」


 もう一度、『ケセラ』は雄たけびを上げたわ。


「元気そうで良かったよ」

 

 オリビアさんはちょっと笑って、私とリアムの肩に手を置いたかと思うと、次の瞬間には、『ケセラ』の祠の底に降りていた。

 

 間近で見たら、『ケセラ』の身体に神官長の左隣にあったのと同じ魔法陣が浮かんでいるのが見えたわ。『ケセラ』はそれが不快みたいで自分の尻尾でその魔法陣を壊そうとしているの。



「遅くなって済まなかったね」

 

 オリビアさんは、手のひらの埃を払うように息をフーとかけてたかと思うと、その息は緑色を纏い『ケセラ』の上の魔法陣を消してしまったわ。


 驚いたんだけど、その後、『ケセラ』は落ち着きを取り戻したみたいで、オリビアさんが来たのが分かって喜んだのよ。尻尾を大きく左右に振るもんだから、祠の壁を打ってその場所が崩壊しないかって心配しちゃった。


「落ち着いておくれよ ケセラ。 家へ帰ろう」


 『ケセラ』は、自分から頭を下してオリビアさんに差し出したわ。

 オリビアさんが『ケセラ』の頭に触れると、ケセラの姿が薄くなって消えていったの。


「エンセスター村に送ったよ」


 『ケセラ』がいなくなった後、四人の遺体が残っていたわ。

 どの遺体も、傷こそないものの長い間、魔力を極限までに吸い取られたせいなのか、萎びれた老人の姿をしているの。


 自然と頭が下がった。


「リアム この人たちを向こう側に持っていてくれないかい」

「わかった。 やってみる」


 リアムは、う~んと身体に力をいれて四体を魔法でもち上げたの。

 魔法の力がスムーズに動いてなくて、ぎこちなかったけれど、無事に『ケセラ』の祠から、姉たちがいる空間の場所へ移動させてたわ。

 その時、リアムは自分の身体も浮かせていたの。リアムが魔法を使うのを初めて見たわ。


「アンナ、お前さんもやってみるかい?」

「ううん 怖いからいい」

「アハハ  そうかい」


 私はオリビアさんに運んでもらったわ。


「この子たちは、お前たちの為に働いたのだから、懇ろに弔ってやりな」


 リアムが、四体を地面に置いたのと同時に、オリビアさんが呪縛の魔法を解いたの。一斉に身動きを始めた一同は、その四体を見て息を飲んでる。


 男女が二体づつ。

 男の遺体の一体は、成人男性ね。でも、もう一体は、体格からして明らかに子供なのに、老人のように干乾びてるの。子供の犠牲は、胸が痛いわね。女性の方は、二人とも成人かな。


「おや」


 オリビアさんが女性の遺体の一つに反応を示した。


「この子は,僅かながらに魔力が残ってるね」

「婆ちゃん、残ってるって事は生きてるのか?」

「ああ。糸のように細い命だが、まだあるよ。 で、どうするんだい」


 オリビアさんが、王太子に向かって聞く。


「どうとは?」


「お前たちにこの子を蘇生できる魔法使いはいるのかい?」


 無言で固まっている王太子を無視して、オリビアさんは全員を見回す。


「この子は貰っていくよ。お前さん方ではこの子を蘇生できないだろう」


 オリビアさんは彼女に触れると、さっきの『ケセラ』のように消えてしまったわ。 


「じゃあ 帰ろうかね」


 オリビアさんが、私とリアムに傍に来るように手招きしたから、私はオリビアさんの腕に触れようと足を踏み出したんだけど、妹姫から『待った』が掛かったの。


「お待ちください」


 驚いたことに、妹姫がオリビアさんの傍まで来て、片足を斜め後ろに引いてカーテシーをしたわ。    


「何だい?」

「アマウス国王ニクラスが長女アメリアと申します。拝見させていただいたところ、大精霊様とお見受けいたします。どうか、どうか 愚かな我々にご教授お願い致します。私たちはこれからどうすればいいのでしょうか?」

「それを考えるのは、政を担当しているお前さんたちじゃないのかい?」

「しかし、竜神様の怒りを解くなんて、常人には雲をつかむような話です。せめて何をすればいいのか 教えて頂けませんか」

「お前さん、お前さんの先祖は何をして竜神を怒らせたのか知ってるのかい?」

「いいえ 残念ながら、聞いてません」

「話にならないね。本当に解くつもりなら、子孫に伝えているはずだからね」

「それは、私が浅薄な学識しかないが故でございます。どうか、この話は城にいる父ニクラスや祖父クラウスのところに持ち帰らせてくださいませ」


 妹姫は、哀れを誘う表情でオリビアさんに必死で頼んでいたけれど、オリビアさんの表情は糸の一本分も動かなかった。


 アマウス国って、もしかしたら、竜神様だけでなく、オリビアさんも怒らせてる?



 


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