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王子様に目を奪われている間に準備が整ったらしい。
王妃様が柔らかく微笑んで口を開いた。
「みなさん、本日はよくおこしくださいました。
今日は王子と歳の近いみなさんに集まっていただきました。この機会にぜひ親睦を深めていっていただけたらと思っておりますわ。
気負わずに楽しんでいってくださいね。」
そう言うと王妃様は優雅に席を立ち、保護者たちのテーブルへと向かわれた。このままお母様たちとお茶会を楽しまれるらしい。
王妃様が立ち去られたことで、その場に集まった一同はターゲットを王子様へと定めたらしい。王子様へ肉食獣たちの瞳が向く。
あたかもそんな肉食獣の瞳には全く気付いていないかのように、王子様は眩い笑みを浮かべた。完璧なアルカイックスマイルで挨拶をする。
「今日は来てくれてありがとう。みんな私と歳も近いし、仲良くしてくれると嬉しい。
王妃も言っていたがあまり気負わず楽しんでいってくれ。」
その言葉を皮切りにお茶会の本番が始まった。王子様が席を立つ。これから各テーブルをまわってお話をされるのだろう。
お兄様も席を立った。王子様と一緒にテーブルをまわるのかもしれない。
王子様の挨拶から逃れるように、私もそのタイミングで席を立った。
王宮の庭園は花が咲いているだけではなかった。公園のようになっていて小川が流れていたり、四阿があったりする。ここだけで1日過ごせてしまうようなところだった。
迷わないように小川に沿って進んでいく。しばらく進むと周りから目隠しするように木々が植えられた空間に出た。誰もいない私だけの空間みたいで少し心地がいい。
そのまま辺りを見回していると木立の隙間から何かが見えた。
近づいてよく見るとそれは人の足のようだった。そこには私と大して歳の変わらなさそうな少年がいた。横になって目を閉じている。
(真っ赤な燃えるような髪が綺麗。)
そう思ってじっと見つめていたせいか、つい近づきすぎてしまったようだった。足元で草がカサリと音を立てる。
どうやら寝ていたわけではないらしい。その音に少年は身を起こした。
気づかれてしまったことにドキドキしながら少年を見ると、強い瞳で睨むようにこちらを見ていた。
(どうしよう?何か言わないと・・・。)
私は焦る頭でなんとか言葉をひねり出す。
「ごきげんよう。あなたもお茶会の参加者なの?」
勇気を出してそう切り出したが少年は何も言わない。その態度に怯んでしまう。でもなぜか怖いとは思わなかった。少年がとても寂しそうな瞳をしていたからかもしれない。
私はなんだか彼を放っておけなくてもう一度声をかけた。
「お茶会に戻らなくて大丈夫?1人で行きづらいなら私と一緒に行く?」
少年はやはり何も言わない。そのまま視線をそらし、もう一度体を横に倒すと目を瞑ってしまう。
無言の意思表示に私は諦めてこの場を離れることにした。
「お邪魔しちゃってごめんなさい。私はもう行きますね。」
それだけ言うとそっとその場を離れた。
木立から出て私はまた川沿いを歩く。風が心地いい。日差しが和らいできたから、だいぶ時間が経っているのかもしれない。そろそろ戻った方がいいかと考えながら川の向こうに目をやると、温室のようなものが見えた。
(もう少しくらい寄り道してもいいわよね?)
私は川の向こうの温室に向かって足を進めた。