桜姫
桜と海をいっぺんに見れることはとても贅沢だと思う。桜の舞う美しい姿と波が揺れるその綺麗な海は何とも心を誘うものである。
「って何言ってるんだ俺...」
桜の木の下で考え事をしている変人こと俺は小説のアイデアを考えていた。
「わっかんねえ」
俺の名前は尾上達矢。鎌倉に引っ越してから早2年。もう高校三年生だ。特技もなく頭と顔も運動も普通。まあ普通はかなり幸せなことだよ。才能がある人とない人に比べれば悩むことも少ないからな。
「もういいや帰るか」
俺は小説のアイデアが浮びあがらなず家に帰ることにした。家は1LDKのアパート。狭いっちゃあ狭いけど別に不自由は感じたことはない。
春になり新しい季節だがこれといって変わったことはない。変わらない方が楽でもある。
今、幸せかと言われれば幸せな気分である。
「えーと、俺の家はと...」
俺は自分の家の方向を見つけ家へ帰るために歩いた。
桜に囲まれた道を歩き、そしてその道を抜けると大きな家が見えてくる。
どこかの金持ちの家だろうか?わからない。
そしてその家を通り、ちょっとした通りを抜けると俺の部屋があるアパートが見えてくる。
俺は桜の並木道を歩いていた。
相変わらず綺麗だなぁ。
そんなことを思いながら歩いていると目の前にオロオロとしている女性がいた。俺は何故だか声を掛けずにはいられず声を掛けてしまった。
「あの、どうかしたんですか?」
「え?いや、はっ⁉︎もしや、あなたは不審者さんですか?」
「いえ全く違います」
いきなり不審者扱いをされました。
「そうですか...失礼しました。ですが、どこか不審な感じがしたのでもしやと...」
いや、あなたには言われたくない。
その女性は和服を着ていて美人だった。恐らく俺よりも年上だと思う。
「ところでどうしたんですか?」
俺は聞いてみた。
「え、えと、お恥ずかながら家がわからなくなりまして...」
「あー、つまり迷子ですね」
「はうっ」
女性は可愛らしく反応した。
「ま、迷子じゃないです!ただ道に迷って家がわからなくなっただけです!」
「それを世間では迷子って言うんですよ」
女性は涙目になりながら俺に何かを訴える上目遣いをしてきた。うっ、か、かわええ。
「じゃ、じゃあ、どんな家なのかを言ってください。一緒に探しましょう」
そう言うと女性は目を輝かせて俺の手を握ってきた。
「え、あの...」
俺は顔を赤くしてしまった。
「お願いね。私、ドジなところあるから」
「じゃあどんな家かわかりますか?」
俺は女性にどんな家か聞いた。
「えーと...大きくて屋根は瓦で大宮って表札があるんだけど、わかるかな?」
女性は首を傾げながら言ってきた。俺はその仕草を可愛いと思ってしまった。そしてそれを誤魔化すように俺は女性の家を想像した。そして気づいてしまった。女性の家を...
「あの、あなたの家というのはあちらの家でよろしいでしょうか?」
そう言って俺は100メートルもないところにある大きな家を指差した。
「あ、あれ!すごいね。君よくわかったね。えらいえらい」
そう言って女性は俺を褒めた。
いや、普通だと思うんだが...もしかしてこの人薄々思っていたが、天然⁉︎
「まあ、家がわかってよかったですね。じゃあ...」
「待って‼︎」
俺が女性と別れようとした時、女性は俺を呼び止めた。
「あ、あの良かったらお茶しない?お礼にさ」
「は、はあ...」
女性の言ったことに俺はとりあえず返事をした。いや、待て待て待て!それってまさか、そういうシチュエーションじゃね⁉︎いや、でもあの人はそういうつもりじゃないだろ!落ち着け達矢!変な誤解をするんじゃない!
「はぁはぁはぁ」
「あの...大丈夫?」
「あ、え?いや、大丈夫です!」
「そう...ならいいんだけど」
あっぶねえ!あと少しで変な目で見られるところだった...
「で?どうするの?」
女性は元気な声で言ってきた。
うっ...ここで断ったら俺が何か悪いみたいになってしまう。
「じゃあ少しだけなら」
「本当⁉︎じゃあ早く行こ!」
そう言うと女性は俺の手を握った。
まあ何だ、ぶっちゃけこんな綺麗な人の家に行きたいのは本心だし、こんなことになるなら断んなくて正解だったぜ...
俺と女性は手を繋ぎながら桜の並木道を歩いていた。何だこれまるで付き合ってるみたいじゃねえかと思っていると女性が話しかけてきた。
「そういえば君の名前は?」
「えと、尾上達矢です」
「そっか達矢君かぁ。かっこいい名前だね」
女性はそう言ってにこりと笑った。
「私は南沢桜。生まれてからずっとこの町にいたんだけどこの前引っ越すことになって、でも私、この町の桜が好きでわがまま言って、私だけこの町の桜が散るまでここにいて良いことになったの」
桜さんの言葉は少し寂しく聞こえた。
「あ、あれが私の家だよ」
桜さんが言った。
その家は改めて見るといつもよりも数倍大きく見えた。
「上がって上がって、達君」
「達君?」
その呼び名に違和感を覚えつつも俺は桜さんの家に入り、茶の間へと連れて行かれた。家はとても静かだった。
「家には誰もいないんですか?」
「うん、そうなの!あ、そこに座って。今、お茶持ってくるから」
「あ、お構いなく」
そう言って俺は座布団に座った。俺は部屋の中を見回した。和風の建物で、家の中も和風だった。
うわっ、高そうな兜だ!
