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 クレアとくだらないことをつらつらと話していたら、あっという間に夕食の時間になりクレアは一旦部屋へ戻った。私はお兄様と合流して、使用人に案内されて食堂へ向かう。そこには辺境伯一家が勢ぞろいしていた。

 


 辺境伯は噂通り質実剛健といった言葉がぴったりな武人だった。筋骨隆々でいかにも辺境伯といった風情である。顔立ちはいかめしいが、こちらに向けてくる表情は柔らかい。

 辺境伯夫人は恋愛小説好きというのが信じられないほど逞しく凛々しい女性だった。王都の騎士団で幹部職にいたというのが納得できる。女性に憧れられる女性という言葉がぴったりだろう。

 ウィリアム様は辺境伯に似たのだろう。同じく筋骨隆々でたしかに熊みたいに大きな方だった。こちらを見る目には好奇心がありありと見て取れて、見た目よりとっつきやすい人物なのだとわかる。

 オルファス様は先日会った時から特に変わりはなさそうだ。ウィリアム様とは違ってお母様似なのだろうというのが今日初めてわかった。見つめられて少しドキッとした。



 席に着くとクレアが私達を紹介してくれた。続いて辺境伯一家の紹介を受ける。

 辺境伯はいかめしい風貌には似合わぬ柔和な笑顔で迎えてくれた。到着時に出迎えがなかったことを詫びられた時には驚きと申し訳なさでドギマギとしてしまった。お兄様が見事な話術でカバーしてくれて、お兄様が一緒に来てくれてよかったと改めて思った。

 辺境伯夫人も話してみると意外にも見た目のイメージと違ってチャーミングなところのある人だった。恋愛小説が好きだとここでも言っていたので、一緒にお茶会をするのが今から楽しみになった。

 ウィリアム様は辺境伯夫人とは逆で見た目のイメージどおりの人のようだった。でもお母様に似たのかやはりチャーミングなところがあった。

 ランドール辺境伯領への滞在は楽しく過ごせそうだと思った。


「ところでクリストフ殿は武術の方はどうだ?」


 辺境伯がお兄様にたずねている。私は心の中で来た!と叫んだ。たぶんお兄様も同じに違いない。お兄様の様子を横目でうかがうと、少しこめかみがひきつってひくひくとしていた。私は女性として生まれてきてよかったと心から思った。


「レイナルド殿下の鍛錬に付き合って剣術や弓を少し。けれど、たしなんだ程度でレイナルド殿下の足元にも及びません。」


 以前王宮での鍛錬を見学したときのレイナルド殿下の様子を思い出す。レイナルド殿下は素人の私が見てもわかるほど強かった。あのままの調子で成長しているのであれば、たしかにお兄様なんか足元にも及ばないだろう。なにせお兄様はいかにも文系の優男風でひょろいし。


「そうか。それはさぞ悔しい思いをしているだろう。ぜひ辺境伯領流の鍛錬に参加していくといい。

 この短期間では王子殿下を打ち負かすほどとは言えないが、少し危機感を抱かせられる程度にはしてやろう。」


 お兄様の笑顔が本格的に引きつってきた。対して辺境伯とウィリアム様はいい笑顔である。あふれ出る善意がこちらまで伝わってくる。オルファス様はなんだかにやにやしているし、お兄様に拒否権はなさそうだ。


「・・・お手柔らかにお願いします。」



「ねえルーチェ、明日はお母様とのお茶会にする?それともクリストフ様の鍛錬を見学に行く?」


 クレアもにやにやしながら聞いてきた。


「クレアはルーチェリア嬢を愛称で呼んでいるのね。私もルーチェちゃんと呼んでもいいかしら。」


 辺境伯夫人に聞かれてすかさず承諾した。私はむしろお姉さまと呼びたいくらいだ。しかしそんなことは口には出せないので、心の中で思うだけにとどめておく。


「お兄様の鍛錬の様子も気になるけれど、できれば早く夫人と恋愛小説のお話がしたいわ。」


「わかった。じゃあクリストフ様を見学に行くのは明後日にしましょう。」


「そういえば、お母様から夫人にって刊行されたばかりの恋愛小説の新刊を持たされているのよね。」


「そうなの!?楽しみだわ。

 そういえばルーチェちゃんのお母様の侯爵夫人も大の大衆恋愛小説ファンだってクレアから聞いているわ。そんな侯爵夫人が選んでくれた小説ならさぞロマンチックなんでしょうね。早く読みたいわ。

 あとで侍女に預けてもらえるかしら。」


「わかりました。結構たくさんあったので楽しんでいただけると思います。」


「ルーチェは馬車の中では何も読んでこなかったの?」


「途中までは慣れない長距離馬車移動に酔ったりしていたから。

 でも慣れてきてからはずっと読んでいたわ。おかげで辺境伯領まであっという間だったくらいよ。」


「あら、何を読んでいたの?」


「辺境伯家子息と侯爵令嬢が主役の恋愛小説です。せっかくなら気分を盛り上げてくれるものがいいと思って。」


「自分が辺境にいるとわからなくなりがちだけれど、そういうのも面白そうね。明日はそれのお話も聞かせて頂戴ね。」


「じゃあ明日は図書室で恋愛小説愛好会ね!せっかくだから早い時間から始めて、お昼を挟みつつ盛り上がりましょう!」



 


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