二、リアム・ガルシア(別視点 リアムサイド)
( 同時期に 近くて遠い村にて )
(1)リアム・ガルシア
「こら 起きろ。とっくにお日様は姿をみせてるぞ」
リアムは、気持ち良く寝ているところをマテオに叩き起こされた。
マテオは、リアムの父親からリアムの世話を任された守役であるはずなんだが、手が早くて口も悪い。
「なんだよ。いて~な」
「痛くしないと起きないお前が悪い」
リアムが寝床の上で欠伸してると、水桶を目の前にぐっと差し出された。
マテオは、無言で早く水を汲みに行けと言ってる。そんなことより、まず顔を洗って、水を飲みたいと思ったが、リアムが山に湧いた泉から水を汲んで運ばないとないから、どうしようもない。
水なんて、自動的に目の前に出てくるもんだったのになぁ。
リアムの実家は金持ちだ。
金持ちの一人息子として、皆に大事に育てられてきた。水汲みの労働なんて、ここに来るまでしたことがなかった。
「マテオ、お前は親父に頼まれた俺の守役だろう。もう少し優しくしてもいいと思うんだが」
「ふん。お前のような性格の男に優しくして、どうなる。つべこべ言わずに働きな」
ああ、面倒くさいなぁ~。
リアムは、マテオが差し出した水桶を受け取り、水を汲みに外へ出る。
朝日が昇りたてで、朝の爽やかな空気にもう一度、欠伸をしていると、
「こら、リアム。 もうとっくにお日様が顔を出してるじゃないか。 水汲みは、お日様が出る直前に家を出るもんだよ」
と隣に住んでるエイブリー婆ちゃんが窓を開けて、リアムに怒鳴る。
「すまん。寝坊した」
「ふん。 寝坊助な子供だよ。これでも食べて、さっさと行ってきな」
と蒸かした芋を二つ渡された。
「ありがと」
リアムは直ぐに口にする。
芋は甘くてとても旨かったが、口中の水分を奪って喉が詰まる。
「馬鹿だね~ あんたは。 芋を食えば喉が渇くのは当り前さ。何にも考えずに貰ったものをすぐに口にするなんて、わたしゃ~ あんたの将来が心配だよ」
とエイブリー婆ちゃんは水筒を投げてよこす。リアムはすぐさま飲み干した。
「お代わり~」
リアムは、水筒をエイブリー婆ちゃんに差し出すも、
「馬鹿言ってないで、さっさと行ってきな」
とエイブリー婆ちゃんは窓を閉めて引っ込んでしまった。仕方なく、受け取ってもらえなかった水筒を水桶の中に入れる。
「さぁ 行くかー 」
リアムは、太陽に朝の挨拶をして、天秤棒と水桶を両肩に担いで歩きはじめると、今度はもう一軒先のセオドラ爺ちゃんが顔を出した。
「こら、リアム わしはお茶を飲みたいのに、お前が遅いせいで な~にも出来ない。 今日はわしの畑で、お前の好きなモロコシを取ってやろうと思ってたのに、残念じゃな~」
「爺さん、すぐに水汲んでくるからよ。モロコシくれ」
「それは、お前さんの働き次第じゃな。 早く水汲んできておくれ」
「わかった」
リアムは、セオドラ爺ちゃんのモロコシが好きだ。
生で食べても、甘みを感じて美味しいんだが、爺さんちの竈でたれをつけて焼いてくれるモロコシは、甘さとしょっぱさが絶妙にマッチしてて、本当に旨いんだ。
今日の昼ごはんは、モロコシで決まりだな。
嬉しくなって、歩く速度が上がる。
リアムが今住んでいるのは、エンセスター村というんだが、井戸がない。
いや、あるにはあるんだが、枯れてしまって水が出ない。で、ここの住民は水を得るために、近くの山で湧いている泉から汲んで暮らしているらしいんだ。
で、リアムの仕事は、水汲みが辛くなってきたらしい爺さん婆さん達の代わりに水を汲んでくることだ。その代わり、爺さん婆さん達は、リアムのご飯をあれやこれやと考えてくれる。ほとんどが、それぞれの畑で出来た芋や野菜のシンプルな料理だが、金持ちの子で舌が肥えてる筈のリアムを唸らせるほどにどれも旨い。