俺は兜に少し目を奪われた。
そして顔を近づけて、兜を見ようとしたとき、桜さんがやってきた。
「お待たせ!」
「うわっ、いや、これは触ろうとした訳じゃ...」
「ふふっ、いいのよ別に」
そう言いながら桜さんは俺にお茶を差し出した。
「ところで、達君はいくつなの?」
「俺は、17で高3です」
「そうなの⁉︎」
桜さんはそう言うと、何故か深呼吸をした。
「えと、私の年齢知りたい?」
「え⁉︎」
唐突すぎてよくわからなかった。
何だこれ⁉︎何かを試しているのか⁉︎
「じゃ、じゃあ、知りたいです」
「そ、そう...」
......何じゃこれ⁉︎
そう思っていると桜さんが喋りだした。
「私は22で大学を卒業したばかりなの」
何てことはない普通の人だった。何でこんな反応するんだ?
「あの桜さん。別に変な所はないですよ」
俺はそう言うと桜さんは顔を赤らめた。
「違うの!私、にいとっていう人なの」
「は?」
桜さんは言われ慣れてない感じで言った。
「私ね、体が弱くて高校や大学であまり結果を残せなくて、卒業はできたんだけど、就職ができなかったの。そしてそれをお父様に言ったらお前は無理に働かなくていいって言われたの。これってにいとって言うんでしょ?」
桜さんの言いたいことは何となく理解はできた。
できたんだが...
「あの桜さん
「ん?」
「バイト経験のない俺が言うのもあれなんですが、また来年ありますし、桜さんなら今度は就職できますよ」
やべっ、何で俺こんな根拠のないことを...桜さんも涙目だし。ああああああ俺のバカああああ‼︎
「すみません桜さん。俺...ってうわっ」
桜さんは俺に抱きついてきた。
「ううん。ありがとね。私、達君の言葉で元気出たよ。ありがとう」
「は、はい...
気が付けば手から汗が尋常じゃないくらい出ていた。まあ何はともあれ元気が出たのならよかった。
「私、一年間どうしようかな?」
桜さんが言った。
「何もしないとしたらまるでお姫様みたいですね」
俺がそう言うと桜さんは笑ってくれた。
「お姫様かあ...じゃあ、達君は王子様だね」
俺はその言葉で心臓の音を聞いた。そして、急に小説のアイデアが浮かんだ。
「そうだ!」
俺はつい声に出してしまった。
「どうしたの?」
「いえ、何でもありません!」
「えー言ってよ。秘密にするから。言わないと今夜私の抱き枕になってもらいまーす」
「わ、わかりましたよ。言います」
まあ、桜さんの抱き枕になるのもいいけど...
「えと、俺は小説を書いていまして、桜さんをヒントに小説のアイデアが浮かびまして」
「へえ、どんなの?」
うっ、言いづら‼︎
「え、えと桜さんの就職物語です」
「ふふっ、面白そうだね」
「今日書いて明日見せますよ」
「うん、お願いね」
「はい!」
そして俺は桜さんの家を出て自分の家に帰った。帰り道。夕陽が海に光っていた。眩しかったが、それ以上にとても綺麗だった。
「さてと、書くか!」
俺は家に着くとシャーペンを持ち、机に向かった。
次の日、俺は原稿を持ち、桜さんの家の前にいた。
「よ、よし」
俺はチャイムを押した。
「はーい」
とても綺麗な声が聞こえた。それは桜さんの声だった。
「達矢です」
「あ、達君⁉︎上がって上がって」
「はい」
そう言って俺は扉を開けた。
「おはよう達君」
「おはようござ...っえええ⁉︎」
「?、どうしたの?」
何と桜さんは和服を着ていた。
「何で和服なんですか⁉︎」
「え?もしかして、私、似合わない?」
「いえ、そんなことないですけど...」
むしろ似合いすぎてるし!
「その、何で和服なのかなって思いまして...」
「それはねー」
そう言って桜さんは自分の着ている服を少し触った。
「私、普段は和服を着ているの」
「え?そうなんですか?でも...」
「外出をするときは普通の洋服を着るけどね」
桜さんは和服に指を差しながら言った。
「へえ、桜さん、とても似合ってますよ」
「そ、そお、ありがと!」
桜さんは照れながら言った。そんな桜さんが可愛らしかった。
その後、俺は昨日通された茶の間にいた。
いつもここはドキドキするな...
俺の心臓はバックバックだった。桜さんはニコニコしながら俺を見ていた。
「ふふっ、達君。小説は持ってきた?」
そう言って桜さんは手を差し出した。
「まあ、途中ですけど、一応...」
俺は桜さんの差し伸べた手に原稿を置いた。
「ふっふっふ、それでは達君の小説をお姉さんが読んであげましょう!」
「よ、よろしくお願いします」
ちなみに俺の書いた小説は次のような感じだ。
まず桜という就職浪人が色んな心の試練を乗り越え、安定した職を目指すという話だ。今はまだ桜が就職に失敗してショックを受けている場面を書いている。
「うーん」
真剣に小説を読む桜さんの姿は何だかとても気品があった。
出会ってから今までこんな感じだったら尊敬している女性だっただろう。まあ、微妙にドジで大和撫子な姫様だから俺も緊張はするけど、気が楽なんだろう。
「達君、とりあえず全部読んだよ」
「ど、どうですか?」
俺は緊張しながら言った。自分以外の人に小説を読んでもらうのは初めてだった。
「結論から言うと暗い‼︎」
「へ⁉︎」
桜さんの言葉に俺はつい変な声が出た。
「暗いよ!暗すぎるよ達君!ほら、私ってもっと明るいでしょう⁉︎もっと明るく書いてよ」
「ぷっ、ははは」
俺は突然笑い始めた。自分でもよくわからないが、初めて読んでもらった小説の感想が暗いってことに笑ったのだと思う。
「大丈夫です。桜さんがいつもの桜さんになるのはこの後の予定ですから」
「本当‼︎」
桜さんは大声で言った。
一体何でこんな綺麗なお姫様とパッとしない庶民の俺は出会ってしまったんだろう。偶然か、運命か。でも、そんなことがどうでもよくなるくらい、腹が痛かった。
「もう、何で達君笑うの⁉︎」
桜さんが少し怒りながら言ったが、俺は笑いが止まらなかった。
その夜、俺は自分の家に向かっていた。桜さんと共に...
