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王宮でのお茶会の日、私は部屋で侍女たちにもみくちゃにされていた。
まだ子どもなんだからそんなに張り切ることもないと思うのだが、侍女たちは違うらしい。化粧こそ薄めだが、できることはすべてやりきられた。そんな気がする。
その甲斐あってか私の髪はいつも以上に光り輝き、肌はしっとりもっちりしている。丁寧に梳かれた髪は上品なハーフアップに纏められ、白地に小花柄があしらわれたワンピースは私の髪と目の色を引き立てている。襟元と袖のレースがより上品に見せている。
お茶会に行く前からなんだか疲れてしまった。私が疲れた顔を隠して小さくため息をついていると、ノックの音がした。
「ルーチェ、準備はできたかな?」
そこには淡いグレイのジャケットとベスト、それより少し濃いグレイのトラウザーズに身を包んだお兄様がいた。淡いグレイが私と同じ銀色の髪を引き立てている。お母さまの手編みのクラヴァットが優雅だ。
私がお兄様に見とれていると、お兄様は微笑んで言った。
「今日のルーチェはいつもよりとても可愛いね。花の妖精かと思ったよ。
今日の参加者はみんなルーチェの可愛さに釘付けになってしまうんじゃないかな?もちろんレイナルド殿下も、僕もね。」
「もうお兄様ったら、言いすぎですわ。でも嬉しいです。ありがとうございます。
お兄様も素敵ですわ。うっかり見とれてしまいました。」
私が言うとお兄様はウインクして手を差し出てきた。
「お手をどうぞ、お姫様。」
こうして私はお兄様にエスコートされて馬車に乗り込んだ。
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侯爵家の馬車のふかふかなクッションに背中を預けて私は息を吐いた。
あれから玄関先でお父様とお母さまにも、お兄様に言われたのと同じようなことを言われてしまい、そのやり取りを思い出すととても恥ずかしい。
お父様とお母様は別の馬車に乗っている。お父様はこれからお仕事、お母様はお茶会の付き添いだ。と言ってもお母様とは会場に入ってすぐに別のテーブルにわかれてしまうらしいので、実質お兄様と2人で参加ということになる。
なので私は今練習も兼ねてお兄様と2人で馬車に乗っている。
馬車の中でクッションに顔をうずめてうんうん唸っていると、向かいに座ったお兄様が笑いながら声をかけてきた。
「ルーチェは王宮のお茶会に出るのは初めてだろう?緊張している?」
「少しだけ。でもお兄様がいてくださるから平気です。」
嘘ではない。精神的には大人であっても、前世の社交の記憶等は全くないのだ。したがって王宮のお茶会も初めてになる。
これまでお母様のお友達が開いたお茶会に何度か参加したことはあるものの、これだけの規模でお兄様と2人だけとなるとやはり少し緊張してしまう。
「大丈夫だよ。レイナルド王子殿下は優しい方だし、どうしたらいいかわからなかったら王宮の料理人が作った美味しいお菓子を食べていればいいからね。」
そう言ってお兄様は優しく笑った。お兄様の優しさに緊張が解れていく。
「王宮の庭園には立派な薔薇園があるんだ。それを見に行ってもいいね。王宮の薔薇園には貴重な青薔薇もあるんだよ。他にもこの国にない花がたくさんある。」
「青薔薇ですか?」
「ああ。魔法でしか咲かせることができない薔薇で、王宮魔術師たちが管理しているんだ。だから王宮にしかない。」
「ぜひ見てみたいです!」
「じゃあ後で一緒に見に行こう。」
「お兄様、約束ですからね!」
そんな話をしていたら王宮までの道はあっという間だった。