何で金持ちの子のリアムがこんな片田舎で水汲みをしているかというと、それがリアムの守役マテオの教育方針らしい。家を出されるときに親父にマテオの言う事は、絶対に従えと言い含められて出されたのだが、最初は言われたとおりに水汲みをするつもりはなかった。が、このエンセスター村は、本当に田舎なんだ。一歩外に出たら、森の中で迷う。
不思議と水汲みに村の外に出た時は迷わないのに、逃げてやろうと思って出ると、同じところをグルグル廻ってしまうだよな~。
まぁ、ここに住んでる爺ちゃん婆ちゃんはみんな、不思議老人たちなんで、リアムは深く考えるのをやめてしまった。
大体、水が枯れている村なのに、畑だけは瑞々しく実がなってるのも不思議だしなぁ。
水汲みの仕事は、大変だ。 大変なんて言葉では足りないくらいに大変だ。
一軒の水瓶を一杯にするには、三往復はしないといけないんだが、リアムが担当している家は、自分たちの家を含めて五軒あり、その内一軒の水瓶は他の家の水瓶よりも大きくて、いくら水を入れても一杯にはならないので、四往復で許してもらっている。
最初の頃は、三往復で泣きが入ったのだが、エイブリー婆ちゃんが作ってくれた黄金色のスープを飲むと不思議と全身に力が戻って、続けることが出来た。何の具も入っていないのに、色々な旨味が入っていて一口飲むと、全身に沁みとおる不思議スープだ。リアムが仕事を頑張って、本当に疲れた時にエイブリー婆ちゃんが作ってくれる。
全ての水汲みが終わったら、たいてい夕方になっていて、爺ちゃんか婆ちゃんが食事に呼んでくれる。
その日の最後の水汲みは、いつも自分の住まいの分だ。水瓶を一杯にすると、最後に汲んできた水でいつも身体を洗う。ついでに来ている服を洗って、昨日洗って干したままの服に着替えていると、近所の誰かが呼びに来てくれるんだ。
今日は、オリビア婆ちゃんが作ったカボチャのスープとパンをご馳走になった。パンは、クルミが入っているのと、ヨモギが練りこんであるのが二種類あって、温かくて甘いカボチャのスープともあっていて非常に旨かった。
(2)お勉強
満足して家路につくと、マテオが机に向かって、難しそうな書籍を読んでいた。こうしてみると、マテオは偉い学者さんにみえるのだが、口を開くとその雰囲気ががらりと変わる。
「おい 小僧 帰ったなら挨拶しな」
リアムの帰宅に気付いたマテオは、自分の机から立ち上がって、リアム用の机の前でリアムを待っている。
「うん。 ただいま それより、マテオは飯食ったのか?」
勉強の開始時間が遅くならないかな~と飯を食ったのか聞いたけど、無駄だ
ったみたい。
「おう。 先に貰った。 これから勉強を見てやるから、用意しな」
と言われて、慌てて、自分の部屋から石板と石筆を持ってくる。
夕食後から寝るまでの間は、勉強時間だ。
マテオの授業は、これまでリアムが家の家庭教師に習っていたのとはやり方が違う。家の家庭教師たちは、リアムに決まった歴史書や外国語の教科書を記憶するまで復唱させていたのだが、マテオの授業では、勉強の題材は、いつもマテオの頭の中だ。
「リアム君はパンを焼く仕事を命じられました。上手く焼けるとリンゴ3個もらえますが、失敗するとリンゴ10個を取られます」
「俺はそんな仕事しないぞ」
「うるさい。考え方の勉強だ。黙って聞け」
「リアム君はパンを300個焼いて、リンゴを718個貰いました。リアム君がうまく焼いたのは何個でしょう?」
「え~ 俺は718個のリンゴなんぞいらんぞ。 大体リンゴは酸っぱいから俺は好きじゃない。リンゴのジャムは嫌いじゃないから、くれるっていうんなら、貰ってやらんでもないが、728個もリンゴはいらん」