まあ、待とう。なぜこんな状況なのか?それを話そう。
「今夜泊まっていかない?」
「はい⁉︎」
「どうせなら泊まっていこうよ...」
「あ、あのこれには色々な問題があると思うのですが...」
「だめ...ですか?」
「...ああ、もうわかりました」
という訳があった。とはいえさすがに若い男を泊まらすなんて危険じゃないか?あ、いや、何もしないけどさ。
そして、今は着替えなどを家に取りに行っている途中だ。桜さんと一緒に...
一旦、家に帰ると言ったら、夜道は危険だからと言って俺と一緒に来ている。
「あのね、私、男の人を家に入れるのって初めてなの。だから、ドキドキしちゃって...」
桜さんが話し出して俺はドキッとした。
「俺も女性の家に行くのは初めてで...」
「そっか...えへへ...」
そう言って桜さんはしばらく黙り込み。そしてこう言った。
「海、綺麗だね」
「そうですね」
俺は言った。
海は宝石のように輝いていた。そんな海に俺もつい見惚れていた。
「海ってやっぱり偉大よね」
桜さんが言った。
「綺麗で広くて輝かしい歴史やそうではない歴史があって、そして、自由だもの」
桜さんは少し涙を流していた。
「桜さんも自由ですよ」
俺はそっと言った。
「それって無職ってこと?」
桜さんは少し怒ったように言った。
「い、いえ、違います...あの...」
「ふふっ、冗談だよ」
嵐のように慌てていた俺に桜さんは海のような笑顔を見せた。
「ちょっと道草をしちゃったね。じゃあ、達君の家までレッツゴー‼︎」
そう言って桜さんは俺の家とは真逆の方向へと走り出した。
「ちょっ!桜さん‼︎俺の家、そっちの方向じゃないてますよ‼︎」
俺の声は夜の鎌倉に木霊した。
その後、着替えや必要な物を取り、桜さんの家に戻った。
「じゃあ、ご飯作るから待っててね」
そう言って桜さんは台所へ行った。
待っててね...か。新婚みたいだな...いや、何考えてんだ俺‼︎
ん?そう言えば桜さんって料理とかするのか?失礼ながらもできるとは思えないのだが...
「あの、桜さ...っ‼︎」
「ひゃっ!な、何かな?」
俺は桜さんの手元を見た。
ああ、やっぱり...
「その、無理しなくていいですよ」
「む、無理なんかしてないよ!」
「じゃあ、その台所はなんですか?」
そう言って俺は色々とヤバい台所を指差した。
「えーと違うの‼︎」
「何が違うんです?」
「...むり、達君のいじわる」
そう言って桜さんは少し拗ねてしまった。
「はいはいお姫様。お姫様は茶の間に行ってください」
俺はそう言った後、この台所をどうしようか考えていた時、桜さんが俺の服を握ってこう言った。
「わ、私も手伝う!」
「え⁉︎」
俺は変な声を上げてしまった。
「いや、でも、桜さん?包丁って危ないですよ」
「わ、わかってるよ!で、でも...っ...」
桜さんはそう言って包丁を見てビクッとした。
か、かわええ...
「お、お皿洗いだけでも...」
「わかりました。それでは桜さんは皿洗いをしていてください」
「はーい」
そう言って桜さんは皿洗いを笑顔でしていた。
全く、このお姫様は...
その後、夕食を食べ、風呂に入ることになった。桜さんが「先に入っていいよ」と言うので先になったのだが、ここで俺の問題が発生した。
こ、これ桜さんが毎日つかっているんだよな...ああ、ダメだ俺‼︎余計なことを考えるなら‼︎そう、無心だ無心‼︎
そしてなんとか無事に生きてこられました。いや、ガチで。
「上がりましたよ」
そう言いながら茶の間に行くと桜さんはテレビを見ていた。
「あ、達君上がったの?じゃあ、私お風呂行ってくるね」
そう言って桜さんは茶の間から出て行った。
茶の間には俺しかいない。
桜さんはこの後、その、裸になるのか...ダメだ、もう...はっ、そうだ!小説のアイデアでも考えよう。
「...ああ、だめだ!あかん、もう、俺、末期や」
関西人でもないのに関西弁がでてくる辺りこれこの先短いぞ。じゃない!何でいきなり南沢家の風呂が出てくんだ!俺にとってあそこは世界遺産なの⁉︎俺...自分が怖い!怖くてたまんねえ‼︎
ってことを何十分も続けていると、桜さんが上がってきた。
「上がったよ!って何やってるの達君?」
「いえ、お気になさらず...」
俺はブリッジをしながら小説を書いていた。
「不思議だ。何も浮かんでこない」
「当たり前だよ‼︎」
桜さんによると、俺は相当な変人に見えたという。
いや、あれは変人に見えたというか、変人そのものだったよ。
そして、そんなこんなあって、現在布団にいる訳です。
部屋には俺一人だ。恐らく桜さんは別の部屋で寝ているのだろう。
「トイレに行ってこよ」
俺はトイレに行きたくなったのでトイレを目指し布団から這い上がった。
お金持ちの家の夜は不気味だった。
怖え...桜さんこんな所で一人ってさすがだな...
