8(レイナルド視点)
私が外交から戻った時、ルーチェリアはいなくなっていた。
私がリースランド国に戻ったのは学園の納涼パーティーから2週間が経った頃だった。納涼パーティー当日に現地を発ったが、移動に時間のかかる国だったせいで2週間もかかってしまった。片道2週間の距離とあってリースランド国からの連絡も届かない。私がルーチェリアの失踪を知ったのはリースランド国に帰ってからだった。
慌てたのは私だけではない。ルーチェリアの実の兄であるクリストフも今回の外交に同行していた。急ぎウィンサー侯爵を呼び出し話を聞くと、納涼パーティーに出席していなかったのでよくわからないという。伝聞なので正確なことはわからない、と前置きの上で話してくれた内容は私の思考を停止させるに足るものであった。
(ルーチェリアが男爵令嬢をいじめていた?その証拠もある?そんなことは信じられない。
いや、そもそもルーチェリアはどこに連れて行かれたんだ?まさか本当に森に連れて行ったというのか?)
しばし考えてから侯爵に問う。
「ルーチェリアの捜索はどうなっているんだ?」
「パーティーの途中で姿を消したとのことなので、王都一帯を探させましたが姿はなく。近郊の森へと捜索の手を伸ばしてはおりますが、目撃情報などもまだ・・・。」
侯爵は憔悴し切った様子だった。同席していたクリストフが言った。
「ルーチェリアを糾弾していた子息たちはわかっているのですか?」
「ああ。大方の目星はついている。」
侯爵はこちらを気にしながら言った。ルーチェリアを糾弾していた子息たちが私の側近候補や取り巻きであるということに気を遣っているのだろう。
「その私の側近候補や取り巻きは取り調べたのか?」
「いえ、まだ失踪したというだけで彼らに拉致された証拠もありませんので。」
「調べようとしても逃げ切られてしまうか。ならばそちらは私が調べる。侯爵はルーチェリアの捜索を頼む。こちらでも捜索の範囲をひろげてみる。ルーチェリアは私にとっても大切な人だ。侯爵達も大変だろうが、どうかよろしく頼む。」
そう言って深く頭を下げた。
侯爵達は恐縮しながら帰って行った。その背中を見つめながら私は唇を噛んだ。私が外交に出ていなければ、せめてクリストフを残して行っていればこんなことにはならなかっただろう。クリストフもきっと同じ気持ちではないだろうか。みすみすルーチェリアを狙わせてしまった自分の迂闊さに腹が立つ。
私は頭を振って気持ちを切り替えた。後悔している場合ではない。やることはたくさんある。ルーチェリアの無事を祈りながら、部下に指示を出すため私は決意も新たに席を立った。
部下に国境付近から王都に向けて、森を中心にルーチェリアの捜索を指示する。ウィンサー侯爵は王都一帯から捜索にあたってくれているから、これで全域を網羅できるだろう。無事に見つかってくれるといいのだが。
次にルーチェリアを糾弾していた子息達を洗い出すべく納涼パーティーに参加していた信頼のおける貴族達と面会の約束を取り付ける。これで詳しい話が聞けるだろう。それと同時に納涼パーティーを管轄していたはずの学園の理事長とも話をすることを決めた。
自分が管轄する学園の納涼パーティーでこのようなことが起こり、あまつさえ行方不明者が出ているというのに何の手も講じていない。それだけでも処遇を考え直さなければいけないだろう。本来ならば真っ先に連絡を上げ、子息達から話を聞き、必要とあらば処罰し、捜索に当たらなければならない立場だろう。
(こんなことが起こるようでは王立学園の在り方も考え直さなければならないな。)
ルーチェリアのことを考える。いつも私に寄り添い、王子であるわたしに相応しくあろうとしてくれた清廉潔白な愛おしい人。
(彼女が私を裏切るなんてありえない。)
誰かにはめられたとしか思えなかった。だとしたら誰が?詳しい話を知る必要があると思った。
納涼パーティーに出席していた貴族何人かに話を聞いた。
パーティーの途中で私の側近候補者達及び取り巻き達が男爵令嬢を取り囲み、大声を上げルーチェリアを糾弾しだした。
その罪状は男爵令嬢をいじめ、時には暴漢に襲わせようとした。そんな人間は王子の婚約者には相応しくない。そんな内容だった。
話の終わりに子息の1人がルーチェリアを森に置き去りにすることを示唆するような言葉を述べ、それからルーチェリアは数人の男達に連れられて休憩室へと向かった。
その後の行方は杳として知れない。
貴族達の協力により、ルーチェリア糾弾に加わっていた子息達の素性はわかった。私はその子息達一人一人に、実に穏やかに丁寧に話を聞いた。
結果としてわかったのは、子息達の後ろには黒幕たる存在がいたということだった。だがその正体については知っている者はいなかった。巧妙に自分の正体がわからないよう近づいたらしい。わかったとしても罪に問うのは難しいだろう。
はっきりとルーチェリアが悪いと口にすることはなく、うまくルーチェリアが悪いんじゃないかと相手に思わせるように誘導していったようだ。それにそそのかされて子息達はルーチェリアが悪いと思い込み、男爵令嬢をそそのかし、ルーチェリアを糾弾したのだ。
近づく時は誰かを使っていたのだろう。どこにでもいるような青年の姿だったそうだ。それが黒髪だったり茶髪だったり特徴は様々だ。何人かを使いルーチェリアを陥れたのだろう。話の内容は誰も同じように噂話から始め、はっきりと名前は出さないが誰かを陥れるかのように誘導していく。彼らの捜索も進めてはいるが、おそらく見つかることはないだろう。
だが黒幕がいたからといって、パーティーの場で寄ってたかって1人の令嬢を貶めた彼らを許すわけにはいかない。ルーチェリアはまだ見つかっていないのだ。子息達に関してはひとまず処分は保留にし、自宅謹慎を申し付けた。1人を除いて。
ルーチェリアを森に置き捨てるよう提案した子息。彼には聞かなければならないことがある。何を思ってあんなことを言ったのか。いやそれよりも、彼の言葉のすぐ後に男たちが動いている。その迅速さを見ると計画的犯行を疑わざるを得ない。どこに連れて行ったのかも彼ならば知っているはずだ。
(ようやくここまできたか。)
私ははやる気持ちを必死に抑えつけながら彼を呼び出した。