「718個だ。勝手に増やすな。 それに誰も本当にやるとは言っておらん。正解が出るまで寝るなよ」
と言われて、リアムはああでもない、こうでもないと悩む。
「分かった。パンを上手く焼けたのは239個だ」
「理由は?」
「300個全部上手く焼けてたら、リンゴ900個もらえるんだろう。でも718個しかもらえなかったんだから、182個少ない。182個分リンゴが貰えなかったんだから、3で分けたら、60回分と2個少ない。だからリンゴは途中で一個食べたんだと考えて、61回分少ないんだ。だから、300から61引いて239個」
「一個食ったのか ざんね~ん。 そんな事実はない。それにそれじゃ 一個食ってなかったら、181個少ないとならないか。変と思わんか?」
「? ? ?」
「考え直しー」
・
・
・
「分かった.…286個だ。失敗した時は、成功した時より3個じゃなくて、………13個少ないんだ。……だから、182個を13個ずつ分けたら、………14回分あるから、パンが上手に……焼けたのは2…86個分……………だ…」
「正解だ。もう寝ていいぞ」
何度もやり直しを命じられて、正解を出したころには、リアムは半分夢の中だ。瞼がくっつきそうになるのを我慢して、マテオの説明を聞きながら、答えを出す。問題はその時その時でジャンルが違うが、マテオが納得するまで寝かせてもらえない。 それで、朝は叩き起こされて「寝坊助」って言われるんだもんな。
ふあぁ~ まぁ いいや 寝る
(3)愛し子
「リアム 今晩は、畑のナスが旨そうに実ってるから、焼きナスにするぞ。後、カブでスープ作ってやるからな」
お昼ごはんをエイブリー婆ちゃん家でご馳走になった後、午後からの水汲みに出かける時、セオドラ爺ちゃんに声を掛けられた。
「じっちゃん。 じっちゃんの飯は旨いんだけどさ、偶には肉を食いてぇ」
「肉はな~、わしらこの村の年寄りは食わんよ。 良し分かった。リアムは水汲み頑張ってるからな~ 肉もどきの料理を作ってやるぞ」
「肉もどき?」
「おうよ。 豆から作るんだが、肉と味は変わらんぞ。カブのスープはやめて、カブのそぼろ煮にしよう」
「そぼろに?」
「おお そぼろ煮ってな、ふかふかで美味しく味付けされたカブの上に 肉もどきが入ったとろとろのたれをかけて食べるんじゃ。 旨いぞ~」
「わかった。 楽しみ~」
飯は偉大だ。
この後美味しいご飯が食べれると思うと、この後の仕事も頑張れる。
リアムが、セオドラ爺ちゃん家で夕ご飯を食べていると、オリビア婆ちゃんが訪ねてきた。婆ちゃんは、勝手知ったる家なので、ダイニングに普通に入ってきて、テーブルにつく。
「おや オリビアさんや どうしたんだい? 飯食っていくかい?」
「セオドラさん ありがとうよ。 でも、ご飯はいいや お茶をおくれ」
「はいよ」
オリビア婆ちゃんが受け取ったお茶をグイっと飲んで、リアムの方へ顔を向けた。
「リアムよ 明日から、水汲み人が一人増えるからよ」
「え? それって、マテオが面倒を見るのが一人増えるってこと?」
「いや~、私が可愛がっている娘がな、娘って言っても、もういい大人なんだが、その娘が愛している娘を預かることになってなぁ。ここでは、新参者は水汲みをするのが習わしよ」
「娘の娘って、子供?」
「お前さんより少し年上かの~。 オーブリーさんちの大水瓶は、その娘が担当するから、世話してやってくれや」
「わかった。任してよ」
「おや、とうとう連れてきたのかい」
「うん。 私の可愛い子が泣くからね。 あのまま放って置くこともできまいよ」
「愛し子をもつのも大変だな」