俺は桜さんの凄さを少しわかった気がした。
そして、トイレに行き、部屋に戻る途中。ある部屋から光が見えた。
ん?どうしたんだ⁉︎
俺は扉を少し開け、中を見た。
「っ...」
その中では桜さんが料理の練習をしていた。
「桜さん...」
俺は思わずそう言ってしまった。しかし、桜さんは俺の声には気づかず料理の練習をしていた。
少し見守っとくか、危なかったら助けよ。
俺は桜さんの姿に見惚れる形で見守った。
「...くん。達君...朝だよ。起きて」
「え⁉︎ええええ‼︎」
どうやら俺は寝落ちしたらしい。
どこで寝たんだ俺⁉︎思い出せねえ。
桜さんは優しく俺を見ていた。毛布も掛けられていた。
「もう、勝手に見ないでね!」
「す、すみません」
俺は謝った。実際、あんな所は見てはいけなかったのだろう。申し訳ないです。
「まあ、でも見守ってくれたのは嬉しかったかな!」
桜さんのその言葉を聞いて、俺はドキッとした。
「じゃあ、着替えてきます」
「うん」
俺は自分の気持ちを誤魔化すように桜さんの前から逃げて行った。
わかっている。俺は桜さんのことが...でも、あの人にそんな気持ちを持ってはいけない気がする。
俺はため息をしながら着替えをし、茶の間へ行った。そして、茶の間の光景に驚いてしまった。
目玉焼きにご飯に味噌汁‼︎ま、まさかこれをあの、桜さんが...
「ふふっ、やっぱり驚いてるね。昨日、達君が見たあの時実は朝ごはんを作っていたのでした」
桜さんは鼻高々に言った。
いや、実際凄いことだと思う。
「凄いですよ桜さん‼︎」
そう言うと、桜さんは太陽のような笑顔を見せた。
そして、朝ごはんだが、普通に美味しかった。
俺が桜さんを尊敬しながら朝ごはんを食べていると、桜さんが「ねえねえ」と話しかけてきた。
「今日、達君と行きたいところがあるの。一緒に来てくれる?」
「いいですよ!」
俺は言った。
1時間後、俺と桜さんは鎌倉の町にいた。
も、もしかしなくてもこれってデートっていうやつじゃ...
もちろん俺は女の子と一緒に出掛けたことなんかない。俺は物凄く緊張していた。
「達君、行きたいところがあるんだけど、ついてきてくれるかな?」
「は、はい」
俺は相当緊張していた。
まず、俺達は鶴ヶ丘八幡宮に来た。俺がここに来るのは小学校の修学旅行以来だった。
「懐かしいな...」
「ねえ、達君お参りしていかない?」
「あ、はい」
そう言って、俺と桜さんは階段を上った。俺は銀杏を見た。銀杏は何年か前に強風で倒れたと聞いたことがある。
「俺、あの銀杏の倒れる前の姿を見たことなきんですよ」
俺は少し悲しげに言った。
「そうなんだ。あの木はね、私にとってとても大切な木なの。だから倒れたって聞いたときはとてもショックだった...」
桜さんは昔を思い出したように言った。
桜さんにとってこの木が倒れた時、まるで大切な人が亡くなったときのような感じなんだろうか。
桜さんに俺は悲しい思いをさせちまった...
よし!
俺は桜さんに手を差し伸べてこう言った。
「行きましょう桜さん」
「うん」
そう言って桜さんは俺の差し伸べた手に手を添えた。
そうして俺らはお参りを済ませ、小町通りに出た。俺は桜さんに気になることを聞いた。
「そういえばさっき、何をお願いしたんですか?」
「え?...ふふっ、秘密。達君は?」
「じゃあ俺も秘密です」
「いじわる」
「お互い様です」
そう言って俺は少し笑った。そして桜さんも少しだけ笑っていた。
「達君、あの店行こう」
そう言って桜さんは洋服屋にはいった。俺も彼女の後ろについていき入った」
「どうかな?」
「えと、中々良いと思います」
桜さんは俺に麦わら帽子を被って見せた。麦わら帽子を被った桜さんは城から出てきた世間知らずな姫に見えた。
まあ、こんなこと心の中だから言えるのであって桜さんには恥ずかしくて言えねえよ。
そして、桜さんはさろの麦わら帽を買い、店から出た。
「あ、達君。あれ食べよ!」
そう言って桜さんが指を差したのは無紫いもソフトクリームだった。
「桜さん、紫芋ソフトクリーム食べたことないんですか?」
「うん、ないかな」
桜さんは声を小さくして言った。
でも言われてみればわかる気もする。よし!ここは奢ってやるか!
「桜さん、紫芋ソフトクリーム食べましょうか?」
「うん」
桜さんははきはきした声で言った。紫芋ソフトクリームの他にも芋羊羹などがあった。
「ご注文は?」
そんなことを思ってる内に順番がやってきた。
「紫芋ソフトクリーム二つください」
「はい、672円となります」
店員がそう言い、桜さんが財布をバッグから取ろうとしたが、俺が「奢りますよ」と言うと彼女は慌ててこう言った。
「え⁉︎いいよ大丈夫だよ!私の方が君より年上のだし」
「いえ、遠慮しないでください」
「そ、そう。じゃあお願いします」
桜さんがそう言ったので俺は紫芋ソフトクリームを二つ買った。
「ありがとうございました‼︎」
店員さんの声と同時に俺たちは店を出た。
どうかな俺。できる男だったかな?確かできる男って女性に極力お金を使わせないだよな。かっこつけてると思われてないか?
あああもう。こんなに緊張するならしなきゃよかった。
「あ、あの達君?」
「は、はい」
桜さんが突然喋ったので俺は驚いてしまった。
「ありがとう」
桜さんが笑顔でそう言う姿を見て俺はあんな恥ずかしいことをしてよかったと思った。
しかし、桜さんと歩いていると注目されてしまう。桜さんは注目されてる理由をわかってなさそうだけど。「女の子の方可愛いけど男の方地味じゃね」とか思われてんのかな...
俺は少し落ち込んだ。
まあ、いい。周りなんて気にしねえ!今の俺の役目はこのお姫様を安全に楽しませることだからな!
