6
王宮でのお茶会から数日が経った。今日はお母様のお友達からお茶会に招かれている。お母様と2人で参加することになっている。
王宮でのお茶会に比べると気合の入り方も違うのか、準備も手早く進んだ。今日は水色に繊細な白のレースが胸元にあしらわれたシンプルなワンピースだ。お母様も水色にレースのアクセントがきいたドレスで合わせてくれている。お母様とおそろいというのは珍しい。
お母様はいつもお父様とコーディネイトを合わせているので、私やお兄様と一緒になることはほとんどない。パートナーと色を合わせたり、パートナーの色を身に着けるというのには少し憧れる。だから今日はちょっと嬉しかった。
今日はお母様のお友達のおうちの伯爵家でのお茶会だ。伯爵家の家の庭には南国の背の高い植物が多く植えられていて、子供たちにとってはまるで迷路のようになっているとお母様から聞いた。楽しみに思いながらお母様と一緒に馬車に乗り込んだ。
伯爵家に着き夫人に挨拶を済ませた後、サロンでお茶会を楽しんでいるお母様たちと別れてお庭を見せてもらうことにした。そこはまるで南国だった。王宮の庭園にあった温室を思い出す。王宮の温室には背の低い花が多かったが、ここは背の高い樹ばかりだ。
南国の植物を育てるため、この庭も温室のような作りになっているらしい。一見普通のように見えたがなんと魔法らしい。なんでも伯爵が王宮で魔導士として仕えるほどの魔法使いらしく、その魔力でこの庭も保たれているとか。私も学園に入ったら魔法の勉強を真面目にしよう、そう思った。
この国ににも魔法はある。魔力の遺伝の問題で貴族それも上位貴族になるほど魔力は多い。だがあまり使うことはない。生活魔法くらいだろうか。火をつけたりとか物を冷やしたりとか。しかしそんなことは使用人の仕事なので、主である貴族が魔法を使うことはほとんどない。例外としては王族と騎士くらいだろうか。そんな状態なので学園で魔法の授業はありはするが、そんなに真面目に意欲的に学ぶ者はいない。王宮魔導士志望の者くらいだ。
ヤシの木やバナナの木を見上げながら歩く。まるで外国へ迷い込んだような気分になる。上ばかり見ながら歩いていたら、目の前のハイビスカスの木につっこんでしまった。
ヤシの木やバナナの木はもちろん背が高いが、下に生えている低木もそれなりの高さだ。子供たちにとって迷路になるのもよくわかった。
入り組んだ木立を避けながら進んでいくと、そこには見知った光景が広がっていた。
足元に真っ赤な燃えるような髪が横たわっている。王宮の庭園での出来事が頭の中にフラッシュバックした。
(やっぱり綺麗な髪。ハイビスカスみたい。この庭園によく合っているわ。)
ついじっと眺めてしまった。どうやら眺めすぎてしまったらしい。少年の瞼がぴくっと動いた。少年がゆっくりと瞼をあげる。
(長い睫毛。前回はちゃんと見る余裕がなかったけれど、とても整った顔をしているわ。レイナルド殿下とはテイストは違うけれど。レイナルド殿下はとても美しい顔立ちだけれど、彼はかっこいい顔立ちじゃないかしら。)
考えながらぼんやりと彼の顔を見つめていると、強い瞳と視線が交わった。またお前か、とでも言いたげなうんざりとした視線に苦笑してしまう。今日も声をかけてみることにした。
「ごきげんよう。あなたもお茶会の参加者なの?」
声をかけるとこれ見よがしに大きくため息をつかれた。
「お茶会に戻らなくて大丈夫?もし1人では行きづらいなら私と一緒に行く?」
少年は私から目をそらすと、起こしていた体を倒しまたその場に横になった。私は苦笑しながらその場を立ち去ることにした。
「ごめんなさい、お邪魔してしまったわね。私はもう行くことにするわ。おやすみなさい。」
ヤシの木とバナナの木を見上げながら歩く。帰り道はなんだかハイビスカスに顔から突っ込んでも、先ほどよりも気分がよかった。
そのままサロンに戻ってお母様たちと合流し、お開きの時間までお茶を飲んだりお菓子を食べたり、おしゃべりをしたりしながら楽しく過ごした。彼が戻ってくることはなかった。