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 どうにかこうにかレイナルド殿下とのお茶会から生還して自室に戻ると、レベッカが手紙を届けてくれた。アドレアン様からの手紙だった。お母様に気取られないように、私ではなくレベッカ宛てで送られてきたらしい。アドレアン様さすがだ。私はちょっと感動した。アドレアン様の気遣いに感動をかみしめながら手紙の封を開ける。


『領地からは普通に手紙を送ってきていたし、領地にいた使用人なら勝手がわかっているんじゃないかと思って使用人宛てに手紙を送ってみた。無事に届いているか?


 納涼会でのことは悪かったよ。あそこまで騒ぎになるとは思っていなかった。でも俺は結構楽しかったよ。お前が話に聞いていたのと違って意外と踊れるようになっていたから、つい遊びすぎたくらいだ。』


 アドレアン様からの手紙はいつもどおりあっさりしていて素っ気ない。でもその端々に気遣いが感じられる。レベッカに手紙を送ったことに始まり、納涼会でのこと、果てはランドール辺境伯領に行く私の旅の無事まで案じてくれる。その気遣いがレイナルド殿下とのお茶会で疲れ果てた私の心を優しく癒してくれた。





 レイナルド殿下とのお茶会が終わったので明日の朝には辺境伯領へ発つことになる。辺境伯領にはお兄様と2人で行くことになる。使用人は連れて行かない。その代わりに私の荷物の準備はレベッカ達がばっちりしてくれた。クレアのお母様へのお土産としては、最近出版されて王都で人気になっている大衆恋愛小説をどっさりお母様が用意してくれている。クレアのお父様やお兄様へのお土産はお父様とお兄様が用意しているはずだ。つまり私はやることがない。馬車で読めるように手持ちの恋愛小説を選ぶくらいだ。

 今回はこれにした。辺境伯家子息との恋愛小説。せっかく辺境に行くのだから気持ちを盛り上げてくれるようなものがいいと思ったのだ。お茶会で出会った辺境伯子息と学園で再会し、恋におちる話。最初は辺境伯子息のことを変わった人だと感じていた主人公が、彼の人となりに触れるにつれ惹かれていき、最後はお互いの家を巻き込んだ大恋愛に発展するというストーリーらしい。まだ読んでいないから、読むのが楽しみだ。他にも何作か手持ちの小説を選定し、今日はもう休むことにした。





**********





 待ちに待ったランドール辺境伯領へと旅立つ日。空は青くどこまでも雲一つなかった。見事な快晴だ。

 玄関先にはお父様とお母様が見送りに出てきてくれている。


「クリストフ、ルーチェ。わかってはいると思うが、くれぐれも無理はしないようにな。

 馬車の旅は想像しているより慣れないものにはつらいものだ。少しでもつらくなったらすぐに馬車を止めて休むんだよ。予定通りに進まなくても無理をしたらいけないからね。」


「わかりました、お父様。僕がいる限りルーチェに無理はさせません。」


「あなたもよ、クリストフ。ルーチェちゃんのことばかり気にしていないで、あなたも自分の調子に気を遣うのよ。」


「大丈夫です、お母様。お兄様の様子は私がきちんと見ていますわ。」


「頼んだよ、2人とも。

 気を付けていってくるんだよ。」


「ちゃんと帰ってきてお父様とお母様に元気な顔を見せて頂戴ね。」


「はい。お父様、お母様、行ってきます。」


「行ってきます。」



 お父様とお母様にハグをして、お兄様のエスコートで馬車に乗り込む。荷物は使用人達が既に積み込んでくれている。ここからはお兄様と2人きりだ。私は旅立ちへの期待と興奮を抑えきれないでいた。

 馬車がゆっくりと動き出す。お父様とお母様の姿がどんどん小さくなっていくのを見て、私はお兄様が一緒に来てくれてよかったと思った。1人だったら心細くなっていたかもしれない。向かいに座るお兄様はそんな私に気づいたのか、にっこり微笑んでくれる。それだけでだいぶ勇気づけられる気がした。




 馬車の旅はおおむね順調に進んだ。幸い途中で体調を崩すこともなく、天候が崩れることもなく。野党に襲われたりするようなこともなかった。

 日中は馬車で数時間進むごとに休憩をとる。近くに町や村があればそこで、なければ直前に立ち寄った町や村で調達した軽食をとりながら馬車を停められそうな場所で休む。夜は必ずどこかの街に泊まる。どこの街に泊まるかは事前にお父様が決めていたみたいで、早く街に着いた日もそれ以上進むことはなかった。

 途中で馬車の旅に飽きて来たり、お兄様と2人きりで暇を持て余したりすることはあったが、それは特に問題にはならないだろう。

 馬車に乗り続けることに慣れて、酔うこともなくなってきた頃に私はようやく持ってきた小説を読み始めた。そこからはあっという間だった。ページをめくるごとに近づいてくるランドール辺境伯領に、私は気づく余裕もなかった。ランドール辺境伯領の近くに着いた頃、お兄様が辺境伯の屋敷に伝令を飛ばしてくれていたみたいだが、それすらも気づかなかった。

 私は夢中で小説を読み続け、読み終わる頃には辺境伯領に着いていた。





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