俺は気合いを入れた。
「達君!」
「はい?」
桜さんに呼ばれて俺は返事をした。
「高徳院って行ったことある?」
「高徳院って大仏のところですか?ないですけどなんで?」
「うん、達君と大仏が見たくて....」
な、なんだその彼女っぽいセリフはあああああ
俺はついそうさけびたくなったが、一旦、心を落ち着かせこう答えた。
「いいですよ。じゃあ、高徳院へ行きましょう」
「うん‼︎」
そして俺たちは江ノ電に乗り高徳院へ行った。
高徳院に行く途中の江ノ電で桜さんは少し寝てしまった。
そういえば桜さんはあまり寝てないもんな。
「スー....スー....」
しかし桜さんの眠っている姿を見ると妙にドキドキしてしまう。
お、落ち着け俺‼︎何も考えるんじゃない!ああああもう考えるなってのに!
俺は桜さんの暖かい感触が肩に当たってることに落ち着くことができなかった。
まあ、そんなこともあって無事高徳院にはついたのであるが、あんなことがあったのは桜さんには秘密にしておこう。
「達君は大仏は初めてだったね」
桜さんが上目遣いで聞いてきた。
「はい。なので結構楽しみです」
「そう。じゃあ桜でも見よ!」
桜さんは少しニヤニヤしながら言った。
「その桜綺麗なんですか?」
俺がそう言うと桜さんは得意げにこう言った。
「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました‼︎この高徳院は桜の名所なんだよ!私は毎年家族で来てるんだ。お父様もここの桜は大好きで春になると暇さえあれば毎日来てるほどなんだよ」
「へぇ」
俺は桜さんの言葉に感心したが、それよりも桜さんが父親のことをお父様って言うことの方が気になった。
やっぱ桜さんって金持ちなんだな。
俺は改めてそう感じさせられた。
そして俺らは高徳院へ入った。
「........」
それは言葉にできないほど綺麗な桜だった。
桜が大仏を囲んでいて、その姿は俺が想像してきま竜宮城に似ていた。そして腕を広げて「どう?」と言う桜さんはとても美しかった。
この人はやっぱりお姫様だ....
俺はそんなことを思ってしまった。
「桜さん....」
「ん?何?」
桜さんは俺の目を見ながら言った。
「ありがとうございます」
「ううん、私もこの桜を達君と見れて嬉しいよ」
桜さんは笑顔で言った。
俺はこの桜をずっと見て見てたかったが昼を食べに高徳院を出ることにした。
ここはまた行こう。
そう思いながら俺は高徳院を出た。
そして俺たちは蕎麦屋に入った。
「いらっしゃいませ‼︎」
若い女の店員さんが元気に言った。恐らく俺よりは年上で桜さんよりは年下だろう。
「こちらの席へどうぞ」
店員さんにそう言われ俺たちは席に着いた。
俺と桜さんは笊蕎麦を頼んだ。そして何分かしたら笊蕎麦が運ばれてきた。
「いただきます」
そう言って俺たちは笊蕎麦を食べた。
笊蕎麦の音だけが店内で響いた。
「美味しい‼︎」
桜さんの口から思わず言葉が出るほど笊蕎麦は美味しかった。
「千三百円となります」
店員さんがそう言うと俺は財布をリュックから取ろうとした時、桜さんが手に忍ばせていたお金で払われてしまった。
「ふふっ、さっきの仕返しだよ」
蕎麦屋を出たとき桜さんが言った。
「お姉さんを奢らせるなんて百年早いよ」
「うぅ....お、覚えていてくださいね!また今度勝負しますからね!」
俺がそう言うと桜さんは俺の頭を撫でた。
な、何だ⁉︎
「ど、どうしたんですか⁉︎」
「ん?いやぁかわいいなって思って。よしよし、い子いい子」
「や、やめてください‼︎恥ずかしいですよ!」
「ふふっ、ごめんね。でも何かおかしいね」
桜さんは急にそう言った。
「何がですか?勝負のことですか?」
「ううん、私達って出会ってまだ二日しか経ってないのに何でこんなに仲が良いんだろうなって」
俺は桜さんの言葉に納得した。
言われてみれば二日しか経ってないのに何でこんなに仲が良いんだろう?
そんなことを考えていると俺は自然に笑いが出てきた。
「本当におかしいですね」
俺は笑いながら言った。
「でしょ!」
桜さんも笑いながら言った。
俺たちは五分くらいそこで笑っていた。
その後、俺たちは桜さんの家に帰った。
「ふう、やっぱ我が家は落ち着くなぁ」
桜さんはそう言うと腕を伸ばしながらこう言った。
「あ、じゃあ。私、普段着に着替えてくるね」
「はい」
「覗かないでね」
「わかってますよ」
「....本当に?」
桜さんは俺の目を見つめてきた。
お、俺、疑われてんのか⁉︎
「なーんて、冗談だよ」
「で、ですよね....」
「じゃあ、着替えてくるね」
そう言って桜さんは自分の部屋へ行ってしまった。
しばらくすると桜さんが和服姿で茶の間へ現れた。
桜さん、やっぱ綺麗だなぁ....
ん?
