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クレアと話していると、どこからともなくファンファーレが鳴り響いた。レイナルド殿下の入場の合図だ。みな話をやめて王族の入場口を見つめる。
ほどなくして入場口からいつもどおりの完璧なレイナルド殿下が歩いてきた。アルカイックスマイルを浮かべ、背中には照明が後光のようにさしている。金色の髪はきらめき、サファイアの瞳は柔らかく微笑んでいる。一分の隙もない立派な王子様の姿だ。
レイナルド殿下がダンスホールに降りるとワルツが流れ始めた。何組かの参加者たちがダンスを踊るためにホールの中央まで出てきた。今日は正式な舞踏会というわけではないのでダンスの順番も自由だ。レイナルド殿下が踊るのを待つ必要はない。そもそもレイナルド殿下は婚約者もいないし、パートナーもなく1人で参加しているので、ダンスを踊るとも限らないわけだが。
お兄様の方を振り返ると、既に令嬢達に囲まれていた。これなら今夜はお兄様と踊ることはなさそうだ。クレアは目を輝かせて踊る参加者達や、早速令嬢方に囲まれたレイナルド殿下やお兄様を見ていた。オルファス様は壁に寄りかかってホールを眺めている。私はどうしようと思っているところにざわめきが聞こえてきた。
そのざわめきは目的をもって近づいてきているようで、私の目の前まで来ると人の波が開けた。
「ルーチェリア・ウィンサー嬢、どうか私に一曲あなたのお時間をくださいませんか。
どうぞ私と踊ってください。」
目の前に差し出された手。視線を上げると眼前にたたずむ赤い髪が目に入ってくる。周囲がざわめいている。突然のことに戸惑って差し出された手を取れずにいると、強い視線と目が合った。いたずらっぽい光を宿してこちらを見つめてくる。
ダンスの曲が終わると同時に、アドレアン様が動いた。強引に手を取られてダンスホールの中央に引きずり出される。当惑する私には構わずに背中に手をまわし、腰をホールドする。私も促されてアドレアン様の背中に手をまわした。静かにダンスが始まる。何事もなかったかのようにダンスを踊りながらアドレアン様が話しかけてきた。
「本当にちゃんと踊れるようになったんだな。」
「そう言ったじゃないですか。もう足を踏んだりしませんよ。」
ふっと笑ったアドレアン様が難しいステップを入れてくる。慌ててステップを追いかけながら抗議した。
「いきなり難しいステップを入れないでください!」
「足を踏みそうになったか?」
「なりません!」
「どうだかな。」
「アドレアン様こそどうしたんですか?
今まで納涼会では一度も踊ったことがないって言ってたじゃないですか。それにいつも一緒に踊りたいと近づいてくる令嬢を無下にしていたと聞いてます。」
「別にいいだろ。そういう気分だったんだよ。」
「どんな気分ですか。」
「お前がちゃんと踊れるようになったか気になってたしな。」
「それでどうですか、私のダンスは。」
「及第点だな。これならクリストフの足もレイナルドの足も踏み抜かなくて済むだろ。」
「レイナルド殿下の足なんか踏み抜いたら処刑されちゃいますよ!」
「だろうな。よかったな、上達して。」
「もう他人事だと思って。」
「実際、他人事だろ。」
「そうなんですけど・・・。
そういえば私、お兄様との練習以外でダンスを踊ったの初めてです。」
「俺が?他のやつとは踊ってないのか?」
「はい。最近踊れるようになるまで本当にひどかったので。
誕生日パーティーくらいしかパーティーに出ることもありませんでしたし、その時はまだダンスに自信がなかったのでお兄様ともお父様とも踊ることがなくて。」
「そうか。じゃあこれが名実ともに正真正銘ファーストダンスってわけか。」
「言われてみればそうなります。」
「ならもう少し冒険してみろよ。」
にやりと笑うとアドレアン様は私をぐるんと回した。周囲から悲鳴が上がったのが聞こえた。気づいていなかったがアドレアン様と踊る私はどうやら注目の的らしい。意識するとたくさんの人の視線がこちらを向いているのを感じる。でもそれに緊張する余裕は私にはなかった。気を抜くとアドレアン様にどんどん振り回されてしまう。ターンを入れたり、ステップを加えたり。アドレアン様がどんどんダンスを複雑で高難易度なものへと変えていくから、私はついていくのに必死だった。
ダンスを終えたとき、私はすっかりへとへとだった。なんとかついていった私を誰かに褒めてもらいたいくらいだ。アドレアン様は私を壁際まで送り届けると人波に紛れて消えていった。その背中を恨みがましく見つめていると、クレアが興奮した様子で近づいてきた。
「ルーチェどうしちゃったのよ。
まさかカタル様とファーストダンスを踊るなんて!みんながあなたを注目してるわよ。」
「私が聞きたいわよ。アドレアン様が急に誘いに来たから驚いている間に、無理やりダンスをさせられてて・・・。」
「今まで逃げてばかりでダンスを踊って来なかったカタル様と踊ったのよ?しかもファーストダンス。
これから令嬢方からの注目は避けられないわよ。」
「勘弁してよ・・・。」