俺は桜さんが手に何か持っているのに気づいた。
「達君、これ何だ?」
「えと、耳かき棒ですか?」
「正解‼︎」
そう言って、桜さんは縁側に座った。
「ほら、こっちおいで」
桜さんは手招きをした。
「は、はい」
俺はそう言うと縁側に行き、桜さんの隣に座った。
「桜が綺麗だね」
「そうですね」
俺は言った。
ど、どう言うことだ‼︎耳かきじゃないのか?い、いや、ぶっちゃけそんな気はしたんだ。俺はそんないい思いをしちゃいけない人種だし。
そんなことを俺が思っていると桜さんはこう言った。
「達君、私の膝を枕にして」
ひ、膝枕きたああああああああああ‼︎」
「さ、桜さん‼︎そ、そ耳かきをするんですか⁉︎」
俺は心臓バックバクで言った。
「そうだよ、だって耳かき棒の持ってすることは一つでしょう?」
その通りだった。俺はアホか⁉︎耳かき棒ですることなんて基本耳かきくらいだろうが‼︎
そんなことを思いながら俺は桜さんの膝に頭を乗せた。
「準備はいい?」
桜さんの声にドキドキする。
「は、はい」
「じゃあ入れるね」
そう言って桜さんは耳かき棒を俺の耳に入れた。
「痛くない?」
「は、はい全然痛くないです」
桜さんの耳かきはむしろ気持ちよかった。誰かにやったことがあるのかな?
気持ちの良い耳かきに暖かい膝枕ら俺はつい眠りそうになった
はっ⁉︎いかんいかん‼︎こんなところで寝ちゃダメだ!この先こんな幸せな時間は二度と来ないはずなんだ。だから今を味わえ俺‼︎
「ふふっ、少しは私のことを見直してくれた?」
「え?」
俺は桜さんの言葉がよくわからなかった。
「だっていつも達君、私のことをお姫様って言ったりしてバカにするじゃん。だから私もお姉さんらしいところ見せてあげよっかなって....」
そう言うことだったのか⁉︎
俺はやっと桜さんの言っていることがわかった。
「達君も私に甘えちゃっていいんだよ!いつでも甘えさせてあげる!ほら、いい子いい子」
そう言って桜さんは俺の頭を撫でた。
「達君?」
「何ですか?」
俺は恥ずかしい気持ちと言葉にできない気持ち抱えながら返事をした。
「お願いなんだけど、達君はいつも私のこと桜さんって言うよね。その、一回だけでお姉ちゃんって言って欲しいなって....」
「え⁉︎えええええええ」
俺はつい叫んでしまった。桜さんは危ないと言い驚いていた。
いや、お姉ちゃんって....。
「お願い。私、年下に甘えられてみたいの!特に弟みたいな感じの達君に」
「え、ええ」
「お、弟みたいって⁉︎
俺はもう眠気などすっ飛んでいた。
「えと、お、お姉ちゃん....」
俺はすごくドキドキしながら言った。今にも心臓が壊れそうだった。
桜さんに変に思われたりしないかな?
俺は心配しながら桜さんの反応を待っていた。
「......かっわいい‼︎」
俺は桜さんの声にびっくりしてしまった。
「かわいい!すごいかわいかったよ!ねえ、もう一回言って!さっきの甘えるような声で!
「い、言えません‼︎」
俺は顔を真っ赤にしながら言った。
「ええ、いいじゃん。でも、その顔を真っ赤にしてるのもかわいいよ」
桜さんは笑いながら言った。
くそ、完全に立場が逆転してしまった!桜さん実はSなんじゃないか?
「ま!まじめに耳かきしてください!」
俺がそう言うと桜さんはニヤニヤしながらこう言った。
「お姉ちゃんまじめにやってって言わないと私は耳かきしませーん」
「くっ、お、お姉ちゃんま、まじめにやって....」
「はーい」
そして桜さんはまた耳かきをし始めた。
それにしても今日は幸せな日なんだか不幸せなんだかわかんねえ‼︎まあ嬉しくないことはないんだけどな
「じゃあ、耳吹きしまーす」
どうやら耳かきが終わったらしく桜さんは耳吹きをしようとしていた。
「ふぅー」
「ん....」
「気持ちいい?」
「ええ、まあ」
なんて言うかいけないことをしている気がした....いや、まあ俺の意見なんだけどな。
「じゃあ反対向いてね」
「あ、はい」
そして反対もさっきのように耳かきからの耳吹だった。
何というか俺、死ぬのかな....死が近いのかな?嫌だよ俺まだまだ生きるかんな‼︎神様殺さないでええええええ‼︎
こんなこと心の中で言うくらいだから俺結構ヤバイ状態なんだと思う。良い意味でも悪い意味でも.....
「じゃあ終わり!」
「あ、ありがとうございました!」
こうして耳かきは終わってしまった。
「またして欲しかったら言ってね」
「は、はい」
い、言えばまたやってもらえるのか⁉︎だけど、こんなにドキドキするのは心臓に悪いから遠慮します。
「耳かき気持ちよかった?」
「はい!桜さんにやったことあるのかって思うくらい上手でした」
「それがないんだよね」
「え⁉︎そうなんですか⁉︎」
マ、マジかよ....あんなの始めてとは思えなかったぞ。でも、桜さんが嘘をつくとは思えないし....
「スー....」
「ん⁉︎」
何かの声が聞こえてその声の方を振り向くと桜さんは寝ていた。
そうだった。桜さんはあまり寝てなかったんな。江ノ電でもねていたし、あと、疲れもあるか。
俺は立ち上がり、台所に行き、桜さんほ分の夕食をつくり、そこにラップをかけてそれを冷蔵庫に閉まった。
そして俺は茶の間に戻るとメモ用紙が目に入り、メモを書いた。
「ふう....」
俺は一息つくと庭にある桜の木が目に入った。
この桜が全部散ったら桜さんはここにいなくなるんだよな....
俺は改めてそう認識させられた。そして、桜さんの優しい寝顔を見て俺は荷物を持ち、桜さんの家を出た。
桜はまだ満開だった。
数時間後、彼女は起きた。そして机の上にメモがあるのを見つけ、そして読んだ。
「桜さんが寝ていたので先に帰らせていただきます。夕食は冷蔵庫にあるのでレンジで温めてください。尾上達也」
メモはそう書いてあった。
「達君....」
彼女は桜が少しずつ散っているときにそう言った。
次の日、朝、起きると天気は雨だった。
俺は一応、桜さんの家に行くつもりだった。あと、小説も少しだけ進んだ。とりあえず就職浪人は旅行に出かけ、そして、何とかショックから立ち直り、就活をしようと、意気込むところまで進んだ。
「傘は....と」
俺は傘を持ち、家を出た。
外は雨だった。桜は昨日と比べれば半分くらい散っていた。
俺は桜さんの家に着くと、インターホンを鳴らした。
「はい」
桜さんの声が聞こえ、桜さんがドアを開けた。
桜さんは少し元気がないように見えた。
「桜さん....大丈夫ですか?」
「どうしたの達君?全然大丈夫だよ」
そう言って桜さんは笑ったが、俺にはその笑いが嘘のように思えた。
「じゃあ上がって上がって」
「....はい」
俺は心にモヤモヤを抱えながら茶の間に行った。
「お茶を持ってくるね」
そう言って桜さんは台所へ行った。
「雨か....」
俺は呟いた。
茶の間は静かだった。
「おまたせ!」
桜さんが茶の間に入ってきた。
「あ、そうだ達君。小説を見せて」
「あ、はい」
俺はそう言ってバッグから書きかけの小説を取り出した。そしてそれを桜さんは読んだ。
俺は桜さんが小説を読んでいる間、ずっと桜さんの顔を伺っていた。そうすることで桜さんの元気のない理由を見つけようとした。
そして桜さんは小説を読み終わった。
「ふう、なかなか面白かったよ。それに私の性格も明るくなったしね」
「あ、ありがとうございます」
結局わからなかった。ああ、もうせめて何かわかると思ったのに‼︎こうなったら直接言うしか....
「ご、ごめんね達君」
桜さんはそう言って少し涙目になっていた。
「え⁉︎どうしたんですか⁉︎」
「わかってたの。私が普段と様子が違うことに達君が気づいて私を心配して、私が小説を読んでいるときに私の顔を見ていたこと....」
桜さんの言葉に俺は一瞬体が凍ったように感じた。
「す、すみません」
「ううん、達君は何も悪くないの。達君に何も言わなかった私が悪いの」
そう言うと、桜さんは一つ息をしてこう言った。
「私ね。明日、お父様が迎えに来るの。そして、明日この街を出て行くの....」
「え....」
桜さんの言葉に俺は息をすることも忘れたように感じた。
「で、でも桜は散ってませんよ!」
「うん、でも今日の雨で桜は全部散るだろうってお父様が....」
「...........」
今日は雨がかなり強い。確かに、この雨だと桜は全て散ってしまう気がする。でも....
「お、俺は桜さんと別れたくありません‼︎」
「それは私も同じ....私も達君と別れたくない‼︎ずっとこのまま春がいい!ずっと桜が咲いていて欲しい....」
桜さんは涙を流しながら言った。
「だけどね、それはだめなの。春っていつかは終わっちゃうの.....桜はちっちゃうの.....」
「だったら散らないようにしましょう‼︎あの桜の木は雨に当たらないようにすれば桜は散らない....」
俺がそう言ってるときに、桜さんは俺の腕を握った。
「ううん。達君もういいの。もう桜を散らさないようにするのは無理なの....わかって....」
桜さんの言葉に俺は何か壊れたものを感じた。
「桜さんは諦めるんですか?」
「............」
「諦めちゃうんですか?もしかしたらまだ桜が残るかもしれないのに.....」
俺はそう言った後、桜さんが倒れて泣いているのを見て心が痛んだ。
「すみません。今日はこれで帰らせていただきます」
「あ、達君....」
桜さんはそう言ったが俺は無視して桜さんの家を後にした。
外へ出るとやはり雨は止んでいなかった。
俺は雨に打たれ散っていく桜を見た。
「やっぱ無理なのか....」
俺はそう呟いた。
考えてみればもし明日桜が残っていたとしても桜さんのお父さんは桜さんの元へ来てるだろう。わかってる....わかってるはずなのに俺は桜があればまだ桜さんがここに残るのだと思っていた。どうかしていた。
そして俺は家に帰り、小説を進めようとしたが、思うように進まなかった。
俺はペンを手元から離し横になった。
俺は最低だ。桜さんを泣かした。自分でわかっていたことを認めなかった。桜さんはそれをわかっていて認めていたのに....
「明日、謝ろう。明日しっかり謝って桜さんにまたどこかでと言ってしっかり別れよう!」
俺に出来ることはそれしかない。桜を残すなんて普通の高校生の俺には無理だったんだ。だからせめて桜さんに謝り。そして別れの挨拶を言おう。
そして俺は小説に取り掛かった。
少しでも小説を書いて、桜さんに読ませよう。
そう思いながら小説を書くと、小説は自分でもびっくりするほど進んだ。
そして、次の日。桜さんがこの街から離れる時が来た。
俺は小説をショルダーバッグに入れ、それを持ち、外へ出た。
外はまだ桜が少しあった。だが、桜は昨日と比べるとかなり減っていた。だけどそれでも桜が少し残っていたことに俺は驚いた。
だが、桜さんはもう行ってしまう。だけど、俺がこうして笑っていられるのも桜が少し残っていたのと、今日もまた桜さんに会えるからだと思う。
よし!もう少しスピードを出すか!
俺は全速力で桜の並木道を走った。左を見ると海が輝いていた。
桜さんの家に着くと俺はインターホンを押した。
「........はい」
桜さんの声が聞こえた。
「達矢です!」
「達君!どうしたの⁉︎」
桜さんは「ちょっとまってて」と言い、そして俺の前に来た。
「で、どうしたの?」
桜さんは少しビクついていた。
俺は謝った。
「桜さん、ごめんなさい‼︎俺、昨日、桜さんと別れるのが嫌で無茶をしようとして、そして桜さんに悲しい思いをさせてしまって、本当に最低です!女の子を泣かすなんて、本当にごめんなさい。」
俺は謝罪の気持ちを表して謝った。
「え、えと、とりあえず頭を上げて達君」
桜さんは戸惑いを隠せない様子だった。
「き、昨日はね。私も悪いと思ってるんだ。達君があんなに必死になって桜を残そうとしてるのに私は諦めるようなことをしちゃって....だからね。達君が全部悪いわけじゃない。私も悪かったんだよ。それだけはわかってほしかったの」
「............」
「だからお互い様だよ」
「....ありがとうございます」
「もう、泣かないの。男の子でしょう?」
「な、泣いてません」
そう言って俺は目から出る水を拭った。
許してもらおうなんて思ってなかったのに許すどころか自分も悪かったって言ってくれるなんて、やっぱ俺桜さんのことが好きなんだな。
俺はこの言葉を桜さんに伝えたかった。会った時から少なからず合ったこの気持ち。だけど少し俺は怖かった。だけど何か行動をしないと変われないとこの春でわかったから、この春、俺が桜さんに声を掛けたから俺は少しだけ変われたはず、だから。
「あの、桜さん。話があります。」
「ん?何、達君?」
言え!言うんだ俺‼︎怖がってちゃ何も変われないって自分でもわかったじゃないか!言うんだ。言うんだ俺‼︎
「お、俺........桜さんのことが好きです‼︎初めて会った時からずっと、ずっと好きでした‼︎美人で優しくて少しドジで方向音痴な大和撫子で一緒にいるととっても幸せになれる南沢桜さんを俺は愛しています‼︎」
これでいいんだ。例え振られても自分の思いを打ち明けられることができるだけで俺は幸せだ。
「今日はなんてすごい日なの....」
桜さんが言った。俺は桜さんの言っていることがよくわからなかった。
「わ、私も達君....尾上達矢君のことが好きです。かっこよぬて年下なのに頼りになるけど、時々抜けててどんなことにも真剣になってくれる尾上達矢君を私も愛しています!」
桜さんの言葉を聞いて俺は一瞬、何を言っているのかわからなかった。夢かと疑った。
俺と桜さんが両思い....なのか....
「その、俺と桜さんは恋人ってことですか?」
「うん、そういうこと。これからは恋人として南沢桜をよろしくね」
「い、いえ、こちらこそよろしくお願いします」
俺は何が何だかわからなかった。すると桜さんがこう言った。
「あ、小説見せて」
今かい‼︎まあ、いいけど。
俺はショルダーバッグから小説を取り出した。小説は半分くらい進んだ。
「ふむふむ、見せしみ見せしみ」
そう言って小説を読む桜さんの姿を俺は今までと同じ感じでは見られなかった。
この人が俺の彼女なんだよな。
疑ってしまうほど信じがたいがやっぱり彼女なのである。
「読み終わったよ」
そう言って桜さんは俺に小説を手渡した。
車の音が聞こえた。
「あ、お父様の車だわ」
桜さんがそう言ったので俺はビクッとした。
車は家の前で止まった。窓からは桜さんのお父さんと思われる人が顔を覗かせた。
桜さんのお父さんは少し怖そうな人だった。お父さんは低い声でこう言った。
「桜、乗ってくれ、荷物はまた今度、俺が取りに行くから....ってその方は?」
「私の恋人です」
「⁉︎」
「ちょっ⁉︎」
桜さんの言葉に俺と桜さんのお父さんは声を失った。
言っちゃっていいのかよ⁉︎
お父さんは戸惑いを隠せない様子でこう言った。
「あ、そうなのか。えーと、桜の父です」
「尾上達矢と申します。よ、よろしくお願いします」
すごくカチコチだった。
「えーと、まあ、桜。乗れ」
「あ、ちょっと待ってお父様」
桜さんはそう言うと、俺の方に寄ってきた。
「あのね、鶴岡八幡宮でお参りした時、実は私、達君と両想いになれますようにってお願いしたんだよ」
そう言って、桜さんは俺にキスをした。
「さ、桜さん⁉︎」
「何かな?」
「えーと....」
俺は桜さんの目を見た。
「いつか俺、必ず迎えに来ます!」
「うん、待ってるよ。あ、そうだ!」
そう言って、桜さんは一旦、家に戻った。
お父さんと俺は二人残された。
き、気まずい....
どうやらそれはお父さんも同じだったようで、俺と目も合わせてくれなかった。
だが、そのとき、お父さんが俺に声を掛けてくれた。
「尾上君と言ったか?」
「は、はい!」
「そんな緊張しないでくれ!それよりだ。桜はとてもお転婆な子だ。俺からしたら姫のように思える子だ。桜をよろしく頼む。迷惑はかけるかもしれないが、君は真面目そうな人だ。君なら安心して桜の恋人になれると思っている」
お父さんはそう言って、俺に笑いかけた。
お、お父様ああああ....
「は、はい。ありがとうございます!」
お父さんは笑っていた。
「お待たせ」
桜さんが戻ってきた。手には携帯電話を持っていた。
「達君、どうしたの?顔がにやにやしてるよ?」
「え?いや、別に....」
俺がそう言うと、お父さんはにやにやと笑っていた。
「それよりさ、達君。アドレスを交換しよ!」
「え?あ、はい!」
俺はそう言って携帯電話を取り出した。
正直あの桜さんが携帯電話を持っていること自体が俺にとって意外だった。
「これでよし!」
桜さんはそう言うと、家に鍵を掛け、車に乗り込んだ。そして窓を開けてこう言った。
「また、いつか。迎えに来てね」
「はい。絶対に迎えに行きます!」
俺がそう言うと桜さんはにこりと笑った。
車が走り出した。
車が見えなくなると残っていた桜は散っていった。
桜さん。実は俺も鶴岡八幡宮でお参りした時、桜さんと両想いになれますようにって、お願いしたんですよ。あと、桜は今、完全に散り終えました。